ナタリー PowerPush - Lyu:Lyu
リスナーを受け止め“すれ違いを愛する”
Lyu:Lyuが4作目となるミニアルバム「GLORIA QUALIA」を完成させた。昨年リリースされた初のフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」で、孤独や苦悩を鮮やかに描き出し、多くの人の共感を集めた彼ら。それから1年2カ月ぶりとなる今作には、メンバー自身が新たな代表曲と位置づける「メシア」を筆頭に、その世界観がさらに鋭く研ぎ澄まされた7曲が収録されている。バンドの今を3人と語り合った。
取材・文 / 柴那典 撮影 / 佐藤類
ライブ後に手紙が届く音楽
──アルバム聴かせていただいて、このバンドは本物だなあと思いました。
コヤマヒデカズ(Vo, G) ありがとうございます。そう言っていただけると本当にありがたいです。
──Lyu:Lyuは去年にフルアルバムの「君と僕と世界の心的ジスキネジア」をリリースしたわけですよね。あれはそれまでのLyu:Lyuというバンドの集大成だったと思うんです。
コヤマ そうですね。まさに、あのアルバムは本当に自分たちのそれまでの数年間の集大成のつもりで作ったんです。やってきたことをそこで出し尽くそう、という。
──あれを出してから、どんな反応がありました?
コヤマ あのアルバムで、そもそも自分たちが根本的にどういうバンドであるか、何を大事にして活動しているのか、そういうものをようやくはっきり打ち出すことができたと思っているんですね。で、それを引っさげてライブをやって、お客さんからも、すごく明確な反応が返ってくるようになった感じがあって。
──例えば?
コヤマ ライブを観たお客さんから手紙をたくさんいただくようになりました。全部目を通しているんですけれど、そこにはすごく切実なことが書いてあったりするんですよね。
──なるほど。実際、Lyu:Lyuの音楽って“1対1”で届くものだと思うんです。ライブハウスのお客さんみんなで共有したり、一体感に包まれたりする音楽というよりも、聴き手がその人自身と向き合うための音楽みたいな。だから手紙が届くっていうのはすごくわかります。
有田清幸(Dr) ライブが終わったあとにお客さんと話をしたりしても、手が震えながら僕らの前に来るような子とかいますし。やっぱり自分らに求められているものについて考えたりするようになりましたね。自分たちはこの子の人生にどう関わってるんだろうと思ったり。その後はライブのやり方もガラッと変わったりとかしてたんで。
──ライブのやり方はどんな感じで変わったんでしょう?
有田 ギターロックバンドって、やっぱり激しくてアゲアゲな曲で盛り上がるというイメージがよくありますよね。でも、うちのバンドを観にくるお客さんはノリ方も、聴き方もみんなバラバラで。それでいいのか悩んだ時期もあったんです。でも、そもそもコヤマが書いている曲が、そういうふうにバラバラな受け止められ方をしていい、させる曲なんで。だから手を挙げている人も、目をつぶって聴いている人も、どちらもいるような光景があっていい。それをちゃんと肯定できるライブをしようと思って。それでセットリストも見せ方も、いろいろ話し合いながら決めていきましたね。
コヤマ 自分たちとしては「これやったらライブで盛り上がるぜ」とか、そんなことは一切考えてないんですよね。盛り上がってほしいから激しい曲をやるとか、静かに聴いてほしいからゆっくりした曲をやるとか、そんな意識は全然なくて。激しい曲にも静かな曲にも、そういう曲にしなければならなかった必然性みたいなものが自分の中にはあるんです。「この歌はそもそもこういうことを歌おうとしていて、だからこういう歌詞の内容になったし、曲の雰囲気もこうならざるを得なかった」みたいな。どの曲にもそれがあるんですよ。だから、ずっと前から別に暴れなきゃいけないことはないし聴き方は自由だって言ってきたんですけど、改めて、そもそも自分たちの音楽はそういうものだっていう認識を持つことができた、という。
フロントマンがイニシアチブをとるアルバム
──なるほど。その話を聞くと、新作は、そういう必然性の部分だけでできあがっている感じがするんですよ。「次はこういうスタイルにチャレンジしてみました」というんじゃなくて、自分たちが受け取ってもらいたいものを、一番誤解のない形でパッケージしている感がある。
