ちゃんと中華鍋の音してる!
──本作では監督自身が作詞・作曲した曲も多く使用されています。
長久 「タコの知能は三歳児」という曲は僕がまず歌ってみて、それを役者さんに真似して歌ってもらったんです。あとは「牛乳は愛」というパンク調の曲はCharaさんと浅野忠信さんの息子の佐藤緋美くんに歌ってもらっています。
──すべてカウントすると90曲近く使われているそうですね。
西川 そんなに!?
長久 短いものも合わせるとそのぐらいになりますね。
西川 途中ミュージカル調の曲もあったよね?
長久 浮浪者バンドの曲ですね。
西川 1コーラスでいいのに、けっこう尺使ってたよね(笑)。ほかには演奏シーンも面白かった。たまに映画とかアニメで、鳴っている音と楽器の演奏がリンクしていないことがあるよね。でもイシくんがドラムを演奏する場面、中華鍋を叩くタイミングがものすごくきれいに合っていて(笑)。
長久 気付いたんですか! あれそろえたんですよ。
西川 「ちゃんと中華鍋の音してる!」って思ったよ。
長久 彼、今まで楽器を演奏したことない状態からスタートしたんですけど、数カ月であそこまでできるようになったんですよ。それだけがんばってくれたから、音は丁寧に仕上げたんです。うわー、めっちゃうれしいです!
西川 楽曲にこだわっていても、演奏シーンは意外とないがしろにされがちなんですよね。
長久 ものすごい回数で練習スタジオに集まって、バンド練習を延々やってたんです。「もう1回!」「コーラス声ちっちゃい!」とか指摘しまくって(笑)。だからみんな、ちゃんと演奏もできるんですよ。
吐瀉物の次はウンコを目指せ
西川 今ってコンプライアンスを過剰なぐらい気にする人も多いと思うんですけど、本来そういった立場で仕事をしている長久監督が、こんなにリミッターを外して作ったからこそ表現できた部分もあると思います。どこを守ったうえで破綻させるべきか、わかっていることが実は大切で。そのあたりはすごく踏み込んで作った作品ですよね。逆に観終わって感じたのは、ハリウッド的なアプローチで作った長久さんの作品も観てみたいということ。ある意味ではこの映画、監督のやりたいことが爆発した……吐瀉物みたいなものじゃないですか(笑)。
長久 長編デビュー作が吐瀉物(笑)。
西川 もはやゲロ!(笑)
長久 確かにゲロっぽいメインビジュアルですけど(笑)。
西川 コンプライアンスや観客を引き込むための手法を固めて出した、ウンコみたいにしっかり形のある作品も観てみたい気もしたかな。
長久 なるほど。あえて「ウィーアーリトルゾンビーズ」とは真逆のスタンスの作品はいつか作ってみたいですね。
西川 いろんな作品を撮ってみてほしいです。日本にはなかなか挑戦させてくれる土壌がないけど、素敵な作品を観せてくれる人をどうやって支援できるかってことが、改めて大事だなって思いました。
長久 確かに「ウィーアーリトルゾンビーズ」を作ってみて、日本ではけっこう大変なところはあったんです。今回は運よくこんな形でアウトプットできたんですけど、次の作品を作るのは難しいと思う部分もあって。ハリウッドやヨーロッパでも作ってみたいですね。ニッチなところにずっといたいというわけではないので、いつか「E.T.」みたいな作品も作ってみたいです。
西川 そうなってほしいな。新しい発想でいろんなものを作れたらいいですね。そのときはぜひ、僕もどんどん使ってください。