LISACHRIS、Maika Loubté、鎮座DOPENESS、lIlIが語るEP「Hana炎」
「Hana炎」の根底にはヒップホップを感じた
──ここからは本作にゲスト参加している鎮座さんとlIlIにも加わってもらって、各楽曲の制作について掘り下げていけたらと思います。まず表題曲「Hana炎」ですが、鎮座さんの参加はLISAさんの送ったビートがきっかけになったそうですね。
鎮座DOPENESS もともと僕はLISACHRISのファンなんですよ(笑)。彼女は独特なサウンドを生み出していると思っていて、どうしたらこういう音楽性になっていくんだろう?と惹かれるところが大いにあるというか、オリジナルな世界観を持っているなって。だから、いつか一緒にやりたいなと思っていて、クラブで会ったときに「いいビートができたら送って」と伝えていたんです。そしたらいくつかビートが送られてきて、その中にこの「Hana炎」があった。しかもビートをもらった時点では、その曲をMaikaさんとやってることはまったく伝えられてなくて(笑)、「そのビートは歌が入ってます!」というくらいの情報でした。
LISACHRIS お伝えしてなかったでしたっけ?(笑)
鎮座DOPENESS 全然(笑)。そうとは知らずに勝手にリリックも書いちゃってましたからね。あとになってMaikaさんのことを知らされて、「あ、あの歌はMaikaさんなんだ!」って。Maikaさんとは現場が同じになったり、そのイベントの帰りにたまたま電車で会って一緒に帰ったこともあったから、ぜひぜひという感じで。
──鎮座さんはどういうイメージを持って、「Hana炎」のリリックを書かれたんですか?
鎮座DOPENESS 音から受け取ったもの。意味というよりはフィーリングかな。でも、その根底にはヒップホップをすごく感じていて。だからリリックに「ブレイクダンス」という言葉を入れてみたりしているんです。あとトラックからは映画「ブレードランナー」を思わせるような近未来感を感じて、それは自分が参加していない「メトロプレイヤー」を聴いていてもそう思いました。「Hana炎」のリリックにある「非合法 / 医療器具の運び屋」というのは、まさに「ブレードランナー」のことなんですよ。
LISACHRIS ええ、そうなんだ!
──同じリリックに「優良 不良 少女 IN 赤坂」とありますが、これはLISAさんのアルバム「Akasaka」から来ているんですよね?
鎮座DOPENESS そうそう。
LISACHRIS 聴いてぶち上がりましたよ。
鎮座DOPENESS YENTOWNの頃から見てきたLISAちゃんは生粋のB-GIRLですから(笑)。
自分の曲では絶対に作れないものになった
──そして、2曲目の「emoh」に参加されたlIlIさんはMaikaさんから声をかけたんですよね?
Maika Loubté はい。lIlIさんの作品に「犬天国」という曲があって、それが彼女のことを知るきっかけになったんですけど、ハマって毎日のように聴いていて。
LISACHRIS その曲のことは最初にスタジオに入ったときからずっと言ってたもんね。
Maika Loubté うん。それで一方的にlIlIさんのSNSをフォローして追いかけていたら、私のことに気付いてくれて。それをきっかけに私のスタジオに遊びに来てもらったり、何かピタッとハマるトラックができたら、声をかけたいとずっと思っていたんです。それが今回の「emoh」だったという。
lIlI MaikaさんはJ-WAVEの番組で「犬天国」をかけてくださって、しかも「この人の歌詞はすごく切実で」と話してくれていたんです。これまで自分が作った曲について、第三者がどう思ってくれているのか、客観的な意見を聞く機会があまりなかったから、それがすごくうれしくて。それでSNSを通じて「ありがとうございます」とお伝えしたら、ご自宅のスタジオに誘ってくれたんですよ。それで後日、LINEですごくラフな感じで「今、LISACHRISと曲を作っているんだけど、lIlIちゃん一緒にどうかな?」と言ってくれたんです。私は音楽活動を始めたのが5年前なんですけど、その頃にLISACHRISさんが「Boiler Room Tokyo」にDJで出演されているのを観たことがあって。女性で芯を持って活動されていることに感動したんです。それでMaikaさんからLISACHRISさんと一緒にいるからと誘われたときは「マジか!」って思いました。しかもEPとしてリリースすることは知らなかったからびっくりで。誘ってくれてありがとうございます。
──「emoh」の1日の時間軸が無限ループする歌詞のアイデアは、lIlIさんが提案したそうですね。
lIlI Maikaさんから最初にいただいたトラックには、すでに曲の後半にMaikaさんとLISAさんのボーカルが乗ったデータで「付け加えられるところに歌でもなんでもどうぞ!」というオファーだったんですよ。
鎮座DOPENESS わはははは。
Maika Loubté 今考えると、先輩みたいなざっくりした頼み方だったかな?(笑)
鎮座DOPENESS 「じゃあ、この穴埋めよろしく!」って?(笑)
lIlI (笑)。でも、そのトラックに入ってるギターのサウンドから夕焼けのイメージが思い浮かんで「温かい曲だな」って。私が普段やっている音楽は、冷たかったり、夜に寝られない、暗いっていうテンションの曲ばかりだったりするんです(笑)。今回は自分じゃ作れない曲に歌詞を乗せることになったから、気持ちのうえでは普段のようなつらさがなかったし、無限リピートできるなって。だから最初に思い付いた夕焼けのイメージをきっかけに、1日の時間軸を書いてみようと思ったんです。そしたら一瞬でメロディと歌詞が浮かんできて、それをMaikaさんに送ったんです。だからトラックに引っ張ってもらったというか、そういう意味で自分の曲では絶対に作れないものになったと思いますね。
──lIlIさんは、ラッパーの釈迦坊主さんのバックDJをやられていたと聞いたのですが、ヒップホップにルーツがあるんですか?
