Little Black Dressの“変化”④:仕事観
──キャリアを重ねるにつれて、仕事に取り組む姿勢で変わったことはありますか?
言葉遣いは変わったと思います。昔は何も考えずに思ったことを口にしていたけど、すごく気を使うようになりました。特にラジオの生放送とかライブのMCは編集ができないですからね。その場で咄嗟に出した言葉が、誰かを傷付けるかもしれない。それはLGBTQ+の方を支援するイベントに出演させていただいたり、今年の1月に起きた能登半島地震のボランティアに行かせていただいた経験も大きかったです。発信するうえで、言動は慎重に選ばなくてはいけないなと肝に銘じるようになりました。
──人前に立つ仕事である以上、発言1つひとつが注目されますからね。
シンガーとして、聴いてくださる方の立場に寄り添っていたいんです。だから、いつもリスナーの顔を思い浮かべるようにしています。ファンの方が増えれば増えるほど、1人ひとりの顔が見えなくなってくるので、そこは怖いところでもありますけど。
──確かにライブハウスより東京ドームでやるほうが観客の表情やリアクションは見えないでしょうしね。
聴いてくださる方にもそれぞれの人生があるわけですからね。1人ずつ抱えている思いも違うし、ライブを観て笑って帰りたい人もいれば、泣いて帰りたい人もいる。あるいは怒りを爆発させるためにライブに来ている人もいるかもしれない。私自身、心無い言葉をかけられた経験があるんです。そのときにふと気が付いたのは、言葉で攻撃してきている人も1人の人間なんだということで……。だから私自身も相手のことを想像しなきゃいけないなって考えるようになったんです。
──含蓄がある言葉です。
特に何かを表現する立場の人間は、言葉を大事にしなくちゃいけないなと。言葉ってすごく重いですからね。いい言葉も悪い言葉も、いつまでも胸に残り続ける。もちろん歌詞で人の人生を明るく照らすこともできるはずだと思いますし。
──ところで今さらですが、なぜLittle Black Dressというソロプロジェクトにしたんですか? 遼名義のソロ歌手にしなかった理由は?
事務所の先輩であるMISIAさんのライブにオープニングアクトとして出させていただいたとき、一張羅の黒いワンピースを着ていまして。そんな私の姿を見て、アートディレクターの信藤三雄さんがLittle Black Dressと名付けてくださったんですよ。うれしかったですね。信藤さんは色にこだわりがある方だったんです。ブラックには“闇”という面があると同時に“高級感”もありますよね。品格があるといいますか。すごくカッコいいと思うし、曲の中でもその2つの要素は表現していきたいと考えています。
新曲「チクショー飛行」「猫じゃらし」はリスナーの人生に寄り添った2曲
──さて、ここからはキングレコード移籍第1弾の配信シングルとなる「チクショー飛行 / 猫じゃらし」についてお伺いします。ズバリ聴きどころを教えてください。
まず「チクショー飛行」に関しては、タイトル通り、理不尽な思いをしたときに「チクショー!」と爆発する感情を代弁するような曲になりました。悔しさに支配されてどうしようもないような状態を、曇り空を突き抜けて飛んでいくジェット機にたとえてみたんです。
──曲名には、そういった意味が込められていたんですね。魂からひねり出すようなシャウトも感情が爆発しているような印象を受けました。
この曲は以前からライブで演奏していたんです。だからレコーディングでは、ライブでお客さんと一緒に「チクショー!」と叫んだときのことを思い出しながら録りました。
──作詞作曲に加えて、編曲も遼さんが手がけています。
アレンジを自分でやるのは初めてでした。歌詞とメロディはすごくシンプルでキャッチーにできているので、逆に音で感情の“グチャグチャ感”を出したいと思いまして。ライブではバンドで演奏しているので、リハーサル中に「もっとこうしたほうがカッコいいんじゃない?」と試行錯誤しながら仕上げていました。だから編曲は私名義になっていますけど、実際はみんなの手を借りながら作った感じですね。
──去年、ライブで「チクショー飛行」を演奏していた様子を観ましたが、ちょっと今とは曲の印象が違っていました。
確かに去年の段階からは、アレンジや音作りの面で変わっていますね。ずっとライブでやっている曲とはいえ、改めてレコーディングするとなると、世界観をわかりやすく伝えたいなと思ったんです。
──音源化された「チクショー飛行」はサウンドの質感が明らかに今までと違っています。楽器の鳴り方も生々しくてパワフルですよね。
