音楽ナタリー Power Push - la la larks
“最高”を目指すバンドの地道な一歩
鬱憤と救いとオマージュ
──カップリングのうち「Q And A」は、表題曲と異なり5人の音を軸にしたライブ感のある曲に仕上がっていますね。
内村 2曲目はカッコいい曲を入れたくて。セットリストのバリエーションが増えるような、ライブで盛り上がる曲っていうお題が先にあったから、それに向かって作った感じですね。
──この曲の作詞はどうでしたか?
内村 ライブでやることを想定した曲だったので、歌ったときにそのまま伝わるような直接的な言葉にしようと思って書きました。だから悩んでるというか、思ってることをなるべくそのまま、いい形で乗っかるように出すみたいな。
江口 実際に書かれてる内容は、去年1年の鬱憤かな(笑)。
内村 1年どころかもう人生のテーマみたいな感じ。物事がうまくいかなくていろいろ悩んでるとき、もしかしたらみんなもっと普通に生きてて、こんなに苦労してるのは私だけなんじゃないかって思っていて。でもこういう感覚って結局答えが出ないというか、ほかの人がどのくらい悩んで苦労してるかはわからないから。「わからないってことだけわかってればいい」みたいなことを歌詞に書いたんです。そうしたらベースのクボタ(ケイスケ)さんが「内村友美としてはこれでいいかもしれないけど、la la larksの内村友美としてはこれで終わっちゃいけないんじゃないかな。la la larksの内村友美はそこから人の背中を押さなきゃ」って返してくれて。
江口 歌詞に対して意見を言うのって勇気がいることだと思うんですよ。そういうことが自然にできるようになったのは、やっぱりバンドとしてまとまってきたのかなって思いますよね。
内村 意見をもらって、メンバーが私のことをただの私としてだけじゃなくて、“la la larksの内村友美”として考えていてくれたことがうれしかったんですよね。その期待に応えたかったから、歌詞に救いの要素を入れて、ちょっとずつ組み立て直してできたのが今の形ですね。
江口 それとこの曲のリズム、実は以前僕がプロデュースしてたジンっていうバンドが一番得意だったものなんです。メロもコードも違うからちょっと聴いただけではわからないと思うんですけど。今はもう4人での活動を休止しちゃってるけど(参照:ジン、現在のスタイルでの活動を一旦休止)、ジンは本当に素晴らしいバンドで尊敬もしてたから、オマージュを込めてるって感じですね。
敗者復活の「色彩」
──シングルの3曲目には、坂本真綾さんに提供した「色彩」のセルフカバーが収められています。
江口 この「色彩」は今年の1月にリリースされたばかりの曲なんですよ。普通、セルフカバーを出すとしたらもっとあとでしょと思うんですが、ディレクターさんに「やってみない?」って提案されて。「でも坂本さんは嫌がるんじゃないかな」と思ったらあっさりOKが出たという。
内村 嫌がるどころか、真綾さんは「聴きたーい」って言ってました(笑)。
江口 詳しくは坂本さんのナタリーでの特集を読んでもらえればと思うんですけど、実はこの曲すごいアクロバティックな作り方をしてる曲で(参照:坂本真綾「幸せについて私が知っている5つの方法 / 色彩」インタビュー)。すごく変な、すごく難しい曲を提供したことで、自分たちの首を絞めてしまった(笑)。でも一番大変だったのは内村だよね。
内村 曲を提供するときの仮歌を私が歌ってるんですけど、難しすぎて全然うまく歌えなくて。すっごく練習したのに歌えなかったから、曲に負けたような気がしてたんです。
江口 そうしたら敗者復活戦の話があり。
内村 そう。実は「『色彩』の内村さんバージョンが聴きたい」って言ってくれる方もいたりして、自分の中で敗者復活の気持ちもあるし、真綾さんは快くセルフカバーをOKしてくれたし、もうがんばるっきゃないって気持ちになって。聴いてガッカリさせちゃいけないと思って、今回は本当に必死に練習したんです。
江口 すげー。なんか部活みたい(笑)。内村ってやっぱり真面目だよね。
内村 実はすごい燃えてたんですよ。
江口 内村が燃えてる間、俺ら演奏陣は大変で大変で。提供したときに一度演奏はしてますけど、そのときでもう燃え尽きてますから。燃えカスをもう一度燃やしましたみたいな(笑)。年齢が40アベレージのバンドにはつらかった。
