ナタリー PowerPush - lynch.
ほかに媚びない、強制されないバンドのスタンスを提示する「MIRRORS」
メンバーみんなの最大公約数がlynch.のサウンド
──メンバー各々で音楽的なルーツも違うんですか?
玲央 そうですね。lynch.の音楽には、それぞれのバックボーンが反映されていると思います。晁直はハードコア畑にいたので手数が多いプレイだし、明徳はレゲエやパンクなものが好きだし、悠介はUKギターロックが好きなので繊細かつキレイなフレーズが得意だし。各々引き出しが違いますからね。僕は以前はローチューニングじゃなくレギュラーチューニングの、歪みも少ない、ニューウェイブみたいな音楽をやっていた時期もあるんですよ。僕らは、こういうものをやろうという明確な指針を持って始めたわけじゃないですからね。こいつと合わせたら面白そうだなという気持ちでやっているんですよ。
──メンバーそれぞれ好みが見事にバラバラですもんね。ちなみに、葉月さんはメタル担当ですか?
葉月 いや、僕はJ-POPなんですよ。それが基本にあって、激しい要素はメタルというよりも、2000年前後に流行ったラウドロックですね。LINKIN PARK、EVANESCENCE、SLIPKNOTとかを聴いて、チューニングを下げましたから。海外のバンドで一番強く影響されたのは、意外とハードロックかもしれない。SKID ROWが大好きなんですよ。
──そうでしたか! 僕は思いっきりその辺を通ってます。18歳のときにちょうど「18 And Life」が流行っていたので。
葉月 ははははは、そうなんですね。ボーカルのセバスチャン・バックに会いたいです(笑)。
玲央 メンバーみんなの最大公約数がlynch.のサウンドで、ちょっと悪そうな音を出している部分にも通じているんですよね。ただそこだけに収まるんじゃなく、それぞれの引き出しから要素を持ち寄って色付けしていけてるから、lynch.はバンドらしいバンドだと思ってます。もう少し付け加えるなら、僕が最年長で今年37歳、最年少の明徳は僕より12個下なんですよ。自分が多感な時期に流行った音楽って、ルーツとして生きると思うんですよ。それを含めて、同じ世代じゃないからこそ逆に面白いものが出てくるのかなと。同じ世代の人間同士だと同じ音楽を聴いて育っているから、音楽的な答えが出やすいと思うけど、広がりや意外性が少ないような気もするんですよね。好みも年齢も違う人間が同じものを作ろうとしているから、振れ幅は大きいと思うし、それが僕らの強みなのかなって。
──にもかかわらず、lynch.のサウンドは音楽的に一本太い軸が通っている印象を受けます。
玲央 結成から7年経つし、途中加入のメンバーもいるけど、同じ名古屋の人間を集めているので。lynch.としての共通認識は持っていますからね。ところどころのフレーズで個々の持ち味が出ればいいかなと。それに、結成当初から変わらず葉月が作詞作曲をやっているから、そこが大きな幹なのかもしれない。どうなんだろ?
葉月 そうかもしれないですね(笑)。
日常会話の中にlynch.という言葉が出てくれば、勝ちだな
──今年6月にメジャー第1弾アルバム「I BELIEVE IN ME」を出した後、周りの反響はどうでした?
葉月 うーん、思ったよりも好感触でしたね。一応狙いはあって、メジャーに進出するときに周りに合わせて歌謡曲的なものにしても、埋もれるだけだなと思って。だから、リード曲は速くて、2ビートで、シャウト満載の曲にしようと。聴き流されるよりも、「ええっ、メジャーでこんなことやってるのかよ!」って煙たがられて気にされたいと思っていたんですよ。けど、かなり受け入れられてしまったのでビックリしました(笑)。意外とOKなんだって。
玲央 ちょっとさかのぼっちゃうんですけど、lynch.というバンド名も先入観なくというか……暴力的な意味じゃなく、このバンド名を付けているんですよ。日本だと敬遠される言葉かもしれないけど、日常会話の中に僕らのバンド名のlynch.という言葉が出てくれば、勝ちだなと思って。僕らのサウンドなりキャラクターなりが、反社会的な言葉の意味を断つ役割を果たせればなと。そういう足枷のために付けているんですよ。最初は「えっ、lynch.!?」って言われることが面白かったんですけど、最近は言われないんですよね。そういう意味では勝ちの方向に進んでいるのかなって(笑)。海外でもこういう名前の人もいますもんね。
──僕はジョージ・リンチ(ex. DOKKENのギタリスト)が真っ先に浮かびましたが(笑)。
玲央 そうそう、ほかにデヴィッド・リンチ(映画監督)とかね。誤解を逆手に取ったバンド名がいいなと思って。さっき葉月が言ったように、激しい2ビートのサウンドとバンド名が受け入れられている今の状況が面白いんですよ。でも根本には大勢の人に聴いてもらいたい、共感してもらいたいという気持ちはあるので、うれしいにこしたことはないですね。
──アルバム「I BELIEVE IN ME」はlynch.の作品の中でも硬質かつヘビーな内容でしたよね。2004年の結成時から音源を出すたびにライブを行う会場の規模も大きくなり、着実にファン層を広げてますが、自分たちのどの辺が受け入れられていると思います?
葉月 曲げてないところですかね。
──曲げてないところ?
葉月 僕らはやりたいことをやっているので。メジャーに行って、大抵曲げちゃうんじゃないの?と思ったかもしれないけど、曲げなかったので。
玲央 基本的なスタンスは一切ブレてないと思ってます。あと、変えられることを常に拒んできたんですよ、インディーズの頃から。変わるのであれば、自分たちから変わる。ほかに媚びない、強制されない、そういうバンドのスタンスも評価されているんじゃないですかね。環境が変わって、あの頃のバンドじゃなくなった、という話を耳にすることもあるけど、僕らに限っては今後も一切ないと思います。変な話、アーティストがここまで口を出すの?というところまで言うんですよ。リリース形態、チケット代、グッズに関しても。全員が目を通して納得しているので。だから、メジャーと言いつつも、インディーズの頃とやってることは変わらないですね。
CD 収録曲
- THE TRUTH IS INSIDE
- MIRRORS
- DEVI
- “MIRRORS”MUSIC CLIP
- “MIRRORS”MUSIC CLIP DIRECTOR'S CUT
DVD 収録曲
lynch.(りんち)
葉月(Vo)、玲央(G)、晁直(Dr)、悠介(G)、明徳(B)の5人からなるロックバンド。2004年8月に葉月、玲央、晁直の3人にサポートベーシストの4人を加えた形で始動。2005年4月に1stアルバム「greedy dead souls」をリリースし、並行して精力的なライブ活動を行うことで、地元・名古屋で話題を集める。
2006年に悠介が加入し、年内に4枚のシングルをリリース。続いて2007年には名盤と名高いアルバム「THE AVOIDED SUN」を発表し、レコ発ツアーファイナルを東京・Shibuya O-WESTで飾る。その後もライブを行う会場の規模を徐々に拡大させ、耳目を集める存在に。2010年に明徳が正式メンバーとなり、あわせてメジャーレーベルであるキングレコードへの移籍が発表された。2011年6月、前作から約2年ぶりとなるアルバム「I BELIEVE IN ME」でメジャーデビュー。同年11月、シングル「MIRRORS」を発表する。