坂本真綾インタビュー|通算35枚目のシングル「nina」でピュア&フレッシュな楽曲が生まれた理由

坂本真綾が10月10日よりTOKYO MX、BS朝日、MBSほかで放送されるテレビアニメ「星降る王国のニナ」のオープニングテーマを担当。主人公・ニナの名を冠した楽曲「nina」が10月10日に配信リリースされ、11月6日にはカップリング曲を含む通算35枚目のCDシングルとして発売される。

「nina」は欅坂46(現・櫻坂46)の「世界には愛しかない」や「THE IDOLM@STER」シリーズの楽曲などを広く手がける白戸佑輔との初タッグで生まれた楽曲。坂本の初期楽曲を彷彿とさせるみずみずしく爽快な疾走感が、「星降る王国のニナ」にフレッシュな彩りを与えている。CDシングルのカップリングには、彼女の盟友・内村友美(la la larks)が作詞で参加した「世界のひみつ」を収録。こちらはひさびさのタッグとなるラスマス・フェイバーの作編曲で、同じくフレッシュかつイノセントな魅力に満ちている。デビュー30周年を目前に控える坂本が、今このタイミングで爽快感あふれる2曲を作り上げたのはなぜなのか? インタビューを行い、その制作過程について話を聞いた。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

「明るくて元気な曲」が生まれた理由

──2024年は年明けにライブツアー「坂本真綾 LIVE TOUR 2023『記憶の図書館』」の東京公演(参照:坂本真綾2024年のライブ初め、いろんな感情の真ん中を突っ切って歩いていくための力を)とシングル「抱きしめて」のリリース、2月から3月にかけてのファンクラブツアーがありましたが、その後は表立った音楽活動はなかったですよね。前回のインタビューでは「3月末までひと続きに動いていますが、元気にやり遂げたいなって。そのあとはしばらくゆっくりしたいなーという気持ちもあります。したいし、しないとね」とお話しされていましたが(参照:坂本真綾「抱きしめて」インタビュー)、ゆっくりできましたか?

全然できてないですね(笑)。なんでだろう。まあお仕事もですけど、日常でもいろいろありますし、本当にゆっくりできる日々というのはしばらくないかもしれない。「nina」の制作も去年の今頃には進めていたし、今もまだお知らせできない楽曲の制作を進めていますし……裏側では音楽的なお仕事も切れ目なく続いていますね。

坂本真綾

──新曲「nina」はこの秋放送のテレビアニメ「星降る王国のニナ」のオープニングテーマですが、やはりアニメのタイアップ曲となると制作は早い段階から進むんですね。作品の世界観あってのものだとは思いますが、近年の楽曲の中でも特に明るくフレッシュで、イノセントな印象を受けました。

こういう曲がオリジナルアルバムを作る中で出てくるかというと、そうそうないですよね。ここまでストレートに明るさや前向きな印象を歌詞でも音でも表現するというのは、やっぱり作品ありきで。昔から私の音楽を聴いてくれている皆さんにこういう楽曲も求められているという気配は感じつつも(笑)、なかなか自分の日常からはすんなりとは出てこないさわやかさ。「星降る王国のニナ」の原作を読んだり、監督の意向を聞いたりしていく中で、例えば過去の作品だと「マジックナンバー」(2009年11月発売の17thシングル。テレビアニメ「こばと。」オープニングテーマ)みたいな、ある人から見れば「坂本真綾と言えばこんな曲」という印象を持たれているであろう明るくて元気な曲が求められているんだろうなと。ただ、自分が44歳で35枚目のシングルとしてリリースするときに、無理しているようには見えない(笑)、自分との距離感が離れすぎないものにしたいなという、そのラインはすごく考えました。

──なるほど。そこはどう解決したんですか?

恋愛ラブストーリーの少女マンガが原作と考えると、今の自分からは遠い世界観のように思っていたんですけど、主人公のニナが運命の大きな歯車に翻弄されて、望まない世界に突然引っ張られていってしまったとき、それでも「自分はそういう運命だから」で片付けない凛とした姿に触れて、女性が持っている切り開く力みたいなところに共感して作っていけばいいのかなって。サウンド的には若干フレッシュさを盛った感じで作ってもらいました(笑)。

坂本真綾

少し猶予を持った発破のかけ方もあるんじゃないかな

──先ほど例に挙がった「マジックナンバー」をはじめとする過去のフレッシュな楽曲を今の心体で表現することには、多少なりとも距離を感じるものですか?