──「色彩」はシングルの3曲目に収録されてますが、この曲のイントロと2曲目「Q And A」のアウトロってリンクしてますよね。
江口 そうなんです。「色彩」は提供曲だからCDの中でここに収まる意味っていうのを作ってあげたいなと思っていて。もともと「色彩」は坂本さんのシングルの表題曲だからインパクトがありますし、3曲とも濃い曲を並べると作品としてのまとまりがなくなっちゃうじゃないですか。だから盤ならではの仕掛けを入れたくなったんです。
──la la larksってなかなかCDリリースをしないバンドですが、1枚の盤に込める思いはとても強いんですね。
江口 やっぱり盤を作らせてもらうのはとてもありがたいことですから。もうね、2曲目だけ聴いたら絶対気持ち悪いですから。「このあと何かあるの?」みたいな(笑)。だからぜひCDで聴いてほしいですね。
“最高”のための下ごしらえ
──今回、およそ1年2カ月ぶりにシングルを発表しました。ライブでは未発表曲も多く披露されてますし、そろそろアルバムが出てもいい頃だと思いますが。
江口 曲のストックもあるし、アルバムは作ろうと思えばいつでも作れるんです。でも無理してアルバムのレコーディングをやって、今のクオリティを下回るような作品を作りたくなくて。例えば「アルバム作るぞ」って公言すれば、いろんな人がけっこう無理して手伝ってくれたりして、形にはなるんですよ。ただそうすると、今回使わせてもらったビクターのスタジオとかでレコーディングができてないかもしれないし、バンドの規模感と関わる人の人数がどうしても不釣合いになっちゃうから。もっと堂々とアルバムを作りたいんですよね。
──まだ時期が早いと?
江口 イベンターさんが関わらなくてもワンマンライブがしっかり埋められるとか。そういう最低限のところをもっとクリアしてからだなと感じています。この業界ではいろんなことをすっ飛ばして作品とか作れる世界ですけど、自分たちはそうじゃなくて、地道に1つずつ達成していきたいんです。
内村 例えば料理って下ごしらえもそうですけど、包丁を手入れしたり鍋を磨いたり、そういう過程もしっかりできないと“最高の料理”って作れないと思うんです。なんとなくおいしい料理は作れるかもしれないけど、最高を目指すと準備の段階も気を抜けない。だから私たちは日頃の準備の部分をもっと工夫して、精度を高くしていきたいって思ってるんです。「最高の作品を作ります!」って宣言するより、作れるようになるためにこういうことをしているんですって、言い続けるようなバンドでありたいですね。
江口 最高の料理を食べるテーブルまで作りたいからね。セメントこねて(笑)。
収録曲
- ハレルヤ
- Q And A
- 色彩
- ハレルヤ(Instrumental)
- Q And A(Instrumental)
- 色彩(Instrumental)
la la larks(ラララークス)
内村友美(Vo / ex. School Food Punishment)、江口亮(Key / Stereo Fabrication of Youth、MIM)、三井律郎(G / THE YOUTH、LOST IN TIME)、クボタケイスケ(B / sads)、ターキー(Dr / ex. GO!GO!7188)からなる5人組バンド。2012年に結成。定期的なライブ活動を通じて着実に知名度を上げていく。2013年には栗山千明に楽曲「0」を提供。またAZUMA HITOMIの1stアルバム「フォトン」にはリミックスアーティストとして参加している。2014年1月、デモ音源でのオンエアにも関わらずJ-WAVE TOKIO HOT 100で「さよならワルツ」が22位にチャートイン。J-WAVEの番組「TOKYO REAL-EYES」では番組とのコラボ企画として新曲を制作し、2014年4月にはクラウドファンディングの出資者向けにCD「28時」をリリースした。同年6月、1stシングル「ego-izm」を発表。また2015年7月にはアニメ「空戦魔導士候補生の教官」エンディングテーマを表題曲に据えた2ndシングル「ハレルヤ」をリリースする。