自分たちの音楽にエゴはいらない

──LOVE PSYCHEDELICOの音楽って、基本的にエゴがとても希薄ですよね。

NAOKI　そうだね。

──でも、前作「ABBOT KINNEY」はミュージシャンとしてのエゴはとても強い作品でしたよね。

KUMI　うんうん、そうそう（笑）。

──あの作品を超えて、今回は本当にまたエゴのない地点に戻ったというか。これは深読みでしかないと思うんですけど、アルバムのラスト曲「Bye Bye Shadow」を聴きながら思ったのは、この人たちは実存そのものに別れを告げようとしているのかってことで。影（＝Shadow）って、人間がそこに存在する証じゃないですか。幽霊に影はないですし。そこに別れを告げる、つまりこの人たちは音楽の精霊のようなものに近付こうとしているのかなって。

KUMI　面白いね、幽霊とか精霊って（笑）。でも言ってること、すごくよくわかる。

NAOKI　そこまで崇高なメッセージを込めたわけじゃないけど、「自分たちの音楽にエゴはいらない」っていうのは、実際にすごく大切にしてきたことだから。例えば曲のイントロを聴いたときに、「NAOKIのギター、いいね」って言われたくない。「このイントロすごく好き」って言われたい。「この人のギターかっこいいね」って言われた瞬間に、自分としては修行不足な気がするっていうか。そこの部分の匿名性っていうのはすごく大切にしてる。彼女の歌もそうだよね。

KUMI　感情とかで歌うっていうのは違う。もっと曲に寄り添うっていうか、サウンドの一部になりたいってずっと思ってきた。

NAOKI　もちろん僕らも幽霊じゃなくて人間だから（笑）、感情の起伏はあるし、人生の中でつらいこともあるけど、音楽をやるときは常にそういうものを乗り越えたところでやりたい。その苦労をみんなに見せても誰も得しないんで。スタジオに入ったら音楽のことだけを考えていたいから。

──常にそれを乗り越えたところで音楽を作るというのは、ものすごく努力を要することだと思うんですけど。

NAOKI　ありがとうございます（笑）。

KUMI　結果、そうやってここまで音楽を作れてきたってことは、努力してきたってことなのかもしれないね（笑）。

「私たち案外相性がいいのかもね」

──世界的に見ても、男女の2人組ユニットでこれだけ長く健やかに続いているユニットってなかなかないと思うんです。

NAOKI　きっとこのほどよい距離感がいいんだよ（笑）。

──最後にベタな質問ですけど、長続きの秘訣はどこにあると思いますか？

KUMI　なんだろうねえ。このアルバムを作り終えて、最近やっと客観的に自分たちの作品や、お互いのことを見られるようになった気がするんですよ。そこで思ったのは、「あ、私たち案外相性がいいのかもね」って（笑）。

──今さら！（笑）

KUMI　そう、ほんとに「今さら！」って感じなんだけど（笑）。たまたま出会って、たまたまここまで一緒にやってきて。自分の持ってるものと相手の持ってるものが合わさったときに、「これは何かマジックが起きてるんじゃないかな」ってやっと最近気付いた（笑）。

NAOKI　「俺たち、けっこう個性的なのかもしれないね」って、やっと（笑）。

KUMI　自分のよさって、案外NAOKIと一緒にやってるから生きてるのかなって。根本的にやろうとしてることが同じっていうのはあるよね。世の中に対して、アプローチの仕方が似てるっていうのは大きいだろうし。だからお互いのエゴがぶつかり合うこともないし。

──それは長年やってきた中でお互いが相手に寄っていったっていう自覚もなく、自然にそうなってるってことですか？

KUMI　うん。

NAOKI　でも、たまたまうまくいったわけじゃない気がするんだよね。偶然の出会いってだけで、いい音楽が生まれてくるわけじゃないと思う。だからギフトっていうか、運命的に出会いをもらったような気がしていて。だからこそ、もっともっと真摯に音楽やらなきゃなって思います。

KUMI　あはははは（笑）。

──KUMIさんは笑ってますけど（笑）。

KUMI　運命って言ったらすべて運命だからね。ただ、役割とは思うかな。その役割を与えられたんだから、それをまっとうするしかないっていうか。

NAOKI　単純にそんな運命とかそういう大きな話じゃなくても、自分は今でもKUMIの横でギターを弾いてるだけで楽しいから。ギタリストにとって、それが一番幸せなことなんですよ。「こいつの横でギターをガーッて弾くのが楽しいんだよね」って。それが積み重なって、ここまできたのかなって思う。