昨年10月に結成15周年を迎えたLM.Cは、ボーカリスト・mayaと、ギタリストのAijiという2人組体制を貫き、これまでロックはもちろん、ポップソングからEDMなど、ジャンルを問わない多彩な音楽を生み出してきた。2020年以降は単発のライブを中心に活動。新曲リリースが待たれていた中、ついに4月6日に約3年半ぶりとなるアルバム「怪物園」を発表した。これまでのカラフルなビジュアルイメージから一転、モノクロのジャケットにインパクトのあるタイトルを冠した本作に驚いたファンも多いはずだ。アルバムにはヘビーなギターリフが際立った「Valhalla」や歌謡曲テイストのメロディで踊らせる「Panic Time」、エレクトロなビートが印象的な「Montage」など全11曲を収録。「怪物」という言葉がぴったりな、個性的でギラついたロックチューンが並んでいる。
進化したサウンドにコロナ禍を生き抜くリアルな歌詞が乗り、時代に立ち向かうアグレッションとLM.Cらしいポジティビティがしっかりと共存した、まさに“2022年のLM.C”と言うべき傑作「怪物園」に、2人はどのようにしてたどり着いたのか? 決して平坦ではなかったその道のりを、赤裸々に語ってくれた。
取材・文 / 後藤寛子
やっと音楽に興味を持ちました(笑)
──3年半ぶりのアルバムとなりますが、ここまで期間が空いた理由は?
Aiji(G) アルバムを出すならツアーをやりたいという気持ちがあったので。コロナ禍に入って以降、ツアーが難しいんだったらアルバムは出さないでおこうとは思ってました。
maya(Vo) もちろんライブのためだけではないんですけど、やっぱりそれ込みで音楽を作ってきたんだなというのを改めて感じましたね。
Aiji ただ、ずっと刀は磨いておかないとなというところで、作曲はずっと続けていました。時間はほぼ無限にあったから、今までだったら1時間で答えを出していたところを、2時間でも3時間でも使えたし。結果的に「怪物園」のほとんどの曲はコロナ禍以降に作ってる曲なので、意味はあったと思います。
──でも、アルバムやツアーというゴールがないまま曲を作るのは、なかなか新鮮な作業だったんじゃないですか?
Aiji そうですね。今まではだいたい締め切りがある中で制作してきたので、初めてだったかもしれない。だから、モチベーションの維持は難しかったです。自分の中で何かしらの課題を見つけてみたりして……普段は自分をバンドマンだと思ってるんですけど、そのときはバンドマンじゃなくて作曲家、音楽家として音楽と向き合おう、みたいな気持ちで生きてました。
──mayaさんはいかがですか?
maya コロナ禍に入ったあとは、とりあえずなんにもしてなかったですね。何もしないことをするという、くまのプーさんみたいな感じ(笑)。別に何かを憂いたり、悲観的に見たりしていたわけではないんですけど、曲を作るとか歌詞を書くというモチベーションは一切なかったから、どうしたもんかなあと思ってました。「Brand New Songs」(2020年4月発売のCD)はライブが決まっていて、そこに向けての気持ちで作れたんですけど、それ以降は何に向けて何を歌うべきかもわからないなと。ただ、そういう時間も無駄にはならないと思うし、バンドとしても、そもそも自分の人生としても、教訓として自分の中に残るものなので。必要以上に何かを意識するということではなくて、今まで自分たち、そして地球上の誰もが経験したことがないような時代をちゃんと無駄にならないように生きていたら、いつか何かできるんじゃないかなという期待をして生きていました。
──なるほど。そういう時間だったんですね。
maya そもそも、2019年の誕生日ライブの前後で、自分の人生の節目として、今までやってなかったことをやっていきたいなという気持ちが芽生えてたんですよ。大幅に何かを変えたいとか現状に不満があるわけじゃなくて、自然と変わっていけたらと思っていた中で、ちょうどコロナ禍が重なって。今振り返ると、変わったのは、やっぱり音楽との向き合い方だと思います。やっと音楽に興味を持ちました(笑)。家のスピーカーとか機材をリニューアルするところから始まって、音楽にまつわることへの関心が以前とは比べられないぐらい深くなりました。音楽の聞こえ方が変わったことで、いろいろ聴くようにもなったし。それは今もですけど、とにかく音楽って楽しいな、素晴らしいなという時期を過ごしてます。この数年、誰しも自分の人生とかいろんなことに向き合う時間が増えたと思うんですよね。自分もそれは同じで、そうやっていろいろ向き合う中で、音楽の素晴らしさも知って……昔から自分のこと好きなんですけど、そんな自分のことをより好きになりました(笑)。より好きな自分になれたという感じかな。
──Aijiさんから見て、mayaさんの変化は感じました?
