シティポップで大切なのは
──レコーディングには豪華な面々が参加されていますね。
そうなんですよ。ドラムは山木秀夫さんに初めて叩いていただきました。ベースは種子田健さんと美久月千晴さんです。シティポップというルーツを表現した曲をリリースするにあたって、やはり本物の方にやっていただくのが一番だなということで、その時代のヒット曲をたくさんレコーディングされている方々にお願いしました。アレンジは曽我淳一さんと作らせていただきました。いろんな世代かつ、いろんな時代で活躍されている方とご一緒することで新しいものが生まれると思うので。都会的なエッセンスや、ドライブしてても思わず体が動き出す要素はシティポップには欠かせないですからね。
──「マロニエの花」の制作はいかがでしたか?
「マロニエの花」ではコード進行にこだわり、デイヴィッド・フォスターの曲みたいにしてみました。Airplay(デイヴィッド・フォスターとジェイ・グレイドンにより結成されたAORユニット)の独特なピアノの音のポップさを取り入れたくて。私は安部恭弘さんの曲もすごく好きなんですけど、安部さんもおそらくAirplayとかデイヴィッド・フォスターから影響を受けていますし、それをさらに私が受け継いで新しいものにしたいなと思ったんです。コード進行もアレンジャーの曽我さんと試行錯誤した結果、ミュージシャン泣かせの難しい曲になってしまいました。今回ワンマンで演奏してくださるミュージシャンの方たちからもすでに「ヒエー」みたいな悲鳴が届いております(笑)。
──この曲を聴いて「マロニエっていい語感だな」と思いました。
最初は「ラララ」という仮歌でデモを作っていたんですけど、それを聴きながらドライブしていたら「マロニエ」というワードがふっと浮かんだんです。それまでマロニエの花自体よく知らなかったけど、いろいろ調べていくと季節感があったり、花言葉があったり。そこから物語を作っていった感じです。その物語については聴いてくださる方の想像力に委ねたいので、詳しく言わないでおきます。大きい目標に向かって走り続けていると、無謀すぎて心が折れそうな瞬間がたくさんあるんですね。その中でちっちゃい幸せを1つひとつ形にしていこうと思ったことをメッセージに込めています。聴いているといろんな景色が走馬灯のようによみがえりますね。ああ、こんなことをがんばったなって。
──「SPICE OF LIFE」は、これぞシティポップと言えるギターのカッティングが爽快です。
大好きな角松敏生さん、山下達郎さんの影響で、カッティングしてて気持ちいい曲を書きたいと思ったんです。最初は恋愛要素がある歌詞だったけど、その頃Rockon Social ClubさんのZeppツアーを一緒に回らせてもらって「これからライブが始まるよ、全部解放して心から楽しもうよ」みたいな曲がほしいなと思って。山下達郎さんもそういうテーマの曲が多いので書き直しました。あと、レコーディングで種子田さんと山木さんが「ここはもうちょっとこうしたほうがノリやすいよね」と言ってくれて、大幅に変更した部分もあります。シティポップって演奏者がどれだけ楽しく弾けるかもすごく大事で、それはライブでお客さんにも伝わっていく部分ですからね。
すべての出来事には意味がある
──「DRIVE OUR DREAMS」と「太陽にピース」はいかがでしょう。
「DRIVE OUR DREAMS」と「太陽にピース」は、作詞は私ですけど、作曲したのは知り合いの学校の先生なんです。数学の先生が趣味で音楽を作っていて、「いいじゃん!」ということで私のもとに来ていただきました。その先生はオメガトライブ世代なので、ご自身で作られた曲もすごくシティポップっぽかったんです。そこから私が曽我さんと相談して、Little Black Dressっぽい要素も入れさせていただきました。音楽のコード進行や理論に詳しい方って数学が得意な方が多いですよね。
──「太陽にピース」は夏らしいさわやかな歌詞も印象的です。
「太陽にピース」は昨年夏の「PEACEFUL PARK」開催時期に作っていたので、ライブ映えするような世界観にしました。私の大好きな方が亡くなったあとに書き留めていた詞も入れ込んでいます。このアルバムを聴いていただきたかったけど、叶わなかったので「これからも歌い続けていくよ、いろんな思いを胸にハーモニーさせていくよ」という思いを込めて。
──そういう思いが込められていたんですね。
そうなんです。「DRIVE OUR DREAMS」には、「一緒に夢を駆け抜けていこう」という前向きなメッセージを込めています。曲名がアルバムのタイトル候補になっていたくらい、思い入れが強い曲です。これからも1歩ずつ進んでいこうと自分に言い聞かせるために、「この道を正解にしていく」というワードをサビの最後に入れました。
──日本のポップス史において「道」というのは重要なキーワードで。大滝詠一さんも北原白秋さんと山田耕筰さんの「この道」から、松任谷由実(荒井由実)さんの「中央フリーウェイ」まで、洋楽に影響されながら進化してきた邦楽の歴史を解説されていました。
確かに「道」をテーマにした曲って多いですよね。それこそ大滝詠一さんの「A LONG VACATION」は、レコードで言ったら擦り切れるくらい聴きました(笑)。あのアルバムも楽曲のさわやかさに反して、歌詞は人生に寄り添うようなワードがちりばめられてますよね。そこは私もアルバムを作る際に強く意識していて。その大滝詠一さんの「A LONG VACATION」のジャケットも手がけられた永井博さんの未発表の絵を「SYNCHRONICITY POP」のアートワークに使わせていただきました。
──楽曲の世界観に合った素晴らしいジャケットです。
