発展していく「進撃」のキャラクターと音楽
井上 しかしRevoさん、歳とか取ってますか? なんかもう最初にお会いしたときからずっと印象が変わらない。きっと歳も取らないんだろうなあっていう感じです。
Revo 井上さんのほうも、いい意味で変わっていないと思いますよ。最初にお会いしたときからチャーミングで、明るい方だなあと思いましたし。でもその元気さが、実際に演技するときには豹変するというか、まったく違うキャラクターになるので、そこがすごいなと思います。アルミンを演じる際にも、非常に声を枯らして、全力でやられてて。
井上 ありがとうございます。うれしいです。
Revo 特に「ああ、やっぱり井上麻里奈ってすごいんだな」って思ったのは、「Season 1」の序盤でエレンが巨人に食べられたときのアルミンの叫びですね。号泣と言うか、慟哭と言うか。あれは心が震えました。素人の感想だとは思うんですが、あれってあくまでも演技で、本人が本気で泣いたわけじゃないと思うんですよ。だけど下手な人が演じると「私は泣いてますよ」「悲しいですよ」というアピールになってしまう。井上さんの場合はそういう演技っぽいアピールが一切感じられなくて、心からの慟哭、リミッターの外れたものをやってくれていて、すごいなと。その臨場感はやっぱりなかなか素人には計り知れないものがありますね。
井上 実は私、「紅蓮の弓矢」の歌詞の中で「何かを変えることの出来る人間がいるとしたら、その人はきっと、大事なものを捨てることが出来る人だ」っていうアルミンの言葉が出てくるのが、すごくうれしかったんです。歌詞の途中で「エレン」って叫ぶ部分も、もう自分的にはアルミンが叫んでるときの気持ちなんですよね。
Revo 原作のアルミンのセリフが印象に残っていたから使わせてもらったんですけど、主題歌だからといってエレンだけにフォーカスしたくなかったんです。「進撃の巨人」はエレンだけの物語ではないと思いましたし。主題歌には主人公の一人称視点も大事な要素として出てきますけど、フルバージョンでは特にあまりそこだけを強調しようとは思っていないんです。もしかすると、ちょっと物語全体を俯瞰してアルミンにナレーションをやってもらおうというのに通じるのかもしれないです。だからもうちょっと周辺の要素を入れたくて、ああなりました。だから「Season 1」の後期オープニング主題歌「自由の翼」で調査兵団が出てくるとか、どんどん物語に合わせて世界観を広げる形にはしています。
井上 そういう意味では今回のアルバム「進撃の軌跡」はすごくいろんなキャラクターにフォーカスをあてたアルバムになってますよね。「14文字の伝言」なんかもキャラクターを想像しながら聴くと胸がいっぱいになっちゃいました。温かいんですけど、すごく切なくて胸に沁みました。
Revo ありがとうございます。もし「進撃の巨人」でアルバムを作ることができたら、いろんなキャラクターを描きたいと前から思っていたんですよ。アルミンとかミカサとか中心人物だけじゃなくて、この先に出番がどれだけあるかわからない、脇役になる人物にも光を当てたいなと思って。「このキャラの曲を作ってください」みたいなこともまったく言われず、すべて僕の好きなように作らせていただきました。
「心臓を捧げよ!」はアニメ2期を象徴する曲
井上 アニメのオープニングでの「紅蓮の弓矢」から「自由の翼」の流れは自然に世界観が大きくなっていっていますが、「Season 2」のオープニング主題歌「心臓を捧げよ!」はどこにフォーカスしようという気持ちがあったんですか?
