「私まだこういう歌詞が書けるんだ」って

──2曲の対比が面白いシングルになっているなと感じましたが、本作にはさらにカップリングでもう1曲、「君の好きな人」が収められています。この曲の歌詞はある意味歌詞的ではないというか、今までの坂本さんの作詞とは違ったザラッとした生感を感じたのですが。

作品の世界観を大事にするタイアップ2つのあと、この曲は完全にフリーなので、よりパーソナルなところが出しやすい中で自由に書いただけなんですけどね。壮大な物語みたいなところからかけ離れた、もっと小さなところに視点を持っていきたいという気分ではありました。あったかさの中に少し寂しさを感じるような美しい曲なので、どんな詞にしようかなあって書きながら考えていった感じですね。

──ピュアな感情がまっすぐ歌われているように感じて、どこか子供のような素直さを感じたんですよね。それこそ20年というキャリアの真逆を行くような。

曲が本当にピュアなので、ヘンな小細工をするのはヤな感じがしたし……本当にこういうふうに思うんですよね。人を好きになるってどういうことなんだろうなあって。10代のときみたいな歌詞って、いろんな経験を重ねるとなかなか書けなくなるものだと思うけど、この歌詞を書き終えたときに「私まだこういう歌詞が書けるんだ」と思ってすごくうれしかったです（笑）。根本的に持ってる青臭さみたいなものが、曲のピュアなイメージに乗せて出せたのかなって。

坂本真綾の20年と照らし合わせて振り返る、それぞれの20年

──シングルリリースのあとは、いよいよ20周年イヤーに突入するわけですが、トリビュートアルバムとライブ以降もやはりいろいろと計画を立てているんですか？

まあ4月からということで、そこから1年間はいろいろやろうとは考えているんですけど……でも今回は、最初の発表が一番びっくりさせたニュースかもしれない（笑）。

──ははは（笑）。以降はじっくり着実に20年間を噛み締めながらの活動を。

はい。自分も20年だけど、周りのスタッフもそうだし、お客さんもみんな20年分の時間を過ごしているわけじゃないですか。別に私だけが20周年なわけじゃないじゃん？みたいな（笑）。みんなの20年が気になるんですよね。私の作品をどこから聴き始めたのかはそれぞれだと思いますけど、これだけ長く歌っていると、昔聴いてたという人も「20周年だからひさしぶりに聴いてみようかな」とか「ライブに行ってみようかな」とか、自分自身の懐かしさとともに感じてくれるような節目な気がして。私の20年と照らし合わせて、それぞれの20年を改めて振り返るみたいな。

──リスナーの20年を思い出させる鏡として。

そうそう。このとき好きな人がいたなあとか、いろんなことを思いながら。やっぱり音楽って、記憶と結びついて人それぞれに何かを思い出させるものだと思うんです。同じ曲でも1人ひとり違う思い出があるわけで。そういう思い出をそれぞれが噛み締めることができる記念の年になればいいなって。あとは……作曲は「シンガーソングライター」（2013年3月に発売された、全曲本人作詞・作曲のオリジナルアルバム。参照：坂本真綾「シンガーソングライター」インタビュー）のあともちょこちょこと作っているので、そこらへんが作品としてまとめられたらいいなと思っていますね。