音楽ナタリー PowerPush - 坂本真綾

それぞれの20年 それぞれの幸せ

大人であるほど沁みてくるシンプルな幸せ

──歌詞をご自身で書かずに岩里祐穂さんにオファーしたのはなぜですか?

幸せをテーマに書こうと思ったとき……最初は自分で詞を書こうと思ってたんですけど、曲を聴いたときに「これ、私じゃないほうがいいかもな」って直感的に思ったんです。岩里さんはデビューからのお付き合いだけどけっこうひさしぶりで、お願いしてみたらすごく喜んで、はりきって受けてくださいました。彼女は私が思う“大人カワイイ女性”の1人なんですよ。本当に愛らしくて、彼女自身が醸し出すものがすごくハッピーなんですよ。私はどちらかと言うと暗い人間なので(笑)、にじみ出るものがやっぱり暗いんですよね。

──はははは(笑)。

幸せについてただシンプルに述べたいけど、どこかこう、私の湿った感じが出たら嫌だなと思って。岩里さんとの打ち合わせは、おいしいものを食べるアニメ作品だし、せっかくなら2人でおいしいものでも食べながら話しましょうということで、ゆっくりごはんを食べながら。一緒に楽しい時間を過ごす中で……おいしいものを食べたときにおいしい!って言えるのって、人によってはそんな当たり前のことを今さらと思うかもしれないけど、大人になっていけばいくほど、当たり前のことがうまくできないこともあって。大人であるほどこのシンプルさが沁みてくるというか。そういう歌詞になったから、やっぱり岩里さんにお願いしてよかったなって思いました。

──なるほど。

ティーンエイジャーが主役のストーリーなので、そういう世代の方に向けても聴いてもらえると思うんだけど、深夜に疲れて帰ってきた働く女性とかが、自分にとってのハッピーってなんだろうなと思い巡らせたくなるような曲になったかなと思います。

──タイトルはどちらが?

岩里さんです。彼女はタイトルに関してはいつもあまり強く主張しない方で、もともとは別のタイトルだったんですけど「もう1案考えてほしいなー」って言ったら「えー、いいよ。任せる!」って(笑)。「いやいや、お願いします」って頼んだらいくつかアイデアを出してくれて、その中で私が一番気に入ったのがこのタイトルなんです。

──ゴダール映画がモチーフですよね。

最初からミニシアターで上映されていそうなショートムービーの邦題、みたいなイメージがあったらしくて。でも「えっ、歌詞の中には4つしか出てきませんよね?」という人も入れば「5つ以上ありますよね」という人もいて。いろんな受け取り方があるみたいですけど。その「どういうことかな?」って考えたくなるような、自分にとっての5つの方法はなんだろう?って思いを巡らせたりできると素敵かなって。

幸せについて坂本真綾が知っている3つの方法

──ちなみに坂本さんが考える幸せってなんですか?

なんなんでしょうねー。どうしたら自分が幸せだと感じられるだろう?と考えながら、選択をし続ける20年だったと思うんですよ。誰でも同じだと思うんですけど、常に何かを選ばなくちゃいけなくて。こっちだと大変だとか、こっちだと誰かが困るとかいろんな計算をしながらも、最後は結局シンプルに「どっちを選べばハッピーか」で選んだほうがうまくいくと思うんですね。誰かのためにとか、誰かが言ったからとか、こっちのほうが得しそうだからといって選ぶとあとで絶対苦労するという経験があるので。もう予感でしかないですよね。なんとなく……言葉では言い表しにくいけど、「なんかいい匂いがする」みたいな(笑)、直感でいい感じがするほうに進んでいくことでハッピーになってきた気がします。

──そのいい匂いを嗅ぎ取る嗅覚には優れたほうだと思います?

