ロザリーナ「Life Road」インタビュー|コカ・コーラCMソングで見つけた、すぐそばにある魔法 (2/2)

未来が違って見えた

──「Life Road」には、これまでの楽曲と決定的に違うところがあると思うんです。例えば「悲しみのセル」や「Dream on」は、臆病な自分と対峙しつつ人生に希望を抱いて歩き出す歌だった。「飛べないニケ」や「Crazy life」は、周りの目や意見を気にして生きていくことに窮屈さを感じている自分が描かれていた。これらの楽曲からは他人や自分を信じようとするけど、どこかで疑っていたり、世界や人生を悲観的に見てしまいながらもなんとか希望を見出そうとする心境が感じ取れました。それは世間が暗闇から明るい方向へ進む物語が好きだから書いたというよりも、そう信じることでロザリーナさん自身が自らの心を浄化させていた気がして。また、そういう苦しみから曲を作ることで、苦しさのループから抜け出せずにいたと思うんです。だけど「Life Road」には暗い要素はなくて、希望しか描かれていない。

よく伝わりましたね! それが伝わってくれたことはすごくうれしいし、しっくり来ました。曲に関しては本当に自分のリアルを歌っているんですよ。日頃の発散できないストレスを歌にすることで、誰かに共感してもらえることもそうだし、曲を書くことによって自分が何にイライラしているのか、何が嫌だったのかが整理されるんです。

──だからこそ内側に秘めた黒い感情を曲にしてきた。

本音を書くからこそ、皆さんに共感してもらえるんだとも思っていて。でもそれは苦しむ理由の1つでもあった。忘れたい悲しみと向き合って、それを突き詰めて曲を書くから苦しみ続けるというか。寝て忘れたい悲しいことがあっても、その気持ちじゃないと曲を書けないから、寝ないでただただ悲しみながら作ったりして。「飛べないニケ」というアルバムは、口にしてしまったら誰かを傷付けてしまう言葉や、言わないようにしていた本音をちゃんと書けたんです。それで心が整理されたのかなって。

ロザリーナ

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──そもそもストレスの根源はなんですか?

今、私は絶妙なポジションにいると思うんですよね。世の中の比率で言ったらロザリーナのアンチの人口ってそんなにいないと思うんですけど、アンチの行動を起こす人がロザリーナの知名度的には目立つんです。例えば配信中のコメントが次々と流れていけばアンチコメントなんて目に付かないですけど、ゆっくり流れてくればアンチコメントも目に付きやすい。それですごく傷付いた結果、生まれたのが「飛べないニケ」でした。デビュー前から自分に嘘をついてきたことを「飛べないニケ」で包み隠さず形にできたことによって、一線を越えられた感覚がありました。冒頭で言った通り、最近になって家族や身の回りの人たちがいる大切さをポジティブに思えてきたからこそ「Life Road」を作れたんです。なので、今おっしゃってくれたことがまさにそれすぎてビックリしました。

──それだけ「Life Road」には人間としての成長が描かれていると。

これは言っていいのかな? 実は「Life Road」を書くきっかけになった人が実際にいるんです。詳しくは言えないですけど、すっごく落ち込んでいたときに、歌詞に登場する“君”という存在の人が現れて、「As long as we are together you will be better」と言ってくれたんです。この言葉で落ち込んでいた時期を乗り越えられました。日本語にすると「僕と一緒にいたらよくしかならないよ」という意味なんですけど、そこに根拠はなくて。でもそのひと言によって「自分は1人じゃないんだ。一緒にいてくれる存在を見付けられたんだ。これからよくしかならないんだ」と思えた瞬間に、未来が違って見えた。それでこの曲が書けたんです。

──“君”は信頼できる人なんでしょうね。

「どんな普通な事でも 鮮やかに変わる くだらないお喋りもこれからももっとしよう」というサビのフレーズは、そこだけ聴くと当たり障りのない綺麗事に感じるかもしれないけど、結局その場所が楽しいかどうかは一緒にいる人次第で。それは家族もそうだし、友達もそう。誰といるかで同じ景色でも見え方が全然変わるから、それぐらい前向きになれたタイミングの歌なんです。

ロザリーナ

ロザリーナ

なんで悲しい曲ばかり書いてきたのか

──ちなみに前向きな音楽を作ることに抵抗はありました?

全然ないです! 今まではただただ自分がネガティブな人種なので書けなかったんです。リアルだったらいいんですけど、実際に前向きじゃないのに前向きな歌を書くことが薄っぺらく感じちゃって。だから今まで前向きな歌を書きたくても書けなかった。やっと前向きな曲が書けたなって思います。振り返ると昔は前向きな曲も書いていたんですよ。そのときは未来に希望を感じていたし、あの頃の自分は若かったなと思うんです。だけど音楽人生の中でいろいろとへし折られて、悲しんだりとかして。周囲から「絶対に売れるよ」と言われるけど、なかなか売れず。もう無理なのかな?と思いながら過ごしていた中で、信じるしかないし、やるしかないと思えたのが「Life Road」を書いたタイミングだった。それこそコカ・コーラさんに機会をいただけて、希望を信じるきっかけをもらえたというか。とにかく今はがんばりたい……いや、がんばらないと! 落ち込んで何もしなかったら1mmも変わらないので、このチャンスを絶対につかんで後悔のない2022年にしたいと思っています。

──ロザリーナさんは精神面が曲作りにどのように影響しますか?

私はハッピーなときって、なかなか曲が書けないんですよ。「ひと月にどれくらい曲を書くの?」と質問されることがあるんですけど、私は感情が動いたときにしか曲が書けなくて。音楽っぽいものは作れるんですけど、自分の中で芯を食った曲を定期的には作れない。だから自粛期間中はひたすら映画を観ていたんですけど、やっぱり自分が泣くほど傷付いたときじゃないと曲は書けなくて。とはいえ、曲を書き続けないとアーティストをやっていけない。だから、なんで悲しい曲ばかり書いているのか自分を見つめ直したんです。

──答えは出ました?

やっぱり悲しいことって忘れられないんですよ。何気ないひと言だとしても、傷付いた側は覚えているものだと思うし。逆に楽しいことってなんとなくでしか残っていなくて。だから歌詞にするほどじゃないんですよ。結局、何カ月も忘れられない憎しみを歌にするしか術がなかった。しかもコロナによって人前に立つ機会がなくなり、ロザリーナの音楽を楽しみにしてくれているお客さんが本当にいるのかすらわからない状況になって。だけど今回のコカ・コーラさんの件とか大きなお仕事が決まって、自分のことのように喜んでくれたリスナーさんがたくさんいたんです。少しずつだけど、私の知らないところに会ったことのないファミリーがいることを感じられて、その人たちを大切にしていきたいと思えました。だからこそ求められていることに全力で応えたい。そしてその人たちともっと喜びを分かち合いたいなと思っています。

ロザリーナ

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プロフィール

ロザリーナ

女性シンガーソングライター。2016年に西野亮廣(キングコング)の著書「えんとつ町のプペル」のテーマソングを担当し、一気に知名度を上げる。2018年4月にシングル「タラレバ流星群」でソニー・ミュージックレコーズからメジャーデビュー。11月にテレビアニメ「からくりサーカス」のエンディングテーマ「マリオネット」をシングルリリースした。2020年1月に1stアルバム「INNER UNIVERSE」を発表。同年12月公開の「映画 えんとつ町のプペル」のエンディング主題歌を担当した。2021年3月に2ndアルバム「飛べないニケ」をリリース。2022年1月より放送のコカ・コーラのCMソングを手がけ、同時にCM初出演も果たした。