マカロニえんぴつが新作EP「wheel of life」をリリースした。
本作には井上真央、佐藤健、松山ケンイチがメインキャストを務めているドラマ「100万回 言えばよかった」の主題歌で、広末涼子がミュージックビデオに出演していることでも話題の「リンジュー・ラヴ」や、「第95回センバツ高校野球」のMBS関連番組の公式テーマソング「PRAY.」、インディーズ時代からのライブ定番曲「あこがれ」を再録した音源が収録されている。
1月にはバンド史上最大規模の会場となる埼玉・さいたまスーパーアリーナで結成10周年ツアーを締めくくった彼ら。音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューを行い、楽曲制作の裏側に加えて、精力的なライブ活動がもたらした成長や、若い世代にとって“あこがれ”の対象となりつつある今のマカえんについて語ってもらった。
取材・文 / 柴那典撮影 / 曽我美芽
筋力がついた2022年
──1月にはさいたまスーパーアリーナで結成10周年ツアーを締めくくるライブがありました(参照:マカロニえんぴつ10周年ツアーラストはSSA、「離れないでほしい」マカロッカーに届けた熱い思い)。振り返ってみていかがですか?
はっとり(Vo, G) ライブバンドとして頼もしくなってきたなという実感がありましたね。2022年はライブに対する筋力が付いた1年だったんで、「なんとか走りきった」というよりは、余裕を持ってできた。(2021年5月の)横浜アリーナは到達点という感覚もあったし、燃え尽きたような感じがあって、終わったあとは1カ月くらいフワフワしてたんです(参照:マカロニえんぴつ最大規模ツアーが終幕、初の横アリワンマンで再認識「音楽は生きる糧」)。でも今回はそういう感覚もなく「11年目が始まったな」という感じでしたね。
長谷川大喜(Key, Cho) 終わってからも、出しきったというより、もう少しやっていたいという気持ちが残っていましたね。去年はライブでの集中力やライブに向き合う力が上がった1年だった気がします。
高野賢也(B, Cho) 去年は1年間かけてツアーをしていたような感覚があったんで、たまアリのときには「もう終わっちゃうのか」という寂しい気持ちもありました。ライブの最後にベースを大ちゃんに渡してお客さんを隅々まで見る時間があって。最初はライブハウスも埋まらなかったバンドがここまで来たんだなって思うとうれしかったし、やってきてよかったなと思いました。
田辺由明(G, Cho) 10周年の締めくくりでもあったし、演奏しながら昔のことを思い出したりしましたね。レンタカーを借りて全国のライブハウスを回ってたバンドが、ここまで大きくなったんだなって。ライブは応援してくれた人たちに感謝を伝える場でもあったんですけど、祝福されているのと同時に、今後への期待感をすごく感じたんですね。だから、その期待に応えたいという気持ちも強かったです。レコーディングも控えていたし、11年目ももっといいバンドになってやろう、という。
──ツアーのアンコールで「リンジュー・ラヴ」を初披露していましたが、どんな感触でしたか?
はっとり いつもツアーファイナルでは新曲をやるべきだと思ってるんです。次を見せるのが一番きれいな形だと思うんで。ただ、今までは新曲がバシッと決まらないことのほうが多かったんですよ。演奏が定着するのに時間がかかるというか、ライブで何回か披露しないと自分たちの中に曲が浸透しないので。でも、この曲はメンバーに安心して委ねられる感じがありましたね。演奏に迷いがなくなっている気がしました。お客さんの反応もよかったですね。
死がテーマではない
──「リンジュー・ラヴ」はドラマ「100万回 言えばよかった」の主題歌として書き下ろした曲ということですが、オファーを受けて曲を作るにあたっては、どういう点がとっかかりになったんでしょうか。
はっとり ドラマのタイトルや話の筋にも出てますけれど、“後悔”ですね。普段から、人って本当に大事なことを口に出さないなと思ってて。余計なことばっかり口にする。いつかタイミングを見て相手に伝えればいいかと思っていると、会えなくなったときに後悔する。「あのときに言っとけばよかった」「もっと伝えとけばよかった」という。その気持ちはすごくわかるし、物理的にもう会えない人、触れない人に対する思いの強さを歌にしたいと思ったんです。今さら遅いし、もう会えないけど、これだけ強い思いがあるんだっていうことを、声が届かなくても一生懸命につづっている。そういう健気さを歌にしたいと思って書きました。
──曲調のイメージはどんなところから膨らんでいきました?
