マカロニえんぴつインタビュー|リアルを届けるロックバンドの良好すぎる関係 (3/3)

売れるという確信

──今回、アルバム全体を聴いていて思ったことの1つは、「なんでもないよ、」や「好きだった(はずだった)」「キスをしよう」のような、マカロニえんぴつが描くラブソングには、今の時代を生きている人々の生活感や空気感がすごくリアルに香ってくるな、ということです。他者に思いを馳せながら、主人公たちはどこかで疲れている感じがするというか。

はっとり ラブソング……僕が書くものはすべてラブソングだと思っているんですけど、今言われて納得したのは、確かに疲れている。それは、時代が疲れているからというよりは、僕個人が、疲れている状態を描きたいからなんだと思います。歌の中の主人公って、余計なことを考えているんですよ。それはなぜかと言うと、疲れているから。幸せであふれているときは考える隙間がないので、余計なことはあんまり考えない。僕は考えてしまっている人のことを歌にしてしまう。つまり、疲れている人のことを歌にしている。一貫して疲れているのかもしれないです。愛に、人間に、限界を感じた自分に。

──それが、はっとりさんにとってはリアルなものである?

はっとり リアルというか、身近なのかもしれないです。疲れている時間のほうが長いと思うから。僕は、歌にはリアルしかないと思っていたい。でも、ジョン・レノンの「Imagine」のように、イメージの中のものを歌にしたくもある。リアルを受け入れた先で、イメージや夢を語るのはいいのかなって思います。最初から夢を語られてもね。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

──「なんでもないよ、」はサウンドプロダクションも今までのマカロニえんぴつの感覚とは違うと思うんです。音楽的にはどういったアイデアがありましたか?

はっとり “電子ドラム meets 生ピアノ”っていうサウンド感は狙っていました。グナッシュというアーティストの「imagine if」という曲があって、YouTubeのコメント欄にも「似てる」と書かれていたんですけど、音像の雰囲気はそこからのインスピレーションはあるかもしれない。ただ、その曲はおしゃれなだけじゃない気がしたんですよね。ピアノの音を生っぽく出しているけど、そのピアノの音があまりきれいじゃなくてアナログっぽい、1回レコードを通したようなくすんだ音像なんですよ。それをやりたいなと思って形にしました。あと、これはちょっと作戦もあるんですけど、アコギやエレキでやろうとすると、ヒットしづらいなと思ったんです。「ブルーベリー・ナイツ」(2019年2月発売のミニアルバム「LiKE」、2020年4月発売のフルアルバム「hope」収録)もピアノで始まっていたし、「恋人ごっこ」(2020年4月発売のフルアルバム「hope」収録)もシンセストリングスで始まっていたし。

──確かに、そうですね。

はっとり 「なんでもないよ、」は最初、弾き語りで作っていた段階から売れると思っていて。売れると確信したものに、もっと売れる要素を追加したかった(笑)。それなら「ピアノなんじゃないか」と直感的に思ったんです。それに加えて、生ドラムだとフォーキーな要素を後押ししちゃうから、電子ドラムだろう、と。それで1コーラス作ってみたら、すごくよかった。「ギターいらないんじゃないか?」っていうくらい。よっちゃんも、「最小限のギターでいいと思う」と言っていて。この曲は、俺はギターをほとんど弾いていないし、よっちゃんもアウトロとサビでちょっと弾いたくらい。それが結果として、100%に近い距離でリスナーに歌を届けられるアレンジになったんじゃないかと思う。ひさしぶりに歌にリバーブもかけなかったし。おかげで、心の誰も入り込んでいない場所にこっそりと入っていけるような音像になったと思います。

メンバーといるときの自分が好きだ

──これまでのマカロニえんぴつのバンドサウンドとは質感の違うものだけど、だからこそ、メンバー全員で向き合わなければ作り上げることのできないサウンドですよね、「なんでもないよ、」は。

はっとり みんな、すごく協力的でした。俺があーだこーだ言う前に、歌をよくしようとしてくれた。「ヤングアダルト」のときもそうだったけど、スッと歌が入ってくるアレンジになったと思う。

田辺 はっとりからデモが送られてくるときって、だいたい、今までは何かきっかけがあってデモを作ってくることが多かったんですよ。でも、「なんでもないよ、」は唐突にポンっとはっとりからデモが送られてきて。それを聴いたとき、今まで聴いたデモにはない、言葉がスッと入ってくる感覚がしたんですよね。とにかく、詞と歌声を大事にしたいってすぐに思いました。その結果、「エレキギターはいらないんじゃないか」と思って。

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

高野 僕もよっちゃんと同じように、この曲はレコーディングの段階で「歌詞を大事にしたい」と思っていました。「この曲はアレンジをシンプルにしよう」と話し合ったわけでもないんですけど、自ずとみんな同じ考えにまとまったなと思います。ベースで意識したことといえば柔らかく聞こえればいいということくらい。まあ、歌詞が先にくるとズルいんですよ(笑)。

