リトルブラックドレスが6月8日にニューシングル「逆転のレジーナ」を配信リリースした。
6月17日公開の劇場アニメ「怪盗クイーンはサーカスがお好き」の主題歌として使用されるこの曲は、及川眠子が作詞、林哲司が作曲、本間昭光が編曲を担当。彼女のルーツである歌謡曲やシティポップの影響を色濃く感じさせる、ノスタルジックなポップチューンに仕上がっている。
本作のリリースを受けて、音楽ナタリーはリトルブラックドレスにインタビュー。さまざまな縁をつなぎ合わせるようにして完成させたという本作について、制作の裏側や彼女が込めた思いを聞いた。
取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 映美
これは令和版「悲しみがとまらない」だ!
──劇場アニメ「怪盗クイーンはサーカスがお好き」の主題歌となる新曲「逆転のレジーナ」は、作詞が及川眠子さん、作曲が林哲司さん、編曲が本間昭光さんという豪華な顔ぶれによる楽曲です。リトルブラックドレスさんもTwitterで「夢がつまった楽曲になりました」「聴いているとパワーがみなぎってくる」と投稿されていましたが、会心の1曲ができたという感じですね。
ありがとうございます。まさに今の自分を表すのにふさわしい1曲になった気がします。この曲に関してはいろんな巡り合わせで、点と点がつながって線になっていった感覚ですね。原作の「怪盗クイーン」シリーズは今年で20周年を迎えるんですが、私も小学生の頃に読んだことがあって。主題歌のお話をいただいた当初は自分で作詞作曲にトライしてみようと思っていたんです。
──そこからどういう流れで及川さん、林さんが加わることになったんでしょうか。
主題歌のお話をいただく1カ月くらい前に林哲司さんとの出会いがありまして。ちょうどその頃シティポップが私の中で盛り上がっていて、ラジオで林さんの曲をかけたり、林さんのトークショーやライブに遊びに行かせてもらったりしていたんです。それで林さんにダメ元で「もしよろしければ1曲書いていただけないでしょうか」とお願いしたところ、その打ち合わせの次の日にこの曲を送ってくださったんです。
──仕事が速い! しかもその速さでこんな名曲を書けるんですね。
林さんは編曲もされるので、ある程度できあがった状態のデモ音源が送られてきたんですけど、最初に聴いたときに「これは令和版『悲しみがとまらない』だ! うれしい! 絶対歌いたい!」と思いました。
──杏里さんに提供した1983年のヒット曲「悲しみがとまらない」を彷彿とさせるような音源だったわけですね。
はい。そこからこの曲こそ「怪盗クイーン」にぴったりだという話になって。私が小さい頃に読んでいたときは主人公のクイーンさんが宝石をゲットしていく様子や、夢や希望を純粋に追っていく姿に憧れを抱いていたんですけれども、大人になって読み直してみると、自分らしさを貫くことだったり、美学を追求する姿だったり、そういう部分に感銘を受けたんです。
──改めて読むことで、作品への印象にも変化があったと。
はい。サーカス団とクイーンが宝石を巡って勝負するというストーリーなんですが、その勝負もサーカス団の「戦争で笑顔を失ってしまった少女に再び笑顔を届けたい」という思いから始まるんです。それが今の私の状況と重なる部分があって、私の中で「悲しみが変えた世界」というフレーズが浮かんだんです。そこから作詞を始めて、歌詞を書き進めるうえで何度も原作を読み返したんですけど、読むたびにストーリーも、クイーンのキャラクターも、サーカス団の少女への思いも素晴らしいと思えるんですよ。アニメの主題歌を書くのは自分にとって初めての試みだったので、どの素晴らしさを描くべきか、ちょっと立ち止まってしまったんです。そのため当初の制作期限より2、3カ月伸びてしまって。1回頭を冷やそうと思って、プライベートでも作詞の師匠として相談させていただいている及川眠子さんにお電話したんです。実は今こういう歌詞を書いていて、こういう思いを乗せたいんですけれども……と。そうしたら「私でよければお手伝いするよ」と言ってくださり、ご一緒させていただくことになりました。
──及川さんは大ヒットした「残酷な天使のテーゼ」を筆頭にアニメ主題歌も数多く手がけられているので、心強い言葉ですね。
そうなんです! そこから私が書いたフレーズなどを見ていただいて、私の中にある思いは全部伝わったので、眠子さんに1つの作品として書いていただきたいと思ってお願いしました。自分の中でも、こういうふうに形にしていけばいいんだという大きな学びになりましたし、結果的にアニメ主題歌界の“レジーナ”である及川眠子さんに書いていただけたのは、すごくうれしかったです。
本間昭光がつないだ縁
──完成した歌詞には、リトルブラックドレスさんの「悲しみが変えた世界」というフレーズもサビ頭で印象的に使われていますね。レコーディングはいかがでしたか?
