歌謡曲に強く影響を受け、独自の“歌謡ロック”というジャンルを歌い続けてきたLittle Black Dressが、メジャー2ndシングル「雨と恋心」をリリースした。
1stシングル「夏だらけのグライダー」に引き続き、川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女。、ジェニーハイ)が作詞・作曲・プロデュースを担当したこの曲は、切なくも愛らしい恋心を描いたポップチューン。叙情性と憂い、凛とした強さを併せ持ったLittle Black Dressのボーカルを堪能できる楽曲だ。
音楽ナタリーではLittle Black Dressにインタビューを実施。音楽的なルーツ、アーティストとしてのスタンスや方向性、そして「雨と恋心」の制作などについて聞いた。
取材・文 / 森朋之撮影 / 斎藤大嗣
歌えばわかってもらえる
──音楽ナタリー初登場ということで、まずはLittle Black Dressの音楽的なルーツを探ってみたいと思います。インディーズ時代は“歌謡ロック”を掲げていましたが、歌謡曲を好きになったきっかけはなんだったんですか?
完全に祖母と母の影響ですね。私、母子家庭の時期があって。母が仕事していたから、保育園や小学校には祖母が車で送ってくれていたんです。毎朝、祖母の車に乗ると必ずお菓子や果物があって、それを食べながら音楽を聴いていて。「おかあさんといっしょ」みたいな子供用のCDもあったんですけど、私は「『帰って来たヨッパライ』(ザ・フォーク・クルセダーズ)が聴きたい!」って言う子供でした(笑)。「帰って来たヨッパライ」は、飲酒運転で死んでしまった人が、天国でもお酒を飲んで楽しんじゃう歌なんですよ。結局天国を追い出されて人生をやり直すことになるんですけど、そのストーリーを頭の中で思い描くのが楽しくて。
──想像して楽しんでいたと。
そうです。あとはチューリップの「サボテンの花」とか、トワ・エ・モアの「誰もいない海」とか。寺尾聡さんの「ルビーの指環」は何度も繰り返して聴いていました。それもやっぱり、自分の中で物語を広げていくのが好きで。妄想少女だったんですよね。小学校でも「先生、髪の毛が1本だけハネてるな」とか、そんなことばっかりぼんやり考えてて(笑)。
──リアルタイムで流行っている音楽には興味がなかった?
小学校までは車の中で聴いてる音楽しか知らなかったんですよ。思春期になってから学校で流行っていたONE OK ROCKやサカナクションを聴き始めて、そこでロックに目覚めました。部活動は美術部に入っていたんですけど、友達がアニメ好きだったから、私が知らないアニソンを教えてもらったり。あとはももクロ(ももいろクローバーZ)とかSEKAI NO OWARIとか。ボーカロイドとかも「オールジャンル来い!」という感じでした。カラオケにもよく行っていて。音楽が人とつながる手段でもあったんですよね。今もそうなんですけど、しゃべるのが苦手というか、自分のことをうまく言葉にできないんです。でも歌えば自分がどういう人間かわかってもらえるので。
──「歌えばわかってもらえる」って、ミュージカルの主人公みたいじゃないですか。
地元の劇団でミュージカルもやってたから、その影響もあったのかな。“不思議ちゃん”って言われてましたけどね(笑)。
──その頃から「将来は歌う人になろう」と思っていたんですか?
思ってました。小さい頃からミュージカルを習っていたんですけど、「演技」「ダンス」「歌」からコースを1つ選ぶときに、「私は絶対歌だな」って。クラシックバレエに挑戦したり、演技をやってみたり、宝塚を目指したこともありましたけど、やっぱり歌だなと。テレビの歌番組も好きで、「歌でテレビに出る人になる!」って思ってました。考え方が昭和ですよね(笑)。
──確かに(笑)。昭和の歌番組などもチェックしてました?
