もう壁はなくなりました
──前作EPの表題曲で、今作のオープニングも飾る「22」は、海さんがLUCKY TAPESを結成した当時の年齢も表しているんですよね。そんな曲で始まるこのアルバムのタイトルに、「dressing」という海さん自身の生き方を表すような言葉が当てられているのは、とても大きな意味があるように思えます。
音楽活動も4、5年真剣に取り組んできて「自分は何者なのか?」とか、「自分には何ができて他者の中にどう存在できるか?」ということが、ようやくわかり始めてきた気がしていて。結局、自分がやるべきことはシンプルで、音楽を作り続けることなんだろうなあって思うんですよね。この間、関西や北海道で災害が続いたじゃないですか。
──はい。
ちょうどその頃、江ノ島の水族館でアコースティックライブをやっていたんですけど、(※9月7日に新江ノ島水族館で行われた「クラゲナイト」)、うちのスタッフが「その模様をインスタライブで配信してみたらどうか?」って思い付きで全編配信してみたんです。僕らは演奏している側だからリアルタイムにコメントを読むことはできなかったんですけど、ライブを終えたあとにアーカイブに残ったライブ映像を観返していたら、北海道の人からのコメントが残っていたんですよ。「北海道地震で被災しました。先程電気復旧して今スマホ使えるようになって、今この配信見れてることがとても幸せです。涙が止まりません。ラキテの音楽に救われてます。ありがとうございます」って。こういう言葉に救われてるのはこちらのほうだし、なんと言うかうまく言葉にできない感情でいっぱいになってしまって。このコメントを自分のInstagramのストーリーでシェアしたら、ほかにも被災された方々から次々とコメントが届きました。関西のときには、大きな音や揺れ、いつ次の災害が来るかわからない恐怖から「夜も安心して眠れない」というコメントを多く見かけたので、微力ながら自分自身も普段なかなか寝付けないときに聴いているリラックス効果のある楽曲をまとめてプレイリストにして公開してみたり。災害が起こった現場に実際に行ったわけではないし、そのために何か直接的に行動できたわけでもないけれど、自分の唯一の表現である音楽が癒しや「音楽がある日常」という安心を与えることができたらいいなという思いを抱きながら。そういう実際のメッセージに改めて気付かされた部分もあったりして。
──かなりパーソナルなことを話していただきましたけど、こんな話を聞きたくなるのも、今作からはこれまでの作品以上に海さんの人となりや人生観が感じられる瞬間が多いからで。サウンド的にも今作にはLUCKY TAPESとしてこれまで作り上げてきたサウンドに、海さんがソロで外部のリミックスワークなどをやってきたことで培った要素もかなり入ってきていますよね?
そうですね。もともと、ソロでは打ち込み主体の音楽を作っていて、バンドでは生のアンサンブルを重視した音楽、というように意識的に区切ってはいたんですけど、そういう「ソロはこうでなければいけない。バンドはこうでなければいけない」っていう制約を設けてしまうのも、自分の表現にとってよくないことだなって最近気付き始めたんですよね。ソロで少しずつ作りためているデモ音源をいつか作品にまとめたいなと思ってはいるんですけど、バンドが忙しくてなかなかそっちに時間を費やせていないのが現状で。本当はソロでやっているような打ち込み主体の音でも表現したいことはたくさんあるのに、ソロとバンドを意識的に区切ってしまっているせいで、いつまでも世に出せない状態でいるのはとても無意味なことに思えてきて。
──なるほど。
そういうことを考えているうちに、生演奏の中でもできることなら、ソロの手法も取り入れてもいいんじゃないかなと思い始めたんです。そう考え出したのがちょうど「22」の頃で、今作では、もうほとんど壁はなくなりましたね。
──自分のやりたい音楽をセーブしながら活動を続けていくのは、恐らく海さんの生き方的にも違いますもんね。
そうですね。あとは年齢もあるかもしれない。気付いたらもう27なので。30前にはソロで何か動きが起こせたらいいな。
BASIさんとCharaさんの声で脳内再生された
──実際、今作のサウンドは本当に多彩ですよね。例えば、「22」のようなファンクチューンもあれば、韻シストのBASIさんをフィーチャリングした「COS」にはメロウなジャズの要素もあるし、「Gossip」にはロックなギターが鳴り響いていて、「Joy」ではチャンス・ザ・ラッパーのようなゴスペルコーラスが聞こえてくる。こうやって何曲かの特徴を挙げただけでも、すごくバラバラな要素が集まったアルバムになっていると思うんです。これはバンドとしての器量が大きくないとできないことだと思うんですけど、例えば海さんのソロの要素が強まることに対して、メンバーである(田口)恵人さんと(高橋)健介さんからの反発などはなかったですか?
