2020年11月、世界に名を馳せる音楽プロデュースチームであるジャム&ルイスのサポートのもと、映画「羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来」の日本語吹替版主題歌「Unity」でデビューしたLMYK。その後2021年にリリースされた「0(zero)」もテレビアニメ「ヴァニタスの手記」のエンディングテーマに採用され、国内外で話題を呼んでいる。去る6月1日にリリースした配信シングル「Square One」はこれまでの2曲から一転して、軽やかなビートと穏やかに開けた歌の融合が印象的な楽曲に仕上がっている。
「Square One」は今年3月に開局したBS松竹東急の月曜ドラマ第1弾「いぶり暮らし」のオープニングテーマとして書き下ろされた楽曲。同棲生活3年目の男女が燻製を通してお互いの仲を深めていくというドラマのストーリーに寄り添いながら、自身のソングライティングにおけるテーマの核心と向き合って制作されたという「Square One」が完成するまでの行程と、楽曲を重ねるごとに浮き彫りになっていく彼女のアーティスト像について、LMYKに話を聞いた。
取材・文 / 三宅正一撮影 / 本田龍介
意識したのはm-flo
──新曲「Square One」は2ステップを彷彿とさせる軽やかなビートや歌の在り方も穏やかに開けていて。ここまでリリースしてきた「0(zero)」や「Unity」との音楽像におけるコントラストも含めて印象的でした。
最初にドラマ「いぶり暮らし」のオープニングテーマのお話をいただいて曲を作り始めたんですけど、当初、プロデュースチームのジャム&ルイスのJimmy(Jam)さんが作ったトラックはここまでアップテンポなものではなかったんです。ドラマサイドからフィードバックをもらったときに「もう少し明るい曲調で」というリクエストをいただいてトラックを作り直したんですね。再アレンジを手がけてくれたのが、ライブで鍵盤を弾いてくれている堀越亮さんで。こういう明るい感じのトラックは今までの自分にはなかったタイプなので結果的に新しい一面を出せたなと思いますし、ドラマのオープニングテーマにふさわしい曲になったなと思います。
──これまでの2曲はコンテンポラリーなアンビエントやインディR&B、ビートミュージックなどをサウンドプロダクションとして取り入れつつ、そこに陰影の濃い歌を乗せながら、いかにポップスとして昇華させるかというアプローチをしてきたと思いますが、そもそもこういうオープンマインドなポップサウンドもご自身のルーツにはあるわけですよね?
はい、ありますね。例えばこの曲を作るときに意識していたのはm-floだったりして。
──ああ、まさに。それはビートからも合点がいきます。
m-floは実際に私もリスナーとして聴いて育ってきましたし、小さい頃は主に日本のポップスを聴くことが多かったんです。
──これまでのインタビューでも玉置浩二さんをフェイバリットに挙げていましたよね(参照:LMYK「0(zero)」インタビュー)。玉置さんの楽曲はよく聴いていましたか?
はい、安全地帯も含めてよく聴いていました。玉置さんの歌は、ほかのアーティストとは伝わってくるものが違うような印象があって。高校生くらいのときに初めて玉置さんの歌を聴いたんですが、心の動かされ方が今までと違う感じがしたんです。
──歌唱力と人間力のすごみが一体となって伝わってくる感じがありますよね。
そうですね。声と玉置さん自身から発せられる気持ちの部分の両方にすごく惹かれました。
──今はアルバムに向けていろんなタイプの楽曲を制作しているんですか?
いろんなタイプの曲を作ってます。ここまでの3曲は全部タイアップと向き合って作ったものでもあるので、そうじゃない曲をこれから聴いてもらうのは楽しみでもありますね。
“確かさと不確かさ”を歌いたい
──デビューから連続でタイアップ曲を作り歌うというのは恵まれているとも言えますが、同時にいきなりタイアップのお題と向き合うという意味でかなりタフな経験でもあると思います。そのあたりはどうですか?
やっぱり何もお題がなく自分の中からそのとき湧き出た感情を曲にするのと、タイアップのお題を意識して曲を書くのでは、脳の違う部分を使っている感覚がありますね。ただ、タイアップと向き合っているときにも、自由に曲を書いてるときと同じ脳の部分を使ってるという感覚もあるんです。もちろん、お題があってこそ生まれるものもあるので、この経験はすごく楽しいし、貴重な挑戦をさせていただいているなと。
──確かにどの曲もサウンドのアプローチは異なれど、歌の核としてはLMYKさんがいかに自分自身と向き合いそれを形象化するのかという核心が通底していますよね。
はい。これはもう、自分の性格がそうさせるというか。自分と向き合って、溜め込んでいるものをタイアップのお題に混ぜていくという感じで。
──どのようなタイアップであってもご自身の内面から出てくるものをそこにぶつけることができるという感覚がある?
ありますね。誰しもが自分の人生を歩んでいますし、そこに他者がいて、世界がある。その点においては、タイアップ作品がどのようなストーリーであっても共通する感情があると思うので、それを反映させようと思ってますね。
──楽曲制作を重ねることで、歌の核心にあるテーマをどんどん深く掘っていけるという実感もあるんじゃないですか?
あります。曲作りを通して「私はこれをずっと言っているんだ」という気付きがあって。自分自身との対峙の先に自分がいなかったという感覚があるんです。
──自分がいなかったというのは?
「自分とは誰なんだろう?」とか「自分の存在とはどういうものなんだろう?」ということを小さい頃からずっと考えていて。それを、音楽を通してもずっと問い続けてると思うんですね。なので、私の人生はいつも“存在”というテーマと向き合っているんだなって。“セルフィッシュ”という言葉があるじゃないですか。それは、わがままに何かをするということで。その逆が、“セルフレス”ですよね。セルフレスな行動ができる人は自分の損得を抜きに他者のために考えて、行動できる人。
──献身的になれる人ですね。
はい。そのセルフレスの“レス”って自分がいないというふうにも捉えられるなと思ったんです。上とか下とかなく、他者と自分がイコールにある状態というか。自分とまったく同じ存在のように相手と接することができるということこそ、セルフレスな状態なのかなって。そういう意味で、自分と対峙した先にあるのはセルフレスな状態で、それが私の人生であり私の音楽のテーマなんだと思ったんです。これは今回の「Square One」という曲の話につながるんですが、「Square One」は“確かさと不確かさ”という矛盾に意識を向けて書いた曲なんですね。確かなものというのは「これが自分の名前で、こういう経歴で生きてきた」という部分。自分が確かに積み重ねた日々を「Square One」で描いている日常の描写に反映させているんですけど、一方で時間の感覚というものはすごく不確かなものでつかみどころがない。その不確かな感覚を他者と共有するのは難しいかもしれないけれど、だからこそ同じ時間を過ごすときに他者に対する思いやりが大切だと思っていて。そうやって自分と他者が持っている確かなものと不確かなものという矛盾を尊重し合いながら、自分と他者をイコールの存在として捉えられるような曲を書きたいと思ったんです。人間はどうしても白黒を付けて分けたがる生き物で、それは動物的な生存本能があるゆえでもあると思うんですけど、そこに対する違和感をずっと持ち続けてきたんですね。幼い頃からどの場所に自分がハマるのか、どの枠に入ったらいいかわからないという葛藤がずっとあって。それで私の歌はこういうメッセージを表現しているんだと思います。