ブンブンみたいな曲と超Cymbalsリスペクトな曲
──今回のCDの制作はいつ頃スタートしましたか。
曲の卵みたいなリフとかちっちゃい素材は2年前ぐらいから存在していたものもありましたけど、組み立てて曲にする作業は去年の暮れか年明けあたりからだったんじゃないかな。
──ラブサマちゃんの曲の書き方は曲先行でしたっけ?
そうですね。暇なときとか、ギターを触っているときにメロディを思い付くとメモしておいて。また違う時間に何か思い付くとそれもメモして。それらをドッキングさせる感じですね。例えば書いたメロディが「ラララララ」で「5文字入るな」と思ったら5個の丸を描く。その要領で1曲分の白い玉を書いていって、メモと照らし合わせながら曲の全体像と着地点をまたメモして。それからストックしておいた単語を丸の中にポコポコと当てはめていくんです。どうしても3文字のところに5文字を入れたいけど無理だなってなると、類語辞典を引いて3文字の言葉に置き換えたり、みたいな感じで作っています。
──先割りで書いたメロディに、かなり几帳面に準じるんですね。
そのほうが必要なものと不必要なものが目に見えてわかるので、曲のプランが立てやすいんです。ちょっと着地点がプランからズレ始めたら、プランBかCに転んでもいい。歌詞をふた通り書いて、どっちがいいかな?と選ぶときもありますね。レーベルのスタッフには作り始めの時点で「BOOM BOOM SATELLITESみたいなシンセが鳴ってる四つ打ちサウンド。スーパーカーっぽくもある」とか「超Cymbalsリスペクトな曲で渋谷系ラブサマちゃんを目指そうと思って。それを夏っぽい曲にしたいなと思ってる」とかざっくりと話しておいて、そのあとは勝手に作ってできたら聴いてもらうという感じですね。
──今おっしゃった2つはまさに今回のCDの収録曲ですね?
はい。「FLY FLY FLY」がブンブンみたいなほうで「海を見に行こう」がCymbalsリスペクトな曲ですね。「FLY FLY FLY」はスカイダイビングが決まってから歌詞を書きました。
なんか、飛びたかったのかもしれない
──CDタイトルの「人間の土地」というのは「星の王子さま」のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリのエッセイのタイトルから?
そうです。確かサン=テグジュペリって手紙を郵送するためのパイロットとして働いていて、その体験をもとに書いたエッセイのタイトルが「人間の土地」で、すごく好きな本だったので。タイトルで悩んでいたとき、「FLY FLY FLY」から飛ぶことにまつわる本を読んでみようかなと思って、ひさしぶりに読んだらけっこうリンクして感じたので、タイトルに借りてしまいました。
──この「人間の土地」は“飛ぶこと”がモチーフとなった「FLY FLY FLY」で始まり、冒頭で「一週間に2回もジャンプするなんて 自分をすごいやつとでも思っているんだろう?」と歌うRadioheadの「High and Dry」のカバーで終わります。これは自覚的にそうしたのですか?
あ、確かに! 無自覚でした。今気付かされました! もうここからそういうことにしておこうかな(笑)。
──しかも「LSC」では最後に「Tobiuo」というシークレットトラックがあって、飛び魚が出てきましたよね?
本当だ! ぎゃーこわいーやめてー!(笑)
──だからもしかしたら前作と今作は“飛ぶこと”でつながっていて、また今作は“飛ぶこと”で終わる作りにしたのかなあと思っていたんですけど。
うわー、そっかあ……うん、なんか、飛びたかったのかもしれないですね。スカイダイビングもやったし。でも飛ぶことに対する動機や衝動って誰にでもありませんか?
──それはわかります。
ですよね!? 年始に凧揚げをしたんですよ。凧って私が操っているのに、私は飛べなくて、ビュンビュン上に飛んでいくじゃないですか。なんかそのときに飛ぶことについていろいろと思いを巡らせていたことは確かにあって。私の通ってる学校の近所に日本で初めて飛行機が飛んだ場所みたいなスポットがあって、飛行機のモニュメントがたくさんあるんですよ。だから飛ぶことに頭が支配されていたのかもしれないですね。あと飛ぶことって無力感を感じるというか。
──無力感?
