ナタリー PowerPush - 横山健 × 博多大吉

映画「横山健 -疾風勁草編-」公開目前 ネットで交流深めた2人の初対談が実現

音楽はあるべき姿に戻ってきている(横山)

──ところで、健さんはアーティストであるのと同時にレーベル(PIZZA OF DEATH RECORDS)の社長でもあります。その両立は難しくないですか?

左から横山健、博多大吉。

横山 それこそ音楽界に吉本ぐらい強い会社があってくれれば、もしかしたらよかったのかもしれないですけど、今はないんですよ。どこも力を落としてきてしまってるし、ハード面にしてもソフト面にしても画期的なものを出すべき人たちが出してくれない。本当、音楽界に吉本欲しいですね。入りたいですよ。

大吉 吉本は嫌な思いしかしないですよ。

横山 ははははは(笑)。

──健さんは責任ある立場ゆえに、動きが制限されてしまうようなことはないですか?

横山 いや、むしろ音楽の場合はあるべき姿に戻ってきてるのかなっていう気すらします。やっぱり音楽とは言っても、クラシックみたいな音楽からロックンロールみたいなものまでいろいろありますしね。で、ロックンロールの場合は、ちゃんと自分の見せ方とか見せたいこと、主張がしっかりないと誰かが売ってくれてバンザイって感じにはならない。今後残っていくバンドっていうのは、音楽の質もさることながら、ブランディング力とか営業力とかちゃんと兼ね備えた連中だと思うんです。だから今があるべき姿なのかなって。音楽の才能はすごくあるけども、ほかは本当何やってるの?っていうミュージシャンがいっぱいいるんです。もうそういう奴は残れないですよ。70年代に活躍していればやれたんでしょうけども、残念だったねっていう感じです。

──吉本に所属されている大吉さんから見て、健さんのように独立した立場で表現活動している方はどう映りますか?

大吉 でも、吉本ってちゃんとした契約がないんですよ。口約束でやってるんで。日雇いみたいなもんなんです。

横山 へえー。

大吉 イメージとしては、巨大なイオンの中にいる小売店みたいな。なんか上の顔色伺いながら一生懸命品揃えを揃えてるような感じですかね。経営とかそういうのは全部任せてるっていう。

横山 その大元に対してどうアピールするかっていうのは、きっとコンビなりグループなりの戦略があるんですよね。

大吉 そうですね。たまに巡回に来るんですよ、社長とかが。そこでちゃんと「がんばってるな」っていうとこを見せると、なんかよくなります。あとは夜の接待(笑)。

──今後、無所属の芸人さんが世の中に出てきそうな感じってありますか?

大吉 まあ出てきたところで吉本が潰しにかかると思いますけどね。

横山 あはははは(笑)。

大吉 なので想像はつきにくいかもしれないです。

横山 とにかくちょっと……大きい傘の下にほんとは入りたいですよ(笑)。

大吉 やめてください(笑)。

横山 何がロックンロールだって気がします(笑)。

大吉 青年会議所の会合みたいになってる(笑)。

僕はガス抜きの役目になれればいい(大吉)

──大吉さんは大きい傘の下に入っていると、なかなかすべてを出しきれないっていうジレンマはないですか?

左から横山健、博多大吉。

大吉 いやもう時代の流れで、お酒飲んで博打してっていう芸人はもうダメでしょうね、たぶん。寂しいなあとは思いますけど。僕らが入った頃はそれが当たり前でしたから。今はもうコンプライアンスで問題になりますし、テレビに出たら出たでやっぱり言っちゃいけないこととかありますし。それこそほんとね、3.11以降はもういろんなタブーができちゃったりして。

横山 はい。うん、そうですね。

大吉 大変な人は大変でしょうね。僕はそこまで自我がないので、望まれてることだけやればいいと(笑)。反骨精神のある人とかはもう大変だろうなと。

横山 大吉さんの立ち位置絶妙ですね(笑)。そうは言いますけど、大吉さんって、すごい骨ある人だと思うんですよ、実は。全部わかってて……これ言ったらもしかしたら芸人潰しになっちゃうかもしれないですけど、すごくいろんなことが見えてると思うんです。

大吉 いえいえ、とんでもないです。

──アーティストもあまり発言しなくなっている傾向はあると思いますが、健さんはズバズバと言うタイプですよね。

横山 自分が言うことで自分にも言い聞かせられるんですよね。言ったことに筋を通さなきゃいけないって自覚するというか。で、またそういうところに人が付いてきてくれる。音とは違うところで生きる姿勢を見てくれたりとか。ちょっと大げさですけど、そんなことが実は一番やりたいことであったり。だって、音なんて12個しかなくて、その並べ方を考えたら、新しいロックンロールとか、新しい音楽ってそうそう出てきやしない。ましてや僕には作れない。だったら何で勝負するのか。自分独自の発想や存在感でやっていくしかないなって。どうですかね、大吉さん?(笑)

