LITE|長年のキャリアが詰まった“完成されたアルバム”の制作背景

4人のエンジニアが参加した理由

──「Multiple」の制作には4人のエンジニアが参加しているというのも大きなポイントだと思います。

武田信幸(G)

武田 それには2つ理由があって、1つは進行上の理由。今は単発でシングルとか映像を効果的にリリースしていくのが主流になっているので、1カ月で4人のエンジニアをアサインして一気にやったわけではなく、時期をずらして録っていったんです。もう1つの理由は、曲作りの段階で「この曲はこの人に録ってもらいたい」という意見がメンバー内で出てきたこと。ある程度曲の方向性が見えてきた中で、「この曲は美濃さん、この曲はJ・ロビンス」という頭でいたら、楽曲がその人の雰囲気に寄っていきました。

井澤 過去の作品で言うと、「Phantasia」(2008年発表の2ndアルバム)が美濃さんで、「Turns Red EP」(2009年発表の3曲入り作品)がJ・ロビンス、「For all the Innocence」(2011年発表の3rdアルバム)以降は薫さんに録ってもらってるので、3人の特徴はなんとなく理解できていたんです。薫さんはシンセとか音数が多いのを混ぜ込むのが得意で、相談しながら作っていけるタイプ。逆に美濃さんは作り込むタイプで、バンドサウンドを録るなら一番。ジェイさんは、「ジェイさんのスタジオで録るなら、こういうサウンド」みたいな。

──「One Last Mile」や「Temple」はハードコア寄りのヘビーなサウンドで、ドラムのアンビエンスもしっかり録れている感じはいかにもUSレコーディングだなと思いました。

武田 シカゴ系ポストロックというか、あのジャンルにどっぷりハマっていた時期を思い出しながら作りました。昔よく聴いていた音源をリファレンスとして引っ張り出すと、今聴いてもカッコいいなって。

──ストリーミングの時代になって、あらゆる曲が並列で聴かれる中で、ロックバンドが音源をどんな音像で仕上げるかはより重要になってきていると思います。生々しい質感とエレクトロニックな質感が混在している「Multiple」は単純に打ち出し方として面白いし、結果的には、時代感も備えたものになっているなと。

井澤 今回はネタが多かったというのもあると思います。いつもは「アルバム作るぞ」となっても、ストックが5曲くらいしかなくて、ギリギリでできあがってたけど、今回は「Cubic」を作り終えた時点で「もう次を作ろう」となっていたので、2年前くらいからずっとネタを作っていて。その中から選曲できたことも大きかったですね。

これまで以上に完成度の高い音源

──美濃さんは「Zone 3」と、1曲目の「Double」、2曲目の「Deep Layer」のエンジニアリングを手がけていて、アルバムの方向性に大きく寄与していると言っていいかと思います。toeは「LITE 15th」にも出演していたわけですが、どのタイミングでオファーをしたのでしょうか?

井澤惇(B)

井澤 「LITE 15th」が終わって、本格的にレコーディングが始まるタイミングですね。

楠本 でも、今回の裏テーマが「エッジィ」「派手」というのはみんなで共有してたので、「美濃さんがいいんじゃない?」という話はその前に一瞬話題に上がっていました。

──LITEの過去作の中でも、美濃さんが参加した「Phantasia」は確かにエッジィで派手なイメージがあります。

武田 そのイメージは常に頭の隅にあったかもしれないです。「filmlets」から「Phantasia」の流れを、今のLITEにどう落とし込んでいくか。今回「Double」の制作時間が一番長くて、この曲ができたのを皮切りに、ほかの曲もドバドバッと出てきたので、それまでの時間がこのアルバムのキーになったかなと思っています。最初はパソコンで作ったんですけど、そこからの展開は「filmlets」や「Phantasia」と同じで肉体的に、バンドから出てくるまで待ったんですよ。その分時間はかかったけど、すごく大事な時間でした。

井澤 「Deep Layer」はアフリカのソンゴというリズムを使いたくて、けっこう昔にドラムのフレーズを作ったんですけど、なかなかLITEの音にハマらなくて。でも、そのリズムを16分反転させて、それにギターとベースを付けたらうまくバンドサウンドに収まったんです。それをメンバーに聴かせて、意見も聞きつつ作っていったんですけど、練習にすごく時間がかかりました。ギタリストからすると、ギターで弾くフレーズじゃないらしく、弾きづらかったみたいで。クリック練習を何度もやって、精度を高める作業に時間がかかりました。

楠本構造(G, Syn)

楠本 ベーシストとギタリストのニュアンスの違いだったり、リズムの取り方が自分にないものだったりして、難しかったですね。でも、録る前にけっこう練習したので、いい感じになったし、今は自分のものになったと思います。

武田 今作の収録曲は作り終わった時点ですでにライブで演奏できそうなくらい仕上がってるんですよ。ここ2、3作はその感覚がなくて、まず僕が作ったデモをバンドで再現して、録音して。そのあとにこなれてない状態でライブがスタートして、ツアーが終わる頃に完成する、みたいな感じで。もちろん今回も実践は必要なんですけど、すでにかなりのレベルで完成していて、それは肉体的というアルバムのコンセプトとも関係していると思います。

山本 僕はデモで作ってきた打ち込みのビートはなるべく変えずに、完全再現するようにしてました。そうすれば自分の表現の幅も広がるし、制作者の意図もそのまま表現できる。自分にとって慣れない体の動かし方だから大変なんですけど、そこに意味を感じて、根性でやっていて(笑)。でも今回は“生感”も大事なポイントだったから、やりとりをしつつ、打ち込みのビートを自分が素直に叩けるフレーズに落とし込んで行きました。「Double」のフィルはけっこうやりたいことをやれていて、今まで以上にキャラが出てると思う。逆に、「Deep Layer」とか「One Last Mile」は全然フィルを入れずに、打ち込みのビートを再現しました。そうやって分けることで、自分の気持ちも整理できてよかったです。