ナタリー PowerPush - LAGITAGIDA

オータケコーハン&あら恋・池永 インストロックの快楽を語る

コペルニクス的転回を経て次の段階へ

──先ほどオータケさんが言っていた通り「TUTELA!!」ってアグレッシブではあるんだけど、すごく素直に聴けるアルバムでもありますよね。ただただ「エモいなあ」「アガるなあ」「楽器うまいなあ」って思いながら聴いていられる、というか。

オータケ そういうところを見せたいんですよね。単純に速いとか、単純に手数が多いとか、単純に音がデカいとか、ある意味子供じみたことにはすごくこだわっていて。聴いた人に中学生的な興奮をおぼえてもらいたいんですよ。頭を空っぽにして「速えー!」「デケー!」「なんかスゲー!」って思ってもらいたいんです。さっき言ったように「今の日本のシーンに変態的なインストロックバンドがいないからあえてやってみよう」っていう戦略もあるにはあるんですけど、なんでそんな戦略を立てたかっていったら、そういう「なんかスゲー」ロックが好きだから。好きだからやってるっていうのは根本であり、大前提ですね。

池永 でも10曲目の「Spiral Nebula」とかは単純に好きなことをやってるだけじゃない。「なんか別のことをやろうとしてるな」って思ったよ。なんかね「次の」っていうか、ネクストな感じがして……。

オータケ そういう意味もあって最後の曲にしたんです。9曲目の「Copeten」っていう曲があるんですけど、この「Copeten」っていうのは「コペルニクス的発想の転回」という意味。天動説が地動説にひっくり返った瞬間みたいな曲。そのあとに続く「Spiral Nebula」はコペルニクス的転回が起きたあとの新機軸なんです。「TUTELA!!」っていうアルバムの次のLAGITAGIDAの姿を見せる曲にしようと思っていて。

広がりを持たせるためのテルミンとタンスシンセ

──ただ、6曲目の「Fooneral」ではあら恋のクリテツさんがテルミンとジャンベを弾いていて、その「Copeten」では松武秀樹さんがタンスシンセ(MOOG III-C)で参加しています。これはこれで新機軸なのでは?

オータケ そうですね。これまでと同じことをやっても仕方ないというか、新しい要素を入れることによってバンドとしての広がりを見せられたらいいなっていう気持ちはありました。あと「Fooneral」は曲が楽器を呼んだところもあって。「この曲にパーカッションとテルミンの音が入っても面白いな」って思ったら……。

左から池永正二、オータケコーハン。

池永 けっこう近くにテルミンを弾けてジャンベを叩けるおじさんがいた(笑)。

オータケ そうそう(笑)。

──あら恋メンバーからみてクリテツさんのプレイっていかがでした?

池永 楽しそうに弾いてる姿が目に浮かびますね。演奏者の姿が見えるのはとてもよいことです。なんならあら恋のときよりもテルミンの音もジャンベの音もデカいんですよね。

オータケ 確かに完全にテルミン任せの曲になっちゃいましたね(笑)。

「両方ともガワが木だ!」

──一方、松武さんと共演したのはなぜ?

オータケ ある意味「Fooneral」とは逆。以前からタンスってすごく魅力的な楽器だなって思っていたところに「アナログシンセの音がピッタリじゃん」って曲があったからですね。しかも松武さんってウチらのレーベルと関係性が近いアーティストだったので、松武さんのスタジオに行って、いろんな音を録らせてもらっていて。それを素材として曲の中で使ってるんですよ。ただシンセの音を鳴らすだけじゃなくて、自分のわけの分からん絶叫と、あるマンガの主人公の台詞の朗読などをタンスに挿してエフェクトをかけるっていうボコーダー的な使い方もしていたりするから、ホントにバンドとして広がりをもたせられた感じはしてます。

──ゲストが2人とも、テルミンとMOOG III-Cという、MOOG社の楽器のプレイヤーだったのは単なる偶然?

オータケ ホントだ! 今気付いた!

池永 両方ともガワが木だ!

オータケ あはははは(笑)。でもやっぱり、アナログシンセのあの揺らぎまくる感じ、絶対に一定の音が出ない感じに惹かれるところはあったんだと思います。テルミンもタンスも特に音の揺れる楽器なので。

「もっとカッケー音楽を聴けよ」

──ちょっと話が前後するんですけど、先ほどオータケさんはアルバム制作の原動力の1つに「怒り」があると言っていて。でもその一方で好きなことをやっているだけとも言っている。ということは、アグレッシブになったのはあくまで結果論? 好きなことや今、気になっていることを音にしてみたら、どこか批評的になっていた感じなんですか?

左からオータケコーハン、池永正二。

オータケ そうですね。自分の今の気持ちが曲や演奏に乗ればいいな、と思っただけといえばだけなので。

池永 たぶんそれが音楽の強みなんですよ。怒るにしても「違ーう!」って言うだけ(笑)。何が違うの? どうしたいの? どうするべきなの?っていう話を細かくしたいなら、音楽を作るよりも論文を書いたほうが有効なわけですし。その代わり音楽は論文よりも分かりやすく、ある意味大雑把な「なんか違う!」っていう思想になる手前の初期の気持ちというか。思想というのは四捨五入してあるパートを切り捨てないと力を持たないと思うんです。「だけど」「でも」の部分が邪魔になるというか。それが政治。やっぱり僕らはあくまで音楽。「だけど」「でも」を含んでとっ散らかっている。逆にとっ散らかっていたほうが音楽としてグッとくるんです。だからお互いインストバンドをやってるのかもしれないし。

──音楽に言葉を乗せて何かを伝えようとしても、結局のところ限界があるから?