左から横山健、博多大吉。

大吉 12個の音ってすごいなあと。カッコいいなあと思って(笑)。いや、僕はもう芸人ですから、所詮。なんて言うんでしょう。いらないっちゃいらないじゃないですか、芸人なんて仕事。結局、気晴らしに見てもらうものなんで。例えば原発の問題でも、考え方が大きく2つあると思うんですね。で、僕がどちらかの考え方を言ったとしたら、そう思ってない方もいらっしゃるわけじゃないですか。その方が僕を見たときに笑えなくなるっていうのが嫌なんですよ。で、健さんみたいに思いを伝えて、「そういう思いを持ってる俺が作った歌だ」っていうのはカッコいいじゃないですか。「そういう思いを持ってる僕の作ったネタです」って言って、笑ってもらえる自信がないというか(笑)。そこで笑わせてどうすんだみたいな。辻褄が合わなくなるので。健さんはじめ、まだまだそういうことを言ってくださる方が芸能界にはたくさんいらっしゃるので、そういう方々に託して。あとはもう僕はガス抜きの役目になれればいいなと思ってやってるんで。

横山 いやー、僕らが思ってる以上に大吉さん、芸人っていうことの意味をよく考えてらっしゃるんですね。もしかしたら言いたくても言えないジレンマとか抱えてるかもしれないですけど、それすら見せないという。

大吉 まあ……。

横山 あはははは(笑)。大吉さん、僕が格好をつけてあげたんで、あとで奥さんのためにサインください(笑)。

東京に生きてる40歳のおっさんの面白いドキュメント(横山)

横山健ドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草編-」のワンシーン

──今回、ドキュメンタリー映画ができあがってみて、健さんはどんな感想をお持ちですか?

横山 うーん……まだ客観視できてないんですよね。……あんまよくわかんないです。でも、自分の全部じゃないかもしれないけども、断片をちゃんと伝えてくれるんじゃないかなっていう気はしてます。

──こういう映画を作ろうと思ったきっかけは?

横山 監督が、あるバンドのミュージックビデオを作っていて、その映像が非常に面白かったんで「ちょっとお前、俺撮ってよ」って。それが始まったのが2009年の暮れ。で、1回震災前に完成しそうだったんですけども、その直後に震災があったんで、もうちょっとやってみようかっていうことになりまして。そしたら、なんというか……東京に生きてる40歳のおっさんの面白いドキュメントになったと思います(笑)。

──この映画は全国の映画館で観ることができます。地方に住んでいる人にとっては、東京までの交通費や移動時間を考えると、近くの映画館でライブビューイングやこういうドキュメンタリー映画が楽しめるっていうのはすごくありがたいのかなと。

横山 そうですね。僕は日本中回ってますけど、それでもまだ遠いっていう人はライブビューイングとか、フィルムコンサートみたいなものでもやっぱ観てもらいたいですね。

──大吉さんもライブビューイングには興味ありますか?

横山健ドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草編-」のワンシーン

大吉 吉本がやれと言うなら……。

横山 あははははは(笑)。

──お2人でコラボとか。

大吉 僕、あのー、日本で一番歌が下手な芸人として登録されていると思うんです。

横山 あははは(笑)。大吉さん、歌が下手なんですね(笑)。

大吉 そうなんですよ。ほんと音楽のこと語るなんてもってのほかです。

横山 でも、もしかしたら逆の必然かもしれないですよ。もうコラボするしかない。爆音じゃなくても、僕アコギの曲とかも作ったりしてて、けっこう生々しく……(笑)。いや、面白いと思いますね。

大吉 ほんとあれ震えるんですよね、人前で歌うの(笑)。恐れ多いです。

Live’Spot 横山健ドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草編-」

横山健ドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草編-」

横山が自身の言葉で“横山健”を語り尽くす本作。生い立ちから始まり、ハイスタの栄光と挫折、さらには東日本大震災の復興支援のために尽力する横山の行動原理や思いが描かれる。

全国60劇場で1週間限定上映
2013年11月16日(土)~11月22日(金)
前売り 1800円 / 当日 2000円
前売り券は各劇場窓口・プレイガイドにて販売中。

左から横山健、博多大吉。
左:横山健(よこやまけん)

1969年10月1日生まれ。Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年からソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を展開して以降も、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月には初の日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。

右:博多大吉(はかただいきち)

1971年3月10日生まれ。1990年に博多華丸とコンビ博多華丸・大吉を結成し、福岡吉本第1期生としてデビュー。2010年に「年齢学序説」を上梓。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。


2014年3月31日更新