はっとり 最初にドラマのスタッフの方々と打ち合わせをしたときに「ロック調で」と言われたのがすごく印象的だったんです。僕はバラードが求められているのかなと思ってたんですけど「マカロニえんぴつらしい、いつもの感じでいいですよ」と言われて。だから、勢いのあるサウンドでいいのかなと思って。曲調も何か変わったことをしようというよりは、今までやってきたことをやろうという気持ちで作りましたね。
──歌詞のテーマは重いですが、曲調にはある種のさわやかさや力強さがあって。そのバランス感覚が絶妙だと思いました。
田辺 先方に「キラキラ感が欲しい」というのは言われてたよね。
はっとり 死がテーマではないとは思いました。死はひとつのエッセンスとして内包されているけれど、もっと広い角度で見たほうがいい。そこから、生に対する貪欲さというものが出てきました。明日死ぬかもしれないなら、もっと勢いよく生きようと。「1日1日を大事に生きよう」というより「勢いよく生きる」というメッセージが曲に出るべきだと思ったんです。ウジウジするより爆発のほうが大事だ、と。そこは最後の転調のところで表現できたかなと思います。
──曲の中でどんどん熱量が高くなっていく感じもあります。
はっとり ローテンションで始まるんで、そこからの爆発力みたいなところは意識しましたね。よく僕はライブの前とかにメンバーに対して“生き様”の話をするんです。「ただうまくやったってしょうがない、生き様をステージに投じない限り観る者の心は動くはずがない」って。そういう思いにもつながってますね。ドラマのプロデューサーの磯山(晶)さんが「切なくなったというより胸がカーッと熱くなりました」というコメントをしてくれて、それもすごくうれしかったんですよ。狙い通りのものを作れたなと。聴いた人に熱くなってほしいという思いがもともとあったので。
──歌詞の言葉とアレンジがリンクしているようにも感じましたが、実際はどうでしょう?
はっとり あまり凝ったことはやってないんですけれど、転調したあとのドラムに関しては希望を伝えました。「歌を際立たせようと気を遣わなくていいよ」って。
田辺 サポートの高浦(“suzzy”充孝)くんがドラムを録るときに「歌詞を教えてください」と言っていて。大サビのドラムソロみたいなビートは、彼なりに歌詞を咀嚼して表現していました。
はっとり この曲は歌詞が先にできていたという、マカロニえんぴつの曲では珍しいパターンなんです。そうするとメンバーも気持ちが乗りやすいんだろうな、と。
高野 僕も高浦くんと一緒に「こうしたらいいんじゃない?」とお互いに話し合ったので。イメージしやすかったですね。
ロックは救いで正義
──レコーディングを振り返って、印象的だったことは?
田辺 「リンジュー・ラヴ」は初めての試みとして442Hzのピッチで録ったんです。それが高揚感につながっていて。しっとりしたところはいい哀愁感が出るし、デカくなるところは爆発力が生まれるから、展開が叙情的になったと思う。それもあってレコーディングのプレイに気持ちが入ったのもあるかもしれないですね。
はっとり ただ、実験としてやってみたけど、歌いづらかったですね。普段は440Hzのピッチでやってるから、わずか2Hzの差でも急に音程が取れなくなる。だからレコーディングは苦戦しましたね。歌えてるつもりでもプレイバックするとなんだか声が暗いんですよ。もうやりたくないです(笑)。
──「リンジュー・ラヴ」の歌詞についても、もう少し詳しく聞かせてください。この曲はドラマの主題歌でありつつ、マカロニえんぴつというバンドの曲としてのメッセージ性もすごく出てきているように思うんですね。
はっとり これまで僕らはタイアップを多くやらせてもらいましたけど、今まで完璧なまでに寄り添いすぎてきたと思っていて。今回はドラマの概要には目を通しましたけど、脚本を読み込みすぎないようにしましたね。ドラマ用の曲というよりは、ドラマの内容と自分の気持ちがマッチするところを抽出したというか。これもかなりのスピードで書き切りました。時間をかけず書いたときは、歌詞が自分の考えていることの先を行くときがあるんですよ。いまだに「これ、どういうことなんだろう?」というワードもあるんです。「ベタベタの鍵穴」ってなんだろう、とか。全部を説明できちゃうものより、違和感があるほうが面白い。この曲に限らず、今回のEPの歌詞はスピーディに書くことを意識しました。
──例えば「リンジュー・ラヴ」の「僕のロックは 忘れた頃にまた聴かせてあげる」という1行も印象的ですが、ここはどんなことを考えて書きましたか?
はっとり 「僕のロック」というのは、たぶん自分が大事にしているものなんでしょうね。「ロック」は鍵をかけることにも通じていて。殻に閉じこもったまま、自分の気持ちを言えないままでいた。そういう後悔の念が出てますね。あと、僕自身にとってのロックというものは、救いなんですよね。もしくは正義だったりする。もし、もう一度会いたい人に会うことができたのなら、ゆっくり、恥ずかしがらずに素直な思いを伝えたい。そういう気持ちがここの1行にあるような気がします。
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「バカ」の部分が減り、情熱を失いつつある