Little Black Dressインタビュー|ニューアルバム「SYNCHRONICITY POP」でつないだ縁と偶然

シンガーソングライターRyoのソロプロジェクト・Little Black Dress。昭和歌謡やシティポップをルーツに持つ彼女は、カバーイベント「CITY POP NIGHT」をたびたび開催しており、ニューアルバム「SYNCHRONICITY POP」にもそんなシティポップへの愛を詰め込んでいる。新作のリリースを受けて、音楽ナタリーはRyoにインタビュー。“縁”と“偶然”をつなぎ合わせて作り上げたという本作について、制作の裏側を語ってもらった。

取材・文 / 秦野邦彦写真 / 梁瀬玉実

勉強&修行の2年間

──音楽ナタリーのインタビューに登場いただくのは、シングル「逆転のレジーナ」以来約2年ぶりになります。同曲も収録したニューアルバム「SYNCHRONICITY POP」は、Little Black Dress流のシティポップを集めた素晴らしい1枚ですね。完成を楽しみに待っておりました。

私も楽しみでした。ようやく皆さんにお届けできてうれしいです。

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──まずはこの2年間を振り返って、いかがですか?

2022年6月に「逆転のレジーナ」、7月にシングル「白雨」をリリースして、去年は表立った活動はなかったけど、未来に向けての準備期間という感じでしたね。「SYNCHRONICITY POP」に収録されている私の曲は、ほとんどが2、3年前に作ったもので。再レコーディングしたり、デモの曲を元にどういうふうにシティポップのニュアンスを入れていくか話し合ってプリプロをしたり。あとはライブパフォーマンス向上のためにRockon Social Clubの皆さんとツアーを回らせていただいたり、勉強&修行の2年間でした。

──MISIAさん主催のフェス「PEACEFUL PARK」にも出演しましたね。

「PEACEFUL PARK」に出演させていただいたのは大きかったですね。シンガーとしての在り方の価値観が大きく変わりました。デビュー前にもMISIAさんのそばで勉強させていただいたんですけど、このフェスで「より誰かの日常に音楽で寄り添えるように」という目標ができて。それは今回のアルバムにもつながっていると思います。2年間表立った楽曲リリースやライブはなかったけど、すべての出来事がつながっての「SYNCHRONICITY POP」になったなって。

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とにかくご縁を大切に

──アルバムタイトルにある「SYNCHRONICITY(シンクロニシティ)」は「意味のある偶然の一致」という意味ですが、ここに至るまではRyoさんにとって意味のある時間だったと。

そう思います。リリースのタイミングも含めて。実は別の時期にリリースする話が直前まで進んでいたんですが、いろいろな調整をしていくうちに結果的に今になったので、「あれっ? 夏じゃん!」みたいな。シティポップといえば、やっぱり夏じゃないですか。願っていた夏前のリリースを叶えられたことで、なるようになるんだなと思いました。前作「浮世歌」はフォークとロックメインで、歌詞の世界観でも私の闇の部分を多めに感じられるようなダークなアルバムだったので、そこから聴いてくださっている方はもしかしたら180°世界観が変わった印象を受けるかもしれないですね。

──Ryoさんが2021年から「CITY POP NIGHT」というシティポップのカバーライブを開催されてきたことは皆さんご存知のはずなので、心配する必要はないと思います。

ですよね。こういう曲も書けるよっていう幅の広さを提示できたので、それはそれで狙い通りかなと思います(笑)。シティポップが流行ってるからというわけではなく、とにかくご縁を大切にして作り上げたアルバムです。川谷絵音さんにプロデュースしていただいたこともそうですし、「逆転のレジーナ」を作曲していただいた林哲司さんとのご縁から、改めて林さんの曲をしっかりエッセンスとして取り入れてアウトプットしてみようとか、そういうことの連続でした。

──「"SYNCHRONICITY POP"の曲たちを聴きながらのドライブが最高」とX(Twitter)にポストされていましたが、ドライブはお好きですか?

