音楽ナタリー PowerPush - Last Note.

想定外な広がりを見せる「ミカグラ」の世界

「カッコいいタイトルがビミィの曲なわけない」

──9曲目の「不条理ルーレット」は、ほかの曲とはちょっと違うコミカルな雰囲気の曲ですね。

一宮エルナ(左)とビミィ(右)。

ラスノ この曲は、エルナの保護者役みたいになっているビミィの曲なんです。もともとコメディタッチな感じにしようと思っていて、すぐにできた曲ですね。

T ホントに作詞が早かった。

ラスノ 基本的に作詞で毎回悩むんですけど、これはポンと出ました。

T 曲もコミカルな感じにしようと心がけました。打ち込みの音が多いので、この曲もLast Note.っぽく聴こえないかもしれないですね。でも僕はすごく気に入ってます。

──曲中にはネコの鳴き声が入っていますけど、ビミィってネコじゃないですよね?

T ネコじゃないですね(笑)。最初は犬の鳴き声にしてみようと思ってたんですけど、「ワンッ」ってのはちょっと違うなと思って。で、ほかの動物もいろいろ考えてみたんですけど……、最終的にネコになっちゃったんです。

──小説では「羽根の生えたネコだか犬だかそれ以外のなにだかわからない生き物」と書かれていますけど、ビミィってどういう生き物なんですか?

ラスノ 実は最初、PVのイラストを担当してもらってる明菜さんには「犬とネコとパンダのおいしいとこ取りのかわいいマスコットで、ぬいぐるみが欲しくなるような超絶あざとい感じのキャラクターで」ってお願いしたんですよ。そうしたら想定していた斜め上を突き抜けていくようなデザインの、ちょっとなんとも言えないものが上がってきて(笑)。遠回しに「ちょっとこれは……」と言って2、3回描き直してもらったのが今のビミィなんです。そこまであざといマスコットになれなかったのが少し残念なんですけど。

T いや、今のでもかわいいよ。すげー好きだよビミィ。

ラスノ まあブサかわって感じでね。

T え、ブサくないよ。

ラスノ ちなみにこの曲のタイトル「不条理ルーレット」は小説のサブタイトルで先に使っていて。そうしたらみんなけっこう誰の曲になるか、予想してくれてたんですよ。

T 僕も最初は星鎖先輩の曲になるかと思ってた。

ラスノ みんないろいろ予想を立てていたけど、「ビミィだ」って言ってる人はいなかった(笑)。「こんなカッコいいタイトルがビミィの曲なわけない」と。

──いい意味で脱力系の曲というか、アルバムの中でも箸休め的な1曲になってますね。

ラスノ はい。アルバムを作るんならこういう曲も入れたいと前から思っていて、その役をビミィが見事に果たしてくれました。

──次の曲は先ほど少しお話に出ました二宮シグレの曲「革新的ヒロイズム」ですね。

一宮エルナ(左)と二宮シグレ(右)。

ラスノ 小説やコミックスを読んでいる方にはわかってもらえると思うんですけど、シグレって三枚目的な立ち位置というか、性格がものすごく残念なキャラクターとして描かれているんです。でも実際は芯のところは真面目という設定があって、彼のカッコいい部分も表現したいなと思って、今回の曲ではその部分をクローズアップしています。

T 最初に歌詞を読んだとき「あ、やっぱり普段ギャグっぽく見せてるのは表向きだったんだ」ということがわかって。とはいえ、楽曲はカッコいいだけじゃなくて、カウベルの音とか、コミカルな部分もこっそり入れています。そういうところを見つけてもらうのも面白いかもしれませんね。

ラスノ この曲でシグレの思いの深さを初めて描いたので、イラストの明菜さんに歌詞を見てもらったんです。そしたら、すごく怖がってましたね。「誰なのコレ?」って(笑)。

