音楽ナタリー Power Push - ろん
人気歌い手とプロデューサー恩田快人、それぞれが考える「J-POPの魅力」
ろんちゃんは初音ミクの実写版
──ではここからは、ろんさんが歌った今回の「そばかす」についてのお話をお伺いできればと思います。まず、ろんさんの歌声を聴いての第一印象はいかがでしたか?
YUKIちゃんの「JOY」をカバーしたのも聴きましたけれど、本当にいろんな曲をカバーされていますよね。ものすごく振り幅の広い、万能に近い歌い手の方だと思いました。すごくポップでキュートな声と思いつつ、その一方でR&Bっぽい歌い方もすごくうまい。何でもできちゃう人だし、とにかく歌うこと、音楽がすごく好きな人なんだなって思いました。
──今回は恩田さんご自身が作った曲のカバーをサウンドプロデュースしたわけですが、どういうことを考えてアレンジを作っていったんでしょうか?
万能に近い人だから何でもできるかなとは思いつつ、やっぱり彼女の声の一番おいしいところが出るキーやテンポで作りたいと思いました。それで、キーは原曲のままですけれど、テンポを少し上げました。それと、ろんちゃんのイメージとして、ネット世代の申し子というか、初音ミクの実写版みたいなイメージを勝手に感じていたんです。だから、スピード感のあるデジタルなイメージ、シューティングゲームみたいに音がパーッと洪水みたいに現れる感じのアレンジを作れたら、すごくいいなと思いました。
──今回のアルバムにはほかにもいろんなJ-POPのカバーが収録されていますが、ほかの曲もお聴きになりました?
聴きました。「そばかす」を歌ったこの声で、こんなに大人っぽい感じも出せるんだって思いました。やっぱり、すごく幅広いなと思いましたね。
──アルバム全体を聴いてどういうふうに感じましたか?
ろんちゃんの歌も素晴らしいけど、トラックもすごい人たちが集まっていて、もう、タジタジですよ(笑)。相当濃いアルバムだと思います。プロデューサー陣がそれぞれ自分の色も出しつつ、でも、ろんちゃんの歌が真ん中にある。すごく面白いですね。
──今回のカバーは「J-POP ZOO」と銘打っているわけですが、「J-POP」という音楽ジャンルは1990年代、2000年代、2010年代といろんな変遷をしてきたと思います。JUDY AND MARYが活躍していた時代の「J-POP」について、恩田さんはどう見ていますか?
60年代から70年代、80年代半ばまでは、やっぱり、いわゆる歌謡曲の人がすごく多かったんだと思うんです。もちろんフォークやシンガーソングライターの方々もいらっしゃったし、YMO、RCサクセション、井上陽水さん、松任谷由実さん、山下達郎さんと、いろんな先輩方が土台を作り上げてきた。バンドやアーティストがそこの土台に乗っかって一番セールスを伸ばすことができたのが、80年代後半から90年代だったと思います。
J-POPを聴いて、そのルーツをどんどん辿ってほしい
──1990年代はCDもメガヒットが続いて、音楽業界も最も勢いがある時代でした。
いろんなものが実を結んだときだったとは思いますね。でも、今の時代も変わらないものはあると思うんです。それは、情熱を持って、何かしらを成し遂げたいと思ってる人が成功するということ。AKB48も、デビューしていきなり売れるんじゃなくて、アイドルでもいわゆるバンドと同じように秋葉原から少しずつ階段を登って東京ドームまで行くようなことを体現したかったと秋元康さんがインタビューで言っていた。そして今もSEKAI NO OWARIやONE OK ROCKのように、やり方は違えどライブハウスから一歩ずつ階段を登っていったバンドがセールスを上げている。だから、時代ごとに形は変われど、誰かしらパッションを持っている人がいて、その熱量が大きい人がセールスを上げていく。そこは変わらないですね。
──今の若い世代にはJ-POPを聴いて育ち、そこをルーツに音楽を作る人も増えているようにも思います。
