Lucky Kilimanjaro「Kimochy Season」インタビュー|熊木幸丸が最新アルバムで描く“変化”と“季節の移ろい”

Lucky Kilimanjaroが4月5日にニューアルバム「Kimochy Season」をリリースした。

「Kimochy Season」は、「変化を乗りこなす」をテーマに制作された1枚。昨年リリースされた配信シングル「ファジーサマー」「地獄の踊り場」「一筋差す」「越冬」を含む全14トラックが収録されている。

音楽ナタリーでは、新作のリリースに際してバンドのフロントマンである熊木幸丸(Vo)にインタビュー。「Kimochy Season」の制作エピソードやコンセプト、Lucky Kilimanjaroというバンドがどのように変化してきたのかについて話を聞いた。

取材・文 / 黒田隆太朗撮影 / 須田卓馬

変化を乗りこなす

──アルバムのテーマが「変化を乗りこなす」になった理由から聞かせていただけますか?

昨年はロシアとウクライナの戦争が起こったり、自分の結婚があったり、バンドとしてもフェーズが変わった時期でもあって(参照:Lucky Kilimanjaroの熊木幸丸&大瀧真央が結婚)。変化というものを見つめる機会が増えてきた1年でした。その中で「ファジーサマー」という楽曲ができたんですけど、その段階ではまだ“変化”をアルバムのメインテーマに置こうとは考えていなかったんです。でも、断片的に言葉をストックしていく中で、今自分が歌いたいのは変化や流動性がある状態を乗りこなしていくことなんだなと思いました。

熊木幸丸

──ということは制作のスタートも「ファジーサマー」なんですね。

そうですね。どの曲もたぶん夏以降にできた曲です。9月からアルバム全体の制作を始めて、1月くらいに終わらせました。

──この曲は「ぽっかり空いた」「空っぽを踊るサマー」という言葉が印象的です。変化というものを初めからポジティブに捉えていたのではなく、そこに戸惑いを持っていたところもあるように感じました。

憂いや心の不安定さといった、マイナスな感情がスタートにあったとは思います。でも、現代で楽しく過ごすためには、それに対して余白の部分を持つというか、もっと流動的に動けるようにしていったほうがいいのかなと。それなら「どうやってこの変化をグルーヴとして受け入れようか」「どうやってみんなと一緒に気持ちよく踊っていこうか」ということを考えていって。そこで最終的なフォーカスが定まったように思います。

やっぱり泣いて踊りたい

──「Kimochy Season」は冬の楽曲から始まり、秋を歌った曲で終わります。“変化”と合わせて、“季節の移ろい”というモチーフが生まれたのはなぜですか?

「ファジーサマー」や「一筋差す」といった、今回収録されている曲の中でも初期にできたものは、季節にアプローチしているものが多かったんですよね。そこで考えてみたときに、季節って日本人にとっては当たり前に受け入れられている変化で、文化的な側面でもちゃんと“乗りこなしていくもの”として存在していると思ったんです。それで自分が歌いたい“変化”というものとリンクして、「季節・変化・気持ちいい」という3軸をテーマに全体の構成をしていこうと決めました。

──「一筋差す」は“バンド史上最もアップテンポなハウスミュージック”と銘打っていましたね。

まず、僕は冬がすごく嫌いなんですよね。寒いのも苦手だし、冬のイベントや世間のムードも苦手(笑)。

──なるほど(笑)。

そして去年はUKのハウスミュージックをたくさん聴いていて。例えばフレッド・アゲインだったり、Overmonoだったり、ブレイクビーツからの流れもありながら、130BPMくらいのハウスで踊らせる音楽にすごく魅力を感じていて。そこが「一筋差す」につながっているのかなと思います。この速度感で冬をテーマにした曲を作れなきゃ、僕は冬嫌いを克服できないという感覚で書きました(笑)。

──2曲目の「Kimochy」は「Feel good」と繰り返すコーラスが印象的で、明るくポジティブな曲だと思います。冬の曲こそ明るいテンションにしようという意識を感じます。

もともとコーラスワークがすごく好きで、「Kimochy」では僕が好きなソウルミュージックやハウスミュージックを、いかにシンプルに今の自分のスタイルで楽曲にするかを大事にしました。僕は「冬は凍えて動けないもの」と捉えてきたけど、「冬だってもっと動きたいし、本当は楽しめるものだよね」と。そういう反動的な気持ちがありましたね。

──ハウスのミュージシャンの自伝本を見ていると、ソウルが大事だと言うアーティストは多いですよね。

そうですね、ソウルが大事です。やっぱり泣いて踊りたいですよね。生活や環境の中にアゲインストしたいものがあって、それに対して踊るという感覚。ハウスミュージックのスタートってそういうものだと思いますし、そこにダンスミュージックのよさがあるのかなと思います。

心の素直な状態をちゃんと歌詞にしたい

──「Heat」のサウンドは酩酊感がありますね。

「Heat」も冬の吹き飛ばし方をいろいろと考える中でできた1曲です。自分が動けないでいる現状に対して、どうやって熱を入れていこうかと考えて、サウンドのクールさと対比するダイナミックさを持つ曲にしたいと思ったんです。なので「Heat」と言いつつも、全体的には冷たさがあると思います。そしてそこにエネルギーを感じるようなベースラインやドラムが存在しているという楽曲です。

──「心がバグりそう」という歌詞がありますよね。冬から始まる音楽というのを踏まえてこのフレーズを聴いたとき、この冷たい時代の暗喩なのかと思いました。

そういう印象を意図的に与えたつもりはないです。ただ、アルバム全体を通して今までのラッキリよりも憂いているというか、悲しいことに対してアプローチしている作品だとは思っていて。それは時代背景を確実に反映していますね。自分が生活する中でそういう感情になるタイミングが増えてきたし、潜在的な何かが作品のカラーに影響しているとは思います。

──4曲目の「越冬」は、シンプルなトラックとロマンチックな音色が印象的でした。前半にこの曲がくることで、この作品のしっとりとした側面が出ているように思います。

去年結婚をして、冬の越え方の感覚が少し変わったんです。「越冬」ではすごく直接的に愛を歌っているけど、それって僕の中ではタイミングがないとできないことなんです。そういう自分の素直さが出ている楽曲になりました。

──「辻」にも言えることだと思いますが、本作ではそうした素直さが歌で表現されているように思います。

それが最近の書き方なのかなと思います。できるだけ自分の心からポンッと出てきたものを使う、そういう心の素直な状態をちゃんと歌詞にしたい。浮かんできたものをあまり整理せず、作り込まないようにした結果、素直さにつながっているのかな。今までの作品より、より自分的になっていると思います。

──なぜ凝らなくなったんですか?

前作の「TOUGH PLAY」は明るく踊りつつ、自分の中ではちょっとテクニカルな作品になったというか。ある種、作り込むことに面白さを感じていた時期で、少し説明的だったかなと思うところもあるんです。でも、お客さんにはもっとストレートに感情で踊ってほしいと思うから、僕も感情で取り出そうと思いました。