どこか風任せなところがあるじゃないですか。サン=テグジュペリの「人間の土地」を読んでいても思うんですけど、自分の力ではどうにもならない強大な力が働いているというか。でも私はその無力感の中で「もうどうにもならないから適当に飛ばしてくれや」と投げやりに任せてしまうような気分になることが、ちょっと気持ちいいんですよね。
パンの耳でできたラスクがヒットしちゃった感じ
──ちなみにラブサマちゃん、今日はワンピースですが、Tシャツは?
私、パンツやスカートが似合わなくて、ほぼワンピースしか着ないんです。Tシャツは部屋着ですね。ドンキの400円の無地TシャツとかバンドTシャツとか。
──ちょうどバンドというワードが出ましたが、この「人間の土地」は前作までの宅録と言うか、個人での制作とは対照的にバンドサウンドが基調で、そこに打ち込みを足したというアレンジですよね。この変化の理由というのは?
なんか「向いてないな」って思ったんですよね。「私の好きなもの」(「LSC」収録)という曲がたくさんのリスナーに気に入ってもらえたんですが、あの曲には生楽器はまったく入ってないんですね。「ベッドルームの夢」という曲を真面目に作っていたときに煮詰まって、作業を一旦止めて休憩しようと思って作ったのが「私の好きなもの」だったんです。だからパンの耳でできたラスクとか、そういう感じのものがヒットしちゃったという感じだったんですよ。それで一度は電子音楽もいけるかなとか思ったんですけど、いや、いけるわけねーだろ?と思い直して(笑)。
──それはなぜでしょうか?
だって「私の好きなもの」って、ガチの打ち込み畑の人からしたら完全に鼻で笑われるような曲ですからね。でもその鼻で笑われちゃうようなユルさがいい曲だとも思っていて。ただああいう曲をガチンコで作ろうとすると、まだそれができる土壌は私の中で養われていないんですよね。だからまずは自分の得意なことをやり切って、本当に趣味嗜好がそっちに移ったら、打ち込み中心で行こうかなあと思って。この「人間の土地」で弾いてくれているサポートメンバーとはもう2年くらいの付き合いになるんですけど、だんだん信頼関係も築けてきたので、この人たちと演奏するモードになっているというのも理由の1つです。
──つまり本来好きだったバンドサウンドをここでちゃんと通過しておこうと。
うん。そういうことですね。
──「FLY FLY FLY」とか、夏フェスで演奏したらお客さん首振って跳ねてタオルとか回してくれそうじゃないですか。
私のお客さん、根暗な方が多い印象なのでそれは叶わないかもしれないですが、叶ったら素敵かもしれませんね……。
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今いる場所から脱したいという気持ち
- ラブリーサマーちゃん「人間の土地」
- 2017年8月2日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
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初回限定盤 [CD+DVD]
1944円 / VIZL-1170 -
通常盤 [CD]
1296円 / VICL-37279
- CD収録曲
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- FLY FLY FLY
- 海を見に行こう
- ファミリア
- High and Dry
- 初回限定盤DVD収録内容
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- ラブリーサマーちゃん、空を飛ぶ。
- ラブリーサマーちゃん インストアイベント
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- 2017年8月3日(木)東京都 SHIBUYA TSUTAYA
- 2017年8月5日(土)東京都 タワーレコード新宿店
- 2017年8月18日(金)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店
- ラブリーサマーソニック 2017
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- 2017年8月25日(金)東京都 WWW X
出演者ラブリーサマーちゃん / Nyantora / PELICAN FANCLUB
- 2017年8月25日(金)東京都 WWW X
- ラブリーサマーちゃん
- 1995年生まれ。2013年の夏に自宅での音楽制作を開始し、インターネット上に音源を公開していく。ポップでキャッチーなサウンド、チャーミングな歌声が話題を集め、ネットを中心に人気を獲得。2015年11月に1stアルバム「#ラブリーミュージック」を、2016年4月から3カ月連続でシングルをリリースする。2016年11月にSPEEDSTAR RECORDSからメジャーデビューアルバム「LSC」をリリース。2017年8月に新作CD「人間の土地」を発売した。