大好きです。運転するのも、助手席に座るのも。昭和歌謡など私のルーツとなっている音楽は全部ちっちゃい頃に車の中で出会ったものなんです。田舎なので移動手段は全部車ですし、母も仕事をしていたので、母やおばあちゃんとのコミュニケーションの場は車の中が多くて。なので自分にとって車の中で音楽に触れるのは特別な感覚ですね。今回もレコーディングするたびにその音源を車で聴いて、景色や雰囲気とリンクするかどうか確認していました。

アルバムのテーマはシティポップ1択だった

──リード曲「恥じらってグッバイ」は、「夏だらけのグライダー」「雨と恋心」に続いて川谷絵音さんの作詞作曲です。

最初は、スタッフさんたちの「最近シティポップが流行ってるよね?」という話から始まりました。私も1970年代、80年代の音楽が大好きなので「シティポップだったらこういうのがカッコいいですよね」って言ったら、「あ、そんなの知ってるんだ」という話になりまして。その流れで「今の日本でシティポップ的な音楽を作るなら誰だろう」と考えたときに川谷絵音さんのお名前が上がり、そこから楽曲提供していただくことになりました。川谷さんには、自分で書いた曲では出なかった歌声のエッセンスを引き出していただいたので、第3弾もぜひやりましょうということで。実は「恥じらってグッバイ」は2年前から歌も録ってあったんです。

Little Black Dress
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──そうだったんですか!

そうなんです。めっちゃいい曲だから「いつ出す? いつ出す?」ってスタッフさんと探りながら大切に取っておきました。同じ時期に「逆転のレジーナ」のリリースもあったから、次のアルバムのテーマはシティポップ1択だよね、みたいな感じもあって。前作「浮世歌」はいろんなエッセンスの曲が混ざったアルバムだったんですけど、1つのテーマに沿ったコンセプトアルバムを作ってみたいなと思っていたので、今回はシティポップをコンセプトに曲を作っていきました。

──「恥じらってグッバイ」のレコーディングはいかがでしたか?

すごく難しい曲なので、最初は「絶対歌いこなせないぞ」って思いました。転調がすごいし、テンポも速いし、何よりサビの高低差がすごい。「雨と恋心」も難しかったけど、より難易度が高いですね。一度レコーディングしたあとに、「女性らしさを出した『夏だらけのグライダー』や『雨と恋心』と比べると、ちょっと歌声が強すぎちゃうかも」と思って、半年後に歌だけ録り直したんです。でも、聴き比べてみたら意外と最初のほうがよくて(笑)。スタッフさんから「絵音さんの曲に寄り添いすぎるより、パワフルさがあったほうが化学反応が起きてオリジナリティが出るね」と言われて、結局最初のテイクが採用されました。ラストの「グッバイ」で私の歌だけが残るパートは、最初は楽器の音も入っていたんです。それが最終ミックスの段階で、全部抜かれた状態で戻ってきて。「えっ、ここ抜いちゃうんだ?」と衝撃を受けたけど、それぐらい歌のパワフルさが伝わったのかなと思いました。ベースは「夏だらけのグライダー」と「雨と恋心」と同じく休日課長さん(ゲスの極み乙女、DADARAY、ichikoro)に弾いていただきました。今回も課長さんのベースラインがめちゃくちゃカッコいいので、そこもぜひ聴いてほしいです。

──「恥じらってグッバイ」はミュージックビデオの世界観にも圧倒されました。まるで映画のワンシーンのようですが、あれは実際にロケをされたんですか?

はい、横浜の道路を早朝に貸し切って撮影させていただきました。

──冒頭からラストまで、ワンカットの長回しですよね。

失敗が許されないので、何回もリハーサルしました。雨に濡れちゃうし時間制限もあるから当初は1回しかできない予定だったんですけど、本番でもう1回いけるねってなって再トライしたんです。なので髪の毛がウェッティなのは一度雨に降られたあとだから(笑)。でも、その感じがむしろよかったですね。最後の光が差す具合とかもカメラマンさんと私の角度で変わってくるので、奇跡のテイクだと思います。貴重な体験だったし、すごく楽しかったです。監督の深津昌和さんは、1年前に亡くなられた私の名付け親の信藤三雄さんに師事されていた方なんです。街並みを選んでくださったのも深津さんですし、「Little Black Dress 恥じらってグッバイ」と出るフォントの色味、映像の色味にも信藤イズムを感じます。

──改めて「恥じらってグッバイ」はどんな曲になったと思いますか?

ひと言で言うと“ジェットコースターソング”ですね。曲のメロディの上がり下がりもそうですけど、「恥じらって」と「グッバイ」の言葉のちぐはぐさだったり、川谷さんが歌詞にちりばめたワードセンスから人の多彩な心模様を感じるので、私もいろんな声色を使って、「ジェットコースターのように楽しんでいただけたらな」という気持ちで歌いました。