LeChat|ホラーと筋少大好きなコスプレイヤーが、歌で日本とフランスの架け橋に

LeChatがニューミニアルバム「Nouvelle lune」をリリースした。このアルバムはフランス人アーティスト・Lightningが全曲のプロデュースを担当。LeChatが親善大使を務めるフランスのバーチャルシンガー、ALYS(アリス)の人気曲など5曲が収録されている。

“美しいものとホラーを愛するコスプレイヤー”として日本のみならず海外でもカリスマ的な人気を持っているLeChat。これまでさまざまなキャラクターに扮して活動し続けてきた彼女が、アーティストとして表現しようとしていることはなんなのか。音楽ナタリーではマンガやゲーム、音楽など彼女を形成するさまざまな要素についてインタビューを行い、その素顔に迫った。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 竹中圭樹(D-CORD)

ノイズバンド・初音階段での活動で得たもの

──SNSのコメントを見ると、男性はもちろん、「るしゃ様」と慕っている女性ファンも多いですね。

LeChat

あはは!(笑) うれしいです。私が始めた頃はまだコスプレイヤーというものに市民権がなくて、衣装も自分で作ってたし、まず布を染めるところから始めるけっこうガチな“趣味コスプレイヤー”だったんです。ずっと髪も短くて男の子のキャラしかやってなかったんですけれども、メイド喫茶でバイトしたことをきっかけに「私、スカート履いてもいいんだ!」と思って。それで髪も伸ばして女の子キャラのコスプレをしていたら、お客さんから「企業ブースでコンパニオンをやってみませんか?」と声をかけていただいて、今のお仕事をするようになったんです。今回のようにシンガーとしての活動だと、なりきるキャラクターがいないので、自分を表現するのはこんなに大変なんだなって改めて思います。

──お名前の由来はフランス語で雄猫という意味の“Le Chat”ですよね。

男装していたというところもありますし、女だから、男だからこうしなきゃいけないとかあんまり好きじゃなくて。自分が女という性別に生まれたから逆をついて雄猫の名前を付けちゃおうと思ったんです。Twitter、Instagramのアカウントが“@LeChatPrince”なのも、将来の夢が王子様だからで(笑)。小さい頃から「人魚姫」とか「シンデレラ」の絵本を読んで、「お姫様じゃなくて王子様のほうがいいじゃん! なりたい!」とずっと思ってました。だって、お姫様は待ってるだけですから(笑)。やっぱり自分から手を差し伸べに行くほうがカッコいいなと思います。

──コスプレイヤーとしての活動と並行して、2014年には初音階段(非常階段と初音ミクのコラボユニット)の2代目ボーカリストとしても活躍されています。

私、それまでノイズというジャンルの音楽は知らなかったんです。なのでお話をいただいて初めて聴いたときは「だいぶブッ飛んでるなあ」と思いました(笑)。でも、私は初音ミクちゃんが大好きなので、ここに初音ミクちゃんがいたらカッコいいなーと思って、ぜひやらせてほしいですってお願いしました。初ライブがスイスだったんです。初っ端からとんでもない場所でライブをしたおかげで、もともと私は緊張しやすくて人見知りなのに柔軟な対応ができるようになって。初音階段では本当にいろんな経験をさせていただきました。

──初音ミクのどんなところが好きなんですか?

初めて知ったのはニコニコ動画だったんですけど、初めて音楽を作ってみたという人からプロの方までいろんなクリエイターさんがミクちゃんの歌を作っていますし、感動して泣ける曲もいっぱいあるんです。いろんな姿に変身するミクちゃんは永遠のアイドルだなと思いました。期待を裏切らないというか、スキャンダルも起こさない(笑)。私、根がオタクなんで。

──根がオタクなんですか?

マンガとゲームが小さい頃から大好きなんです。印象に残っているのはお母さんと一緒に本屋さんに行ったときのこと。「ベルサイユのばら」の特装箱に入った全巻セットが発売されていて、なぜそれが気になったのかわからないんですけれども、どうしてもこれが欲しいってお願いしたんです。お母さん的には「昔のマンガだし、あんたそんなに好きじゃないんじゃないの? しかも高いんですけど?」みたいな感じだったようですが(笑)。読んでみたら「なんて素敵なんだろう」と思って。今は少女マンガはあまり読まなくなりましたが、それ以来マンガが大好きになりました。ゲームを好きになったきっかけは「ドラゴンクエスト」です。昔から家にあったんですけど、幼稚園くらいの頃は意味がわからなかったので、小学生の高学年くらいになってから面白さがわかって同じゲームを何回もやりました。それ以来、新作が出たら買うし、さかのぼって全シリーズやってます。

──「ドラクエ」をやっていると、お姫様より勇者のほうがいいなと思っちゃいますよね。

世界を救ってますからね(笑)。お姫様は待ってるだけですから。

「筋肉少女帯しか聴いたことない」ってくらい大好き

──ホラーもお好きだそうですね。

お母さんがホラー好きだったので、小さいときからホラー映画をよく観ていたんです。悪魔祓い系が特に好きです。「エクソシスト」とか。日本だと「自殺サークル」という映画が大好きです。あの映画に出演しているROLLYさんに、先日渋谷で開催したトークイベント(2018年12月7日に東京・LOFT9 Shibuyaで行われた「LeChat Presents フランス大好きアーティストで“おフランスを語ろう!”」)にゲストとして来ていただいたんです。お会いするのは2回目だったんですけど、1回目は緊張して「自殺サークル」がすごく好きですって言えなかったから、2回目にしてやっとその気持ちを伝えられてよかったです。

LeChat

──では音楽についてはどうですか? ノイズはご存じなかったそうですが、どういうジャンルがお好きでした?

ロックだと筋肉少女帯が大好きで、それしか聴いたことがないくらいなんです。もともと本を読むのが好きで、友達におすすめされた大槻ケンヂさんの「くるぐる使い」という小説がすごく面白かったので一気にはまってしまって。なので私、ずっとオーケンさんのことを小説家さんだと思っていたんです。最初に筋肉少女帯を聴いたときは言葉にできないものを感じました。歌詞もいいし、曲もカッコいいし、声も好きだし。

──ご自身でも音楽をやってみたいという気持ちはかねてからあったんですか?

ミュージシャンになりたい夢はなかったし、プロのコスプレイヤーになりたいとも思っていなかったんですけれども、ご縁あって今のマネージャーに出会って「音楽やってみない?」と声をかけてもらったときに、「私にもできるの? じゃあやってみたい!」という感じで飛び込んでしまいました。ただ、コスプレイヤーっていうと「かわいい」「フリフリ」「キャピキャピ」というイメージを持っている方も多いと思うんですけれども、私はそういうことはできないですとは伝えてあって。そこをちゃんとわかってくれたので話し合いをしながら安心して進めさせていただきました。それでデビューミニアルバム「Ash and Irony」(2018年3月発売)は、AI(人工知能)が人間の感情を自分の中に取り込んでいくというコンセプトになったんです。