音楽ナタリー PowerPush - 坂本真綾
それぞれの20年 それぞれの幸せ
1996年4月、シングル「約束はいらない」で16歳にしてデビューを果たした坂本真綾。声優として、アーティストとして着実にキャリアを積み重ねてきた彼女は、まもなくデビュー20年目の大きな節目を迎える。アニバーサリーイヤーを目前に控え完成した通算25枚目のシングル「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」には、さまざまな経験を重ねてきたからこその魅力と実力が光る3曲が収められている。インタビューではこの新作についての話題とともに、来る20周年への思いを聞いた。
取材・文 / 臼杵成晃
長い目で見ればきっと20年目も通過点
──今年はすでにトリビュートアルバム「REQUEST」の発売と、さいたまスーパーアリーナでのライブ「FOLLOW ME」の開催が告知されていたり(参照:坂本真綾トリビュートアルバム発売&20周年ライブに菅野&バンアパ)、2016年のデビュー20周年に向けてのにぎやかな展開が予想されますが、20年ってなかなかの数字ですよね。
なかなかですよね。つい何日か前に成人式がありましたけど、成人した人たちを見ながら「この人たちの人生と同じぐらい歌ってるんだなあ」って。ただ私はデビューが16歳と早かったので、最初の10年はほぼ無意識というか(笑)、「こうしたい!」という欲求よりも、流れに身を任せながら目の前のことに対応していくだけで過ぎていったような気がするんですよね。だから感覚的にはそんなに長くやってきたような感じがないんです。デビューした頃は今の年齢になるまで続けているイメージなんてできなかったし、辞めちゃおうかなって気持ちになるときもあったけど、そのたびに「やっぱり自分にはこれしかない」って確認しながら続けてきて。1つのことをやってきたからこそ見えるものもあるんだな、投げ出さなくてよかったなって思いますね。
──20周年となると、ご自身の気構えはもちろん、周りの関係者の人たちの中でも「20周年だから……」という思いがあると思うんですけど。アニバーサリーイヤーに対する思い入れの温度感というか。
15周年のときは、初めての武道館とか初めての作曲とか、初めてづくしだったんですよね。15周年であり自分も30歳ということで節目感が強くて。15周年というきっかけをもらってチャレンジした1年でしたけど、いい意味で大きな気負いがあったのかな。今は20年と数字は増えたんですけど、長い目で見ればきっと20年目も通過点なんだなという感じで。でも、20年ってきっといろんな幸運や人の支えがないと絶対にたどり着かない数字だと思うので、こういう機会に……例えば成人を迎えた子が普段めったに言わない「ありがとう」を親に伝えたりするみたいに、いつもよりも感謝の気持ちを周りの人やファンの皆さんに伝えられる1年にしたいです。
──その節目に合わせてトリビュートアルバムを出すというのは、それこそ年数の積み重ねがあるからこそでしょうし。
そうですね。これまでの間にいろんな形で知り合ってきた人たちが集まっていて。いろんなアーティストに出会って音楽を作ってきたのが私の個性でもあると思うので、こうして1枚の作品になるのは本当に感慨深いです。たぶん、世界中の誰よりも私が喜ぶアルバムで(笑)。本当に20年やってきたご褒美をいただくような気分ですね。ちょいちょいレコーディングが進んでいて、参加アーティストの方のレコーディングにお邪魔したり、完成した音源を聴かせてもらったりしてるんですけど、もう泣いちゃって(笑)。感動的なアルバムになってしまっていますね、私にとっては。
──じゃあ制作は完全に参加アーティストにお任せで。
はい。こちらの想像をはるかに超えた音ができあがっていて。本当に私は何もしていない、ただ「よろしくお願いしまーす」と言ってるだけのアルバムなので(笑)、いつになく気楽に楽しんでいます。
幸福感と爽快感
──20年目突入を目前に、まずは2015年1発目のシングルと。
はい。前祝いというか前夜祭というか(笑)。
──ダブルタイアップの3曲入りシングルということで、まずは1曲目の「幸せについて私が知っている5つの方法」についてお聞きします。この曲は新房昭之監督の最新アニメ「幸腹グラフィティ」のオープニングテーマですけど、先鋭的な作品を作り続けてきた新房監督による食卓を舞台にしたアニメのテーマ曲、というのはなかなか難しい発注だったのではないでしょうか。
