ロザリーナが歌うコカ・コーラのCMソング「Life Road」が配信リリースされた。
「Life Road」はコカ・コーラおみくじ付き福ボトルキャンペーンのCM「魔法は、すぐそばにある。」のために制作された楽曲。ロザリーナ自身が夢を持った主人公としてCM本編に出演し、世界中に広がっていく希望あふれる曲として歌っている。
「ハッピーなときって、なかなか曲が書けないんですよ」と語るロザリーナ。この特集では彼女がポジティブに振り切った楽曲を完成させるまでの経緯や、アルバム「飛べないニケ」のリリースを経た心境の変化などについて話を聞いた。
取材・文 / 真貝聡撮影 / 笹原清明
今は求められるものに応えたい
──撮影のときに「うわ! 雪だあー!」って、はしゃいでいましたね(取材は関東に大雪注意報が発表された日に実施)。
ハハハ! 雪を見たのが今年初なので、ついテンションが上がりました。
──ちなみに、雪にまつわる話は何かありますか?
スーツ姿の真面目そうなお兄さんが、駅の改札を抜けて1人でつるりんと滑って、何事もなかったかのように歩き直すのを見るのが好きです(笑)。もちろんかわいそうだけど、内心は面白いなと思っちゃいます。
──そういえば、ナタリーに初登場した2018年のインタビューで自分のことを「めっちゃ性格が悪いと思います」と言ってましたね(参照:ロザリーナ「タラレバ流星群」インタビュー)。
アハハハ! 確かにそれとつながる話ですね。
──そんな初インタビューから3年が経ちましたけど、当時と比べて気持ちの面で変わったことはありますか?
コロナのこともあって、友達よりも家族と接する時間が増えたんです。私が歳を取っていくと同時に、親も同じように歳を取っていく。当たり前のことをやっと身近に感じてきたというか、大切にしなきゃと思うようになりました。
──年齢を重ねると、親が生きているうちに孝行したいとしみじみ思いますよね。
そうなんですよね。お別れするときに後悔がないように接していきたいなと、前よりも強く思います。
──他人の人生に終わりが来ると思ったら、自分の人生もそこまで時間があるわけじゃないと気付きますし。
そうですね。音楽を始めて何年かはモヤモヤした時期があったから、今だったらそのときにもっとできたことがあったんじゃないかと思うし、同じような過ごし方はしていられないなとすごく思います。あとはいろいろとわかってきたこともあって。今までは事務所の方だったりレーベルの方だったりが、どういう動きをしているのかよくわからないまま、ただ曲を書いていたんです。だけど、どういう動きをしているのかがわかってきたから、このタイミングでリリースするなら曲の方向性はこうしたほうがいいんじゃないかとか、自分から進んで提案できることも増えてきて、そういうところはかなり変わったと思います。
──2018年末にマンガ「からくりサーカス」の作者・藤田和日郎先生と対談したときには、「スタッフや周りの人から曲について意見をされると、つい反発したくなる」とお話しされていました(参照:ロザリーナ「マリオネット」発売記念|ロザリーナ×マンガ家・藤田和日郎)。2018~19年あたりは、メジャーで作品をリリースすることがどういうことなのか葛藤されていた気がするんです。
そうですね。それこそ2018年はデビューの年だったから「ロザリーナをこうやって売っていきたい」という考えを周りの人たちそれぞれが持っていて。自分のなりたい方向性と違うこともあったから、つい反発しちゃうことはありました。例えば「今回はタイアップ作品に寄せて疾走感のある方がいい」と言われたら、それに相応しい曲を意識して作っていたんです。本当に自分が作りたい音楽はこういうものだ、というよりもいろんな人の意見が混ざったものが作品になる。クレジットでは「作詞・作曲:ロザリーナ」だけど、本当に自分の中から出てきたものか?と聞かれたら、ちょっと違うわけで。そうやっていろんな事情を考慮しながら作っていた分、カップリングでは何にも縛られずに自分の好きなことをやってきたんです。
──使い分けることでバランスを保っていた。
はい。そんな中、2021年3月に出した「飛べないニケ」というアルバムは、作品全体を通して自分のやりたいことを好きにやらせてもらえました。「ロザリーナって何系の音楽なの?」と聞かれたときに、アコースティックっぽいものもあれば、エレクトロもあれば、メロラップっぽい要素もあったりとか、バンドサウンドやファンタジーっぽいものもあるし、本当にいろいろやってきたと思うんです。どれも本当に好きだけど、「飛べないニケ」は現段階の自分の考えや音をすべて曲に落とし込めた。だからこそ今は自分のやりたいことよりも、求められることに応えたい気持ちが強くなったんです。
──ターニングポイントとなった「飛べないニケ」のリリースも含めて、2021年はどんな年でしたか?
