ナタリー PowerPush - kz(livetune)×八王子P

クリエイター2人が語る ネットミュージックの現気鋭在と未来

今年初旬にリリースされた「Google Chrome」のCMソング「Tell Your World」で、一躍幅広い層にリーチした“ボーカロイドシーンの立役者”kz(livetune)。そして、今年2月のメジャーデビューアルバム「electric love」がヒットし注目を集めている“若きボカロ界の貴公子”八王子P。人気クリエイター同士による初のコラボが実現したのが、PlayStation Vita用の新作リズムゲーム「初音ミク -Project DIVA- f」のために書き下ろされた新曲「Weekender Girl」だ。

今回は、ともにロックとクラブミュージックをルーツに持ち、DJとしても活動するなど共通点の多い2人による初の対談が実現。2人の出会いからコラボ曲制作の裏側、さらにはボーカロイドやインターネットミュージックシーンの現状と未来まで、幅広く語り合ってもらった。

取材・文 / 柴那典 インタビュー撮影 / 藤井拓

同じものを聴いても見方に微妙なズレがある

──コラボという形で楽曲をリリースするのは初めてですが、お2人の親交はかなり前からあったんですよね。

インタビュー写真

kz そうですね。

八王子P 自分は元々kzさんのファンだったんです。ニコ動を初期から観ていて、一方的にkzさんのことを知っていた感じで。で、自分も曲をアップするようになって、そこでつながったという。

kz 確か初めて会ったのは1~2年前だよね。たまたまクラブで紹介されたのがきっかけで。

──お互いに音楽のルーツや聴いてきたものには共通点がありそうですが、その辺はどうでしょう?

kz どうなんですかね? 考えてみたら八王子Pのルーツってちゃんと訊いてなかったような気がする。フレンチエレクトロがルーツなの?

八王子P いや、曲を作る前はその辺は全然聴いてなかったです。最初はロックバンドをいろいろ聴いて、そこからスーパーカーとかPOLYSICSみたいな電子音が入ってるバンドが好きだって気付いて。で、ちょうどその時期に「beatmania」というゲームでクラブミュージックというジャンルを知って。そこから入っていった感じですね。

──kzさんのルーツは?

kz 僕も入り口は「beatmania」なんですけど、多分八王子Pのほうが世代的にちょっとあとなのかな。僕はかなり初期のほうなんですよね。あと、僕もスーパーカーが好きだし、元々ロック出身というか、ずっとロックばっかり聴いてた時期がありますからかぶってると言えばかぶってますね。あと僕はUKインディもよく聴いてました。

──共通点も多いようですが、お互いに影響されてきたものと作風には違いがありますよね。そこはどういうふうに捉えてますか?

kz さっき2人のルーツとして挙がってた「beatmania」が、初期と後期でクラブミュージックに対する考え方がちょっと違うんですよ。僕が知った初期の頃はHiroshi Watanabe(KAITO)さんが参加されてたりしたんですけど、後期のほうはよりトランシーになってる。だから、八王子Pのサウンドって、トランスとかハードコアテクノの要素が入ってると思う。

八王子P 入り口は近いんですけれど、核になる部分がお互いにちょっと違うんですよね。確かに自分はやっぱりトランスみたいな派手な感じがすごく好きで。

kz 同じクラブミュージックでも、多分八王子Pが見ているのって、シンセの高揚感だったり、メロディックな部分が中心なんですよね。僕はどっちかっていうとビート感が重要。同じものを聴いていても、その見方に微妙にズレがある。多分それがお互いのサウンドの違いとして表れているのかなと思います。

「すごいものを作っていこうぜ!」っていう意識は全然なかった

──今回の「Weekender Girl」でお2人がコラボすることになったきっかけはどんなものだったんでしょうか。「初音ミク -Project DIVA- f」のタイアップの話があってから?

kz だっけ? 細かいところは覚えてないんですけど(笑)。

八王子P だいぶあいまいですね。何かドラマチックなストーリーがあったわけじゃないですからね(笑)。

kz でも、それが曲の持ってるラフ感みたいなものに表れてると思うんですよね。お互いに「すごいものを作っていこうぜ!」っていう意識は正直全然なくて。セッションっぽい、ラフな感じでやろうという感覚だった。そういう熱量でしたね。

──なるほど。作り方もセッションっぽい感じだったんですか?

インタビュー写真

八王子P 実際の手順としては、自分がまずメロディと曲の全体像を何パターンか作って、kzさんにアレンジと作詞をしてもらって、最後に自分がミクの調整をして、という役割分担でやったんです。正直、アレンジの部分をkzさんが担当しているんで「これ普通にkzの曲じゃん」って言われるような仕上がりになっちゃうかなって思っていたんです。でも、意外にそうでもなかった。完成した曲を聴いてみたら、どっちでもない感があって。

kz そこは、うまくコラボレーションできた感じはありますね。

八王子P 自分が考えたメロディにはこのアレンジが合うかなってざっくり考えてkzさんに送ったけど、全然違う形で返ってきた。それがすごく新鮮だったし、面白くて。相当刺激になりましたね。

kz そういう刺激は、僕もありました。八王子Pが書くメロディって、僕よりもさらに音域が高いんですよ。だから、僕が絶対作らないメロディラインになる。そういう意味でもコラボ感みたいなものは出てると思いますね。

CD収録曲
  1. Weekender Girlkz(livetune)×八王子P feat. 初音ミク
  2. fake doll八王子P feat. 初音ミク
  3. Weekender Girl Instkz(livetune)×八王子P feat. 初音ミク
  4. fake doll Inst八王子P feat. 初音ミク

iTunes Storeにて配信中!

iTunes - Weekender Girl / fake doll - kz(livetune)×八王子P
Toy's Hopにて Weekender Girl Tシャツ販売中! 定価 3500円
「Weekender Girl Tシャツ」画像
livetune(らいぶちゅーん)

音楽プロデューサーのkzによるユニット。2007年9月、ボーカロイド「初音ミク」を使用して制作したオリジナル楽曲「Packaged」を動画サイトに投稿し、注目を浴びる存在となる。2008年8月にアルバム「Re:package」でデビュー。その後、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける人気クリエイターとして活動する。2011年12月に「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”キャンペーン」のCMソングとしてlivetune名義の新曲「Tell Your World」を制作。YouTubeで公開されたCM映像は1週間で100万再生回数を超え、CM楽曲も話題に。2012年1月に同曲を配信リリースし、3月にミニアルバム「Tell Your World EP」を発表した。

八王子P(はちおうじぴー)

ボーカロイドを使って音源制作をする「ボカロP」として活躍中の男性アーティスト。2009年12月、ニコニコ動画で公開した「エレクトリック・ラブ」が注目を集め、有名ボカロPの仲間入りを果たす。これまでニコニコ動画やYouTubeで公開した関連動画の総再生数は700万回を超える人気ボカロP。2011年11月に台湾でリリースしたベストアルバム「Sweet Devil feat. 初音ミク」は現地の週間売り上げチャートで4位に入る健闘ぶりを見せる。2012年2月、アルバム「electric love」でメジャーデビューを果たしている。