マカロニえんぴつ|メジャーデビュー作で向き合う生と死、愛とは

マカロニえんぴつが11月4日に新作CD「愛を知らずに魔法は使えない」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビューを果たした。

2012年にバンドを結成し、約8年間の活動の中でグッドミュージックを世に送り出し、“マカロック”を確立してきたマカロニえんぴつ。満を持してのメジャーデビュー作「愛を知らずに魔法は使えない」にはアニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」のオープニングを飾る「生きるをする」とエンディング曲「mother」を含む全6曲が収録されている。

音楽ナタリーではメンバー4人に外出自粛期間中の過ごし方から自粛明けに行った「愛を知らずに魔法は使えない」のレコーディングまでの過程を聞き、本作で表現されている“生”と“死”への考えや、タイトルに含まれる“愛”の捉え方について語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 山口真由子

生きることは帰る場所が増えること

──メジャーデビュー作となる「愛を知らずに魔法は使えない」がリリースされますが、まずは、皆さんがコロナ禍における外出自粛期間中、どのように音楽に向き合っていたのかを伺いたくて。

はっとり(Vo, G) 僕は正直、音楽を聴くよりも、何かを考えている時間のほうが長かったかもしれないです。絶望的な状況だったし、世の中がマスクだなんだと言っている中で、現実的なことを考えたとき、音楽って優先順位が低いんじゃないかとか、“不要不急”という言葉が自分にも向けられているんじゃないかとか、無力さを感じることも多くて。人と会わないから、どんどんマイナス思考に沈んでいってしまうし。だからこそ、自分がもともと好きだった音楽にすがることも多かったです。心の拠りどころを求めて、邦楽ならユニコーンやエレファントカシマシ、洋楽ならWeezerにOasis……そういう、自分にとってのルーツミュージックを聴く時間は多かったですね。

──なるほど。

はっとり それから徐々に、短い尺のデモを作ってSNSにアップして反応をもらったりすることで、ちょっとずつ精神衛生を保てるようになってきた感じです。そうだ、この期間にレコードプレイヤーを買ったんです。なので、レコードで聴きたい曲を探したりもしましたね。大滝詠一さんを今まで聴いたことなかったんですけど、「EACH TIME」っていうアルバムのレコードを買って、ハマったりして。

はっとり(Vo, G)

──レコードだと、やはり音も違いますよね。

はっとり アナログレコードの音の奥行きってすごいですよ。感動しました。レコードだったらピアノの曲が合うかもと思って、もともと好きだったランディ・ニューマンの「Good Old Boys」というアルバムをレコードで買ったりして。このアルバムに入っている「Louisiana 1927」がめちゃくちゃ名曲なんです。ルイジアナ州で水害が起こったときのことを歌った曲で、サビは「ルイジアナー、ルイジアナー」って歌っているだけなんだけど、コード進行とかがすごく切ない。コロナの世界規模の被害状況と「Louisiana 1927」を、自分の中で勝手に結び付けて聴いたりしていました。こういうときって、元気な曲よりも、悲しい曲や切ない曲のほうが勇気付けられるんですよね。

──わかります。

はっとり ランディ・ニューマンに救われた夜がけっこうありましたね。めちゃくちゃいい曲なんだよな……(そう言って、自身のスマートフォンから「Louisiana 1927」を流す)。

──ユニコーンやWeezerのような自身のルーツ、あるいは、ランディ・ニューマンのような存在を再発見したことは、自分たちが作る音楽にも影響はありそうですか?

はっとり 今挙げた音楽は、僕にとっては迷ったときに帰ってくる場所なんです。本当に好きなものは16、17歳の頃から結局変わらないと思っていて。自己形成期に聴いた音楽は、ずっと変わらず自分の中に残り続けるもので。変化したくて聴く音楽はインプットとして大事だけど、変わりたくないからこそ聴く音楽も、僕はすごく大事にしたい。それは自分の核、もはやDNAレベルにあるものだから。裏を返すと、僕ももう20代後半に差しかかったし、これから出会うものは、武器にはなるけど血肉にはならないと思うんですよ。もちろん武器も必要だけど、結局、全裸にまで脱がされたときに残っているものこそ、自分の血肉になっていると思う。この自粛期間は、自分の原点に立ち返った期間でもありました。

──「帰る」というのは「愛を知らずに魔法は使えない」の中に通底する1つのテーマでもあるような気がします。例えば「mother」や、セブンティーンアイスのWeb動画のために書き下ろされた7月配信の「溶けない」の歌詞にはそうしたモチーフがありますよね。

はっとり うん、意図したことではないんですけど、曲に出ていますよね。「mother」は特に、「心の帰る場所ってどこなんだろう?」と自分自身に問いかけているような曲だから。

──「心の帰る場所とは?」という問いに対して、はっとりさんの中で答えはあるんですか?

