2023年2月、lyrical schoolが男女8人組グループとして再始動するというニュースは大きな衝撃をもたらした。2022年7月に5人体制での活動を終了したlyrical schoolは、「経験不問、性別不問、15歳から30歳まで」を対象に新メンバーを募集。前体制から唯一活動継続の道を選んだminanに、男性MCのtmrw、malik、ryuya、女性MCのsayo、hana、mana、バックDJを兼任するreinaを加えた8人で新たなスタートを切った。そこから1年、“LS8”はオリジナルアルバム「DAY 2」を完成させた。
「女性アイドルシーンにおけるラップグループ」から脱却したリリスクが今目指すものは? メンバー8人とリリスクの創設者であるプロデューサー・キムヤスヒロ氏に話を聞いた。
取材・文・撮影 / 臼杵成晃
想像よりもいい未来が現実に
──minanさん、2月の現体制1周年ライブのときに「LS8、1年でこんな感じになりましたが、いかがですか?」と短くシンプルに問いかけてましたよね(参照:8人になったリリスク、現体制1年の集大成「1年でこんな感じになりましたが、いかがですか?」)。自身の中での達成度、想像通りのところ、あるいは違うところなど、具体的にはどう感じていますか?
minan 私もだし、きっとプロデューサーやお客さんも感じていると思いますけど……1年で皆さんの想像を超えるようなグループになっているんじゃないかなって。2年前の夏の日比谷でみんなが想像していたよりもいい未来が、今現実になっていると思います。
──前体制のラストステージとなった野音ワンマン(参照:リリスクが夢を叶えた現体制ラストライブ、ヒップホップの聖地で見た最高の景色)の直後から始まった新メンバーオーディションは性別不問の募集ということにまず驚きがありました。実際に男女混合の8人組として再始動したのは大きなインパクトでしたし、そのインパクトをどう理解してもらうかに苦心した1年だったのかなと。
minan そうですね。まず、男女混合になることで「男女グループ? ◯◯っぽいよね」とイメージだけで言われることは予想していたんですよ。でもそういうふうに印象でしか言わない人はきっと観に来てくれるわけじゃないから(笑)、今の私たちがやろうとしていることをどうやって知ってもらうかというのはけっこう考えました。
──体制は大きく変わりつつもlyrical schoolという屋号はそのままという中、どこを変えて、どこを変えないというジャッジはどのように?
minan 「lyrical schoolらしさってなんだろう?」というのはオーディション期間中も考えましたし、どういうメンバーが入って、どういう形態になって、どんなことをやっていったらリリスクを更新できるかな……それでいて「こんなのまったく別物じゃん」「今まで観てきたものと違うじゃん」と言わせないようにしなくちゃいけないなというのはすごく考えました。だからこそ、過去の曲もたくさん披露していますし、引き継いでいくものはしっかり持ちつつも、今までと全然違う印象をお客さんに与えられていると思うんです。でも、メンバーが今の8人に決定してからは、オーディション前に考えていた「lyrical schoolらしさとは」みたいなことには私はまったくこだわっていなくて。
──この8人で何ができるかが大事。
minan はい。みんなそれぞれ自由に考えて好きなことを表現してくれているので、それがいい方向につながっているんじゃないかなって。
イラストも書けるクリエイティブなリハーサルリーダー、malik
──minanさん以外のメンバーはまさにゼロからのスタートで、それぞれに「lyrical schoolらしさとは」を考えながら活動してきたのではないかと思います。約1年を振り返ってみての自己評価や感じたことなど、1人ずつお話しいただけますでしょうか。期末の評価面談として、上長minanさんの意見も付け加えていただけると。
minan 上長(笑)。誰からいきましょうか。(sayoを見て)端からいきますか? あ、考えてる考えてる。
sayo ……考える時間が欲しいです(笑)。
──どうしましょう(笑)。誰か1番にいける人?