そう言っていただけるとありがたいですね。今回は80年代からご活躍されているエンジニアさんからも意見を聞きつつ、「新しくするには、こっちのほうがいいんじゃないか」みたいな話し合いをすごく重ねたんですよ。あとドラムが山木秀夫さんという大先輩の方だったんですけど、山木さんの存在がかなり大きかったです。私がアレンジしたものを聴いていただいて、アイデアをどんどん出してくれまして。例えばイントロの印象的なドラムのフレーズなんかも、そういった感じで決まっていきました。
──70年代グラムロックのような印象もあります。
グラムロック! 確かにそうかもしれない。ナットのところをキーンと鳴らしたり、エコー、ディレイ、リバーブが全部かかった状態でプレイしてもらったりしていて。間奏のギターソロは、曇り空の中で雷が鳴ったり、激しい雨が降ったり、それで人々が右往左往したり……そういった感情を表現しています。
──一方の「猫じゃらし」は非常にドラマチックな構成になっています。
そうですね。「猫じゃらし」は歌詞とメロディにインパクトがあると言われることが多いんです。なんというか、人間の感情ってきれいごとだけでは済まされない部分があるじゃないですか。本当に心の内をブチまけるような部分と、それとは逆に理性的・客観的に状況を見つめているような部分……何もかも力が抜けてしまって、外をとぼとぼ歩いているような気分ですね。その両方を1曲に詰め込んでいるんです。
──なるほど。
あとポイントは、サビでマイナーからメジャーに転調するところ。そこはアレンジャーの曽我淳一さんと話し合って決めました。そこで一気に盛り上がるんじゃないかなと。
──「猫じゃらし」という牧歌的なタイトルには、どういう意味が込められているのでしょうか?
歌詞の中に出てくる「薔薇」と「猫じゃらし」という2つのフレーズは対比になっています。猫じゃらしというのは道端にたくさん生えている見慣れた植物。薔薇は特別な機会に人にあげたりするような花。自分にとって特別な薔薇にも惹かれるけど、なぜか見慣れた猫じゃらしのほうが心落ち着いたりもする。そういう、人の“もどかしさ”について歌っています。恋愛もそういうところがあると思うんですよね。自分にとっては素敵な相手はこっちだとわかっているけど、なぜかダメな男に惹かれてしまったりとか(笑)。
──遼さんの書く歌詞って独特で、普通はあまり歌詞に使われないフレーズが飛び出すことでドキッとさせられます。「猫じゃらし」でいえば、「ガソリン臭」「擦傷流血」とか。
おそらくそれは私が昭和の歌謡曲が好きということと関係しているんじゃないかな。昭和歌謡の歌詞って、いい意味でダサさがあるじゃないですか。今のJ-POPの歌詞とは、だいぶ違いますよね。そこが人の心をつかむところでもあると思うんです。身近に感じられるし、インパクトもあるし、癖になる。そういったニュアンスは自然と吸収しているかもしれないです。
──今回配信される2曲をリスナーにはどのように受け取ってもらいたいですか?
そうだなあ……。基本的に曲というのは、聴いていただいた時点でもうリスナーさんのものなんですよ。ただ私としては、皆さんの人生に寄り添った歌詞や曲を目指して書いていて。
──目線がリスナーに近い?
私自身が音楽に救われて、音楽をやり始めたという経緯もありますしね。常に皆さんに寄り添える、肯定してあげられるようなアーティストを目指しているんです。がんばれって一方的にエールを送るだけではなく、ときには一緒に闇まで堕ちて這い上がったり、ときには一緒に乗り越えていったり……。レコード会社を移籍して環境的には変わりますが、これからも人間臭さを出しながら活動していきたいです。
プロフィール
Little Black Dress(リトルブラックドレス)
1998年11月3日生まれ、岡山県出身の遼によるソロプロジェクト。幼少期に家族が聴いていた歌謡曲に強い影響を受け、高校1年の春に叔父からギターを譲り受けたことをきっかけに弾き語りを始める。2016年9月に奈良・春日大社で行われたライブイベント「Misia Candle Night」のオープニングアクトに抜擢。同公演で出会ったアートディレクター・信藤三雄に「Little Black Dress」と命名され、ソロプロジェクトをスタートさせた。2019年5月にシングル「双六 / 優しさが刺となる前に」でデビュー。2021年7月には川谷絵音提供曲「夏だらけのグライダー」でメジャーデビューを果たす。同年9月に2ndシングル「雨と恋心」、2022年6月に劇場アニメ「怪盗クイーンはサーカスがお好き」の主題歌「逆転のレジーナ」を配信リリースした。2024年6月にアルバム「SYNCHRONICITY POP」を発表。11月にキングレコード移籍第1弾シングル「チクショー飛行 / 猫じゃらし」をリリースした。
Little Black Dress Official Site