ナタリー PowerPush - lecca
出産を経てさらに前進 確かな一歩「Step One」
出産の影響を受けたくない
──今作は約1年半ぶりのフルアルバムとなりますが、前作「パワーバタフライ」と比較してどんな作品に仕上がったと思いますか?
まず「パワーバタフライ」と決定的に違うのは、子供を抱えながら作ったっていうこと。こちらはそういう意味で評価基準が甘くなってると思うんです。もう無事に完成したことが御の字で、正直できると思わなかったくらいバタバタした日々を送ってたので、評価をする以前にでき上がったことに対して自分に100点満点をあげたいです。
──leccaさんの場合は、妊娠したこと、出産したこと、母になったことで何か作風に影響はありましたか?
私はちょっとひねくれてまして、むしろ影響を受けたくない、赤ちゃんがいても変わりたくないって思ってるんです。私の出産とか赤ちゃんのことは、アーティストとしてのキャリアとか、歌い手として伝えてきたことと全く関係ないと思うので。ただ、楽曲も心持ちも信念も変えたくない中で、決定的に変わってしまったのが生活なんですよ。
──はい。
実際問題、生きてる人間がここに1人いて、子育てしながら曲を作ってたので、やっぱり集中力はないし、社会的な行動が本当にできなくなってるなっていうのは去年の後半にすごく感じました。物理的に寝てないとか、人と喋ってないとか、子供としか接してないっていう日があったので。だから、そんな現実の中でどうしたら今までと変わらないで曲を作って歌っていけるかを考えました。2011年は「どうしたら変わらずにいられるか」をテーマに過ごしてたんです。
──そうなんですか。私はまだ出産の経験がないので、先人の経験談として参考にしたいです。
あはは! そんな感じだから、出産ですごく価値観が変わるわよー!とは言わない(笑)。私はむしろ、出産と子育てをして飄々とした顔で職場に戻ってくる女性もまた強いなって思っているんですね。なので自分もそうしたいし、これから子供を持つかもしれない女性に対しても、出産があまり特別なものであるかのように言いたくないんですよ。そうするとすごく構えちゃうだろうし、大変そうだから嫌だなって思わせちゃうから。そりゃあ大変なのは当たり前だけど、その大変なことを家族や社会のみんなで助け合ってどうにかやってくのが大事だと思います。
──ということは、leccaさんはワーキングマザーになるんですね。
私は自分の音楽をプロレタリアミュージックだと思ってまして、自分が労働を止めてしまったらそのメッセージがあまり伝わらないだろうなと思うんです。だから決して安穏と暮らしたくないというか、自分の仕事をずっとやっていたい。労働という義務的なことが自分に与えてくれる力、学び、結果、そういうものがあっての人生だと思うので、それは捨てたくないな。
それがホントかどうかはわかんないよ
──アルバム収録曲のうち「情報の真偽をちゃんと突き止めるべき。鵜呑みにしないで疑ったほうがいい」と警告する「INFORMER」は、まさに情報社会の現代ならではの楽曲だと思いました。インターネットで日々情報を発信しているナタリーとしては、ぜひ突っ込んでお訊きしたい1曲です。
私、2011年は特に情報をインターネットから得ることが多かったんですよ。で、ネットっていろーんな情報が転がってるなとは思うんですけど、その1行を書いた人が博士号を持ってる人なのか、それとも家で暇してるニートの人なのか、無記名のものだとまるでわからないですよね。そして誰がどんな意図でこの一言を発したのか、みんなわかってるかっていうとそうではないと思うんですよ。よくわからなくてもセンセーショナルな1文があったりすると目を奪われるだろうし、頭に入るだろうし、人へどんどん伝わっていく。すごく危ない場所だなと思うんです。
──なるほど。
だから情報を受け取る人自身が、どこから出てる情報だ? 誰が言ってるんだ? その人は何を知ってるんだ? っていうのをちゃんと調べて、見極めるのが一番いいと思いますね。
──そういうネットの危険性に関して、leccaさんは元々敏感なほうだったんですか? それとも昨年はより身近に感じる年だったんでしょうか。
そうですね、震災のことが本当に大きかったと思います。私、元々は本をよく読むアナログ人間だったんですよ。ただ去年は子育てが忙しくてあまり外に出ない生活だったので、外の情報を知るのにインターネットを使うことが多くなった。だからかな、なんかやたら気になっちゃったんですね。
──確かに3月11日以降、ネット上の情報がより重要視されるようになったと思います。
そうそう。例えば放射能についてのニュースとかブログも、ある人はさもホントだというふうに書いていることが、その隣の場所では「あれはウソだ」と書かれている。じゃあ何がホントなんだ!?と混乱しちゃいますよね。各々の立場や見方があると思うので、読む人がそれぞれ気を付けなきゃいけないなと思います。
──「INFORMER」の曲の後半では、leccaさん自身がINFORMER=密告者になってウソの情報を歌い、リスナーを撹乱させるというギミックも面白いですね。
私がINFORMER第1号になりました(笑)。これはひとつのわかりやすい例として、私が言うことだとしても全部鵜呑みにするなよっていう。全部ホントって信じるのも自由だけど、おかしなことも言うし、ウソも混じってるかもしれない、それがホントかどうかはわかんないよっていうのを、ちょっと試しに言ってみました。
収録曲
- Jammin' the Empire
- HI-TEN feat. ILMARI & SU
- ファミリア!
- Right Direction
- 疾走マザー
- ONE WORD
- やるならば
- missing Ordinary
- INFORMER
- ドルチェ
- Dreaming of you feat. EMI MARIA
- get ur morning
- gift
- ぼくたちの世界
- 再生
CD+DVD盤付属DVD収録内容
- 「Jammin' the Empire」ビデオクリップ
- 「ファミリア!」ビデオクリップ
- 「Right Direction」ビデオクリップ
- 「INFORMER」ビデオクリップ
- オフショット
lecca(れっか)
2000年にシンガーとして活動開始。2006年4月にミニアルバム「Dreamer」でメジャーデビュー。以降、ライブとリリースを重ね、2009年に発売された初のシングル「For You」は、USENの年間リクエストランキング1位を獲得。同曲が収録されたアルバム「BIG POPPER」はオリコンウィークリーチャートに4週連続トップ10入りを果たした。さらに、2009年11月にシングル「My measure」がドラマ「ギネ 産婦人科の女たち」主題歌に起用され、さらに広い層にその名と歌声が知られる。2010年、CDリリースに先行して配信された「TSUBOMI feat. 九州男」が100万ダウンロードを突破し、CD発売前にUSEN総合チャート1位を獲得したことが話題に。5枚目のフルアルバム「パワーバタフライ」は自身最高位となるオリコンウィークリーチャート2位を記録し、その後行われた2度目の全国ツアーでは1万5000人を動員した。また、2011年6月に第1子を出産。同年12月にはニューシングル「Right Direction」、翌年1月には6枚目のフルアルバム「Step One」をリリース。3月末から実施する全国ツアー「lecca LIVE TOUR 2012 "Jammin' the Empire"」では自身初の日本武道館公演を行う。