そうですよね。僕も高校生の頃にYMOやRCサクセションを聴いてカバーしていましたけれど、今はJ-POPだけを聴いて育った音楽の作り手も増えていると思います。それに、自分は洋楽に憧れてたし、実際にLAでレコーディングをしてみたりもしたんですけれど、やっぱりその土地に生まれ育たないと本場のものにはならないんですよね。英語でジョークを言って笑ったりしたような育ち方をしてこないと、英語の世界で音楽をやるのはなかなか難しい。だから、日本で音楽を作るんだったら日本語で、胸にキュンと染みたり、グッと前を向けるような気持ちになれたりする音楽を作るというのもすごく大事だと思います。ただ一方で、作り手としてはどんどん音楽を掘り下げていくのも重要なことだと思うんです。僕がTwisted SisterからThe Shangri-lasに辿り着いたように、J-POPを聴いてそのルーツをどんどん辿っていく。そうすると、今の若い世代の人たちも、ここ最近のムーブメントだけじゃなくて、深いところから影響を受けたものを作ることができる。そうなれば、音楽の世界がもっと面白くなるんじゃないかと思います。
- ろん J-POPカバーアルバム「ろんかば -J-POP ZOO-」2015年8月26日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定直筆サイン入りストラップ同梱盤 [CD+グッズ] 2808円 / WPCL-12183 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 2376円 / WPCL-12172 / Amazon.co.jp
収録曲(カッコ内はオリジナルアーティスト)
- RPG(SEKAI NO OWARI)
produced by 亀田誠治 - そばかす(JUDY AND MARY)
produced by 恩田快人、鳥海剛史 - 午前8時の脱走計画(Cymbals)
produced by ミト(クラムボン) - スピカ(スピッツ)
produced by ジミーサムP - First Love(宇多田ヒカル)
produced by keeno - ESCAPE(MISIA)
produced by フルカワユタカ - ブルーバード(いきものがかり)
produced by 鈴木Daichi秀行 - ENDLESS STORY(REIRA starring YUNA ITO)
produced by おさむらいさん - JOY(YUKI)
produced by ジミーサムP
<ボーナストラック>
- スイートマジック(2015 Summer ver.)
produced by Junky
ろん
ニコニコ動画を中心に活動する歌い手。初めて動画を投稿した際にイギリス・ロンドン在住だったことから「ろん」と名乗るようになった。2010年5月に投稿した動画「おちゃめ機能 歌った」で一気に注目を集め、6月には自身初のミリオンを達成。同動画は2012年3月にニコニコ動画「歌ってみた」カテゴリ史上初の600万再生となり、2015年8月の時点で再生数は1040万を超えている。2011年11月に初のソロアルバムとなる「EXIT TUNES PRESENTS ろん BEST -ひっしに歌ってみた編-」を発表。2015年8月にはJ-POPカバーアルバム「ろんかば -J-POP ZOO-」をリリースする。キュートかつ愛らしい歌声で中高生を中心に絶大な支持を集め、Twitterのフォロワー数は22万人を超える。
恩田快人(オンダヨシヒト)
兵庫県神戸市出身のベーシスト / 音楽プロデューサー。1982年にヘヴィメタルバンド・PRESENCEを結成し、1990年にヘヴィメタルバンド・JACKS'N'JOKERに加入した。その後、映画「いつかギラギラする日」の撮影で出会ったYUKIとともに1992年にJUDY AND MARYを結成し、同バンドのリーダーを務める。JUDY AND MARYは「Over Drive」「そばかす」などの大ヒット曲を飛ばし、「NHK紅白歌合戦」への出場や東京ドーム公演などを行う国民的人気バンドとなるが、2001年に解散。その後はWhiteberryなどのプロデュースや、さまざまなアーティストへの楽曲提供、辻仁成率いるZAMZA N'BANSHEEへの参加など、多方面での活躍を見せている。