Lucky Kilimanjaro熊木幸丸インタビュー|“Friendly”なEPで再確認した、10周年の先に持って行きたいもの

今年2024年に結成10周年を迎えたLucky Kilimanjaro。2018年のメジャーデビュー以降は「世界中の毎日をおどらせる」というテーマを掲げ、より一層精力的な活動を展開してきた。

そんなラッキリが、対になるコンセプトのEPを発表。“体で踊る”楽曲を収めた「Dancers Friendly」を7月、“心で踊る”楽曲を収めた「Soul Friendly」を10月に配信リリースした。音楽ナタリーでは、2作を作り終えたときに「イメージと違うものになった」という熊木幸丸(Vo)へのソロインタビューを実施。最新作「Soul Friendly」の話をメインに、10周年を迎えた感慨や、音楽シーンにおけるダンスミュージックの盛り上がり、幕張メッセ公演を含む全国ツアー「YAMAODORI 2024 to 2025」への思いを語ってもらった。

取材・文 / 金子厚武撮影 /藤重廉

ずっと先ばかり見てたけど、振り返るといろんな道を歩いてきた

──まずは6月から7月にかけて開催された10周年ツアー「自由“10”に踊ろうTOUR」を終えての感想から聞かせてください(参照:Lucky Kilimanjaroが踊り続ける未来を約束、10周年ツアー梅雨明けの東京で完走)。

10周年のスタートとして「実感」をシングルでリリースした際に、いろいろな媒体さんでもお話しさせてもらったんですけど、そのときは10周年という実感が全然なくて。やれてないこと、やりたいことがいっぱいあって、むしろまだスタートラインだと思いながら「10周年ツアーをやってみるか」という感じで始めたんです。でも過去の演出や、あまりやってなかった曲も織り交ぜつつライブをしてみたら、「あ、10年やってきたんだな」と感じたというか。

──それこそ、ツアーをやってみてやっと「実感」が湧いた。

いろいろな考えやアイデアを持って10年活動してきたんだなというふうには思いました。それはやはりお客さんが踊ってくれている姿を見たのも大きいですし、過去曲のサウンドを改めて再構築する中で、「こういう考え方でやっていたんだろうな」と振り返ることができて、やっと10年やった感覚が出てきましたね。ずっと先ばかり見てましたけど、振り返るといろいろな道を歩いてきたんだなと。

──もちろんその10年には細かく見ればアップダウンがあっただろうし、コロナ禍という想定外の事態にも見舞われましたが、来年2月には過去最大キャパの幕張メッセでのライブを控えていたりするわけで、右肩上がりに活動規模を広げていますよね。熊木さんとしては、それはどういう要因が大きかったと思いますか?

運ですね(笑)。たまたま自分がいいと思う音楽のスタイルがお客さんにハマっただけというか。コロナ禍はクラブも行けないですし、みんなで踊ることが制限されていたわけですけど、その中でも自分の思う「家のダンスミュージック」というものを表現したのが「DAILY BOP」(2021年3月発売のアルバム。参照:Lucky Kilimanjaro「DAILY BOP」インタビュー)でしたし。そもそも僕はクラブだけではなくて、家で音楽を楽しむことも大事にしてきたので、コロナ禍がよかったとはとても言えないですけど、自分の発想がその状況に偶然ハマった。もちろん「今何で踊ってもらうのが一番面白いのか」はずっと考えて活動してきましたけど、それにお客さんがついてきてくれたのはすごくありがたいことだなと思います。

熊木幸丸(Vo)

──実際ラッキリはコロナ禍以降もずっと動き続けていて、2020年から2023年まで毎年アルバムを出しているし、今年は配信曲と2作のEPを合わせるとアルバム1枚以上の曲数をリリースしていて。やっぱり作り続けてきたこと、その中でトライ&エラーを繰り返してきたことはバンドにとってすごく大きな意味があったのだろうなと。

どんどん作品を出して、それに対して「こういうふうに受け取ってもらえるんだ」「こういうふうに踊ってもらえるんだ」とリアルタイムで感じながらまた次の作品に生かす。その繰り返しが楽しいから音楽をやってるところがあって。「多作ですね」と言われるけど、「僕のペースはこうなんです」というだけの話で、そこに戦略性があるわけでもないんですけど、少なくともここ何年かは自分にとってはいい流れで作れたと思います。でも先に未来の話をしてしまうと、「Dancers Friendly」と「Soul Friendly」を作ったことで、もう少し1つの作品に時間をかけてもいいかなと思うようになりました。自分のアイデアや考えをもっと熟成させてもいいのかなと。

──音楽シーンの話で言うと、ここ数年でダンスミュージックとポップスの掛け合わせがまた盛り上がってきていますよね。2010年代のシティポップブームがひと段落して、日本だとNewJeansが大きいのかなと思うけど、ダンスミュージック的なポップスがもう一度盛り上がってきたことと、ラッキリがずっとやってきたことが結果的にシンクロする部分もあったのかなと思ったりするんですけど、どう感じていますか?