坂本真綾

どうですかねー。みんな同じように持ってる勘だと思うんですけど、それを鈍らせる要素が日常にはいっぱいあるから(笑)、本当に意識して育てないとなくなっちゃうものだと思いますね。

──坂本さん自身の具体的な幸せの方法……幸せを維持するため日常的に必ずやることや、この場所が幸せだというポイントなどはありますか?

いっぱいありますよ。やっぱり食は生きる上で欠かせないことだから大事にしているし……例えば自分でおにぎりを作ったほうが買って食べるものよりおいしいなと思うので、ちょっと作ってみたり。洗いたてのシーツが大好きなので、きちんと洗濯して新しいシーツを敷いて寝ることとか。あと、トイレ掃除は毎日するんですよ。そうしないと、なんか1日ダメな気がして。特に大事な仕事がある日、ステージがあるときとかは、トイレを掃除してないとダメなんですよね。

──坂本真綾はあの大舞台に立つ前、トイレ掃除をしていた(笑)。

さいたまスーパーアリーナに行く日も、必ずトイレ掃除をしてから行きます(笑)。

la la larksとのコラボレーション

──ダブルタイアップのもう一方、「色彩」はある意味真逆で、さわやかさはなく暗くて重くて。ただ痛快感はあるんですよね。

そうですね。こちらはRPGゲーム「Fate / Grand Order」の主題歌で、ゲームの性質上「暗い曲でお願いします」とお願いされました(笑)。暗さはあるんだけど、それでも突き抜けていく意志の強さが欲しいということだったので、まさにぴったりな曲になったかなと思います。こちらは私が詞を書いたんですけど、暗さはあるけど絶望ではなくて、むしろ腹をくくった感じというか。モノクロの世界からどんどん色が付いていくイメージの音だったので、突破口を抜けていくような勢いが感じられる歌詞にしたいなって。

──la la larksにはどのようなオーダーを?

まさにそのままを伝えました。暗いんだけど突き抜ける意志の強さが欲しいって。la la larksも、特に江口(亮)さんは職人なので、オーダーに忠実なイメージで3曲上げてくれたんですよ。それで、すごくワガママなんですけど「Aパターンのこの部分とBパターンのサビを合体させてください」って言って(笑)。それにもしっかり職人的に応えてくださって、こういう曲になりました。前々からお付き合いはあったけど、la la larksになってからは初めてご一緒したので。

──あ、そうですよね。School Food Punishment時代にも「Buddy」(2011年10月に発売された坂本真綾のシングル)でもコラボレーションしていて。

はい。よりパワーアップした姿でご一緒できて、すごく刺激になりました。この歌詞をボーカルの内村(友美)さんがすごく気に入ってくださって。彼女は同世代なんですけど、同じフロントで歌う人間として似たようなところもあったりして。お互い共鳴する部分が大きくなっていて、あとで2人で一緒に食事に行ったりもしました(笑)。

ニューシングル「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」2015年1月28日発売 / FlyingDog
初回限定盤 [CD+DVD] 2376円 / VTZL-96 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1404円 / VTCL-35199 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. 幸せについて私が知っている5つの方法
    [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:ラスマス・フェイバー]
  2. 色彩
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:la la larks / ストリングス編曲:江口亮・石塚徹]
  3. 君の好きな人
    [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:扇谷研人]
  4. 幸せについて私が知っている5つの方法(Instrumental)
  5. 色彩(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容

坂本真綾×石成正人 STUDIO LIVE 2014

  1. 手紙
  2. afternoon repose
  3. おかえりなさい
坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”
  • 2015年4月25日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ

OPEN 14:00 / START 16:00
<出演者>
坂本真綾
ゲスト:菅野よう子 / the band apart
料金:全席指定 8640円(LEDリストバンド付き)

坂本真綾(サカモトマアヤ)

1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年4月にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2015年1月には通算25枚目のシングル「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」をリリース。デビュー20年目を迎える同年春には初のトリビュートアルバム「REQUEST」の発売と埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演「坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”」の開催を控える。