それはなかったです。むしろ昔から、自分がソロで作った作品を聴いて、「こういうの、LUCKY TAPESでもやりたいなあ」ってつぶやかれることもあったので(笑)。メンバーも快く受け入れてくれてるだろうし、素直に喜んでくれていると思います。
──今作は先述したBASIさんと、さらに「Lonely Lonely」に参加しているCharaさんという、2人のフィーチャリングアーティストの存在がさらに作品の魅力を多面的にしていますよね。
BASIさんとCharaさんのお二人は、最近個人的につながりがあって。アルバムの曲を作っていたとき、自分の声ではなくてそれぞれBASIさんとCharaさんの声で自然と脳内再生されたんですよ。そこからオファーに至ります。
──曲を作っていく中で、ほかの人の声が聞こえてくる、ということがあるんですね。
不思議ですよね。曲を作るときも、アートワークやビジュアル、映像をそれぞれクリエイターの方と一緒に作るときもそうですけど、自分の頭の中で見えたり描いた景色や鳴った音を試行錯誤しながら実際に形にしていくっていうことを毎回やっているんですけど、例えば楽曲アレンジや編曲をするときには、「ここで鳴るシンセはこういう系統の波形」とか、「ここのギターは、こういうエフェクトががかかって音が揺れてる」とか、そういうことがなんとなく頭の中にぼんやり浮かんでくるので、それを具体化させていく作業というのが制作の過程でほとんどを占めていて。それとまったく同じ感覚で、今回CharaさんとBASIさんの声が聞こえてきた。2人ともかなり個性的な声の持ち主なので、ほかの人では替わりえなかった。
──海さんにとってBASIさんとCharaさんの声には、どのような魅力がありますか?
まずBASIさんに関して、自分はラップの中でも、メロウで心地のいいフロウや言葉を聴かせる方に惹かれるんですけど、最近よく現場で一緒になっていたBASIさんのラップと歌との中間にあるような不思議なフロウにずっと惹き込まれていました。とても低いんだけど抜けて耳に残る、それでいて心地よく響く声。昨年末だったかな、韻シストの企画に大阪、東京と呼んでいただいたんです。そこから地方のフェスなんかでもご一緒する機会があって、バックヤードで「いつか一緒に何かできたらいいね」っていう話をしていて。それが今回実現した形ですね。
──Charaさんはどうでしょう?
歌声といってもやはり同じ人間が作り出す音だから、声帯や体型、発声の仕方で歌声というのはどこか誰かしらと似てきたりすると思うんですよ。実際、自分の声も「誰々に似ている」と言われたことがあるし。でも、Charaさんの歌声って完全に唯一無二なんですよね。ほかにあんな声聴いたことがない。
──本当に似た声がないですよね。
Charaさんの声には、もちろん生まれ持ったモノもあると思うんですけど、それ以上にCharaさんの人間性がよく出ている気がするんですよね。どこか「やんちゃさ」があると言うか、いつまでも少年少女の心が消えずに存在している……実際にCharaさんにお会いしたとき、そこにすごく惹かれました。自分も、ああいう年の重ね方をしたい。Charaさんの声って、いつまでも“Charaの声”じゃないですか。歌い方に多少の変化はあったとしても、ずっとCharaさんはCharaさんで、それってすごいことだと思う。
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終わることを知っているからこそ……
- LUCKY TAPES「dressing」
- 2018年10月3日発売 / Victor Entertainment
-
初回限定盤 [CD+DVD]
3996円 / VIZL-1424 -
通常盤 [CD]
2916円 / VICL-65043
- CD収録曲
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- 22
- Punch Drunk Love
- COS feat. BASI
- Balance
- Gossip
- Lonely Lonely feat. Chara
- Gravity
- Joy
- MOOD
- ワンダーランド
- 初回限定盤DVD収録内容
-
「LUCKY TAPES "22" Release One Man Tour」東京キネマ倶楽部公演ライブ映像
- レイディ・ブルース
- NUDE
- Balance
- Gravity
- シェリー
ミュージックビデオ
- MOOD
- ツアー情報
"dressing" release tour 2018 -
- 2018年10月3日(水) 大阪府 Shangri-La
- 2018年10月6日(土) 広島県 CAVE-BE
- 2018年10月8日(月・祝) 福岡県 BEAT STATION
- 2018年10月10日(水) 静岡県 HAMAMATSU FORCE
- 2018年10月12日(金) 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2018年10月14日(日) 大阪府 Shangri-La
- 2018年10月19日(金) 岡山県 IMAGE
- 2018年10月20日(土) 香川県 DIME
- 2018年10月27日(土) 北海道 Sound Lab mole
- 2018年10月31日(水) 宮城県 仙台MACANA
- 2018年11月2日(金) 新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
- 2018年11月4日(日) 石川県 vanvanV4
- 2018年11月8日(木) 東京都 マイナビBLITZ赤坂
- LUCKY TAPES(ラッキーテープス)
- 高橋海(Vo, Key)、田口恵人(B)、高橋健介(G, Syn)からなる3人組。結成直後に発表した5曲入りの作品「Peace and Magic」はわずか3カ月で完売し、2015年4月にデビューシングル「Touch!」、8月にデビューアルバム「The SHOW」を発表した。2016年7月に2ndアルバム「Cigarette & Alcohol」をリリースし、「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演を果たす。2018年5月に5曲入りのCD「22」でメジャーデビューし、10月にはメジャー1stアルバム「dressing」をリリース。同月よりライブツアー「"dressing" release tour 2018」を行う。