ダンスミュージックのトレンドは追うようにしてますけど、ポップスとしてのダンスミュージックはそんなに……でもそうだな、そことも呼応してるんだろうな。それこそドレイクだったりビヨンセだったり。

──ピンクパンサレスだったり。

NewJeansが出てきて、その前にはムラ・マサがいて、みたいな。そういう流れや、「今面白いのはこういうアクションですよね」という音楽シーンの感覚に影響を受けてるのかなとは思います。でもやはりダンスミュージックの持つもっとプリミティブな部分、90年代のハウスにあるような愛の感覚とか、テクノにあるような鬱屈した毎日から解放される感覚。そういう部分がすごく好きですし、忘れないようにしたいなと思います。

──最近のUKはポップス的なものじゃなくても、ダンスミュージックがまた面白くなっている印象もあって。オーヴァーモノやジェイミーXXも来日するし。

そうですね。フローティング・ポインツだったり、フレッド・アゲインだったり。そういうアーティストの面白い作品に影響を受けながら、自分はこの日本でポップスをずっと享受し続けているので、そのうえでみんなとどうやって一緒に踊っていこうかを常に考えている感じですね。

熊木幸丸(Vo)

「体で踊る」と「心で踊る」は表裏一体

──そもそも今回「Dancers Friendly」と「Soul Friendly」の2作をリリースしたのは、もともとラッキリが持っている「体で踊る」部分と「心で踊る」部分を分けて作品にしてみようというアイデアがベースにあったんですよね。

そうですね。そこが最初に自分が着目した部分ではあります。

──「Friendly」という言葉がすごくラッキリっぽいなと感じて。いろんな音楽を聴いてるだろうし、マニアックな方向を突き詰めて、ディープなものを作ってみたい欲求もあったりするのかなと思うけど、ラッキリとしては「フレンドリーなもの、いろんな人に届くものを」というのはずっと意識してきた部分だと思うんです。

「Friendly」っていうのは「~向けの」「~に優しい」みたいな意味ですけど、具体的な意味以上にこの言葉に対するふわっとした認識が、僕が作りたい空間の雰囲気にすごく近いなと思っていて。

──ダンスミュージックにはもっと「熱狂的」みたいな言葉が似合うアクトもいると思うけど、確かにラッキリのライブは熱狂的な要素もありつつ、フレンドリーな空間になっている印象があります。

そもそも「Soul Friendly」みたいな作品を作ったのも、僕がそういう空間をイメージしてるからで、90年代のレイヴみたいな、ああいうマッシヴな感じだけじゃない、もっと本質的な、みんなの心をつなぐものとして自分の音楽が機能してほしい、共鳴してほしいという思いはありますね。

──最近はレイヴカルチャーが復活して、そういう場所ではよりマッシヴなものが求められてる中、言ってみたら「Soul Friendly」はカウンター的なポジションにもなるのかもしれないけど、それがラッキリらしいなと。

カウンター的に考えてたわけではないですけど、「音楽の一番美しい部分って、パワーじゃなくねえか?」というのは思ってるんですよ。そこに対して、改めて「自分はこういう音楽を書きたい」という意思表明的なところもあったと思います。ただ、社会の状況だったり、みんなが感じている苦しみがあったうえで、マッシヴなものを表現したいと思うときと、そうじゃないときと、僕もおそらくずっと揺れ動く。その両方を内包しようとしたのが今回の2作だったのかなとも思います。

熊木幸丸(Vo)

──最初にコンセプトを考えて「Dancers Friendly」と「Soul Friendly」を順番に作っていったそうですが、実際に完成して、「Soul Friendly」はもともと自分が思い描いていたイメージ通りの作品になりましたか?

イメージと違うものになったと思います。最初は「Dancers Friendly」とは完全に分けて考えてましたけど、結局僕は表裏一体のものを作っているなと感じました。最初は四つ打ちをかなり減らそうとしたんですよ。でも何曲か「Soul Friendly」のデモを書いた中で「そういうことじゃない」みたいな感覚があって。結局僕がやりたいことは「Dancers Friendly」でも「Soul Friendly」でも一緒というか、踊る中で心が癒えていく感覚だったり、カタルシスが欲しくて音楽活動をしているから、自分が思った以上に楽曲が分かれなかった。リスナーは違うジャンル感とかサウンド感を見出してくれるかもしれないですけど、自分の中ではやってることは別に変わらなかったなっていうのが、作り終わったうえでの感想ですね。

──最初は四つ打ちは1曲もないぐらいのイメージだった?

はい。でも曲を書いていく中で、それだと変に自分に制限をかけてるだけで、なんか違うなって。僕は四つ打ちに対しても心が癒える感覚がしっかりとあるし。そこからはもう自由になって、結果として当初自分が思ってた方向とは違うものになりましたけど、いい形の2作ができたと思います。

──もしかしたら、もともとわかっていたことなのかもしれませんね。フィジカルに踊ることと心が踊るっていうのはやっぱりセットで、それを再確認したというか。

そういう時間だった気がします。自分のやってることの再確認。結局同じものを目指して揺れ動いてるんだなって。もちろん、それぞれにフォーカスして作ることで、技術もアイデアも含め、今までとは違うものができたとも思うから、10周年というタイミングでこれを作ってよかったなと思いました。