Revo 主人公なので基本的にエレンの要素は入ってるんですけど、調査兵団の第2弾というか、より多くの仲間たちを表現したかったんです。音源には多めに合唱を入れて、大勢でやってる感じを出したいなと思って。
井上 なるほど。物語の人間関係もさらに複雑化して、単純に巨人対人間の戦いじゃなくなってるんですよね。アフレコ現場でも、みんな今までとは違う、ただ戦えばいいわけじゃない複雑な芝居を要求されています。そこがオープニング曲からも感じられますね。私たち声優は、ある程度アフレコが進んで、もうクライマックスを演じているあたりで聴かせていただいたので、まさに「Season 2」のテーマソングだなという実感がありました。
Revo 物語に合わせて「Season 2」を象徴する曲にしたい気持ちは強かったです。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、「Season 2」を全部観終わったときに、もう一度この主題歌をじっくり聴いていただきたいですね。なんのために彼らは戦っているのか、いつ、誰が、なんのために、心臓を捧げるのか。それをじっくり考えられるような曲にしたかったんです。
井上 今回のアルバムには入ってないですけど、私は「紅蓮の弓矢」が入ったシングルCDに収録されていた曲「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」もすごく好きです。「進撃の巨人」のアフレコの際は作品の世界観に浸りたくて、たいていリンホラさんの曲を聴きながらアフレコ現場に向かうことが多いんです。アルミンは激情型のキャラクターじゃないこともあって、演じるうえで「もしこの壁の中が一軒の家だとしたら」を聴くとすごくしっくりくるんですよ。曲調に込められている、ほどよい覚悟の気持ちの表れが大好きで。私にとって「進撃の巨人」の世界に浸れる曲なので、いつも聴いています。
Revo ありがとうございます。うれしいですね。
井上 音楽が演技に与える影響は、とても大きいんです。私は予告やCMなどいろいろな場面でナレーションを読ませていただくんですけど、素で読むのと音楽があるのでは入り方がまったく変わってくるんです。音響監督さんにも「これから全部、ナレーションのときは音楽聴きながらやらせるから」って言われちゃうぐらいで。特に「進撃の巨人」は主題歌のリンホラさんと劇伴の澤野弘之さんの楽曲で、すごくガッチリと世界観を作っていただいていて、スッと世界に入れるのが素晴らしいことだなと思います。
広がり続ける「進撃」の世界
井上 個人的な感覚ではあるんですけど、「進撃の巨人」は従来のアニメファンだけじゃなくて、アニメをあまり観ない人たちにも届いた作品だったのかなって思うんです。最初に「紅蓮の弓矢」を作られたときに、「進撃の巨人」が紅白で歌われるようなことになるって思ってらっしゃいましたか?
Revo いやあ、まったく想像はしてなかったですね。ただ、マンガの時点でメチャクチャ面白かったし、それがどんどん売れていくところを目の当たりにしていたので、これがアニメ化したらすごいことになるんじゃないか、という予感はありました。しかし「あ、これが社会現象か」と、そこに参加させて頂いた自分の状況も含め実感するほどになるとはね。
井上 今はユニバーサル・スタジオ・ジャパンにも「進撃の巨人・ザ・リアル」というアトラクションがありますしね。いやあ、乗り物になるっていうのはすごいです。取材で(3月に)「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」に乗らせていただいたんですが、あそこでも「紅蓮の弓矢」が流れていました。やっぱりテンション上がりますね!
Revo 実はハリウッド・ドリーム・ザ・ライド用の「紅蓮の弓矢」や「心臓を捧げよ!」も僕が監修させていただいたのですが、どう編集するかいろいろ頭を悩ませたんですよ。アトラクションで音楽を使うのは大変で、曲をいろいろ切ってみたんですけど「いや、ここをカットするわけにはいかないだろう」みたいなことばかりで、けっこう苦労しました。でも乗っている時間とか、曲のどのあたりでどれだけスピード感が出ているかとかも含めて、一番いい形にしたくて。やっぱり乗ったときに音楽やストーリー性と一体感がほしいじゃないですか。
井上 なるほど、アトラクション専用の曲になっているんですね! そう聞くと、それを踏まえたうえでもう1回乗りたくなりました。確かに乗り物に乗る時間は、テレビのオープニングの長さとも違いますしね。
Revo 西武鉄道の「進撃の巨人」コラボレーションもレッドアロー(紅蓮の弓矢)号とかで、作品の広がりは感じますね。コラボといえば、今回の「進撃の軌跡」の購入特典では、僕とキャラクターが一緒にイラストになりました。そういうことまでやれてしまうのは楽しい広がりですよね。
井上 あれっ、でもこれ、リヴァイさんは、たぶんもうちょっと背低いと思いますよ……あっ、足元! 岩に乗ってるー!
Revo そうなんですよ。僕も、最初見たときは「あれ? 兵長ちょっとでかくない?」って言ったんですよ。原作を知ってる人はみんなこれ見た瞬間、絶対そう思いますよね。だけどよくよく見ると、足元の高さが違う。CDのアートワークをいつもやってもらってるデザイナーの遊び心だと思うんですけど。面白いのでそのままOK出しちゃいました!
