lynch.「FIERCE-EP」インタビュー|どの時期のlynch.ファンにも刺さる作品がここに完成

lynch.が6月26日に新作EP「FIERCE-EP」をリリースした。

そもそも結成当初から「葉月が曲を作るバンド」として始まっているlynch.のスタンスが、2023年3月発表のフルアルバム「REBORN」を機に「メンバー全員が曲を作るバンド」へと移行したことは、このバンドの長い歴史の中でも大きな変革の1つだったと言える。そして今回、彼らはそこからの新たな飛躍を遂げようとしている。「FIERCE-EP」と題された全5曲収録の今作には、彼らの歴史と新しさの両方が含まれていて、なおかつ曲作りのスタイルにもさらなる違いが見られるのだ。そうした変化の正体を見極めるべく、6月上旬、メンバー全員同席のもとで話を聞いた。

取材・文 / 増田勇一撮影 / 塚原孝顕

lynch.「FIERCE-EP」収録曲

lynch.「FIERCE-EP」初回限定盤ジャケット

lynch.「FIERCE-EP」初回限定盤ジャケット

  1. UN DEUX TROIS
    [作詞:葉月 / 作曲:葉月]
  2. EXCENTRIC
    [作詞:葉月 / 作曲:葉月]

  3. [作詞:葉月、悠介 / 作曲:明徳、葉月]
  4. A FIERCE BLAZE
    [作詞:葉月 / 作曲:玲央、葉月]
  5. REMAINS
    [作詞:葉月 / 作曲:悠介]

出さねばならぬ作品「FIERCE-EP」

──昨年3月にリリースされたフルアルバム「REBORN」で作曲スタイルが一新されていますが、今回のEPはその流れを汲むものということになりそうですね。

葉月(Vo) ええ。ただ作品の位置付けとしては、むしろ単純に「夏のツアーを回るにあたり、出さねばならぬ作品」というか、やっぱり新しいものを出しておいたほうがツアーも盛り上がりますよね。その意味ではあくまで「ツアーありき」のものではあるし、これまでの作品も常にそうだったんです。ただ、そこで今のlynch.として作るならば、改めて「lynch.ってこういうところがいいよね」というのを再確認できるようなアイテムにしたいと考えまして。その結果、激しい方向に偏ったものというか、かなりそっち側に振り切った内容になりました。

玲央(G) 1つ付け加えるとしたら、去年の秋口から冬にかけてアイテムのリリースとは無関係なツアーを開催して、その際にかなり古い曲も含めて既存曲を演奏してみたんです。そこで改めて自分たちならではのよさ、売りにできるもの、自信のあるものを再確認したようなところがあって。それを前面に押し出した作品にしようという話は、実は去年の10月頃には出ていました。その後、1月の末日までに1人2曲ずつを目安に提出して、その中から曲をセレクトして、足りないパーツがあればまた次の締め切りを設定して作り足していく形で進めていこう、と。だから本格的なレコーディングは3月、4月に各々進めていくという感じでしたね。

──アルバムではなくEPだからこそやりやすいこともあると思うんですが、こうした制作プランが出てきたとき、皆さんはどんなビジョンを抱えていましたか?

悠介(G) 僕はもう、単純にストックしていた曲を出しただけでした。「REBORN」を作ったときに漏れたものも含めて。このEPを作るという話が出た段階で、かつての「EXODUS-EP」(2013年8月発表の1stミニアルバム)のような作品にしようという話も出ていたので、一定の方向に振り切った感じのものになることは想像してましたけど、それでも1曲ぐらいは別方向の曲があったほうがハマるんじゃないかとも思っていたので。

悠介(G)

悠介(G)

明徳(B) 秋冬のツアーではいろんな時代の曲をやったんですけど、けっこう古めの曲も多くて。それこそ「ecdysis」(2007年4月発表のアルバム「THE AVOIDED SUN」収録)というすごく古い曲があるんですけど、すごくお客さんの感触がよくて、そういった時代の曲の激しさを求めてみるのもいいんじゃないかな、と。ちょうど葉月さんとも「あの時代のニューメタル、やっぱりいいっすよね」みたいな話をしたことがあって、そこで自分の中では、あの頃大好きだったニューメタル創成期の感じで作ってみようかな、という流れになってました。

──ニューメタルという定義もけっこう曖昧で、世代によって思い浮かべるものが微妙に違ってくるように思います。その呼称から明徳さんが真っ先に思い浮かべるのは?

