LEGO BIG MORL「kolu_kokolu」特集|15年のキャリアを糧にした再メジャーデビューを語る (2/2)

曲作り合宿の成果

──ここからはいくつかの曲について聞かせてください。まず、1曲目の「ラブソングを聴いてしまった」。この曲は歌い出しからかなりインパクトがありました。

タナカ これは「ラブソングを聴いてしまった」というワードをとにかく聴かせたくて。1曲目のド頭、歌始まりでこのフレーズが鳴った時点で僕の中では勝ちですね。

──わかります。この曲はどういうふうに作っていったんですか?

カナタ まさにそのワードから作っていきました。去年の夏頃、ヒロキが今どんなモードなのか、どんなワードを持っているのかを知りたくて、「何個かフレーズちょうだい」とお願いしたんですよ。その中の1つに「ラブソングを聴いてしまった」というワードがあって、そのフレーズからふっと降りてきたのがサビ頭のこのメロディでした。そこからシンタロウにアレンジをお願いしたら、彼なりの解釈でAメロが混沌とした感じになって。

ヤマモト キンタが作ってきた曲調は明るくてさわやかな印象があったんですけど、自分が「ラブソングを聴いてしまった」というワードからイメージしたのは……たまに昔の恋愛を思い出して「ああ……!」ってなる感じだったんです。「もう忘れたい」という気持ちと「でもあの頃もよかったな」という気持ちが混ざりあった感じを表現するにはさわやかすぎる曲にしたくないと思ったのと、あと、その時期「新世紀エヴァンゲリオン」ばかり観ていたのでちょっと混沌さを入れたかったんですよね。

カナタ なるほど。

ヤマモト サウンド的には「愛を食べた」と連なる感じだけど、「このテイストをずっと続けるのはやめようね」という話はキンタともしていて。キャッチーなテイストだからこそ「これをやっておけばいいやろ」という感じで安易に選択はしたくないというか。

ヤマモトシンタロウ(B)

ヤマモトシンタロウ(B)

──でもそれほどポップな曲だからこそ、次の曲「Hello Stray Kitty」が歪んだベースとギターで始まるのが痛快でした。「Hello Stray Kitty」はくるくると目まぐるしく展開する曲なので、なぜこういう構成になったのかが気になります。

タナカ 万華鏡みたいですよね。俺、最初にデモ聴いたとき「音飛んだんか?」と思いました(笑)。これは合宿で作ったんだっけ?

ヤマモト そう。僕とキンタで曲作り合宿をしたんですよ。この曲はオケから作ったので最初から展開の多い構成だったんですけど、合宿でキンタさんに歌ってもらったらこうなって。俺としては「よくぞこの曲調についてきながらメロディを付けてくれましたね」という感じでした。1番のサビが終わったあとのラップ調のところも、こっちから「こうしてくれ」とお願いしたわけではないんですよ。そんな中でキンタがああいうメロディを付けてくれて、「吾輩は猫である」という1文だけ歌詞に入っていたりして。いや、絶対に夏目漱石読んだことないやろとは思いましたけど(笑)。

カナタ (笑)。

ヤマモト ヒロキの歌詞はそこから広げていったんですかね。

タナカ そうそう。「吾輩は猫である」はそのまま残してありますね。

──ラップパートは「タイムマシン」にもありますよね。

ヤマモト 「タイムマシン」に関しては僕がキンタさんにお願いしたんです。この曲は当初もっとおしゃれな感じにしようかなと思っていたんですよ。だけどしっくりこなかったので、「もっとわかりやすくしたいよね」「子供でも歌えるような感じもいいよね」という話になって。そこからメロディもカッコつけた感じではなくなっていったんですけど、そしたらキンタさんが「ピーヒャラピーヒャラ」言い始めて(笑)。いい意味で気負わずに済む、遊び心のある曲になりそうだったので、それならキンタがマイクパフォーマンスしたら面白いんじゃないかと。それで「嵐とかRIP SLYMEみたいなラップを入れて」とお願いしたんです。

