坂本真綾が2018年第2弾シングルとなる新作「ハロー、ハロー」を5月23日にリリースした。表題曲は現在放送中のテレビアニメ「あまんちゅ!~あどばんす~」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲で、作詞と作曲は共に坂本自身によるもの。彼女がシングル表題曲の作曲を手がけるのは今回が初となる。
7月には早くも次のシングル「逆光」のリリースが決定した坂本。デビュー20周年という大きな区切りを経て、彼女は今どういう思いで音楽と向き合っているのか。インタビューでは「ハロー、ハロー」の制作過程を軸に詳しく話を聞いた。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 曽我美芽
次のセンテンスへ
──前作「CLEAR」(参照:坂本真綾「CCさくら」OP曲をシングル化、c/wに堂島孝平提供ナンバー)からは間を空けずのリリースとなりましたが、その前のシングル「Million Clouds」(2016年7月発売)からは1年半ほど空いていたんですよね。
デビュー15周年から20周年までがてんこ盛りで、ひとつながりにずっと忙しくしていたので、20周年のいろいろが終わったら少しペースを落としたいなとは考えてました。そのようにしたはずが、表立った音楽活動がなかった去年も密かにレコーディングしていたんです。「ハロー、ハロー」も実はけっこう前に録り終えていて。
──ミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ」(参照:井上芳雄×坂本真綾「ダディ・ロング・レッグズ」が3年ぶりに上演 / シアタークリエ10周年「TENTH」開幕)や映画「SING」(参照:坂本真綾の人生の転機はオーディション遅刻、「SING」会見で明かす)周りの活動もあったので、止まっていたという印象はありませんけど。
ほかのアーティストのための作詞をする機会もあったので、大きく休暇をとったりもしていなくて。何カ月か海外にでも行けていれば休んでいた実感もあるんですけど(笑)、リリースの間が空いたと感じることもないまま時が過ぎていたと言うか。いい曲がどんどんできていたので「リリースは先になるけど、早くみんなに聴かせたいなあ」と思っていました。
──変わらず活動は続いているものの、今回の一連のリリースは怒涛の20周年から次の一歩という意識もある?
そうですね。常に「いついつまでにあれをやって、これをやって……」と締め切りを逆算して考えていて、もう間に合わない!という恐怖感がずっとあったので(笑)。十分な充電ができたので、「CLEAR」からはまた改めて次のセンテンスへ、という気持ちがありました。楽しいことがいろいろ待っているので、再始動感はありますね。
おばあさんになった私に
「おーい、ここにいたよ」と呼びかけるように
──「CLEAR」も「ハロー、ハロー」もアニメありきで作られた楽曲だとは思いますが、さわやかな曲が続きましたね。
録った順番はいろいろだったので、たまたまです。特に「CLEAR」は本当にアニメのために捧げた曲なので、自分の実年齢よりもすごく若々しいものにしたかったし、中学生の物語なのでフレッシュさは多少意識しました。それが私の活動の面白いところでもあるんですけど、自分が表現したいこともありながら、ある種演じるように違った要素を取り入れて「坂本真綾はこうです」というだけじゃなく「こんなところもあるよね」と表現するみたいな。
──アニメソングだからこそ表現できる振り幅というものがありますよね。
「CLEAR」と「逆光」は真逆の性格で、どれが本当の私なんだろう……と昔だったら悩んでいたかもしれない。でも今は「あれもこれも私だよね」と楽しんでいて、たまたま「CLEAR」はそうだったし、「ハロー、ハロー」は作詞作曲が自分だということもあるけど、どちらかと言うと素の自分に近いものになっていると思います。
──「ハロー、ハロー」はなぜ作曲までご自身ですることになったんですか?