オータケ そうかもしれませんね。あら恋もそうだと思うんですけど、メロディやリフをメロディアスにしたい、ドラマチックにしたいっていう思いはあって。でもそのメロディを通じて具体的な何かを伝えたいわけでもない。メロディアスでドラマチックなメロディやリフを考えること自体が好きだからなんですよね。

池永 うん。考えてイメージして曲を作って。具体的な何かは聴いてくれた人のイメージの中で生まれてくるものですよね。

オータケ 曲を聴いて何かイメージしてくれればいいというか、それが一番うれしいですね。もちろん「つまんねえ音楽ばっか聴いてんじゃねえよ」とか、いろいろ言いたいこと、怒りたいことはあるんですけど、それって言っても仕方のないことではあるじゃないですか。その人はそれを好きで聴いてるんだから。

池永 でも「こっちのほうが面白いぜ」って気持ちはあるよね。

オータケ そうそう。だから「TUTELA!!」で訴えたいことは何か、って聞かれたら「もっとカッケー音楽を聴けよ」ってことなのかもしれませんね。

LAGITAGIDA「TUTELA!!」リリース記念ツアー

  • 2013年9月5日(木)東京都 新代田FEVER
    <出演者>
    LAGITAGIDA / SuiseiNoboAz / skillkills
  • 2013年9月22日(日)京都府 京都Club METRO
    <出演者>
    LAGITAGIDA / あらかじめ決められた恋人たちへ
  • 2013年9月28日(土)愛知県 Live & Lounge Vio
    <出演者>
    LAGITAGIDA / and more
  • 2013年9月29日(日)大阪府 大阪LIVE SPACE CONPASS
    <出演者>
    LAGITAGIDA / キツネの嫁入り / nhhmbase / Heiligenschein middle9 duo / 吉野 / and more
  • 2013年11月3日(日)岡山県 倉敷REDBOX
    <出演者>
    LAGITAGIDA / told / 6birds barked in the park / and more
  • 2013年11月4日(月)和歌山県 本町ラグタイム
    <出演者>
    LAGITAGIDA / and more
  • 2013年11月10日(日)石川県 金沢Kapo
    <出演者>
    LAGITAGIDA / NINGEN OK / UHNELLYS / and more
  • 2013年11月16日(土)福岡県 天神graf
    <出演者>
    LAGITAGIDA / あらかじめ決められた恋人たちへ / チーナ / 百蚊 / Hearsays
  • 2013年11月17日(日)徳島県 徳島FIGARO
    <出演者>
    LAGITAGIDA / ワスレゴト / tricot / coopees / and more
LAGITAGIDA 1stアルバム「TUTELA!!」 / 2013年7月3日発売 / 2300円 / levitation / LEVT-001
LAGITAGIDA 1stアルバム「TUTELA!!」
収録曲
  1. Incident On The Moon
  2. TUTELA!!
  3. Sufferers
  4. Drastica
  5. Surplus Population
  6. Fooneral
  7. Sensya
  8. Terrible Boy
  9. Copeten
  10. Spiral Nebula
LAGITAGIDA(らぎたぎだ)
LAGITAGIDA

オータケコーハン(G)、コーノタケヒト(B)、A(Dr)によって2010年4月に結成されたインストロックバンド。2011年4月に1stミニアルバム「CaterpiRhythm」をリリースすると、演奏テクニックを全面に押し出したスリリングなサウンドや激しいライブパフォーマンスが話題となる。2012年1月に2ndミニアルバム「CartaMarina」を発表。3月にはアメリカで開催された世界最大の音楽コンベンション「SXSW」に出演し、帰国後は東京や関西を中心にライブを実施した。その後約1年間の制作期間を経て、2013年7月に1stフルアルバム「TUTELA!!」をリリース。現在ではサポートにkAoru ikArAshi(Key)を加えた4人で活動している。

あらかじめ決められた恋人たちへ
(あらかじめきめられたこいびとたちへ)
あらかじめ決められた恋人たちへ

ピアニカ奏者兼トラックメイカーの池永正二を中心に結成された叙情派エレクトロダブユニット。2003年に初のフルアルバム「釘」を発表して以降、2005年に「ブレ」、2008年に「カラ」、2009年にライブレコーディングした音源を編集したアルバム「ラッシュ」とリリースを続け、エッジの効いたエレクトロニカサウンドに、ピアニカの叙情的な音色を重ね唯一無比の世界観を表現した。また2011年にバンドレコーディング作品「CALLING」、2013年に2曲30分からなるコンセプトミニアルバム「今日」など、チャレンジングな内容の作品を続々発表。バンドの活動のほかにも、リミックス提供や映画 / 劇中音楽の制作などで高い評価を得ている。