ね? 波の感じといい、ヤシの木の長さといい、ひと目見ただけで「永井さんの絵だ!」とわかる。2つのご提案の中から選ばせていただいたんですけど、この絵にはお花があって、砂浜があって、車があって。まるでこのアルバムのために描いてくださったかのように完璧すぎて、本当にシンクロニシティです。
──お話しいただいたいろんなことが「SYNCHRONICITY POP」というタイトルに集約されていきますね。
すべての出来事には意味があるし、自分へのメッセージだと思うんです。このアルバムが私だけじゃなくて、聴いてくださる方にとってのシンクロニシティにもなったらうれしいです。今の自分の状況に合う音楽とたまたま出会うことってあるじゃないですか? 失恋して悲しんでいるとき、ある曲に出会って励まされたとか、そういうのはやっぱり音楽が持つ力だと思うので、聴いてくださる方にとってもシンクロニシティになればいいなって。いろんな偶然が重なって、本当にご縁によってできあがったアルバムなので、たくさんの人に聴いていただけたらうれしいです。
RyoにとってのDRIVE OUR DREAMS
──この先、ライブが続々と開催されます。まずは6月12日、13日に東京・恵比寿のBLUE NOTE PLACEにてレコ発ライブ「SYNCHRONICITY POP」が行われますね。
素敵な会場なので、ずっとここでライブをやりたいと思っていたんです。BLUE NOTE PLACEは通常、DJタイムとライブ演奏が交互に2回入るんですけど、この日はレコ発ということで特別なタイムテーブルにしていただきました。
──7月20日はBillboard Live TOKYOで「CITY POP NIGHT」が開催されます。
恒例になったシティポップカバーライブの第4回で、今回はスペシャルゲストとして林哲司さんも出演してくださいます。バンドメンバーはまだ発表されていませんが、またしても豪華なメンバーですので、ぜひ期待してください。
──そして7月6日、7日に石川県産業展示館で開催される能登半島復興支援ライブ「PEACEFUL PARK 2024 for 能登 -supported by NTT docomo-」にも参加されます。
能登半島には、石川県が募集している災害ボランティアに参加して、今年2月と4月に行かせていただきました。2月にはMISIAさんも同じ時期に炊き出しに行かれていたので、そこにも同行させていただいて。やっぱり現地に行くとメディアでは知れないところを知ることができて、衝撃を受けるんです。だからもっと力になりたいと思って。「PEACEFUL PARK」2日目は7月7日ですけど、七夕の夜はみんなが星空を見上げて願いを込める日ですから、同じ空の下、能登の復興を祈って集まる方に寄り添える音楽を届けられるよう、がんばりたいです。
──能登半島は地震発生から半年経った現在もまだまだ支援が必要な状況です。
そうなんです。被災地には年配の方もいらっしゃいますから、ボランティアでは1人じゃできない力仕事もさせていただいたんですけれども、瓦礫撤去だけでなく心のケアもこれから必要だと感じました。被災者の方同士ではなかなかお話しできないようなことを、ボランティアの私たちなら聞くことができるんですよね。心のケアは音楽にもできることだから、そういった面でも寄り添えるよう活動していきたいです。MISIAさんのそばで炊き出しをさせていただいたときに、MISIAさんの姿を見て皆さん涙されたり笑顔になられたりするんです。そういう存在になることで1人でも多くの人を元気づけられるんだなと思ったので、私もそれに向かってがんばっていこうと思います。そういう意味でも「DRIVE OUR DREAMS」であり、「SYNCHRONICITY POP」ですね。
公演情報
SYNCHRONICITY POP
- 2024年6月12日(水)東京都 BLUE NOTE PLACE
- 2024年6月13日(木)東京都 BLUE NOTE PLACE
PEACEFUL PARK 2024 for 能登 -supported by NTT docomo-
- 2024年7月6日(土)石川県 石川県産業展示館
- 2024年7月7日(日)石川県 石川県産業展示館
CITY POP NIGHT
2024年7月20日(土)東京都 Billboard Live TOKYO
プロフィール
Little Black Dress(リトルブラックドレス)
1998年11月3日生まれ、岡山県出身のRyoによるソロプロジェクト。幼少期に家族が聴いていた歌謡曲に強い影響を受け、高校1年の春に叔父からギターを譲り受けたことをきっかけに弾き語りを始める。2016年9月に奈良・春日大社で行われたライブイベント「Misia Candle Night」のオープニングアクトに抜擢。同公演で出会ったアートディレクター・信藤三雄に「Little Black Dress」と命名され、ソロプロジェクトをスタートさせた。2019年5月にシングル「双六 / 優しさが刺となる前に」でデビュー。2021年7月には川谷絵音提供曲「夏だらけのグライダー」でメジャーデビューを果たす。同年9月に2ndシングル「雨と恋心」、2022年6月に劇場アニメ「怪盗クイーンはサーカスがお好き」の主題歌「逆転のレジーナ」を配信リリースした。2024年6月にアルバム「SYNCHRONICITY POP」を発表。同月に東京・BLUE NOTE PLACEにてライブを行い、7月にはカバーライブ「CITY POP NIGHT」を東京・Billboard Live TOKYOで行う。
Little Black Dress Official Site