音楽ナタリー PowerPush - 坂本真綾
豪華アーティスト11組の愛あるリクエスト
トライアングラー / 渡辺麻友
[作詞:Gabriela Robin / 作曲:菅野よう子 / 編曲:佐々木裕]
──今回のラインナップを聞いたとき、個人的に一番驚いたのが次の「トライアングラー」を歌う渡辺麻友さんでした。アニメ好きという彼女の属性を考えれば納得の人選と選曲ですけど、KIRINJIやバンアパと並ぶ「渡辺麻友」の名前にはインパクトがありました。
「トライアングラー」は私にとって異質な楽曲で。サウンドも歌詞も自分で「坂本真綾らしい」と思うラインからは少し外れた曲なんですが、「マクロスF」の楽曲ということもあり人気も高く、代表曲の1つになっていて。この曲で私のことを知ってくれた人も多くてうれしい限りなんですが、私の中では自分の歌というよりもやっぱり「マクロスF」の歌を歌っている感覚なんですね。でもみんなが知ってる曲だし、今回のアルバムには入れるべきだろうと考えたときに、誰に歌ってもらうと合うのかすごく悩んだんです。まずは「マクロスF」という作品自体に愛情がある人、そしてこの下世話な歌詞を歌っても嫌な感じがしない人(笑)。すごく押しの強い歌詞なので、ドロッとしちゃうと聴いてられないと思うんですよね。
──その難しい条件にぴったりだったのが、まゆゆさんだったと。
はい。まゆゆさんが「マクロスF」を含めアニメや私の楽曲もお好きらしいという話は以前から聞いていて、面識はないながらも勝手に応援してたんです(笑)。彼女が持っている声や佇まいには、清純さの中にも芯の通った潔さがあると思っていて。きっとまゆゆさんならぴったりだなあ、でも面識もないしなあ……と思いつつダメもとでお願いしてみたら、快くOKしてくださいました。予想通り、すごくよかったですね。レコーディングにもお邪魔したんですけど、ものすごく真摯に取り組んでくださっているのも伝わってきて。彼女は今回の参加者の中で最年少なんですけど、私は彼女が赤ちゃんの頃から歌ってるんだなあと思うと感慨深いものがありました(笑)。
雨が降る / TRUSTRICK
[作詞:坂本真綾 / 作曲:かの香織 / 編曲:Billy]
──次がTRUSTRICKの「雨が降る」。ボーカルの神田沙也加さんは以前から坂本さんのファンだと公言していますよね。
沙也加ちゃんは舞台での共演者でもあってお友達なんですけど、彼女は私の「かぜよみ」というアルバムを好きでいてくれて、1曲1曲の深い感想を伝えてくれました(笑)。彼女は今大忙しだからお願いするのは申し訳ないし、「アナ雪」フィーバーに乗っかってると思われるのもなと思ったんですけど(笑)、お誘いしてみたらすごく喜んでくれて。お願いしたその日のうちに、歌いたい曲を8曲ぐらい挙げてくれたんですよ。やっぱり「かぜよみ」からの曲が多かったけど、それ以前の作品も最近の楽曲も選ばれていて、本当に好きで聴いてもらえているんだなとうれしくなりました。そのたくさんの候補から、TRUSTRICKのサウンドに合うものとして「雨が降る」を選んでくれたんだと思います。
──原曲の印象を極力残しつつカバーしているところにリスペクトを感じました。
原曲に近いアレンジだからこそ、彼女の声の存在感を感じますね。
バイク / SUGIZO feat. IA
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:SUGIZO]
──そして5曲目の「バイク」のSUGIZOさんは、今回の参加者の中でも最も意外な人選でしたが、ビデオメッセージ(参照:まゆゆ、SUGIZO、真心、Negiccoら坂本真綾にビデオメッセージ)のあまりに濃い語りっぷりで納得しました(笑)。
うふふふふ(笑)。SUGIZOさんは「地球少女アルジュナ」(2001年放送のテレビアニメ)から知ってくださっていて、かなり昔から私の音楽を聴いてくださっているんですよ。
──ちなみにこれまで面識は?