心体的な距離というよりも、「それはもう過去にやったから違うものにしたい」という気持ちのほうが大きいですね。「マジックナンバー」は今でもすごく大好きで。自分を鼓舞するような、元気を奮い立たせるような、お尻を叩いて「やれ!」というような曲なんですね。あの頃の自分が、リスナーだけじゃなく自分にも発破をかけるような気持ちで作詞をして、何度もライブで歌いながら、私もお客さんも心の奥底に眠ったものを掘り返している。そんなエネルギーを持った曲で。ただ、今の私が思う「人に元気を与えられる曲」というのは、決してこう「もっとやれ!」「お前はもっとできるはずだ!」「苦しくても今はがんばれ!」みたいなスポ根モノではなくて(笑)。もう少し人に委ねるというんですかね、「今がすべてじゃないし、間違えても終わりじゃないし」みたいな、少し猶予を持った発破のかけ方もあるんじゃないかなと最近常々感じていたんです。そこが今までの私とは違う部分として「nina」には込められたのかなと思います。

坂本真綾

──なるほどと思う一方で、「nina」にはなんなら「マジックナンバー」よりももっと前、「走る」(1998年11月発売の4thシングル)や「プラチナ」(1999年10月発売の5thシングル。テレビアニメ「カードキャプターさくら」オープニングテーマ)に近いフレッシュさ、イノセントを感じたんですよ。

へえー。10代の私に「nina」を歌わせたらどうなるんだろう。確かによさそう(笑)。

──イントロのコーラスが持つ透明感、そのあと複雑に絡んでくるストリングスの疾走感あたりに初期坂本真綾のシグネチャーを感じたというか。そこは特に意識していないんですね。

そのあたりはもしかしたら、作曲とアレンジをお願いした白戸(佑輔)さんが考えていたのかもしれないです。私は今回初めて白戸さんとご一緒したんですけど、「いつか坂本真綾さんに曲を書いてみたい」とおっしゃっていたとは聞いていて。だから過去の作品も研究してくれていたのかもしれない。過去にやったものをそのままやりたいわけではなく新鮮味が欲しい、とはいっても過去の延長線上にある……という微妙なラインを突いてきてくれたのかなと思います。

──白戸さんとの初タッグはいかがでしたか?

初めての方とのお仕事には私ももう慣れていて、こういう方だったらこういうことができるかな?という経験値がありますけど……白戸さんは不思議と、何においても初めての感じがしないというか。初めて会った気がしないし、初めて一緒にレコーディングしているとは思えない安心感があって、いい意味であまり緊張もせず。いつもとかわらない感じでした。私が好きなものをすごく理解してくださっている感じがしたし、やりやすかったですね。

坂本真綾

1周して新鮮なタイトル

──細かいところに耳をやるとけっこう難解なのに、トータル的にさわやかで明快なポップソングという印象が残ります。歌詞についても、ニナというキャラクターがそうさせたのか、素直な印象を受けました。

そうですね。やっぱりタイアップがあると、自分だけのために作るオリジナルソングよりは、いい意味で振り切れるといいますか。「明るいのください」「はい、わかりました」みたいな、求められているものに応えたい気持ちを強く持てるんです。アルバムの曲なんかだと、もっと自分が出てきちゃうんですよ。「素直って言ったって……もう44歳だしさあ」みたいな(笑)。そういう照れや冷静さが出てきちゃうんですけど、この曲はニナに合うように、「星降る王国のニナ」を観ている人がしっくりくるようにというのが大前提で、私が歌うことになったからにはお互いのいいところを相乗効果で出したい。その割り切りの中で、いつもだったらこの言葉は使わないかもしれないけど、サビ頭で「運命」とか「奇跡」とか言ってみてもいいかな?というストレート勝負も楽しめる、というのはありますね。

坂本真綾

──タイトルにそのまま「nina」と名付けることも、これまでのタイアップ曲でもなかったような直球さ、素直さがありますよね。

1周して新鮮ですよね。昔のアニメソングみたいで(笑)。そういえばやってなかったな、と思って。ぶっちゃけ、なかなかタイトルが思い浮かばなかったというのもあるんですけど(笑)。それにしても、何回もできる技ではないので、いいタイミングで出せたなと思います。