本間昭光さんがミュージシャンの方を連れてきてくださって、ギターとベースの方は以前もご一緒したことがある方だったんですけど、初めてドラマーの山木秀夫さんにお会いできたんです。ちょうどその日、今年の2月にブルーノート東京で開催した「Little Black Dress CITY POP NIGHT」が決まったので、山木さんに「2月18日にドラムを叩いていただけないでしょうか」とダメ元でお願いしたところ、たまたまスケジュールが空いていて出演してくださって。
──また新たな縁を引き寄せられたんですね。
そうなんです。本間さんは私がインディーズの頃にリリースした「浮世歌」というアルバムを総監督してくださっていて、いつか曲のほうでもご一緒したいと思っていたんです。アニメの劇伴も手がけられていますし、幅広い世代の方とお仕事されている方なので、今回もいろんなことを考えてくださいました。林さんの作ったコード進行を大幅に変えることなく、アニメサイドからの要望だった“サーカスっぽい豪華な感じ”という要素も入れて、おしゃれで疾走感のあるアレンジにしていただけたので、本間さんにお願いできて本当によかったなと思っています。
──リトルブラックドレスさんの歌唱も、感情の起伏を見事に表現されていました。
気持ちよかったですね。レコーディング当日は喉の調子がよくて、あまりテイクを重ねることなく順調に進みました。そこに至るまでは大変でしたが、1歩進んだらスムーズにするするするって(笑)。Aメロは自分が見ている景色を歌っているので感情を乗せすぎないようにしたんですけど、サビでは「強欲な魂で」とか「孤独さえ武器にしたら」のように、歌詞に濁点が出てきてアクセントも強くなるんです。内容的にも、人間の欲望や自分の意思が出てくるので、それまでと歌い方をガラッと変えて「か~なし~みがあ~」と力を込めて歌いました。大サビの「君がいま盗んでくれたね / 諦めに穢れた日々」の部分も“が”を“ぐわ”に近いイメージで歌うようにしたり、強弱は意識しましたね。
──ちなみにイントロで呟く声が入っていますが、あれはなんて言ってるんですか?
なんて言ってると思います?
──まさかのクイズですか!?(笑)
あはは! デモを録るときに呟くように入れてみたらカッコよかったので、本番でも生かしてみたんです。最初の引っかかりとして気になるかなと思って。よく聴けばわかるかもしれないですよ(笑)。
林哲司から学んだ、日本人特有の憂い
──林さんの楽曲をかなり研究されたそうですが、どんなことに気付きましたか?
林さんの作る楽曲は基本的に洋楽からの影響が強いと思うんですが、日本人特有の憂いだったり、水っぽさを必ず意識されているそうなんです。ポジティブすぎず、ネガティブすぎない。その合間が日本人の琴線に触れるんだって。そのお話を聞いてから、自分が作詞作曲をする際も、そういうことを意識するようになりました。
──中森明菜さんの「北ウイング」なんて、まさしくニュートラルな感じですね。林さんはアニメソングもたくさん作曲されていて「美味しんぼ」オープニングテーマの……。
(すかさず)「Dang Dang 気になる」ですね! 先日、ラジオで流しました(笑)。編曲が船山基紀先生なんですよね。ほかにも林さんの特徴として、サビ前にフックがあることが多いなと思いました。「逆転のレジーナ」も小節で言えば「悲しみが」の“が”からがサビなんです。明菜さんの「北ウイング」だったら「Love is the mystery」の“mystery”から、杏里さんの「悲しみがとまらない」だったら「I can't stop」の“stop”から。
──確かに竹内まりやさんの「SEPTEMBER」も“BER”からですね。
そうなんですよ。今流行っているものは小節の頭からサビが始まる曲がメインですけれども、林さんの曲はサビ前につかまれるものが多いなと最近気付いて。サビ前のフックは筒美京平先生が作られた曲にも多いですね。
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あれっ、つながったんじゃない!?