特別な曲が出てきそうな確信
──Omoiさんは「初音ミク『マジカルミライ 2018』」のテーマソングを手がけているわけですが、このオファーが来たときの率直な感想を聞かせてください。
正直に言うと「詐欺じゃないかな」って思いました(笑)。いきなりメールボックスに担当の方からのメールが来ていて、開いてみたら「マジカルミライ」っていう文字が見えて。「『テオ』がヒットしたから『マジカルミライ』で演奏してもらえることになったのか」と思って興奮気味にメールを読んでいたら「Omoi様にテーマソングを制作いただきたく」みたいに書いてあって、これは新手の詐欺かもしれない、と思ったんです。僕らからしてみたら、今までテーマ曲を手がけた方があまりにも有名なわけで「さつき が てんこもりさんにkzさん、みきとPさんにハチさん、そのあとに続くのがOmoiじゃダメじゃない?」って思ったし、最初は全然信じられなかったですね。
──でも結果としては、話を受けた。
メールを何往復かするうちに、どうやらメールを送ってくれているのは本物のクリプトンさんで、本当にOmoiを選んでくれたらしいっていうことがわかって。大丈夫かな?とは思いましたけど、テーマソングを書くことになったら特別な曲が出てきそうな確信みたいなものを感じていて。まったくのノーアイデア状態ではあったんですけど、「何かすごいことができそう」っていう予感だけはあったんです。
──曲調の指定とかはあったんですか?
それがほぼ何もなかったんですよ。指定されたのは「盛り上がる曲にしてください」くらいで「ボーカルを初音ミクにしてください」すら言われていない(笑)。僕らに任せてくれましたね。それだけクリエイターのやることを尊重してくれているんだなって感じて、すごくやりやすかったです。
──普段との違いや難しさを感じたりしたことは?
そもそも僕らにとっては依頼を受けて曲を作ること自体が初めてだし、最初の依頼がよりによって「マジカルミライ」であり、初音ミクそのものを主役にしたものですから、やっぱりプレッシャーは感じました。僕らが初音ミクのすべてを知っているわけでもありませんし、何十万、何百万の人たちが初音ミクのファンですから、特に歌詞はすごく悩んで悩んで、今までにないくらい書き直しました。
「砂の惑星」に応える役目を負うのは僕らだけじゃない
──SakuraiさんはOmoiというクリエイターに白羽の矢が立ったことの理由や意味をどう考えたんでしょうか?
すごく難しいんですけど、「テオ」が昨年ヒットしたことでOmoiの知名度は上がったし、曲を聴いてくれる人たちがすごく増えたと思っています。界隈の中では「Omoiって人が出てきたんだ」ってある程度認知してもらえたし、僕らのように全曲初音ミクを使って楽曲を発表している人も珍しいんですよね。それに加えて、去年は初音ミクの発売10周年のタイミングで「マジカルミライ」も5周年の年だったから「次の11年目は新しい人たちに任せてみよう」という狙いがあって、僕らになったのかなって考えてはいました。
──まさにそういうことだと思うんです。ただ去年のテーマ曲「砂の惑星」はハチさん作曲で、しかも10年間を総括するような内容でしたよね。「砂の惑星」の存在はどこかで意識していましたか?
歴代のテーマ曲が4曲あるわけで、「砂の惑星」だけにとらわれちゃいけないんだろうなってことは考えました。「マジカルミライ」のテーマは、「ネクストネスト」があって「Hand in Hand」があって「39みゅーじっく!」があって「砂の惑星」があるっていう捉え方をして、4つ全部を聴き込んで、それらが心に残った状態で制作しました。とは言っても「砂の惑星」は賛否両論がすごく起こって、その爪痕が1年経ってもまだ残っているし、ハチさんの狙いもそこにあったと思っているので「さすがだな」と。
──テーマ曲を手がけることで、ハチさんの投げかけに対する1つの答えを示そう、とは考えましたか?
それはないです。そこはキッパリ言える。今年のテーマ曲が「砂の惑星」だけに縛られることは、きっとあっちゃいけなくて。もちろん4曲の土台の上に立つっていう意味で意識はしていますけど、「砂の惑星」に応える役目を負うのは僕らだけじゃないと思っています。
──これまでのことは踏まえつつも、今やこれからの「マジカルミライ」を象徴するような曲であろうと?
