音楽ナタリー Power Push - LiSA

“BLACK”な楽曲群で魅せた作詞家としての本性と才能

イメージは地方都市のスナック

──そして詞同様、アレンジに影響を受けたというボーカリゼーションなんですけど、音がメロウになれば声もメロウに、音がド派手になれば声もド派手に、と展開に応じて歌声に乗せる感情も起伏させてますよね。

アレンジがブッ飛んでるんなら声もブッ飛んでみようと思って。そうすれば聴いてくれるみんなも、いい意味で狂っているこの曲の世界観を楽しんでくれるだろうし、その上で何を歌ってるのか気になったら歌詞を見てもらえばいい。そこで「あっ、ストレートなことを歌ってるんだ」って知ってもらえばいいと思いました。

──「Empty MERMAiD」と同じように聴いてほしいということ?

LiSA

そうでもあり、そうでもない感じですね。「Empty MERMAiD」は剥き出しの感情を表現するためにあえてラフに歌ったんですけど、「リスキー」は剥き出しの感情を歌うために、今おっしゃっていたようにあえて声に乗る感情をコントロールしていますから。まず曲を聴いて音のカッコよさや気持ちよさを楽しんでもらってから詞を噛みしめてほしいという意味では「Empty MERMAiD」と同じなんだけど、音の気持ちよさの種類が違うんです。

──で、カップリング2曲目がカヨコさん作曲、堀江晶太さん編曲、つまり「シルシ」の作家陣と再タッグを組んだ「虚無」なんですけど「リスキー」にせよ、この「虚無」にせよ、今回のシングルのカップリング曲ってタイトルが……。

重い(笑)。

──字面のイカツさも含めて「虚無」には特に重みがあります(笑)。

詞のイメージはスナックなんですよ。それも地方の(笑)。

──「なぞる歩道 曲がり角で 今夜誰かとフォークダンス」「甘い声と揺らす尻尾で 誘うのは“ヒマつぶし”」。確かにちょっと昭和レトロ感がありますね。

カウンターにぱらぱら程度のお客さんがいるスナックで女が1人寂しく歌ってるっていう物語なんです。

──歌っていることはタイトル通り「虚無」感について。シングル表題曲も「“Empty” MERMAiD」だし、胸に虚無感が去来する瞬間があるのはわかるんですけど、なぜ物語仕立てに?

以前のインタビューの繰り返しになってしまうんですけど、私、物語の中の人の気持ちがなぜかわかってしまうんです(参照:LiSA「シルシ」インタビュー)。この詞を書き始めたときに最初に出てきたフレーズ、「Empty MERMAiD」でいうところの「アーメン ブリリアントアイズ」は「フォークダンス」だったんですけど……。

──LiSAさんのパブリックイメージに似つかわしくない言葉が最初に飛び出してきた(笑)。

LiSA

我がことながらビックリするくらいインパクトのある言葉が飛び出してきたので「じゃあ、この曲は“昭和”だな」って歌詞のテイストを決めて。そこから「で、昭和のニオイのするものってなんだろう?」って考えたときに出てきたのが場末のスナックで歌う女の姿だったんです。

──そうしたら「カウンターにぱらぱら程度のお客さんがいるスナックで1人寂しく歌う女」の人物像や歌いそうなことが“わかって”しまった?

そうですね。手を取り合う相手が次々に変わっていく切ない感じを「フォークダンス」と表現する女の気持ちがわかった……いや、違うな。歌詞を書いている瞬間、私は完全にスナックで1人寂しく「フォークダンス」と歌う女になっていて(笑)。気付けばこんな物語ができあがってました。

──ところがこの曲のアレンジは「リスキー」と同じ地平にある。スナック感はほぼ皆無です。

特にギターが狂ってますよね(笑)。でもこのアレンジだったから「昭和感」っていう振り切った詞が書けた面もあるんです。全然関係ないようでつながってる話なんですけど、この間、映画「ミニオンズ」(参照:LiSA大興奮!大好きな「ミニオンズ」で吹き替え初挑戦)で初めて吹き替えをやらせていただいて。声優さんにしてみたら当然のことなんでしょうけど、声のお芝居って自分が考える以上にオーバーアクトに振り切らないと全っ然伝わらないんですよね。それを経験したあとだったから「こんなスゲー振り切ったアレンジが届いたんだから、歌詞や歌も『ミニオンズ』でのお芝居のように振り切ったほうがみんなに伝わるんじゃないか」と思って……。結果、この曲が誕生しちゃってました(笑)。

