ナタリー PowerPush - m-flo
5年ぶりオリジナルアルバム「SQUARE ONE」
小室メロディはギターソロ的発想から
──小室さん自身は、トラックとメロディのバランスについて、どう考えているんですか?
僕はインストゥルメンタルでも通用するようなトラック作りを目指してますね。初期のm-floもそうだったと思うけど、トラックを作るときにはあんまり歌のことは考えてない。
──そうなんですか? じゃあ、あの印象的な“小室メロディ”はどのように生まれるんでしょうか?
うーん、それで言うと歌メロというより、考え方としてはギターソロみたいな感じなんです。例えば「HOTEL CALIFORNIA」(EAGLES)でも「HIGHWAY STAR」(DEEP PURPLE)でもいいんですけど、有名なギターソロっていうのはやっぱりメロディとして強いし、実は歌よりもそっちのほうが記憶に残ったりする。僕はそこに着目したんですね。
──というと?
僕の場合は元々歌手じゃないから、自分でフェイクとかで歌ってハマるメロディを作れるわけじゃなく、やっぱり楽器で弾いていくわけです。そのときに、ジェフ・ベックやエリック・クラプトンやジミー・ペイジみたいな、そういうすごい人たちのギターソロをお手本にして、強いメロディを歌に置き換えるところから始めたんですよね。
──それはTM NETWORKの時代から?
そうですね。でも一番わかりやすいのは「DEPARTURES」(globe / 1996年)あたりかな。あの曲は元々JRのCM用に作ったインストゥルメンタルだったんです。だから歌のメロディはなくて、頭のピアノの「♪タンタタン」ってフレーズだけ。CMも初期はそのバージョンがオンエアされてて。
──じゃあ最初は「♪どこまでもー」の歌メロはなかった?
そうです。あとからギターソロみたいなイメージであのメロディを加えて、さらにそこに言葉をつけたって感じなんです。順番からいくと普通とは逆ですけど、でもこれがマーケティングっていうもので。言葉がないと何百万人に届けることはできない。最初のオケだけだと何万、メロディが乗って何十万、歌詞がついて何百万までいくんです。
──小室さんが言うと説得力があります。
例えば「CAN YOU CELEBRATE ?」(安室奈美恵 / 1997年)とかもそうで、あれもピアノの自分の手癖で頭のオケだけ作ってあって、そこにあとから歌詞を乗っけてみた。だから最初から曲の全体像がイメージできてたわけではないんですよ。
──なるほど。あと気になっていたんですが、小室さんが転調を多用するのは、どういう理由なんですか?
確かに転調についてはよく言われるんですけど(笑)、僕の場合メロディは自分でキーボードを弾きながら作るので、とてつもなく高い音になることがあったりして。ギターとかボーカロイドだったらいいんですけど、人が歌うときにはやっぱり限界がある。やっぱり声が張るピークのところ、一番伸びるところをサビに持ってきたいんです。でもサビに合わせるとほかのパートが低くなりすぎちゃう。だから仕方なく4度転調とか、そういう変な転調を無理やり入れるっていう(笑)。
──苦肉の策なんですね。
「サビでいきなり転調するよね」って言われがちなんですけど、そうじゃなくて、サビが先にあって、その前のBメロで転調しておこうっていう考え方なんですよね。
m-floに似たグループはいない
──小室さんにとって、m-floというグループはどういう存在なんでしょうか? ライバルなのか、フォロワーなのか。
いや、確実に僕のフォロワーではないと思いますね。いい意味で、彼らは僕にはできない音を作っているので。初期のm-floを観たときに、僕はTHE FUGEESに近いイメージを感じたんですね。メンバー構成もそうだし、インテリジェンスを感じさせるところもそうだし。彼らに下品な感じはないですよね。すごく品があると思います。
──小室さん自身は、音楽制作において、インテリジェンスや品をどのくらい重視されてるんですか?
ええと、僕の場合は誤解を恐れずに言うと、村上春樹さんくらいのセクシーさが理想ですね(笑)。
──というと?
実はすごくセクシーだったりドロドロしていたりするんだけど、パッと見、そうは見えないっていう。不良性や凶暴性を裏側に隠してる。その隠し具合がいいなと思います。
──じゃあ逆にm-floの上品なイメージは、小室さんの目指すスタンスとは異なる?
そうですね。僕とは違うと思うし、彼らも否定すると思います(笑)。彼らに追従するようなグループは、これからもあんまり出てこないんじゃないですかね。すごくユニークだし、似たようなものは作りづらいと思います。
CD収録曲
- □ [sayonara_2012]
- Perfect Place
- ALIVE
- □ [frozen_space_project]
- Never Needed You
- Oh Baby
- □ [square1_scene_1_
murder_he_wrote] - Don't Stop Me Now
- All I Want Is You
- Acid 02
- Call Me
- □ [ok_i_called]
- Sure Shot Ricky
- RUN
- □ [square1_scene_2_
don't_blink] - So Mama I'd Love To Catch Up, OK?
- She's So (Outta Control)
- Yesterday
- □ [to_be_continued...]
DVD収録内容(※CD+DVD盤のみ)
- She's So (Outta Control) [4'38"]
- All I Want Is You [5'13"]
- ALIVE [4'49"]
- Live at “m-flo presents BŌNENKAI 2011”(TCY Snippet Edit) [18'53"]
m-flo(えむふろう)
MCのVERBALとDJの☆Takuからなるプロデュースユニット。1998年、インディーズを経てrhythm zoneからメジャーデビュー。当時は紅一点のメインボーカル・LISAを含むトリオ編成だったが、2002年にソロ転向を理由にLISAが脱退。2003年以降は各曲ごとにゲストシンガーを招く“loves”プロジェクトをスタートさせ、Crystal Kay、坂本龍一、BoA、安室奈美恵など計41組のアーティストをフィーチャーして、後のコラボブームの先駆けとなった。2009年にはデビュー10周年を記念し、ベストアルバム「MF10 -10th ANNIVERSARY BEST-」やトリビュートアルバム「m-flo TRIBUTE ~maison de m-flo~」をリリースしたほか、国立代々木競技場第一体育館にてスペシャルライブを開催。その後しばらくソロ活動が中心となり、2012年3月に約5年ぶりのオリジナルアルバム「SQUARE ONE」をリリースした。
小室哲哉(こむろてつや)
1958年東京都生まれ。宇都宮隆、木根尚登とTM NETWORKを結成し、1984年にシングル「金曜日のライオン」でデビュー。1990年代にはtrf、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle With tなどのプロデュースを手がけ、音楽プロデューサーとして成功を収める。数多くのミリオンヒットを連発し、KEIKO、マーク・パンサーと結成した自身のユニットglobeも、1996年発売のアルバム「globe」が400万枚を超えるヒットを記録するなど、「小室ブーム」と呼ばれる社会現象を作り出した。
2012年3月にはソロとして「Digitalian is remixing」「TETSUYA KOMURO Special Live @DOMMUNE」「Far Eastern Wind」「小室哲哉 meets VOCALOID」の4作品を発表。4月にはTM NETWORKとして久々の新曲「I am」もリリースする。
2012年4月16日更新