キングコングの西野亮廣さんと出会ったのが2015年なんですけど、そのご縁がつながって「映画 えんとつ町のプペル」の主題歌を担当させてもらったのが2020年で、その流れから2021年は幕張メッセでHYDEさんのハロウィンイベント(参照:2021年10月開催「20th Orchestra Concert HYDE 黑ミサ 2021 Halloween」)に出させていただいて。一方で2019年にTHE ORAL CIGARETTESの方たちが私を見つけてくださって、去年のライブに呼んでいただけたのも続けてきたからだと思うし、ありがたいなって。何もない中でがんばっていたことが、ようやく形になった喜びと達成感を感じられました。
──点と点がつながっていったのが、2020年から2021年でしたよね。
そうですね。2015~16年の頃から始めてきたことがつながって、ちゃんと形になってきたのかなというのはすごく感じています。
「魔法」はどこに転がっているかわからない
──コカ・コーラのCMソングになった「Life Road」はこれまでの集大成にも感じますし、テレビCM「魔法は、すぐそばにある。」編の映像だけを切り取ってみてもドラマ性を感じました。
このCMはまだ世間に評価されていないアーティストが家で弾き語りをしていたら、たまたま近くに置いていたスマホの配信機能が起動して、ネットの力でいろんな人に歌声を聴いてもらえて才能開花するという“人生の奇跡”を描いた内容になっています。あの映像って、すごくリアルなんですよ。部屋の風景や歌っている様子も、まさに普段の私そのもの。狭い部屋で生まれた曲がいろんな人に届いていくという状況は、自分と重なるものがあって感動しました。
──CMの話が来たのはいつ頃だったんですか?
ハロウィンの少し前くらいでした。これからHYDEさんのライブに向けて準備をしようとしているときにマネージャーから「コカ・コーラさんのCMが決まったよ」というLINEが来て。すぐに私から電話をかけて「バンザーイ! やったあー!」って叫びました(笑)。しかも人生をドライブに置き換えた曲を作りたいと思っていたタイミングだったから、まさにCMの内容とピッタリだなと思ったんです。
──作詞するうえで大事にしたことはなんでしょう?
先ほども話した通り「もしも人生がドライブだったら」というテーマで書いていったんです。「ハイウェイ」だったり「渋滞」とか「寄り道」というドライブに関連するワードを生かしつつ、人生に置き換えられる歌詞にしようと意識しました。
──冒頭の歌ですけど、あれは歌詞カードに載ってないですよね。なんと歌っているんですか?
英語なんですけど、和訳すると「人生の遠くまで一緒にドライブしようよ」と歌っています。
──あえて歌詞カードに載せなかったのはどんな意図があるんですか?
そういうのが好きなんですよ。歌詞に表記してないけど聴いてみれば何か言ってる、みたいな。うしろでさり気なくバイオリンが鳴っていたりとか、そういうアレンジの一環として捉えていただければと思っています。
──音でこだわったのはどんなところでしょう?
サビ後の「僕らをのせ どこまでも広がる未来へ行こう」という歌詞があるんですけど、そこはメインのサビができる前に思い浮かんで、どうしても入れたかったんですよ。だけど、そのフレーズをサビにしちゃうと開けている印象がなくなっちゃうから悩んでいたんです。ちょっと間のある、みんなで歌えるようなサビにしようというイメージで作り始めていたはずなんですけど、やっぱりどうしても入れたくなっちゃって。サビだけが空いたまま、ほかのパートはどんどん形になっていって。「やっぱりサビの後半を入れたいです」とアレンジャーさんに言って、たくさんテイクを重ねてようやく形にできたこだわりのセクションでした。そしたらCMの担当者の方が、そこを一番気に入ってくれたんですよ。15秒バージョンはサビをメインに使うことになったんですけど、「30秒バージョンと60秒バージョンには、どうしてもあの歌詞を入れたいです」と言ってくださって、CM用にアレンジし直しているんです。こちらがすごくこだわった箇所を気に入ってくださったのがうれしかったです。
──完成したCMをご覧になってどう思いました?
ミュージックビデオとは違ってCMは商品がメインですよね。だけどできあがった映像を見たときに、思ったよりもロザリーナを前に出させていただいて「え? こんなに私が映って大丈夫かな!?」と思いました(笑)。
──商品を全面に出すよりも、「みんなの生活の中にコカ・コーラがある」というニュアンスのCMでしたよね。
そうですよね。CMのコンセプトは「魔法は、すぐそばにある。」ですけど、常日頃「魔法」「奇跡」「偶然」というものがどこに転がっているのかわからないわけで。しかも自分で何か挑戦しないと起こらないから、そういう意味でもストーリーの核がいろんな人に届いたらいいなと思っています。
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未来が違って見えた