一同 (笑)。

高野 歌詞の世界観が完成しすぎているから、何もできなくなっちゃう。でも、「ヤングアダルト」もそうでしたけど、歌詞が先にあるからこそ、みんなで同じ方向を向いて曲をよくするために作れるし、そのほうがベースは弾きやすいなと思いました。

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

長谷川 僕はレコーディングのとき、はっとりくんがこの曲を歌っているのを聴いて、まだ歌詞の内容を把握しているわけじゃなかったんだけど、なぜか目頭が熱くなっちゃって。そのくらい、込み上げる感情がありました。「君といるときの僕が好きだ」というフレーズがあるんですけど、この「君」という存在を、僕はバンドメンバーに照らし合わせて聴いていて。「メンバーといるときの自分が好きだな」ってなんでか知らないけど、そのときすごく思ったんです。このアルバムは、結成10周年記念のフルアルバムにもなるし、また明日からの1日1日をこのメンバーと生活していくだろうし……関係性を確認させられたというか。そういう気持ちになったのを覚えています。

はっとり それは、歌入れのとき?

長谷川 うん、そう。

はっとり 正直、歌入れのとき、声が全然出なかったんですよ。ツアー中で声も出ない時期で「もう、その日はやめようかな」って思ったし、いつもお願いしているエンジニアの池内(亮)さんだったら、「うん、無理せず、やめておこうか」と言ってくれると思う。でも、こういうときに限って、地元のツレがエンジニアだったんですよね(笑)。高校からの友達で、一緒に上京してきて、大学も一緒の“きんちゃん”っていうやつで。確か、その日は池内さんの代打で録ってくれていたんですけど、そいつに「声、出なそうだわ」と言ったら、「いや、歌うしかないっしょ!」って返された(笑)。

一同 (笑)。

はっとり もうね、地元の友達に言われると、がんばりたくなっちゃうんですよ。「続けてれば出そうだよ」と言ってくれて。でも、俺の体だから、出ないことは自分が一番よくわかる。でも出たんですよ。ブース越しにきんちゃんが応援してくれていて、メンバーもみんな見てくれていて、そういう状況の中で不思議と調子が出た。大ちゃんの話を聞いて、「バンドのことも思いながら歌っていたのかもしれないな」と思った。もっとパワーを出すためにね。

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

──「恋人同士の歌だ」という一面で限定しきれない歌ですよね、確かに。すごく普遍的な歌だと思います。

はっとり 俺は自分の歌だからわかるけど、よく聴くと「なんでもないよ、」は声が出ていないんですよ。コンディションが悪いときの俺の声なんです。でも、発声的な面は置いておいて、いい歌になりました。これは、きんちゃんのおかげですね。1サビよりも2サビのほうが声が出ていて、そのだんだん声が出ていく感じも、ライブっぽくていいなと思う。

──あと、これは「なんでもないよ、」に限らずですけど、はっとりさんの書く歌詞には言葉に対する疑いや迷いが滲む瞬間があると思うんです。言葉にしてしまうことの悲しさや、言葉にできないものの尊さをすごく理解したうえで、そこにある試行錯誤そのものを歌にされますよね。「なんでもないよ、」って、ある意味、究極的な結論でもあると思うんです。結論をそのまま投げ付けられたら乱暴に響くかもしれないけど、そこに行き着くまでの過程が歌詞として丁寧につづられているから、すごく親身に響く。

はっとり 「なんでもないよ、」は特にそうですね。計算して書いたわけじゃないんですけどね。この曲の歌詞は、瞬間的に出てきたものを、みんなに送ったので。でも、何も言わないこと、言えないことは、すべてを言っていることと等しい……自分でもハッとしましたね。たぶん、誰もやっていないです、これは。だって、言葉にできないことを言葉にするのがポップスであり詞なんですよ。でも、この曲はそれをサボってしまっている。着飾り忘れた曲ですよね、これは。でも、これが支持された。生活の中で、対話の中で、相手のご機嫌を探ることってありますよね。

──ありますね。

はっとり 「よく見られよう」と思うし、「できれば好かれていたい」と思う。そういうときに言葉を使うけど、それは言葉を“探して”いるようで、言葉を“探って”いるんですよね。「この言葉はどう伝わる?」「やめておこうか、印象が悪くなるかもしれない」……そうやって言葉を探っている様子を、この曲では描いた。それは、相手との関係を壊したくないからなんですよ。どうでもいい人だったら、「傷付けても構わない」と思うかもしれない。でも、傷付けたくないし、傷付きたくない。そんな大事な相手だからこそ、言葉を探っていく。そこには下心がある。でも、それがリアルなんですよね。こういう書き方をして、すべてが野暮に伝わってしまうようだったら、引っ込めます。でも、最後に出た答えが「君といるときの僕が好きだ」というエゴだった。僕はエゴでいいと思います。そういうことを、この1曲を通して書けた。きっとみんな、思いやりが愛だと思っているかもしれないけど、それってきれいごとで。実はエゴなんです。でも、それでいいと思う。この曲を好きになってくれた人は、そのことにハッとしたんじゃないかと思います。

マカロニえんぴつ
マカロニえんぴつ

アルバムのタイトル候補は「TONTTU」の中に

──1曲目の「ハッピーエンドへの期待は」は、アルバムのタイトルトラックになっています。この言葉がアルバム全体を象徴し得ると思ったのには、どういった理由がありました?