lIlI いえ、私はもともとピアノとエレクトーンをやっていて、ジャズピアノのレッスンを受けていたりしていたんです。それに父親がバンドをやっていたり、母親がR&B好きだったりして、自分もUKロックだったり、いろんな音楽を聴くようになって。釈迦さんとのつながりで言うと、私の知り合いの女性が気付いたらラッパーになっていて。その子が釈迦さんのイベントに何度か出ていたんですけど、私も遊びに行ってみたら、釈迦さんを紹介されて。その当時、私は人前でライブはやってなかったんですけど、DTMのソフトとか機材に凝って、曲を作っていたので、試しにインスタライブをやってみたら、それを観た釈迦さんから「もったいないから、DJやってみたら?」とDJに誘ってくれたり、経験もないのにバックDJを任せてくれたんです。トラップには私が好きだったUKのアーティストをサンプリングした曲があったりして、すべての音楽はつながっているんだなと思いました。
この4人でグループになったりして
──鎮座さんもフリースタイルラップやFNCYでの活動を含む多彩なヒップホップのスタイルを横断していますし、今回お集まりいただいた4人はジャンルに囚われていないというか、そういうフリーフォームなセッションから今回のEPが生まれたように思うんです。さっき、鎮座さんはLISAさんのことを生粋のB-GIRLと形容していましたけど、ご自分でもそう思われていたりしますか?
LISACHRIS ああ、鎮座さんに言われて「確かに!」と思いましたね。私の中では、やっぱりすべての音楽がヒップホップに行き着くというか。
──逆に言えば、ヒップホップからすべての音楽に派生するというか。
鎮座DOPENESS 例えばダンスミュージックに特化したDJだったら、特定のジャンルを掘り下げるんだろうけど、ボーカルものの曲を作るとなったら、また別の考え方になるんだろうね。
Maika Loubté 私はいろんなタイプの音楽を聴くので、何が自分にピンと来るのか、延々と模索しようと思っていますね。
鎮座DOPENESS 模索という意味で、今回の3曲以外に2人で作っていたりしないの?
Maika Loubté ああ、えっと、今回は収録しなかったトラックが2曲あって、それをどうしようかなって。もし機会があったら、鎮さん、lIlIちゃん、よろしくお願いします(笑)。
鎮座DOPENESS いいね。そうしてるうちにこの4人でグループになったりして(笑)。
プロフィール
LISACHRIS(リサクリス)
アメリカ・ニューヨーク州クイーンズ生まれのプロデューサー。学生時代に経験したコネチカット州でのジャズバンドや、吹奏楽に音楽のルーツを持つ。これまでに多くのヒップホップ作品に参加しているほか、ソロEPを2枚、アルバムを2枚リリースしている。
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Maika Loubté(マイカルブテ)
シンガーソングライター / プロデューサー / DJ。幼少期から10代までを日本、パリ、香港で過ごし、現在は東京を拠点に活動している。2020年10月リリースのシングル「Show Me How」は、Maika自身も出演したマツダ「MAZDA MX-30」のCMソングにも使用された。2021年10月には最新アルバム「Lucid Dreaming」、翌2022年6月にはリミキサーにCwondo、ermhoi、Kan Sano、lIlI、LISACHRISらを迎えた同タイトルのリミックスアルバムをリリースした。
Maika Loubté (@maika_loubte) | Twitter
Maika Loubté (@maika_loubte) | Instagram
鎮座DOPENESS(チンザドープネス)
1981年生まれ、東京出身のラッパー。独特な声質と巧みなスキルを駆使したラップで、フリースタイルMCバトルのシーンから頭角を現す。2004年にはカトマイラ、サボとともにKOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'Sを結成し、2008年にアルバム「HAGULIFE」をリリースした。ソロとしての1stアルバムは2009年発表の「100%RAP」。また環ROYとのユニット・KAKATOや、ZEN-LA-ROCK、G.RINAと結成したFNCYでも活動している。
鎮座DOPENESS (@DOPENES_TIME) | Twitter
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lIlI(リリ)
東京を拠点に活動するマルチアーティスト。2018年よりDJとしての活動を始め、ヒップホップ、エレクトロニック、エクスペリメンタルミュージックを独自に融和させた変幻自在なプレイで注目を浴びる。2019年にセルフプロデュース作の1stシングル「悪夢」を発表し、シンガー / プロデューサーとしてのキャリアをスタートさせた。2021年2月には1stアルバム「Texture」をリリース。柔く突き刺さるベッドルーム・ゴスなサウンドが話題を呼び、iTunes storeの日本チャート3位を獲得した。