Ovallのドラマーをはじめ、プロデューサー、シンガーとしても活躍するmabanuaが、自身の誕生日である8月29日に6年ぶりのソロアルバム「Blurred」をリリースした。
「Blurred」はOvallの活動休止期間にさまざまなアーティストのサポートやプロデュースを手がけてきた彼が、その一方で自分自身と向き合い「100%やりたいことだけを詰め込んだ」作品に仕上がっている。この特集ではmabanuaに、一度は完成間際まで漕ぎつけた音源をすべて捨てて作り直すほど “mabanuaらしさ”を追求した今作について語ってもらった。またmabanuaと親交の深いChara、後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、藤原さくら、向井太一、U-zhaan、脚本家の真辺克彦といった面々から寄せられたコメントも掲載している。
取材・文 / 大谷隆之 撮影 / moco.(kilioffice)
100%、やりたいことだけ詰め込みました
──久しぶりのソロアルバム「Blurred」、聴かせていただきました。リリースされた8月29日はmabanuaさんのお誕生日だったんですね。
そうなんです。スタッフが気を利かせてくれたのか、たまたま重なったのか、よくわからないんですけど(笑)。
──前作「only the facts」から6年。その間、Ovallの活動休止と再始動も挟みながら、メジャーからアンダーグラウンドまで幅広いアーティストと仕事をされてきて。
はい。学ぶことも多かったですし、我ながら濃い時間だったなと。
──忙しくて、あまりソロには気持ちが向かなかったとか?
それはむしろ逆かな。たしかに最近はサポートやプロデュース関連の仕事がメインになっていたけれど、そうやって依頼してくれる人のほとんどが、実は前のソロアルバムやOvallの作品を聴いてくれてたんですね。僕にとってそれは本当にありがたいことで……。
──ソロアルバムがある種、名刺代わりになってくれた?
ええ。この5年くらいは前作の効力で乗り切った気がする(笑)。もともと僕はいわゆる職業作家さんと違って豊富なストックを持っているわけでも、相手のニーズにその都度細かく合わせられるタイプでもない。だからこそ自分の色がしっかり出た作品をコンスタントに発表することが、世の中に対するアピール材料としてもすごく大事なんだなと。それは常に感じていました。
──じゃあ、作りたいという思いはずっと温めていたと。
実は2年くらい前に、ほぼ完成まで持っていったものもあったんです。でも、どうしても気に入らなくて。結局データごと捨ててしまいました。
──お蔵入りじゃなく、音源そのものを消去してしまった?
はい。うち(origami PRODUCTIONS)の所属アーティストって、そういうところがちょっと似てるんですよ。わざと退路を断つと言うか、後戻りできない状態を快感に感じるところがある(笑)。来月の収入がどうなるかわからないのに、バイトを辞めちゃったり。代表の対馬(芳昭)にしても、最初はメジャーなレコード会社にいたのが、わずかな貯金を元手にレーベルを興してますし。
──ははは(笑)。捨ててしまった音源は、どういう部分が違うと思ったんでしょう?
ちょっとトレンドに寄せすぎてる気がしたんです。プロデュースの仕事を重ねていくと、やっぱり世の中の動向とか流行りが無意識に刷り込まれてしまう。たとえばトラップの“ブーン”というリリースの長いキックがあるでしょう。
──ええ。すごく流行ったやつ。
あれが1つ鳴っているだけでも、聴く人が聴けば「あ、ここはトラップを意識したんだな」とわかってしまう。でも、その長いキックが自分にとって本当に必要かと言うと、別にそれがなくても自分らしさは出せるはずで。むしろ十代から好きで聴いてきたサウンドとか、無意識の貯蓄だけでアルバムを作ったほうが、楽曲の賞味期限が長くなるのかなと。
──つまりmabanuaさんの中にあった音楽的ボキャブラリーを突き詰めたところで、「Blurred」というアルバムが生まれたわけですね。
まさにそんな感じです。サポートやプロデュースのお仕事をする際は、自分のミュージシャン的なエゴは一度捨てちゃうんですね。たとえば僕がNegiccoのプロダクトを手がけるとき、mabanuaカラーを100%押し出そうとはさすがに思わない(笑)。むしろ相手のやりたいことを尊重して、一緒に音楽を作った結果として、自分の色が何割かでも残れば成功だと思うんです。でもこのソロでは100%、やりたいことだけ詰め込みました。
日本語での作詞はトライ&エラーの連続
──グザビエ・ボワイエ(Tahiti 80)やジェシー・ボイキンス三世らがゲスト参加した前作に比べて、本作はmabanuaさんのパーソナルな体温や息づかいがより伝わってきたように感じました。
たぶん「only the facts」のときには、歌うことについてまだ若干の照れとおびえがあったと思うんです。歌詞もすべて英語だったし。今聴き返すと自分を出し切れてなかった反省がある。なので今回は1つのチャレンジとして、日本語の歌とちゃんと向き合おうと。これはアルバム制作前から決めていました。実際、歌詞を日本語にしたことである種の力強さだったり、自分の内面を放ちやすくなった部分はあった気がします。
──逆に、日本語に変えて苦労した点は?