大好きですね! 好きなお店に「ザ・ベストテン」の歴代のDVDがそろっていて。出演者の皆さんの衣装もすごく素敵なんですよ。画面を写真に撮って、撮影やライブのときに「こういう感じにしたいです」と提案させてもらってます。沢田研二さんなんて、めちゃくちゃおしゃれじゃないですか。「ス・ト・リ・ッ・パー」のときのスカーフの巻き方だったり、「時の過ぎゆくままに」の黒のスーツだったり。「カサブランカ・ダンディ」のジーパンに洋酒の瓶を挟むのもカッコいいですよね。
──当時の歌手の皆さんは楽曲の雰囲気によって、衣装やメイクをガラッと変えてましたよね。
そうなんですよ。音楽、ファッション、ヘアメイクが一体になっていて、それが時代を表わしていて。それはすごく大事なことだし、私もそうありたいなと思います。
縛りがない音楽への憧れ
──高校1年生のときに親戚の方からギター譲り受けて、地元・岡山でライブ活動をスタートさせたそうですが、最初は弾き語りですか?
そうです。地元のCRAZYMAMA 2nd RoomやMO:GLAとかでライブをしていました。曲を書き始めたのも、MO:GLAのオーナーに「書いてみたら?」と勧められたのがきっかけですね。自分なりに「どういう曲を歌っていきたいか?」「何を伝えたいか?」を軸に書き始めました。
──1stアルバム「浮世歌」にはストーリー性を感じさせる曲も多いですが、想像を膨らませている部分もあるんですか?
それが中心ですね。例えば「Mirror」は、高架下の四畳半の湿っぽい部屋を思い浮かべながら書いた曲で。「ちょーかわいい」も架空の人を想像しながら書いたし、ちょっとファンタジーっぽいところもあると思います。実体験をベースにした曲もありますけどね。「双六」とか「だるま落とし」とか。
──一方で「心に棲む鬼」は作詞が及川眠子さんで、作曲が馬飼野康二さんです。自作曲と提供曲のバランスについては?
どちらもやりたいんですよね。伝えたいメッセージがあれば自分で書くし、もともと歌謡曲が好きなのもあって、作家の方に書いていただいた曲を歌うのも夢だったので。楽曲の性格を捉えて、どう歌えば伝わるかを考えるのも楽しいですからね。70年代、80年代って、そこに縛りがなかった気がするんです。例えば山下達郎さんの楽曲の歌詞を吉田美奈子さんが書いていたり、プロフェッショナル同士の融合によっていいものが生まれていたというか。そうやって音楽文化が盛り上がるのは、すごくいいことだと思います。
曲の主人公がだんだん強くなる
──Little Black Dressさんは、今年7月に1stシングル「夏だらけのグライダー」でメジャーデビューされました。作詞・作曲は川谷絵音さんですが、それまでの歌謡ロックのスタイルとはかなり違いますよね。
ジャンルでいうとR&Bですよね。川谷さんには「シティポップを感じられる楽曲がいいです」とお願いしたんですが、最初に届いたのが「夏だらけのグライダー」で、すごくいいなと思って。“まさに川谷絵音”というメロディだったので、私に歌いこなせるのか不安だったんですけど、ボーカルディレクションで川谷さんが「普段しゃべってるような感じで歌ってみてください」と言ってくれて、自分らしく歌えました。しかもこの曲、歌うたびに進化しているんですよ、私の中で。曲の主人公がだんだん強くなってるというか……。それに合わせて衣装も変えてるんです。最初にテレビで歌わせてもらった日本テレビ系「THE MUSIC DAY」のときはミュージックビデオと同じワンピースだったんですけど、「音楽の日2021」ではカッコよくバシッと決めたいと思って、黒のスパンコールジャケットとショートパンツにしました(参照:Little Black Dress (@LBD_official_) | Twitter)。
──オンエアを拝見しましたが、すごく堂々とパフォーマンスしていたのが印象的でした。
めちゃくちゃ緊張してましたよ(笑)。バンドメンバーがいてくれたので心強かったですけど、生放送は特に緊張しますね。地元で応援してくれてた人たちが「観たよ」って言ってくれたのもうれしかったです。コロナになってしばらくライブができなかったので、テレビで歌っている姿を届けられたのはよかったです。
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「フィナンシェ」から伝わる女心に感動