明徳 Slipknot、Korn、Limp Bizkitとかはもちろん、Incubus、Disturbed、Dopeなんかも好きで……あの辺ですかね、僕としては。

──なるほど。晁直さんはどのような方向性を意識していましたか?

晁直(Dr) 僕の場合、頭で考えても作曲の技量が追い付いていかないところがあるので、とにかく作ることだけを考えて。それで実際に作って提出したものは、あいにく選外にはなったんですけどね(笑)。そこはやっぱり経験値不足ゆえだと思います。まだ頭と体がリンクしてないというか、作曲面での向上を自分で実感できるところまでは来ていないので。

晁直(Dr)

晁直(Dr)

──ただ、結果的に全員の曲が均等に収録されるわけではなかったとしても、各々が作ってくることの効用は間違いなくあったはずですよね?

葉月 それはいろいろあると思います。そのことについても10月の時点で話をしていて。ファンクラブ旅行で沖縄に行く機会があって、その旅先での休み時間にみんなに話したんですけど、まずそれによって僕が背負う負担というか作業量というのはシンプルに減りますよね。アイデアをなんとか自分ですべて捻り出そうとしなくても、誰かが原案となるものを持ってきてくれればそこから広げていくことができる。で、僕がみんなに提案したのは「その持ってきたものを僕が選んで作り変えてしまってもいいか?」ということだったんです。各々の原案をlynch.色に染め上げるというか、総仕上げみたいな作業は必要だろうし、みんなが納得してくれるなら僕がその役割をやるから、と。そこでみんなが「全然いいよ」と言ってくれたわけです。それによって僕の作業量も削れますし、原曲がほかの誰かから出てきたものには、やっぱり僕には思い付かない斬新な展開とかがあったりもするし、いい感じのバランスになる気がして。

──その葉月さんの提案は、言い換えれば「最終的には自分が責任を持ってそれをlynch.の曲にするから」ということでもあるわけですよね?

葉月 そうですね。「REBORN」の制作時は、そういうスタンスではなかったんですよ。あのときは、自分の曲は自分で面倒を見るという感じで、作者以外の人間は介入してなかったんです。だからそのやり方をより有効な形に改良することができたのかな、とは思ってます。

玲央 「REBORN」以前の作り方と、「REBORN」のように各々が曲を持ち寄って自ら監修するやり方の、いいとこ取りというかハイブリッドな感じを狙ったわけなんです、今回に関しては。

──クレジットからもそれは明白ですね。作曲のみならず作詞面でも葉月さんとほかの誰かとの共作という形が取られていたりしますし。

葉月 そうですね。あと、激しい方向に振り切ったことについては、前回のツアーでの再確認みたいなところもありますけど、それに加えて、「REBORN」ではあまりそういう部分を表現できてなかったかな、ちょっとおとなしめだったかな、という思いがあって。それこそ「GALLOWS」(2014年4月発売のアルバム)とかと比べると。あとはさっきAK(明徳)も言ってましたけど、ニューメタルな感じというのは自分の中でもブームというか、「今、この感じは熱いよね」というのがあったので、それがテーマのようになっていた部分もありますね。それゆえに激しい作品になった、というのもあると思います。

葉月(Vo)

葉月(Vo)

──ちょっとこじつけ的な見方になるんですが、制作のプロセスに大きな刷新があった「REBORN」は、その表題通り“生まれ変わった”作品でもあり、言わば新たなゼロ地点にあったと思うんです。その次に来るこの作品が「UN DEUX TROIS」という曲で幕を開けるというのも面白いですよね。これは要するに1、2、3ですし、しかも「A FIERCE BLAZE」も、「ONE TWO THREE GO」という言葉から始まる。意識の中に“始まり感”というか、スタートダッシュをかけたいという気持ちが潜在的にあったのかな、と感じました。

葉月 どうだろう? 潜在的にはそれがあったのかもしれないです。「UN DEUX TROIS」は、イントロに入る前にお客さんが叫ぶであろう部分としてコーラスを設けたんですけど、そこに載せる歌詞をどうしようかなと考えたときに、この言葉がいちばんハマりがよかったんですよ。だからあくまで言葉の響きが決め手ではあったんですけど、そういう意識も深層心理にはあったのかもしれない。