そうです。特に「マジカルミライ」のテーマ曲ということで、これまでの映像なんかを見返してもやっぱり印象に残るのは、緑色のペンライトの光が海のように広がっていく景色なんですよね。それに英語で「Green Light」は青信号という意味なので、「もっと前に進んでいく」っていう意味でもある。その2つの意味がすごく素敵だなと思って。
──歌詞に関しては、ミクから作り手へ向けたようにも、その逆のようにも聞こえますよね。
はい、その通りです。そこを掘られると思ってなかったんですけど、うれしいです。そこが聴き手の皆さんにも伝わったら素敵だなと思います。
──過去に「Tell Your World」などでも歌われたミクと作り手との関係性を、改めてこの11年目のタイミングで、新しい世代のOmoiさんが曲にしたということに、とても意味があると思いました。
そう言っていただけるとすごくうれしいです。
ミクの背中を押してステージに送り出すところ
──動画に関して、イラストや映像のイメージは何かオーダーしたんですか?
僕らがクリプトンさんにすごく任せてもらったのと同じように、イラストレーターさんと動画のクリエイターさんにはご自分が「グリーンライツ・セレナーデ」から感じたところを制作に生かしていただきたいなと思って、すべてお任せしました。ラフが上がってから細かい部分でお願いしたところはありましたけど、9割以上はお任せです。
──お気に入りの箇所ってあります?
そうだな……最後のサビに入る直前、今年の「マジカルミライ」の衣装に着替えたミクが舞台袖からステージに出るぞっていうシーン。袖にいるほかのクリプトンのキャラクターたちが、ミクの背中を押してステージに送り出すところが大好きですね。
──MVの最後にお客さん側の視点も出てきますよね。
女の子が出てくるシーンですね。
──そうです。MVの最後はお客さん側の視点で、初音ミクのシルエットが映って終わるんですけど、僕はそこが一番グッときました。
そこもすごくニクいですよね(笑)。ちゃんとイベントへのつながりがあると言うか。素晴らしい映像になって、あれだけ作り込んでいただけるとうれしいですね。
──ちなみに過去の「マジカルミライ」って観に行ったことはありますか。
実はですね、去年申し込んだんですけど、抽選に落ちまして。こんなことになるならなんとしてでも観たかったなあって(笑)。今年も普通に申し込んで全落ちしてます。もちろん関係者エリアで観られると思うんですけど、やっぱり前で観たいからチケットの先行には全部申し込んでいます。
──もともとはご自分の代弁者として作り始めたミクの曲が、幕張メッセのステージで、それこそ何万人の前で歌われるシーンを想像するとどうですか?
ミクがステージでOmoiの曲を歌っていて、それを観る何千人もの人がいて、さらにそれを観ている自分のことを想像すると「なんじゃこりゃ」って感じですよね。そんな視点、今まで体験したことないですから。楽しみでしょうがないです。
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Gigaインタビュー
- V.A.「初音ミク『マジカルミライ 2018』OFFICIAL ALBUM」
- 2018年7月25日発売
クリプトン フューチャー メディア -
[CD+DVD] 2100円
HMCD-010
- CD収録曲
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- グリーンライツ・セレナーデ / Omoi feat. 初音ミク
- 劣等上等 / Giga feat. 鏡音リン・レン
- ビバハピ / Mitchie M feat. 初音ミク
- No Logic / ジミーサムP feat. 巡音ルカ
- on the rocks / OSTER project feat. MEIKO・KAITO
- ドリームレス・ドリームス / はるまきごはん feat. 初音ミク
- あったかいと / halyosy feat. KAITO
- リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
- METEOR / DIVELA feat. 初音ミク
- むてきPOP / emon(Tes.) feat. 初音ミク・鏡音リン・鏡音レン
- DVD収録内容
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- グリーンライツ・セレナーデ<Music Video>
- 劣等上等<Music Video>
- Omoi(オモイ)
- SakuraiとKimuraによる2人組ユニット。2013年6月にニコニコ動画に「スノウドライヴ」を投稿し、ボカロPとしての活動をスタートさせる。2017年7月に投稿された「テオ」が160万回以上(2018年7月時点)再生されるなど注目を集め、2018年8月、9月に開催されるライブイベント「初音ミク『マジカルミライ 2018』」のテーマソングとして新曲「グリーンライツ・セレナーデ」を提供。「グリーンライツ・セレナーデ」は公開からわずか10日で70万再生を記録した。
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