音楽ナタリー PowerPush - Last Note.

想定外な広がりを見せる「ミカグラ」の世界

ストーリーより楽曲優先

──今回、アルバムのトラックリストを見たときにまず気になったのは、シリーズ第1作目の「放課後ストライド」が1曲目ではなく、最後に収録されていたことでした。これはなぜなんでしょうか?

ラスノ 1曲目の「overture」のイントロを聴いてもらうとなんとなくわかるかもしれないんですけど、この曲には「放課後ストライド」のメロディが入っていて。アルバムをリピートさせて聴くと「放課後ストライド」の後に「overture」が来て、“この放課後は永遠に続いていくんだ”みたいなことを表現したかったという狙いがあります。

──「放課後ストライド」は主人公・一宮エルナがミカグラ学園に入学するところを描いた楽曲でしたが、「overture」は特定の誰か1人をテーマにした曲ではないような印象でした。

ラスノ 「overture」は学園全体を歌った曲なんです。学園の明るい雰囲気だったり、ちょっと変な部分が出せればいいかなと思っています。

──アルバムの曲順を見ると小説やコミックスで展開してきたストーリーとは異なる流れですが、これはどうやって決めたんでしょうか?

T 簡単に言うとアルバムとしてストーリーよりも楽曲を優先して、なるべく楽曲的にジャンルの違うもの同士を並べています。その中でもキャラクター同士の関係性などを考えて「この曲のあとは絶対にこの曲」っていうのはいくつかあったんで、それは反映させていますね。

ラスノ 10曲目「革新的ヒロイズム」から11曲目「放課後ストライド」の流れは決めていたんです。エルナの従兄弟である二宮シグレから、最後エルナの曲につなげたくて。今後のストーリーの展開にも関わってくる流れにしているので、これから出る小説を読んでもらったり、PVを観てもらったりしたらこの曲順に納得してもらえるんじゃないかなと思っています。

Last Note.っぽくない曲にも挑戦

──今回のアルバムではニコニコ動画で公開されていない新曲も収録されているので、1曲ずつお話を伺えればと思います。まずは「絵空事スパイラル」ですが、ピアノのメロディが印象的でLast Note.っぽくないテイストの曲ですね。

御神楽星鎖

ラスノ これは帰宅部の御神楽星鎖(みかぐらせいさ)の曲で、今までにないジャズっぽい曲に挑戦してみました。

T 今までの僕らの曲ってロックよりなものが多いんですけど、これはピアノを入れてクールな感じで、ちょっとな大人っぽいものにしています。

──小説やコミックスで御神楽星鎖はラスボス的な存在として描かれていますが、この曲では彼女の心情が描かれていますね。

ラスノ そうなんです。見た目はクールで神秘的な星鎖先輩にも、ちゃんと女の子らしい一面があるんだよっていうところを描いてみました。この曲はPVをこれから公開する予定なので楽しみにしてほしいですね。

湊川貞松

──次の曲、「花吹雪リフレクト」は華道部の湊川貞松(みなとがわさだまつ)の曲ですよね?

ラスノ そうです。たぶん今までLast Note.で発表してきた中で一番スローテンポな曲なんじゃないかな。湊川先輩は不思議ちゃんというか、つかみどころのないキャラクターなんです。今回はそんな彼の、小説やコミックスではまだ描かれていない過去や心情を表現した曲になっています。

T 華道部ということもあり、和風な感じの曲にしてみました。たぶんこれまで聴いてくれていた人は「これLast Note.なの?」って思うかもしれません。

──確かにこれまでLast Note.には和風なテイストの曲ってありませんよね?

八坂ひみ

T 基本的にはないですね。アルバムにも入っている八坂ひみちゃんの曲「有頂天ビバーチェ」は、彼女が書道部なのでそれっぽくはしてあるんですけど、どちらかというとガールズポップ寄りな曲調なので。今回は思いっきり“和テイスト”を出せたので作っていて面白かったですね。

ラスノ 湊川先輩は今後いっぱい出番があるので、その前にちょっと聴いておいていただければと思います。

──続いて「赤裸々キャンディ」はどうでしょうか?

ラスノ この曲はエルナと同じ新入生の、藤白おとねちゃんの曲ですね。彼女は2面性のあるキャラクターなので、それを歌詞の中で表現しつつ、本人視点の楽曲にしています。

T 藤白は小説では「○○ですっ!!」って語尾で喋るような元気なキャラクターなので、キャッチーで明るいロック調の曲にしています。でも“2面性がある”っていうところの表現でけっこう悩みまして。Bメロではベースを「ビヨビヨ」鳴らして少し変な音を入れたりして、そういう部分に注意して作っています。

──アルバムに収録されているほかの楽曲って、キャラクターのトラウマなどわりと重いテーマが歌われているものが多い印象がありますが、この「赤裸々キャンディ」の曲は飛び抜けて前向きな歌詞だったのが印象的でした。

ラスノ 「本当はこういう子なんだよ」っていうのを出したかったんです。本来すごい明るくて可愛い子なのに、ついキツい言葉を発してしまったり、自己嫌悪に陥ったりするキャラクターなので。それがエルナとの出会いで素直に自分を出せるようになってきたっていう部分を楽曲で表現した結果かもしれませんね。

T この曲の前に演劇部の赤間遊兎(あかまゆうと)くんの「無気力クーデター」があって、こっちはホントに彼の心の中に刺さっているトゲを歌ったようなダークな曲なんです。明るい曲調の「赤裸々キャンディ」とは真逆なので、うまくギャップが演出できたかなと思っています。

ニューアルバム「ミカグラ学園組曲」2015年2月25日発売 / Sony Music Records
初回限定盤[CD+DVD] 3500円 / SRCL-8741~3
通常盤 [CD] 2600円 / SRCL-8744
CD収録曲
  1. overture
  2. 我楽多イノセンス
  3. 有頂天ビバーチェ
  4. 絵空事スパイラル
  5. 花吹雪リフレクト
  6. 無気力クーデター
  7. 赤裸々キャンディ
  8. 十六夜シーイング
  9. 不条理ルーレット
  10. 革新的ヒロイズム
  11. 放課後ストライド
初回限定盤DVD収録内容
  1. 放課後ストライド
  2. 無気力クーデター
  3. 有頂天ビバーチェ
  4. 我楽多イノセンス
  5. 十六夜シーイング
Last Note.(ラストノート)

Last Note.とLast Note.Tの2人からなるボカロPユニット。ハードなギターサウンドによるストレートなロックチューンを得意とする。2010年に動画サイトへの初投稿作「ワンステップ・レイヤード」がVOCALOID殿堂入りを果たし、その後投稿された「セツナトリップ」などの楽曲も絶大な支持を受けた。2012年末にニコニコ動画で発表した動画「放課後ストライド」を皮切りに、同じ世界を描いたシリーズ「ミカグラ学園組曲」を始動。2013年7月には小説「ミカグラ学園組曲1 放課後ストライド」が、同年11月にはコミック「ミカグラ学園組曲1」が発刊され、メディアミックス作品として人気を博していく。2015年2月にはこれまで発表した関連楽曲と新曲を収録したアルバム「ミカグラ学園組曲」をリリース。同年4月にはアニメ「ミカグラ学園組曲」のオンエアがスタートする。