新しいLiSAの言葉をお聞かせすることができたかな

──架空の地方都市のスナックの風景とそこにいる女みたいな、フィクショナルな景色を切り取る、ある種物語的な歌詞を書くのって……。

LiSA

「リスキー」みたいなラブソングがそうだったように、ほとんど初めてですね。

──そう考えると今回のシングルって“作詞家LiSA”が新機軸を見せた1枚とも言えそうですね。

もともと「女の毒」をテーマにシングルを作りたいと思って、そういう曲を書けて、しかも私が好きな作家さんとご一緒するために皆さんに声をかけてみたら、やっぱりどの曲もカッコよかったし、ブッ飛んでいて。それで私も「言葉で遊んでいいんだ!」っていう気持ちになれたんです。あの音があったから「女の毒」をテーマにしながらも、いつも以上に声の面白さを意識した「Empty MERMAiD」の詞も書けたし、「リスキー」みたいなストレートなラブソングや、「虚無」みたいな物語も書けたんでしょうね。

──どの曲も歌詞と音が有機的に結びついている。必然性があってこの音の上にこの言葉が乗っているんだ、と。

曲たちが連れてきてくれた歌詞なので「結果的に」なのかもしれないけど「ちゃんとどの曲も音にふさわしい言葉を乗せられたな」「新しいLiSAの言葉をお聞かせすることができたかな」って思っています。

ニューシングル「Empty MERMAiD」2015年9月30日発売 / アニプレックス
完全数量生産限定盤 [CD2枚組+フォトブック] 3024円 / SVWC-70104~6 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [CD+DVD] 1728円 / SVWC-70102~3 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1296円 / SVWC-70107 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. Empty MERMAiD
    [作詞:LiSA / 作曲:YOOKEY(THE MUSMUS) / 編曲:akkin]
  2. リスキー
    [作詞:LiSA / 作曲:小南泰葉 / 編曲:江口亮]
  3. 虚無
    [作詞:LiSA / 作曲:カヨコ / 編曲:堀江晶太]
完全数量生産限定盤付属CD収録曲
  1. rapid life シンドローム
  2. L.Miranic
  3. オレンジサイダー
  4. 君にピエロ
  5. ANTIHERO
  6. Rally Go Round
  7. Bad Sweet Trap
  8. Rising Hope
  9. エレクトリリカル
  10. Mr.Launcher
初回限定盤付属DVD収録内容
  • 「Empty MERMAiD」ミュージッククリップ
LiSA(リサ)

LiSA

6月24日、岐阜県生まれのボーカリスト。2010年春、テレビアニメ「Angel Beats!」の劇中バンド「Girls Dead Monster」の2代目ボーカル・ユイ役の歌い手に抜擢され、同年5月にGirls Dead Monster名義のシングル「Thousand Enemies」をリリース。2011年4月にLiSA名義のミニアルバム「Letters to U」でソロデビュー後はアニメ「Fate/Zero」のオープニングテーマ「oath sign」、「ソードアート・オンライン」のオープニングテーマ「crossing field」などスマッシュヒットを連発。2013年にはシングル「best day, best way」がノンタイアップながらオリコン週間シングルランキング6位を記録し、また10月に発表したアルバム「LANDSPACE」がオリコン週間アルバムランキング2位をマークし、アニソンシーン内外で高い人気を誇る存在となる。そして初の東京・日本武道館公演を開催した2014年にはシングル「Rising Hope」はオリコン週間シングルランキングで4位を、さらに12月にはアニメ「ソードアート・オンライン II」《マザーズ・ロザリオ》編のエンディングテーマ「シルシ」ではシングルランキングとしては自己最高となる3位をマーク。また同年末には「COUNTDOWN JAPAN 14/15」に、2015年夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」や「氣志團万博」にも出演するなどさらに活動の幅を広げている。そして9月、THE MUSMUS(ex. UPLIFT SPICE)のYOOKEY(G)が作曲する表題曲を含むシングル「Empty MERMAiD」を発表した。