malik はい。僕は芸能活動自体が初めてだから、最初の頃は初めてのことがほとんどで。右も左もわからないながらにすごく刺激をもらって……例えば楽曲に携わってくださっている作家さんたちとか、アートワークとかミュージックビデオとか、もともと好きだったリリスクの作品に携われることがうれしい、というだけで半年くらい過ぎていったんですね。そのうち自分の中で「リリスクをもっと知ってもらいたい」という欲が湧いてきて。1年のうちにそういう気持ちになれたことに自分でちょっと驚いています。前からやっていたイラストも、リリスクの活動の中でサポートしてもらいながら仕事として生かせる環境があるので、自分らしく活動させていただける、居心地のいい1年でした。
──malikさんは以前からリリスクのファンだったんですね。では今のリリスクについてはどう感じていますか?
malik リリスクは楽曲やアートワークのクオリティが高い、クリエイティブな部分に惹かれていたんですね。そこは変わらないまま、メンバーの個性が強くてそれぞれの特技が仕事につながっているのが今のリリスクの強みかなと思います。矢印がいっぱいあって、外に広がってる。
──MVのアニメーションをmalikさんがディレクションするなど(参照:lyrical school、malikが監督した初のアニメーションMV公開)、メンバーがクリエイティブに携わるようになったのも今のリリスクならではですね。上司から見たmalikさんはどうですか?
minan 上司? やだやだやだ(笑)。メンバーみんなそうですけど、オーディションのときに想像していた内面とタレント性が、そのまま伸びていったような印象で。malikはすごくたくさん助けてくれますね。私はメンバーを率いる立場だけど、私が1人で「やってくよ!」とブン回していくのは違うなと思っていて。あんまり自分の意見を言いすぎたりしないようにしているんですけど、そんなとき進んで意見を出してくれるのがmalikなんです。場を回してくれたり、すごく助けられています。ありがとう。
mana よっ、リハーサルリーダー。
キムヤスヒロ(プロデューサー) そんな肩書きあったんだ(笑)。
一番アイドル性が高いナチュラル釣り師、tmrw
──tmrwさんは活動を始めて早々にキャラが立っていて、ステージ映えもするし、今までのリリスクにはいなかったタイプのスター性を感じました。どこにこんな逸材が隠れていて、なぜリリスクのオーディションを受けたのか、それが気になっていたんですよ。
tmrw ……。
sayo 赤くなってる(笑)。
minan かわいい(笑)。
──子役出身とかなのかな?と思うような貫禄もあるし、とにかくバックボーンが読めないなと。
tmrw いや、子供の頃は人見知りが激しくて、いつも隅っこで目立たないようにしてました。今リリスクに入っているのが自分でも信じられない。歌うことは好きで、高校生のときに全校生徒の前で歌う機会があったんですよ。そこで、大勢の人の前で歌うことの楽しさを知って「いつかそういう仕事に就けたらいいな」と思ってはいたけど、自分から行動する力はなくて。弾き語りをSNSにアップするくらいでした。
──そこからなぜリリスクのオーディションに?
tmrw 父親が映画を作っていて、雑用で僕も現場に行ってたんですよ。そこにリリスクの関係者が役者で出ていて。そのときたまたまリリスクのオーディションをやっていて、その人から「出てみなよ」って言われたんです。アイドルには全然興味がなかったので、自分がアイドルグループに入るなんて想像もできなかったんですけど、曲を聴いてみたら自分が思っていたアイドル像とは全然違った。とはいえ自分はヒップホップもまったく知らないし、オーディションを受ける気はなかったんですけど、このまま何もしないで普通の人生を送っても面白くないだろうし、やるだけやってみようと。
──なるほど。側から見れば「いい居場所が見つかりましたね」という感じですけど、本人としては苦労が多かった?