はっとり 自分の中にはあります。だけど、帰る場所って、増えていくものでもあるんですよね。本当の最後の最後に行き着く場所は決まっているけど、それでも生きていくことは出会うことだし、自分を変えていくことでもある。会いたい人も増えていくし、仲間や頼れる人も増えるし、心の拠りどころも増えていく。要は、生きていくって、帰る場所が増えていくことだと思うんです。だから俺も、ユニコーンやWeezerだけじゃなくて、新しい音楽も聴こうとするわけで。そういうことを考えていく中で、「mother」では「今、自分が帰りたい場所はどこなんだろう?」って、漠然と曲の中で投げかけた感じです。聴いた人にとっても、同じように自分の帰る場所を改めて見つめる曲になればいいなと思って、この曲は書きました。

──「生きるをする」と「mother」はそれぞれアニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」のオープニングとエンディングを飾る曲ですが、タイアップと言えど、すごく生々しく人生観が滲む2曲ですよね。

はっとり そうですね。「ダイの大冒険」は旅のアニメだけど、僕らもバンドをやってきたこの8年間は旅をしている気分でしたし、このタイミングでのメジャーデビューは、旅の道中でたどり着いた1つのチェックポイントのように感じます。8年なんて別に大したことないですけど、それでもいっちょ前に自分を振り返ると、「よくやったな」と言ってやりたくもなる。この自粛期間中は考える時間がたくさんあったし、それゆえに、自分たちが作ってきた曲や、出会ってきた人たちのことを振り返ることも多かったですね。だからこそ今回の作品は、この先マカロニえんぴつが迷ったときに原点を確かめに帰る1枚になり得ると思うんです。「hope」(2020年4月発売の2ndフルアルバム)よりも“自分たち”にウェイトを置いた作品だと思う。

VulfpeckやThe Jackson 5をヒントに

──田辺さん、高野さん、長谷川さんの、自粛期間中の音楽に対する向き合い方も教えてください。

長谷川大喜(Key, Cho)

田辺由明(G, Cho) 僕はひたすらApple MusicやSpotifyで音楽を探していましたね。せっかく聴いたことのない音楽に出会いやすいツールがあるわけだし、今まであまり聴いてこなかった音楽を聴きたいと思って。料理をしているときや風呂に入っているときもプレイリストを垂れ流しにして、面白そうだなと思った曲をメモしたり。そもそも僕はハードロック出身なんですけど、最近はどちらかというとスローな曲に耳が向くようになったりもしました。コード進行がシンプルな曲を自分でも作ってみたいなと思うようになりましたね。

──長谷川さんは?

長谷川大喜(Key, Cho) 自粛中、インスタでフォローしている人たちが、聴いている音楽のジャケットをストーリーに載せていて。それを参考に自分も聴いてみようと思って、ひたすら音楽を聴いていましたね。いろんな音楽を聴くことによって、自分のアレンジ力も上がっていくんじゃないかと思ったんです。コロナ期間もデモ音源をSNSにアップしたりしていたんですけど、それも聴いた音楽の中でいいなと思ったフレーズやリズムを取り入れて、デモ音源でもとりあえずアウトプットすることによって自分のものにする努力をしていましたね。

──今回の作品には長谷川さん作曲の「ルート16」が収録されていますが、この曲も自粛期間中に作られた曲だったのでしょうか?

長谷川 そうですね。「ルート16」は、自粛期間中に音楽の情報を集めている中で、はっとりくんがVulfpeckというアーティストの楽曲を薦めてくれたのと、そのときにちょうどThe Jackson 5を聴いていたので、両方の要素を自分なりに昇華できないかなと思って作りました。これまで僕が作った曲って、「TREND」とか「Mr.ウォーター」とか、恐らく一般の方は好きじゃなさそうな怪しい曲というか(笑)、変わった曲ばかりだったんです。なので、そろそろ人間らしい曲というか、ポップな曲を作りたいなと思って「ルート16」を作りました。

──その意識の変化というのは、「音楽的に今までと違うことをしたい」という欲求が大きかったですか?

長谷川 なんというか……楽しくなりたかったんだと思うんです。僕、自粛期間はかなり気持ちが沈んでいたんですよね。基本的にアウトドアな性格なんですけど、外に出ることもできなかったし、それならせめて曲だけでも明るくしたいと思ったんじゃないかな。なので、自粛中に僕が作ったデモ音源は明るい曲ばっかりなんですよ。自分でも「俺、こんなにポップな曲書けたんだ」と驚くくらい。