やっぱり言葉の響きですかね。「Blurred」という言葉には“ぼやけた”とか“霞んだ”という意味があるんですけど、僕自身いろんなものが混じり合って渾然一体になったサウンドが好きなんです。たとえばバックトラックはヒップホップっぽいんだけど、その上になぜかフォーキーな歌が乗っていて、全体が心地よくなじんでるもの。要はジャンルに限定されず、打ち込みと生演奏がシームレスにつながった音楽に惹かれるし、それがmabanuaっぽいのかなとも思う。ただ、そういう自分好みの音像のなかに日本語を配置する作業が、やってみるとものすごく難しくて。
──よく、日本語は英語に比べると音の要素が少なく響きも強いって言われますよね。
うん。これはあくまで僕の印象だけど、どこか言葉が立って情報過多になると言うか……ポップスっぽく聴こえちゃうのかなと。でも自分は、言葉が全体のサウンドにふわーっと溶け込みつつ、ふと耳に残ったフレーズからある情景が思い浮かんだり「この曲はこんなストーリーなのかな」と想像できるような作り方にしたかった。その、音をぼかしつつ意味を持たせるバランスがすごく大変で。ずっとトライ&エラーの連続でした。
──でも、6年ぶりのソロではそこにチャレンジしたかった?
そうなんです。どの曲も苦労はしたけれど(笑)。2曲目の「Blurred」というタイトルナンバーは、その案配がわりとうまくいったんじゃないかなと。
──まさに「Blurred」というアルバムを体現するナンバーですね。音と音の境界線が水彩画のように滲んでいて、でも遠くから見ると、1枚の美しい絵になっている。そんなふうな印象も受けました。
そっか。そういうふうに響いたのなら、すごくうれしいです。
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いろんな音の最適な置き位置を探して
- mabanua「Blurred」
- 2018年8月29日発売 / origami PRODUCTIONS
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初回限定盤 [CD2枚組]
3240円 / OPCA-1039 -
通常盤 [CD]
2700円 / OPCA-1038
- CD(DISC 1)収録曲
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- Intro
- Blurred
- Heartbreak at Dawn
- Night Fog feat. Achico
- Fade Away
- Overlap
- Cold Breath
- Tangled Up
- Call on Me feat. Chara
- Scent
- Imprint
- 初回限定盤CD(DISC 2)収録内容
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- 全曲のインストゥルメンタルバージョン
- mabanua(マバヌア)
- バンドOvallのドラマーをはじめ、プロデューサー、シンガーとしても活躍するアーティスト。Ovallの活動と並行して2008年にソロ活動をスタートし、11月に初のソロアルバム「done already」をリリースした。2012年に発表した2ndソロアルバム「only the facts」はiTunes Storeのダウンロードランキングで1位を獲得するなどロングヒットを記録。またChara、Gotch(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、矢野顕子、くるり、RHYMESTER、米津玄師、藤原さくら、Negiccoなどのプロデューサー、ドラマー、リミキサーを担うほか、CM楽曲や映画、ドラマ、アニメの劇伴も多数担当。2018年にはテレビアニメ「メガロボクス」の劇伴を手がけ、6月にオリジナルサウンドトラックも発売された。同年8月には前作から約6年ぶりとなるアルバム「Blurred」を発表。今作のリリースを記念したツアーも予定されている。
2018年9月14日更新