Aiji うーん、あんまり実感はないですけど。でも、音楽を好きになってもらえてよかったです(笑)。
タイトルを言われたときに初めて点と点が線で結ばれる
──そこから、そろそろアルバムを作ろうと動き出したのはいつ頃なんですか?
Aiji 何かしら音源を作ろうというのは、曲を作りながらずーっと思ってたんですよ。それがミニアルバムなのか、フルアルバムなのかは答えを出さずに、曲ができたらmayaに送って、いつか出さないとねって。LM.Cの場合は、これまでも何かコンセプトありきで作品を作りますというやり方じゃなくて、そのときに生まれた楽曲の中から今やるべきものをチョイスして、結果アルバムとして世に出すことが多かったので。やり方としては大きくは変わらないですね。
──でも、できあがったアルバムを聴くと、コンセプチュアルに感じました。
Aiji それはたぶん、最初と最後の曲がインスト曲なのも大きいと思います。mayaから「『怪物園』というタイトルの作品にしたいです」っていうのと同時に「最初と最後はインストの曲にしたいんで作ってください」ってムチャぶりが来たんですよ(笑)。そのときには、mayaには全体像が見えてたんでしょうね。
──「怪物園」というタイトルもですし、モノクロのジャケットからして、LM.Cとしてはかなり異質ですよね。
maya 本当におっしゃる通りで。でも、結果的にこうなったのであって、必要以上に何か驚かせてやろうとか、奇をてらおうみたいな気持ちはなかったんですよ。もとはといえば、僕がいろいろ音楽を聴くようになったところからつながるんですけど、サブスクとかで曲を聴くようになったことで、フルアルバムを作る重要性をほぼ感じなくなって。「フルアルバムはちょっと想像できないですね」という話をしていたんです。でも、新曲だけのミニアルバムにして「Brand New Songs」の3曲が入らないとしたら、この子たちが報われない部分があるような気がして。そんな中で「怪物園」というタイトルを思いついたときに、これなら新曲たちに「Brand New Songs」の3曲も足してまとめられる、ばっちりなタイトルだなと思ったんですよ。
──なるほど。「怪物園」というタイトルはどこから? かなりインパクトが強いワードですが。
maya なんとなく出てきたんですよね(笑)。でも、アルバムタイトルしかり、曲のタイトルや歌詞、ビジュアルイメージも、それまでのLM.Cからちょっとはみ出したもの、枠が広がるようなものというのは意識していました。漢字3文字のタイトルはやったことがないし、響きとしても絶妙なところに位置するなと思って。イメージとしては、ホラーとか日本の妖怪とかそういうものに寄らない、何かに振り切らないものにしたかったんです。だから、ジャケットもこういう形になりました。
Aiji 曲のタイトルもアルバムタイトルも、いつもmayaが付けるんですけど、タイトルを言われたときに初めて自分の中で点と点が線で結ばれるところはいつもあるんです。僕らは15年やってきて、何かもっとほかの表現がないかなとか、常にそれまでとちょっと違う何かをずっと探してきていて。そういった意味では、今までLM.Cが付けてこなかったようなタイトルですし、何物でもない、自分たちなりの作品になりそうだなあという気がしました。アルバムタイトルと一緒に発表したアーティスト写真も、顔が影になって見えないようなビジュアルにしたんですけど、それも今まで絶対やらなかったことだし。アルバムタイトルから想像できる世界観を大事にした結果、そこにも自分たちなりのビジュアリズムが出てるかなと思います。
──順番につながっていったというのがおもしろいですね。
Aiji いつもそんな感じですね。バンドじゃないから、大したミーティングもしないし。mayaから投げられたものを自分でキャッチして、また投げ返すみたいな。そのやりとりで成り立ってます。
10代の自分に聴かせたい作品にしたい
──タイトルもそうなんですが、楽曲からも全体的にシリアスさやヘビーさを感じて。シンプルに表現すると、とても“ロックなアルバム”という印象でした。ポップな部分はあえて入れなくてもいいと判断したのかなとも思いましたが、いかがですか?