井上 兵長が好きな人はちゃんと気付いてくれると思います。素敵ですね。
Revo こうやって自分が作中のキャラクターと一緒にイラスト化されることに対しては、わりと積極的なんですよ。Sound Horizonの10周年くらいを境に、やけにマンガやアニメに登場するような存在になってきたこともあって。僕自身もマンガやアニメは大好きなので、そこに自分が出ることへの抵抗はまったくないんです。一個人としての自分自身はあんまりそんなに前に出たいタイプじゃないので、不思議なんですけどね。アーティストとしても人前に出るのはそれほど好きじゃない方だと思いますけど、アニメとかに出るなら、むしろ出たいです。
井上 じゃあ諫山(創)先生にお願いして、巨人にしてもらったらいいんじゃないですか?
Revo でも、サングラスかけてる巨人は無理だよ、さすがに!
- Linked Horizon「進撃の軌跡」
- 2017年5月17日発売 / ポニーキャニオン
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
4298円 / PCCA-04539 -
通常盤 [CD]
3240円 / PCCA-04540
- 収録曲
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- 二ヶ月後の君へ
- 紅蓮の弓矢
- 14文字の伝言
- 紅蓮の座標
- 最期の戦果
- 神の御業
- 自由の翼
- 双翼のヒカリ
- 自由の代償
- 彼女は冷たい棺の中で
- 心臓を捧げよ!
- 青春は花火のように(初回限定盤のみのボーナストラック)
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
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- 自由の代償[劇場版Size]
- Linked Horizon Live Tour 2017 「進撃の軌跡」
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- 2017年7月8日(土)千葉県 市原市市民会館 大ホール
- 2017年7月10日(月)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2017年7月11日(火)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2017年7月20日(木)新潟県 新潟テルサ
- 2017年7月22日(土)石川県 本多の森ホール
- 2017年7月23日(日)石川県 本多の森ホール
- 2017年8月2日(水)神奈川県 よこすか芸術劇場
- 2017年8月10日(木)兵庫県 神戸国際会館
- 2017年8月12日(土)神奈川県 相模女子大学グリーンホール
- 2017年8月13日(日)神奈川県 相模女子大学グリーンホール
- 2017年8月17日(木)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2017年8月18日(金)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2017年8月23日(水)東京都 オリンパスホール八王子
- 2017年9月7日(木)鹿児島県 鹿児島市民文化ホール 第1ホール
- 2017年9月9日(土)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 2017年9月10日(日)福岡県 福岡サンパレスホテル&ホール
- 2017年9月17日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2017年9月18日(月)宮城県 仙台サンプラザホール
- 2017年9月20日(水)岩手県 岩手県民会館
- 2017年9月23日(土・祝)北海道 ニトリ文化ホール
- 2017年9月24日(日)北海道 ニトリ文化ホール
- 2017年10月8日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2017年10月9日(月)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2017年10月13日(金)香川県 レクザムホール
- 2017年10月14日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
- 2017年10月27日(金)大阪府 オリックス劇場
- 2017年10月28日(土)大阪府 オリックス劇場
- 2017年10月29日(日)大阪府 オリックス劇場
- 2017年11月9日(木)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
- 2017年11月10日(金)神奈川県 川崎市スポーツ・文化総合センター
- Linked Horizon(リンクトホライズン)
- Sound Horizonを主宰するRevoが、他作品とのコラボレーションで音楽活動を行う際のプロジェクト。2013年にアニメ「進撃の巨人」にオープニング主題歌として「紅蓮の弓矢」「自由の翼」の2曲を提供した。また同年7月にはこれら2曲を収めたシングル「自由への進撃」をリリース。その後も劇場版「進撃の巨人」の主題歌や、アニメ「進撃!巨人中学校」のオープニング主題歌など、「進撃の巨人」シリーズの主題歌を数多く手がけている。2017年5月、アニメ「『進撃の巨人』Season 2」のオープニング主題歌である「心臓を捧げよ!」を収録したアルバム「進撃の軌跡」を発表した。
- 井上麻里奈(イノウエマリナ)
- 2003年に行われた「ソニーミュージックSDグループ 声優オーディション」でグランプリを受賞し、2004年にOVA「コゼットの肖像」のヒロイン・コゼット役で声優デビュー。その後「天元突破グレンラガン」「さよなら絶望先生」「図書館戦争」「進撃の巨人」など、数々の人気アニメに出演を果たす。2013年の「第64回NHK紅白歌合戦」では、Linked Horizonによる「紅蓮の弓矢 紅白スペシャルver.」(パフォーマンス)の際に冒頭のナレーション役として参加した。