カナタ ここはマジで櫻井(翔)くんになりきって歌ってます(笑)。この曲、僕の中ではSMAP×嵐というイメージなんですよ。

──確かにSMAPっぽいですね。ファンクですし。

カナタ そうそう。Aメロは香取(慎吾)くんが歌ってそうだなって。

ヤマモト そんな話を合宿でたくさんしました。

カナタ いい合宿でしたね。たくさん曲できたし。

ヤマモト そうですね。

初期衝動が詰まっているアルバム

──それにしても今作のボーカルはメロディの自由度が非常に高いですよね。今話題に上がった「ラブソングを聴いてしまった」や「Hello Stray Kitty」もそうですが、「Gradation~多様性の海~」はカナタさん自身の音域や息の続く時間をある種度外視しているのでは?と思えるほどでした。

カナタ 本当にその通りですね。「Gradation~多様性の海~」のメロディは血液の流れのように、ひと続きの息で止まらずに描くことをすごく意識したんですよ。あと、「愛したって 愛したって 愛したって」の部分は僕の中で感情爆発ポイントなんですけど……やっぱり僕は挑戦したがりなんでしょうね。自分の限界を超えるようなメロディを作りたくなっちゃうというか。「Gradation~多様性の海~」も合宿でシンタロウと一緒に作った曲で、オケがある状態からメロディを書いていったんですが、僕にとってメロディを作る作業ってシンタロウがいろいろな位置に置いた星々をつなげていくことだったりするんですよ。それこそ「Hello Stray Kitty」もデモ段階では「何なんこれ?」「この曲どうしたいん?」と思っていたものの、「こういうふうに階段を上っていったらメロディがつながっていくな」と考えられるところがあったから、化学反応が起きやすかったし、絶対的な感触を味わえたんです。

カナタタケヒロ(Vo, G)

カナタタケヒロ(Vo, G)

──ここでも「ハードルがあったほうが燃える」という現象が起きているんでしょうね。

カナタ まさに。シンタロウは僕にとってハードルなのかもしれない。さっきシンタロウが自分で言っていたように、シンタロウはいろいろなアレンジャーさんと密に会話することですごくたくさんのインプットをしているし、それがアウトプットになって僕のところに届くんですよ。その熱量を感じることでメロディにも昇華しやすいんですよね。

ヤマモト ヒロキに歌詞を書いてもらうときも含め、そういう化学反応が続いていって、お互いに「いいやん、いいやん」となっていったら、曲は絶対によくなっていきますからね。

カナタ そういう意味での初期衝動が詰まっているアルバムだと思います。

──歌詞は全体的に、ユーモアやジョークを取り入れることで神妙になりすぎないようにしているのかなと思いましたが、いかがでしょうか。

タナカ そうですね。それはすごく意識しました。僕は余裕=ユーモアやと思っているので。もちろん大層なテーマを歌った曲も入ってますけど、そうじゃない部分も出さないと説得力や色気のようなものは出ないのかなと考えました。

──特に「Hello Stray Kitty」の1番Aメロは……。

タナカ ああ、「Shintaro's nose」のところですか?

──はい。ヤマモトさんが新型コロナウイルスに感染し、嗅覚障害になったことに引っかけたフレーズかと思いますが、ブラックジョーク的なニュアンスがありますよね。

タナカ これはまあ、シンタロウさんが「いい歌詞やん」と言っていたので。大丈夫みたいです。

ヤマモト そうそう。やっぱり人と話していると「そっか、大変やな……」と言われるんですよ。だけど嗅覚が多少戻らなかろうが、僕にとっては別に大したことないので、そんなに神妙にならないでほしいという気持ちがあるんですよね。だからこうやって歌にされるくらいがちょうどいい。いじってくれてありがとうございます。

タナカ はははは。

再メジャーデビュー、本当にうれしいんです

──一方、「心とは~kolu_kokolu~」や「Gradation~多様性の海~」のようにメッセージ性の強い曲も収録されています。ウクライナ情勢が緊迫している今聴くとより考えさせられる2曲でもありますが。

タナカ ウクライナで起きている戦争も今に始まった話ではなく、内戦は5年くらい前から起きていたし、そういったものを他人事ではないものとして常に捉えている自分がいます。そのうえで、僕自身が「0か100か」「白か黒か」というような極端な人間なので、自分への戒めを込めて、白と黒の間にはさまざまな色があるということをちゃんと書き示しておきたいタイミングだったので、“境界線をなくしてつながろう”と歌う「Gradation~多様性の海~」のような曲を作ったんです。あと、これはLEGOではなく僕個人の話ですけど、自己否定も入っているんですよ。

タナカヒロキ(G)

タナカヒロキ(G)

──というと?

