LUCKY TAPESが2年ぶりとなるニューアルバム「Blend」をリリースした。
「Blend」は、メンバーの高橋海(Vo, Key)が作詞作曲はもちろん、初めてミックスからマスタリングまでを手がけたオリジナルアルバム。kojikojiとのコラボ曲「BLUE」や、DIALUCKのハルを迎えた「Happiness」、高橋海が初めてミュージックビデオの監督を務めた「ランドリー」など全12曲が収められている。今回のインタビューでは、アルバムの制作秘話や各楽曲の魅力について語ってもらった。
取材・文 / 黒田隆太朗 撮影 / 草野庸子
世の中のムードが反映された「Blend」
──温かい音色が印象的な、しっとりとしたアルバムですね。
田口恵人(B) そうですね。ドライブしながら聴いたり、1人の空間で聴くような作品になったのかなと思います。
高橋健介(G, Syn) コロナ禍で以前より自宅で過ごす時間が長くなったことで、テンションの高い音楽や、華やかな楽曲をあまり聴かなくなったんですよ。そういう意味では今の生活になじむ作品になったと思います。
──コロナ禍の状況が創作にも影響を及ぼしたと。
高橋海(Vo, Key) 積極的にスタジオに集まってアレンジを練ったり、レコーディングしたりしづらい状況だったので、必然的に家で作る流れになりました。もともとトラックメイクや、DAWソフトを使って音を構築していく作業は好きだったので、それらの要素が色濃く表れた作品になったかと思います。
──ちなみに今年はどんな音楽をインプットしてました?
恵人 アップライトベースを買いまして、それでジャズに興味を持ったんですよ。それに最近のジャズにソウルが混じったような音楽からも吸収するものがあったので、今年は演奏の練習に時間を費やしていましたね。
海 なるべくジャンルを問わず新譜をチェックするようにしているのですが、その中でもアジア各国の音楽をよく聴いた1年でした。韓国とかタイのR&Bやヒップホップが多かったかも。
健介 僕はローファイヒップホップばかり聴いていましたね。去年まではいろんな新譜を追いかけていたんですけど、3月くらいからなんとなくぼーっと聴いていられる曲を聴くことが増えた気がします。
──まさに「Blend」にもチルいR&Bやローファイヒップホップを思わせる音が入っていますね。
健介 影響はすごく受けていると思います。ちょうど制作の時期にそういったギターを研究していましたし、海くんからデモが送られてきたときも「ローファイでチルっぽいギターがいい」というオーダーもあって。最近自分が聴いている音をそのままダイレクトに弾こうと思いました。
──アルバムを聴いていて、ギターの印象がかなり変わったように感じました。
健介 今まではカッティングをしたり、自分の中にある“LUCKY TAPESのギター”というイメージに囚われていた部分があるんです。今回はオーダーがあった分やりやすくて、けっこう弾き倒してますね。
海 弾き倒してもらったね(笑)。
健介 これまではホーンがメインの曲もあったから、あまり前に出ないギターを意識していたというか、音が少ししか鳴らないことのよさを詰めていたんです。今回はほかの楽器が減ったことで、アンサンブルがタイトになって、その分ギターで音を埋めることが多かったのかなと思います。
──海さんは楽曲に関するオーダーは細かく伝えるんですか?
海 デモを作っている過程でなんとなく全体像が見えてくるので、僕のほうでガイドになるようなフレーズを入れて渡したりすることもありますね。
健介 デモが上がってきたら、僕らが素材を作って海くんに戻す感じです。何パターンか送っても、「全部違うから送り直して」みたいなこともあったりして(笑)。
恵人 「前のほうがよかった」とかね(笑)。そういうときはちょっと考えすぎたベース送っちゃったかなって。
海 (笑)。
高橋海のクリエイティビティ
──今作には昨年10月発表の「Actor」も収録されていますが、構想自体はその頃からあったのですか?
海 いえ、あの時点ではまだアルバムの全体像はほとんどつかめておらず、翌年秋にEPかミニアルバムくらいのまとまった作品を出せればいいんじゃないかなくらいに考えていました。「Blend」の全体像が見えてきたのは「Happiness」ができたタイミングで、自粛期間が明けるか明けないかくらいの5、6月でした。
──「Happiness」が起点になったとのことですが、具体的にはどのような手応えがあったのでしょうか。
海 これまでブラスセクションを取り入れたバンドアンサンブルを主としてきたのですが、今回初めて宅録メインでアルバム制作を行いました。「Happiness」はそうした制作環境下で生まれた楽曲ながらも、LUCKY TAPESらしいグルーヴと多幸感を生み出すことに成功した実感があったので、この方向性で制作していこうという感触をつかめた瞬間でした。
──柔らかい音色で統一されていますが、こうした仕上がりになったのは、海さん自身がミックス、マスタリングを手がけたところが大きいのでしょうか?
海 そうかもしれない。既存曲のミックスやマスタリングについて思うところがずっとあって。今回はDAWメインで制作していたので、自身でもできそうな気がしたんです。そうした方が理想の音に近付けられるなと。
──なるほど。
海 最終的には頭の中で思い描いていた音に限りなく近付けたので、今後もこのやり方で作っていけたらと思います。
──これまでのLUCKY TAPESを特徴付けていた、華やかでゴージャスな音色ではないけど、少ない音数でも豊かさを感じる音に仕上がっていると思いました。
海 今おっしゃっていただいた音の質感や、音の動きに関しては気を遣いました。カットオフの変化や定位の動きを利用して、音数を重ねなくても空間が埋まるような工夫をしていて。全体的に音数は少なくてもリッチな質感というか、丸みはあるんだけど華やかさも混在するサウンドメイクになっています。
──海さんは今作のミックスとマスタリングをすべてご自身でやられているうえに、「ランドリー」のMVで初監督を務めています。クリエイティブ全体をLUCKY TAPESの中で行える体制が生まれているのかなと思いました。
海 年々、音以外のクリエイティブに対してもこだわりが強くなってきていて、MVの編集作業ではディレクターの家に行ったり逆に僕の自宅に来てもらって一緒に仕上げたり、アートワークに関しては何度か描き直してもらうようなこともあったりして。そうしていくうちに自分の中で大きなこだわりが生まれて、それなら自分で手を動かした方が速いかもと思ったのがきっかけです。
──なるほど。
海 周りに映像をやっている人が多かったこともあり、映像編集ソフトや機材の使い方を教えてもらいながら進めていきました。これまでは頭の中にあるイメージをチームに共有して具現化する工程自体に難しさを感じることが多かったんですけど、自分でやることでそのストレスが多少なくなるんじゃないかという期待はありました。
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kojikojiとハルを迎えたことで色付いたアルバム