コヤマ そうですね。前回のフルアルバムを出してからの1年間、ライブをたくさんやって、いろんな反応を耳にして、その中でやっぱり考えることがあって。最初にも言った通り、あれは今までの自分たちの集大成であって、根本的なスタンスをちゃんと出すことができたアルバムだったと思うんです。ただ、冷静に見返したときに、作りが甘いところとか、「いや、もっと行けたよな」って思う部分が、歌詞、曲、その両方であって。次に出すときに、じゃあこれを踏まえた上で音楽的に一段上に行くためには、自分自身に何が必要で、バンドとしてはどこへ行くべきなのか、そういうことをずっと考えながら1年間を過ごしてきてたんです。
──そこからアルバムの制作がスタートしたわけですね。
コヤマ はい。で、今回の制作にあたって初めて「レコーディングや楽曲制作に対する舵取りみたいなものを任せてほしい」「基本的に自分にイニシアチブをとらせてほしい」という話をメンバーにしたんです。
──これまではそうじゃなかった?
有田 前のアルバムだとセッションで作った曲とかもあったりしたんです。バンド全員で曲の元ネタみたいなものを作って、コヤマがそれを元にアイデアを膨らませて曲や詞を考えるみたいなこともあって。でも、自分たちとしても舵取りをしてくれる人が必要だろうという話し合いをずっとしてきたところだったんです。だから、コヤマがそれをやってみたいと言ってきたときに、自然に「それがいい」ということになった。それで今回のアルバムでは、まずコヤマが全部のデモを作ってきて、それをバンドで整理して形にする感じで作っていったんです。
──ちゃんとイニシアチブをとろうというのは、どういうところから生まれた発想なんでしょう?
コヤマ 作品を作っていると、ことあるごとに「これはどっちが正解なんだろう」みたいな場面が訪れるわけですよ。そういうときには、誰かが判断をしなければいけない。だから。仮に俺たちがプロデュースをお願いするとしたら誰にやってもらいたいかという話もしたんです。結局それはないだろうということになったんですけど、それでもやっぱり、楽曲の方向性をもっと明確にするために、誰かが判断をするべきだっていう意識はあったんですね。なので「じゃあ、もう俺にやらせてくれ」っていう話をレコーディングの前にしたんです。
- ミニアルバム「GLORIA QUALIA」/ 2014年4月30日発売 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3087
- [CD] 1700円 / PECF-3087
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収録曲
- メシア
- Seeds
- 先生
- ランララ
- 初めまして
- ドッペルゲンガー
- 彗星
Lyu:Lyu(リュリュ)
ボーカロイドプロデューサー・ナノウとしても知られるコヤマヒデカズ(Vo, G)と、純市(B)、有田清幸(Dr)による3ピースロックバンド。2008年、コヤマが同窓生の純市、有田に声をかけて結成。2009年よりLyu:Lyu名義で活動を開始し、2010年、1stミニアルバム「32:43」をリリース。オリコンの「ネクストブレイクアーティスト」に選出されるなど、アグレッシブなサウンドと絶望的な言葉の中に希望を垣間見せる詞が話題を集める。2011年には2ndミニアルバム「太陽になろうとした鵺」を、2012年には3rdミニアルバム「プシュケの血の跡」を発表し、「SUMMER SONIC2012」の大阪公演にも出演。そして2013年3月、1stフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」をリリースした。同年には配信限定曲「Seeds」、シングル「潔癖不感症」を発表し、東京・渋谷club乙-kinoto-やLIQUIDROOM ebisuでワンマンライブを行うなどバンドとして精力的に活動する一方、コヤマが小説「ディストーテッド・アガペー」をWebで連載するなど、多方面で活躍。そして2014年5月、4thミニアルバム「GLORIA QUALIA」をリリースした。