はっとり 歌詞の一節がそのままアルバムのタイトルになるのって、カッコいいなと昔から思っていて。「ハッピーエンドへの期待は」と悩んだのは、「TONTTU」の「もう仕事に行きたくねぇ」っていう歌詞なんですけど。

一同 (笑)。

長谷川 それは悩むね(笑)。

はっとり だいたいタイトル決めのときは最後にみんなで頭を悩ませるんですけど、今回は今までで一番即決に近かったかもしれないです。「ハッピーエンドへの期待は」は、みんなの中でしっくりきたタイトルだったんだと思う。この曲がアルバムの1曲目になることも、作っている段階で見えていたんですよ。このアカペラ始まりは、みんなが心を向けてくれるんじゃないかなと思って。

──そのアカペラ部分、「『残酷だったなぁ 人生は』」でアルバムが始まるのは、すごいなと思いました。

はっとり ひと言目で、いきなり暗いこと言ってるもんね(笑)。

──「人生は残酷だな」と思いますか?

はっとり 映画(同曲が主題歌となる「明け方の若者たち」。参照:マカロニえんぴつ、北村匠海×黒島結菜「明け方の若者たち」の主題歌書き下ろし)を観て、そう思った。この曲の歌詞は、寄り添いすぎているくらい、映画に寄り添ってます。なので、映画を観終わったあとのエンドロールで聴いたら、この曲にはすごく合点がいくと思いますね。僕は原作からファンだったんですけど、あの作品の主人公たちは、残酷さを受け入れ進んでいく人たちなんですよね。この映画を観て、僕はちょっと恥ずかしくなったんですよ。あまりにも主人公たちの気持ちがわかるから。でも、そういうものを歌でもできたらいいですよね。触れた人が恥ずかしくなっちゃうような表現って、すごくいい表現だと思う。

──そうですよね。

はっとり 小さい絶望感が、すごくリアルな映画だったんだよなあ……でも、きっとみんな、小さい絶望を小脇に抱えて日々を生きていると思うんですよね。そういうものを、僕は歌にしたいです。それに、絶望を絶望として悲観できるのって、それをすくい上げてくれる人が周りにいるからだから。「残酷だったなぁ 人生は」と言える喜びが、この曲の主人公にはあるんですよね。

マカロニえんぴつ

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ライブ情報

マカロックツアーvol.13 ~あっという間の10周年☆変わらずあなたと鳴らし廻り!篇~

  • 2022年2月15日(火)東京都 日本武道館
  • 2022年2月16日(水)東京都 日本武道館
  • 2022年2月26日(土)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
  • 2022年2月27日(日)山梨県 YCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
  • 2022年3月4日(金)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2022年3月5日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2022年3月12日(土)新潟県 新潟テルサ
  • 2022年3月22日(火)大阪府 大阪城ホール
  • 2022年3月23日(水)大阪府 大阪城ホール

マカロックツアーvol.13 追加公演 ~なんたって10周年ツアーだゼ?9公演追加しました篇~

  • 2022年5月20日(金)香川県 レクザムホール 大ホール(香川県県民ホール)
  • 2022年5月21日(土)愛媛県 愛媛県県民文化会館 メインホール
  • 2022年5月27日(金)富山県 オーバード・ホール
  • 2022年5月28日(土)福井県 フェニックス・プラザ 大ホール
  • 2022年6月2日(木)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2022年6月3日(金)福岡県 福岡市民会館 大ホール
  • 2022年6月10日(金)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2022年6月12日(日)岩手県 岩手県民会館 大ホール
  • 2022年6月16日(木)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール)

プロフィール

マカロニえんぴつ

はっとり(Vo, G)、高野賢也(B, Cho)、田辺由明(G, Cho)、長谷川大喜(Key, Cho)からなる4人組ロックバンド。メンバー全員が音楽大学出身。2015年1月に1stミニアルバム「アルデンテ」、同年12月に2ndミニアルバム「エイチビー」をリリース。2017年2月にshibuya eggmanのmurffin discs内レーベル・TALTOに移籍し3rdミニアルバム「s.i.n」、12月に1stフルアルバム「CHOSYOKU」を発表した。2019年2月に4thミニアルバム「LiKE」、2020年4月に2ndフルアルバム「hope」をリリース。2020年11月にTOY'S FACTORYよりメジャー1stCD「愛を知らずに魔法は使えない」を発売した。2021年4月には「映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園」の主題歌を表題曲としたメジャー1stシングル「はしりがき」をリリース。2022年1月にメジャー1stフルアルバム「ハッピーエンドへの期待は」を発表し、2月よりライブツアー「マカロックツアーvol.13 ~あっという間の10周年☆変わらずあなたと鳴らし廻り!篇~」を行う。