新房監督はポップでエッジの効いた、一筋縄ではいかない作風を持った方で……こういうアニメだからこういう曲、という王道的なものはおそらく好みじゃないんじゃないかと思うんですよね。以前も監督の作品でご一緒したことがありますが「面白い曲にしてほしいなー」というざっくりとしたオーダーだけで、具体的にこうしてくださいと言われることはなくて。私としても「新房監督の作品なんだからちょっと変わったことがしたいな」という心構えで(笑)、曲を決めていきました。とは言え、日常的なストーリーのアニメなので、ロボットが戦うようなドラマチックさではなく、日常を彩るようなハッピーな曲にしたいなって。
──ロボットではなく、ものすごく丁寧な描写のおいなりさんが出てくるアニメですからね(笑)。そこにラスマス・フェイバーのハウスサウンドを乗せるんだ!という驚きは確かにありました。
一番出したかったのは幸福感なんですよね。深夜のアニメですから、疲れて帰ってきてテレビを点けて、オープニングが流れてきたときに引き込まれるような明るさが欲しくて。ラスマスには以前、アルバム「Driving in the silence」(参照:坂本真綾インタビュー)でも楽曲提供をお願いしましたけど、今回はアレンジからミックスまで、がっつり組む形でお願いしました。
──あらかじめ曲を聴いていたので、このサウンドとあの絵柄がどう合わさるんだろうと思いながら第1話を観たんですけど、ハウス特有の気分がアガる感じと、おいしいものを食べたときの幸福なアガる感が意外なマッチング具合で。
あははは(笑)。そうですね。ちょっと意外で新鮮な、今までの私にはない曲だなって。
──「Driving in the silence」のラスマス楽曲とは大きく違いますし、こういう明るい爽快感って確かに今まであまりなかったですよね。
何かが始まる予感というか。昨年末の「COUNTDOWN JAPAN 14/15」(参照:年末彩った幕張「CDJ」規模拡大で18万人動員)で初披露したんですけど、ライブでもすごく気持ちよかったです。こういう曲はライブで聴くよりは音源で楽しむものかなと思ってたんですけど、ライブで歌ってみたら異様な陶酔感があって(笑)。突き抜けるような爽快感とか、心拍数を上げてくれそうなドキドキ感はあるんですけど、ラスマスらしいどこか知的なひねりが織り交ぜられてくるところに魅力を感じるんですよね。
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- ニューシングル「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」2015年1月28日発売 / FlyingDog
- 初回限定盤 [CD+DVD] 2376円 / VTZL-96 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 1404円 / VTCL-35199 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- 幸せについて私が知っている5つの方法
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:ラスマス・フェイバー] - 色彩
[作詞:坂本真綾 / 作・編曲:la la larks / ストリングス編曲:江口亮・石塚徹] - 君の好きな人
[作詞:坂本真綾 / 作・編曲:扇谷研人] - 幸せについて私が知っている5つの方法(Instrumental)
- 色彩(Instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
坂本真綾×石成正人 STUDIO LIVE 2014
- 手紙
- afternoon repose
- おかえりなさい
坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”
- 2015年4月25日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
OPEN 14:00 / START 16:00
<出演者>
坂本真綾
ゲスト:菅野よう子 / the band apart
料金:全席指定 8640円(LEDリストバンド付き)
坂本真綾(サカモトマアヤ)
1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年4月にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2015年1月には通算25枚目のシングル「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」をリリース。デビュー20年目を迎える同年春には初のトリビュートアルバム「REQUEST」の発売と埼玉・さいたまスーパーアリーナ公演「坂本真綾 20周年記念LIVE “FOLLOW ME”」の開催を控える。