タナカ 例えば「KEITH」というアルバムに収録された「ただそこにある」という曲では「『あなたのため』その言葉はどこで聞いても美しくない」と、“あなたのため”ということをあんなに否定していたのに、「心とは~kolu_kokolu~」では“あなたのため”だと言い切っている。「大きな木」という曲でかつては「僕らはすべて混ざり1つになる」と言っていたのに、「Gradation~多様性の海~」では「僕らは違うから そのまま 一つになれない」と言っている。

──つまりタナカさんの考えも15年で変化していると。

タナカ そう。僕1人の中ですら矛盾しているんですよね。だけど「前にああ言っちゃったからこう書くのはやめておこう」ではなく、矛盾していることをちゃんとわかったうえでそのまま歌詞に書けたことが自信になっています。バンドを15年続けても自分はいい意味でまとまらへん人間やし、作って壊して作って壊して……ということをここからまたやっていくんやろうなと思えました。

──今作はLEGO BIG MORLにとって8枚目のオリジナルアルバムですが、15年のキャリアを重ねてもなお、サウンドもメロディも歌詞もまだまだ開拓中であるように感じました。

カナタ もちろんです!

タナカ 15周年というと、やっぱり中堅というイメージがありますよね。だけど僕らはアスリートでもないんやから死ぬまで音楽できますし、そう考えるとまだぺーぺーやんと思うんですよ。「これだけのキャリアなのにまだ新しいことを」と言ってもらえるのはうれしいんですけど、キンタが言ったように、僕らとしては「はい、まだまだやりますもん」という感じ。だから今後の展望としては「ここでライブをやりたい」とか「CDを何枚売りたい」とかではなく、メンバー、仲間、スタッフ、お客さんの輪をちゃんと広げていきながら音楽を続けていきたい。それはつまり「売れたい」という話になるんですよね。

──なるほど。

カナタ LEGOは僕たちから始まったけど僕たちだけのものではない、と年を重ねるごとに感じているんですよ。年数を重ねて、削ぎ落として、「俺たちはこれや」という1本の矢のようなものをようやく作れたのが今で。この矢をどこまで飛ばせるのか、一緒にやっていきましょうと声をかけてくれたのがクラウンなんです。

ヤマモト 再メジャーデビュー、本当にうれしいんですよね。その半面、責任感も持たなければならない。一緒にやろうと言ってくれたレーベルの人のためにも、そして僕らを応援してくれている人のためにも、1つひとつのことにしっかりと向き合って、今の自分たちが作る音楽のよさを全力で伝えていきたいです。

LEGO BIG MORL

LEGO BIG MORL

ツアー情報

LEGO BIG MORL Live Tour 2022「kolu_kokolu」

  • 2022年5月8日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2022年5月15日(日)東京都 LIQUIDROOM
  • 2022年6月10日(金)岩手県 Club Change WAVE
  • 2022年6月12日(日)宮城県 darwin
  • 2022年6月24日(金)福岡県 DRUM Be-1
  • 2022年6月25日(土)広島県 SIX ONE Live STAR
  • 2022年6月29日(水)大阪府 BIGCAT

プロフィール

LEGO BIG MORL(レゴビッグモール)

カナタタケヒロ(Vo, G)、タナカヒロキ(G)、ヤマモトシンタロウ(B)からなるロックバンド。2006年に結成し、地元大阪を拠点に全国各地でライブを行いながら、2008年6月に初のミニアルバム「Tuesday and Thursday」をリリースする。2009年1月に1stアルバム「Quartette Parade」でメジャーデビュー。2016年3月に結成10周年を迎え、6月に初のベストアルバム「Lovers, Birthday, Music」を発表した。2019年9月に現在の3人体制に。2021年3月に結成15周年を迎え、アニバーサリーツアーツアー「15th Anniversary Tour『十五輪』」を実施した。2022年に日本クラウンより再メジャーデビューが決定。3月にメジャー復帰作となるアルバム「kolu_kokolu」をリリースした。