──確かにシグレは小説でもまだ内面が描かれていませんね。

ラスノ そうなんです。シグレに関しては、小説やコミックスでおちゃらけた部分しかまだ描いていないんです。これから先、シグレとエルナの関係性の話も出てくるので、この曲から予想してもらえればと思っています。

一番悩むのがイントロ

──アルバム全体の共通点として、各楽曲のイントロに力が入っている印象を受けました。

ラスノ そもそも動画で観てもらうことを考えて作り始めたものだったので、最初に引き込まなきゃっていうのは常に考えています。イントロで印象的なフレーズとか、このキャラクターはどういう人か、聴いてみたくなるような作りにはしてますね。

T これがけっこう苦労するんですよ。僕らの場合、メロディラインを先に作ってワンコーラス作ったあとにイントロを作るんですけど、そこで一番悩むんですよね。つかみのフレーズって、意識してても手癖でほかの曲とかぶっちゃうことがあるので。

──今作の場合、イントロと楽曲で歌われているキャラクターを合わせなきゃいけないというハードルもあるわけですよね。

T そうなんですよ。キャラクターに合ったリフだったりメロディっていうのが求められてくるので、イントロ作りに四苦八苦してすることは多いですね。

ラスノ シグレの「革新的ヒロイズム」のイントロとか、カッコよくできたよね。

T 俺は「不条理ルーレット」の出だしの木琴の音とかが、けっこう気に入ってるんだよね。

ラスノ Tさんはビミィ大好きだね(笑)。

T そういう意味じゃないけど、俺の中では「この音はビミィだぞ」ってハマった感じがしたんだよね。

ラスノ それとイントロは演奏者とのやりとりで決まってくるパターンもあるよね。

T 僕らの予期せぬところで演奏者の方がアドリブ的な感じでやってくれる部分もあって「よしそれ採用!」みたいなパターンもあります。「絵空事スパイラル」のピアノは、HoneyWorksのサポートメンバーのcakeくんが弾いているんですけど、イントロを作る前にコード進行だけ送ってもらって。その時点で「こういう進行ならイントロは逆にこうしたら面白いよね」って話をしました。

ラスノ 演奏者さんには「好きに遊んじゃってください」って事前に言ってあるんです。そうすると僕らが想定しなかった遊びを入れてくれるので。それをもとにイントロができたり、楽曲にいい刺激が入ったりするんですよね。

ニューアルバム「ミカグラ学園組曲」2015年2月25日発売 / Sony Music Records
初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / SRCL-8741~3
通常盤 [CD] 2600円 / SRCL-8744
CD収録曲
  1. overture
  2. 我楽多イノセンス
  3. 有頂天ビバーチェ
  4. 絵空事スパイラル
  5. 花吹雪リフレクト
  6. 無気力クーデター
  7. 赤裸々キャンディ
  8. 十六夜シーイング
  9. 不条理ルーレット
  10. 革新的ヒロイズム
  11. 放課後ストライド
初回限定盤DVD収録内容
  1. 放課後ストライド
  2. 無気力クーデター
  3. 有頂天ビバーチェ
  4. 我楽多イノセンス
  5. 十六夜シーイング
Last Note.(ラストノート)

Last Note.とLast Note.Tの2人からなるボカロPユニット。ハードなギターサウンドによるストレートなロックチューンを得意とする。2010年に動画サイトへの初投稿作「ワンステップ・レイヤード」がVOCALOID殿堂入りを果たし、その後投稿された「セツナトリップ」などの楽曲も絶大な支持を受けた。2012年末にニコニコ動画で発表した動画「放課後ストライド」を皮切りに、同じ世界を描いたシリーズ「ミカグラ学園組曲」を始動。2013年7月には小説「ミカグラ学園組曲1 放課後ストライド」が、同年11月にはコミック「ミカグラ学園組曲1」が発刊され、メディアミックス作品として人気を博していく。2015年2月にはこれまで発表した関連楽曲と新曲を収録したアルバム「ミカグラ学園組曲」をリリース。同年4月にはアニメ「ミカグラ学園組曲」のオンエアがスタートする。