実は私とSUGIZOさんはコンサートスタッフに共通の方が多くて、スタッフさん伝いに「SUGIZOさんは真綾ちゃんの音楽を聴いてるらしいよ」って話は聞いていたんです。ミツバチツアー(2012年11~12月「坂本真綾 LIVE 2012 TOUR “ミツバチ”」)のときにリハーサルスタジオが隣で、そのときご挨拶したのが最初ですね。そのあとライブにもわざわざ足を運んでくださって。ちょうどそのツアーでは「バイク」を歌ってたんですけど、「僕の好きな『バイク』が聴けてよかった」っておっしゃってました。今回オファーをすると、速攻で返事が戻ってくると同時に「楽曲は『バイク』にする」って(笑)。でもSUGIZOさんはギタリストだし、ボーカルはどうするんだろうと思ったら……。
──ボーカロイドのIAでした。
ボカロのことは私はよく知らないんですけど、SUGIZOさんもこれが初めてだったみたいで。どんなふうになるのか想像もできなかったのですが、意外なほど曲にマッチしていて驚きました。スタジオにはIAの開発チームの方もいらっしゃって、かなり細かく一緒に試行錯誤を重ねながら完成させていったということです。生身の声に聞こえる部分も残しつつ、逆にすごくロボットっぽいテイストが残っていたり。1曲の中でボーカルにいろんな役割を持たせてるんですよね。ボカロってここまでできるんだという驚きもあったし、ボカロがこの歌詞を歌うとちょっとゾワッとするというか。肉体を持たない女の子が「私たちってねえ恋人 それとも?」と繰り返すのはちょっと怖いですよね(笑)。SUGIZOさんは「怖くて美しいところを出したかったんだよね」って。
さいごの果実 / 鈴木祥子
[作詞:坂本真綾 / 作曲・編曲:鈴木祥子]
──次の「さいごの果実」は、作曲者の鈴木祥子さんによるセルフカバーというパターンで。
祥子さんはご自身のライブで、私に書いてくれた曲をセルフカバーしてくださっていたんです。これまで何曲も書いてもらっているので、せっかくだからその中からセルフカバーしてくださいとお願いして。「風待ちジェット」が来るかなあ、それとも「NO FEAR / あいすること」かなあと思っている中で、「さいごの果実」はちょっと意外でした。「さいごの果実」は私にとってすごく思い入れの深い曲で……菅野(よう子)さんのプロデュースを離れて数年、やっと自分らしいものができたんじゃないかと思えた大事な曲なんですね。そんな大事な曲を選んでくれたこともうれしかった。しかもチェンバロ弾き語りという渋いスタイルで(笑)。
──はははは(笑)。
祥子さん、キレッキレだなって(笑)。想像を超えてくるストイックさは健在でした。しばらく彼女自身の活動はお休みされているんですけど、ますますそのパワーは研ぎ澄まされているなと、この「さいごの果実」を聴いて恐れ入りました。
光あれ / 冨田ラボ feat. Emi Meyer
[作詞:坂本真綾 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:冨田恵一]
──そして7曲目の冨田ラボによる「光あれ」は、オリジナルのエモーショナルな雰囲気からグッと温度を下げたような、冨田恵一さんらしい複雑なアレンジのAORに生まれ変わっています。
これはびっくりしました。あまりにも原曲と雰囲気が違うから、最初は驚いてるうちに1曲聴き終わっちゃいましたけど(笑)、そのあとはなんかクセになっちゃって延々リピートしちゃうぐらい気に入ってます。
──そもそもオリジナルも変拍子のトリッキーな構成ですけど、コード感がより複雑になっているのでさらにトリッキーに聞こえて、つい何度も聴いてしまいます。Emi Meyerさんのソウルフルな歌い方もオリジナルとはまったく違っていて面白いですね。
温度感は確かに、もっと客観的でドライな感じの印象ですけど、だんだん高揚感が高まっていくこの曲の持ち味はちゃんと出ているんですよね。Emi Meyerさんはこれが初対面で、ボーカル録りのときにスタジオにお邪魔したんですけど、冨田さんも彼女とは初対面だったそうなんですよ。冨田さんはよくそういうことがあるみたいで、ラジオやテレビなどで気になるボーカリストがいたら、面識がなくてもどんどんオファーしていくそうなんです。私は冨田さんの作品のボーカリストたちがみんな好きなんですよ。自分が冨田さんの作品に参加したときも(参照:冨田恵一「冨田恵一 WORKS BEST ~beautiful songs to remember~」インタビュー)、自分がその一員になれた、冨田さんのアンテナに引っかかったことがうれしかったんですね。
- トリビュートアルバム「REQUEST」/ 2015年4月22日発売 / FlyingDog
- 初回限定盤 [CD2枚組] 4212円 / VTZL-99
- 通常盤 [CD] 3024円 / VTCL-60396
DISC 1「REQUEST」収録曲
- 約束はいらない / the band apart
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:the band apart] - うちゅうひこうしのうた / KIRINJI
[作詞:一倉宏 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:KIRINJI] - トライアングラー / 渡辺麻友
[作詞:Gabriela Robin / 作曲:菅野よう子 / 編曲:佐々木裕] - 雨が降る / TRUSTRICK
[作詞:坂本真綾 / 作曲:かの香織 / 編曲:Billy] - バイク / SUGIZO feat. IA
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:SUGIZO] - さいごの果実 / 鈴木祥子
[作詞:坂本真綾 / 作曲・編曲:鈴木祥子] - 光あれ / 冨田ラボ feat. Emi Meyer
[作詞:坂本真綾 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:冨田恵一] - プラチナ / Negicco
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:長谷泰宏] - 奇跡の海 / 新居昭乃
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:保刈久明 / コーラス編曲:新居昭乃] - afternoon repose / Rasmus Faber feat.Frida
[作詞:Shanti Snyder / 作曲:カンノヨウコ / 編曲:ラスマス・フェイバー] - ポケットを空にして / 真心ブラザーズ
[作詞:岩里祐穂 / 作曲:菅野よう子 / 編曲:Low Down Roulettes]
DISC 2「ORIGIN」収録曲(初回限定盤のみ)
- 約束はいらない
- うちゅうひこうしのうた
- トライアングラー
- 雨が降る
- バイク
- さいごの果実
- 光あれ
- プラチナ
- 奇跡の海
- afternoon repose
- ポケットを空にして
坂本真綾(サカモトマアヤ)
1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年4月にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2015年春からはデビュー20周年を記念したさまざまな企画を実施。4月にはトリビュートアルバム「REQUEST」をリリースし、埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演「坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”」を行う。また5月には広島・嚴島神社高舞台にてスペシャルライブ「第26回JTB世界遺産劇場 -嚴島神社- 坂本真綾 20th Anniversary Special Live Open Air Museum 2015」が開催される。6月にはCorneliusとのコラボレーションによる「坂本真綾 コーネリアス」名義のシングル「あなたを保つもの / まだうごく」をリリースする。