tmrw この1年はひたすら自分探しというか。いまだに自分らしさはよくわからないですけど……。もともと弾き語りではゆっくりめのバラードを歌うことが多かったし、声を張り上げない歌い方をしていたので、今のスタイルが果たして向いているのかどうか、自分でもよくわからないです。
minan 今「迷っている」と言ったのが信じられないくらい、むちゃくちゃアイドル性が高くて……たぶんtmちゃんは自分で気付いてないと思うけど、一番アイドルらしいんですよ。特典会でのお客さんへの接し方なんかも、最初からナチュラルにあざとい(笑)。ナチュラル釣り師。それを意識せずにやっているところがいいなと思っていて。それはもしかしたらリリスクに入ってなければ見つからなかった、世に出なかった部分かもしれない。それに、tmrwは学習意欲が高いというか、恐れずに挑戦してみようという気持ちがすごく強いんですね。そこも素敵な部分だなと思います。
オーディションに100人分の署名持参、誠実真面目なsayo
──sayoさんはそろそろいけそうでしょうか?
sayo いやあ……。
──(笑)。どういうきっかけでオーディションを受けたんですか?
sayo 私はずっとアイドルになりたくて、これまでいろんなオーディションを受けてきたんですよ。リリスクのオーディションは「これで最後にしよう」と決めていて……それまではもっとアイドルっぽいキラキラしたものに憧れていたけど、年齢を重ねるうちにヒップホップやメロウな音楽を聴くようになって、今の自分だったらそういう曲も自分らしく表現できるんじゃないかなと思っていたときに、リリスクのライブをたまたま見る機会があったんです。すごく素敵だなと思っていたら、オーディションがあることを知って「これで最後にしよう」と決めました。
──リリスクはいわゆるアイドルらしい衣装でアイドルらしい曲を歌って踊って、というものとは違いますよね。かつて目指していたアイドル像とは違うかもしれませんけど、実際に1年リリスクとして活動してみて、今はどう感じてますか?
sayo 今までの紆余曲折も全部ここにつながってたんだな、と思う瞬間がいくつもあって。グループに入ったら、自分らしさをグループに寄せていく、自分を変えていく必要があるんじゃないかなと思っていたんですけど、ここは「sayoはsayoのままでいい」と受け入れてくれるから、無理に自分を変える必要がない。初めてのことばかりで戸惑うことも多かったけど、個々の考えを尊重してもらえる環境だからこそ、自分の強みも弱みも知れる1年間でした。1年目は何もわからずひたすらがむしゃらに目の前のことをやってきたけど、2年目は今のリリスクがなりたい姿、リリスクの方向性を話し合ったうえで進んでいけたらなと思っているので、もうちょっと具体的に自分ができることをやっていこうと思います。最後と決めたオーディションがリリスクでよかったし、この8人でよかった。自分らしくいられる場所ができました。
minan ……うれしいですよね、こんなこと言ってもらえて。リリスクを続けていく判断をしてよかったなって。sayoはオーディションのとき、「自分がアイドルになるのにふさわしい」という署名を100人分集めて持ってきてくれたんですよ。すごくないですか? まず100人集められる人望が必要だし、今までどう生きてきたかの通知表みたいなものを友達に託して、それを返してもらえるなんて。私だったら5人くらいしか集まらない(笑)。ただ友達が多いだけじゃできないことだと思うから、これまでの人生、誠実に真面目に、周りの人に愛を持って接してきたんだろうなって。
キム 使い回しのコピーなんじゃないかと疑ったんだけど(笑)、ちゃんと日付も入っていて。1週間くらいで集めてるんですよ。
minan みんな一筆ずつ、ひと言メッセージも添えられていて、泣いちゃいますよね。オーディションのとき感じた人間性そのままの、素敵な子です。
──minanさんから見たsayoさんの伸びしろポイントは?
minan sayoは伸びしろポイントしかなくて(笑)。コツコツ努力するタイプで、たぶんプライベートな時間を一番リリスクに費やしているんじゃないかな。その努力を1つひとつ積み重ねていったら、いつか爆発力を持って咲く日が来るんだろうなって。今でももちろん1年前と比べたらすごく成長しているんですけど、ここから先がさらに楽しみです。
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あふれる愛で“リリスクらしさ”を継承、涙もろいmana