作曲を始めてからはまだ数年ですし、職業作家さんのようにオーダー通りの曲がどんどん作れるわけではないので、何かのテーマソングを書くのはまだちょっと勇気がいることで。でも「あまんちゅ」という作品は、以前「これから」という主題歌を書いたアニメ「たまゆら~卒業写真~」と同じ佐藤順一監督の作品で(参照:アニメ「たまゆら」主題歌集めたアルバムリリース、坂本真綾のCD未収録曲も)、一緒にお仕事をしたこともあったし、信頼してくださっているので。佐藤監督の作品であれば、初めてのシングル曲の作曲にトライする場としてはいいチャンスかなと思ったんです。
──「ハロー、ハロー」の歌詞について、ライブで「高校生でデビューして、1stライブのことはうっすらとしか記憶してなかったりするんだけど、お昼休みに購買で買ったパンを持って歩いてたときのことを覚えていたりする。廊下でパンを持って歩いてる十代の私が、今の私にパッと振り返って『ハロー、ここにいたの覚えてる?』って言ってるような。そんな歌にしてみました」と説明していましたよね。これについて改めてお話してもらえますか。
「あまんちゅ」は高校生が主人公のストーリーなので、基本的には彼女たちの視点で世界観を作っていかなくてはいけない。でも私はアラフォーだし(笑)、変に演じて今の女子高生の気持ちを書くのは不自然ですよね。だったら女子高生のアーティストが歌えばいいんだから。じゃあ私が歌う意味はと考えたとき、このアニメは主人公と同世代の中高校生だけが観ているわけではなく、なんでもない日常を切り取った風景を大人が観て、かわいいな、懐かしいなと思ったり、応援したくなったり……過ぎ去った日々を懐かしみながら観ている大人の方も多いと思うんです。私もその視点で書いてみたいなって。でも聴く人によっては女子高生の視点とも取れるし、大人が過去の自分から「ハロー、ハロー」と手を振られているようにも感じる、そんな曲にしたくて。自分としては両方の気持ちで書いたつもりです。
──なるほど。
365日起きていることを全部は覚えていられないですよね。「高校時代、私はこうだったんだよね」と話す思い出って、ぬか漬けの樽のうわずみの部分と言うか(笑)。その下には、一生誰にも思い出されることのないようなどうでもいい記憶が残っていて、掘り返される機会はない。でも、そこにも何かあったと思うんです。思い出されない私の記憶が、思い出さなくてもいいんだけど「おーい、おーい。私ここにいたんだけど」と言っているような。そんなところを書いてみたかったんですよね。と同時に、80歳ぐらいになった私が、38歳の今の私を振り返ったときに、どの程度覚えているんだろう?って。今の私には大事に思えることが、大事なものとして記憶されるのか。80歳になったときに大事だと思える38歳の私ってどの部分なんだろう、とか。おばあさんになった私に今の私が「おーい、ここにいたよ」と呼びかけるように、この曲を書き残しておきたい気持ちもあったんです。
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高校の思い出、ロッカーの上からの景色
- 坂本真綾「ハロー、ハロー」
- 2018年5月23日発売 / FlyingDog
-
[CD] 1404円
VTCL-35273
- 収録曲
-
- ハロー、ハロー
- 月の話
- Million Clouds~acoustic live ver.~
- ハロー、ハロー -Instrumental-
- 月の話 -Instrumental-
- 坂本真綾「逆光」
- 2018年7月25日発売 / FlyingDog
-
MAAYA盤 [CD]
1512円 / VTCL-35282 -
FGO盤 [CD]
1512円 / VTCL-35283
- 収録曲
-
- 逆光
- 空白
- 色彩 -unplugged session-
- 逆光 -Instrumental-
- 空白 -Instrumental-
- 坂本真綾「CLEAR」
- 2018年1月31日発売 / FlyingDog
-
[CD] 1404円
VTCL-35268
- 収録曲
-
- CLEAR
- レコード
- プラチナ~acoustic live ver.~
- CLEAR -Instrumental-
- レコード -Instrumental-
- 坂本真綾(サカモトマアヤ)
- 1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年4月にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2015年春からはデビュー20周年を記念したさまざまな企画を行い、4月にはトリビュートアルバム「REQUEST」、9月には通算9枚目のオリジナルアルバム「FOLLOW ME UP」を発表した。2018年1月にはテレビアニメ「カードキャプターさくら クリアカード編」のオープニングテーマ「CLEAR」、5月にはテレビアニメ「あまんちゅ!~あどばんす~」のエンディングテーマ「ハロー、ハロー」をシングルでリリース。続いて7月にはゲーム「Fate/Grand Order」関連の楽曲をまとめたシングル「逆光」を発表する。