Aiji そういうわけでもないんですけど、今まで以上にロックなアルバムにしようと思ったところはあります。ちょっとささくれ立ってるというか、オラついてる感じはありますよね。2016年に「VEDA」、2018年に「FUTURE SENSATION」というアルバムを出したあたりから、自分にとってのロックの原体験というか、自分が10代のときにカッコいいと思っていた音楽をやりたい、みたいなモードにどんどん入っていったんです。自分が10代だったらこういうロックなアルバムを聴きたいなとか、10代だった頃の自分に聴かせたい作品を作るようになって。それまでは、LM.Cでは自分のキャリアも含めてやったことのないことをとにかくやりたかったし、LM.Cのブランディングのことだけを考えて作品を作っていたんですけど。それがひと通り終わった実感があって、だんだんモードが変わってきたんですよね。
──LM.Cっぽさを考えるんじゃなく、逆に素直に作っていったと。
Aiji そうですね。「LM.Cだからこうしよう」ということではないというか。そういう時期は過ぎたのかなと思います。
──例えば「Valhalla」でのゴリゴリなリフは、意外とLM.Cでは珍しいですよね。
Aiji 確かに。でもまあ、自分が前のバンド(PIERROT)をやってたときからのファンの人とかには懐かしく感じる部分もあるだろうし。本当に、10代の自分に聴かせたい作品にしたいという気持ちに嘘をつきたくなかったですね。
──ギターも前面に出ていますし、しっかりとバンドサウンドを楽しめました。
Aiji そうですね。ただ、一般的なロックバンドと違って、LM.Cでは曲に必要がなければ別にギターソロも入れないですし、あくまで楽曲ありきなので。楽曲の世界観に求められれば派手なギターのリードを入れますけど、必要ないと思えば……例えば「Elephant in the Room」の間奏、前半部分では口笛を吹いていて、ギターじゃないアプローチにもなるし。無理にロックバンド然としようとは思ってないです。
「自分が歌いたいことってなんだろう?」というところに、これまでで一番向き合いました
──mayaさんはコロナ禍以降、歌詞を書くというモチベーションがなかったということですが、Aijiさんから楽曲を受け取ってどう感じました?
maya 自分が何もする気が起きない中、新しいものを生み出してもらえて助かるなと思ってました。だから、自分はもうとにかく1曲1曲に向き合っていくしかないなと。「怪物園」というタイトルが出てくるまでは、ミニアルバムなのかフルアルバムなのかもわからないし、どうしようかなという感じだったので。
──作詞に手をつけ始めたタイミングがあったんですか?
maya 「End of the End」がアルバムに向けて最初に作業した曲なんですけど、まずはこの1曲を完成させようというところからでしたね。作詞に限らず、例えば筋トレとかでも、何かしようと思ったときに間が空くとなかなか再開できないんですよ。あのときは気持ち的にそういう状態に陥っていて。作曲も作詞も、転がっていくことにより生まれるものは絶対にあるから、その第一歩が重要だったんですよね。特に歌詞は直接的に届くものだから、適当にこなしちゃうとそのあとにかなり響くよなと思って、かなり大変でした。入り口の部分として、何を歌えばいいのかっていう。そもそも歌いたいことがあってボーカリストになったり作詞を始めたりしたわけじゃないのもあって、「自分が歌いたいことってなんだろう? そもそもそんなものがあるのか?」というところに、これまでで一番向き合いましたね。結果的には、2020年からの世界の流れや今につながる状況、その当時の気持ちを言葉にしていきました。
──そこには向き合わざるを得なかったわけですね。
maya そうですね。コロナ禍で日々を過ごして、やっぱりその中で感じていた気持ちを表現することは避けられないなと思って。「End of the End」でようやく……覚悟というとちょっと堅いですけど、その気持ちを言葉にする気になれましたね。そうすることによって、また次のところに行けそうだなと思って臨んだことをとても鮮明に記憶しています。だから、このアルバムの曲は2020年4月に出した「Brand New Songs」の3曲とははっきり違うんですよ。「Happy Zombies」(「Brand New Songs」収録曲)では「ウイルス」という言葉を使っているんですけど、2020年以降だったらその言葉は使いたくないし。
──あまりにも直結してしまいますもんね。
maya 今回のアルバムに関しては、より歌詞に向き合う必要がありました。でも、ちゃんと向き合えてよかったです。
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自分で課したハードルが一番厄介なんです