KYONO(THE MAD CAPSULE MARKETS、WAGDUG FUTURISTIC UNITY、T.C.L.、!!!KYONO+DJBAKU!!!)のライブDVD「KYONO LIVE!! "S.A.L" 2021」が10月20日にリリースされた。
この作品に収録されるのは、3月16日に彼の地元である神奈川・Yokohama Bay Hallにて無観客で行われた自身初の配信ライブの模様。2ndソロアルバム「S.A.L」にフィーチャリングゲストとして参加したKj(Dragon Ash)とTAKUMA(10-FEET)、1stソロアルバム「YOAKE」に参加したJESSE(RIZE、The BONEZ)とMAH(SiM)、初のソロライブでバンドメンバーを務めたミヤ(MUCC)といった、多数のゲスト陣を迎えてKYONOの集大成的なステージが繰り広げられた。バンドメンバーは、ギターをKAZUYA(BOMB FACTORY)、ベースをHIROMITSU(AIR SWELL、OXYMORPHONN)、ドラムをDUTTCH(UZMK)が担当した。なおDVDにはメイキング映像も収録。ゲストアーティストやメンバーのアットホームな雰囲気や普段と違った現場の緊張感が感じられる映像作品に仕上がっている。
音楽ナタリーではKYONOにインタビューを実施し、配信ライブにまつわるエピソードや現在のラウドシーンへの思いを聞いた。
取材・文 / 小野島大撮影 / 大城為喜ライブ写真撮影 / Toyo
無観客であってもライブはやりたかった
──昨年の10月に2ndアルバム「S.A.L」をリリースしてから、有観客のライブはやってないですよね。
できてないんです。それで、このご時世なので無観客で配信ライブをやろうという話になって。
──アルバムにはライブ映えしそうな楽曲が多く収録されている印象を受けました。ライブで収録曲を披露してこそ「S.A.L」が完成するというような思いはありました?
そうですね。曲順やアレンジ、演奏も含めてライブでやることをイメージしながら作ったので、無観客であってもライブはやりたかった。1月から3カ月くらいかけて準備して、3月16日にYokohama Bay Hallで収録して4月17日に配信しました。ちょうどほかのアーティストの皆さんもたくさん配信ライブをやっていた時期でしたね。
──準備期間までにほかのアーティストの配信ライブを観る機会もあったのではないかと思いますが、どんな感想を持ちましたか?
あまり観てなかったんですけど(笑)、小さいライブハウスでアーティストを近い距離から撮っていた配信ライブは印象に残ってますね。でも僕は無観客とは言え、どうせやるならゲストも呼んで広めの場所で、有観客ではできないことをやりたいと思って。それでBay Hallをお借りして、照明チームや映像チーム、音響チームと下見して、どうやったら面白い画が撮れるか打ち合わせしながら進めていきました。
──有観客ライブと無観客ライブの映像の撮り方はどういう違いがあると思いますか?
無観客だとカメラマンがよりアーティストに近付くことができたり、お客さんを気にせず自由に動ける。照明に関してもスタッフさんに自前のムービング(カメラ用の台車)を持ってきてもらってセットを組んでやったんですけど、そういうのはお客さんがいないからこそできたと思うんです。Bay Hallの作りって、正面はもちろんいろいろな場所から見ることができるようになっているので、ライブしているアーティストを取り囲むように輪になって撮ってもらって。
──ステージにはドラムセットだけが置いてあって、フロアにベースやギター、ボーカルがいるというセッティングになってましたね。
ステージにみんなが集まっていると小さい画になってしまうかなと思って。かと言ってドラムもフロアに置くとフロアが狭くなってしまう。動きやすさを考えると、ドラムだけステージで、ほかのメンバーはフロアがいい。段差と前後差があるから空間的に奥行きも出るので。
──パフォーマンスする側としては有観客と無観客で意識の違いはあったんですか?
実際は画面の向こう側ではあるけど、お客さんが目の前にいることをイメージして臨みました。演奏にしてもセットリストにしてもMCにしても。
──確かに映像を観ると、たまたま客席が映っていないだけの、有観客ライブの様子を撮影したような印象を受けました。
ああ、それはよかったです。狙い通り(笑)。カメラは12台入れたんです。固定と手持ち、あと高いところから撮るもの。そうするとゲストの人が入場してくるところから撮れるなと思って。
後半はMUCCミヤとBOMB FACTORY・KAZUYAのツインギター
──KYONOさんはこれまでに配信ライブを行った経験はありますか?
それがほぼ初めてなんです。アコースティックの弾き語りで2、3曲やったことがありますけど、今回みたいにバンドセットでやったのは初めてですね。ライブ自体も1年ぶりぐらいでしたし。なのでけっこうテンションは上がってましたね。
──DVDに収録されるのは全13曲、尺で言うと1時間弱です。普通のライブと比較すると少し短めですね。
そうですね。ライブ自体は1時間ないくらいかな。有観客のワンマンライブでこの時間だとちょっと少ないかもしれないけど、配信ライブなら「ちょっと物足りないかな」「もうちょっと観たいな」くらいがいいと思ったんです。あまりダラダラやっても飽きちゃうし。
──確かに配信ライブって長時間見てると集中力が途切れそうですし、1時間くらいのほうが集中力を保てそうです。
それはよかったです(笑)。家で観てくれた人が多いと思うんですけど、誰か1人だけチケットを買って、その人の家に何人かで集まってワイワイ言いながら観るグループがいたら楽しそうだな、とか、そういうことを勝手に想像しながらやってました。そういういろいろな楽しみ方をしてくれるとこちらもうれしいですから。
──今は誰かの家に集まってワイワイやるのも難しいご時世ではありますが、それを聞くと視聴者数のカウント以上の人たちが観ているかもしれないし、伝えられているかもしれないですね。
欲を言えば世界に向けて配信したかったんです。今回は国内限定だったので。視聴人数の制限がないのが配信のいいところなので、いずれやりたいですね。
──バンドメンバーは初ライブの際とほぼ一緒ですね(参照:KYONO初ライブにTokyo Tanaka、JESSEら豪華ゲスト多数)。
今回、ギターはBOMB FACTORYのKAZUYAなんですけど、初ライブでギターを弾いてくれたMUCCのミヤくんがゲストという形で参加してくれて、後半はツインギターになってますね。
──メイキング映像を観ていると、ゲストやバンドメンバーの皆さんもライブ自体がひさしぶりの人が多かったようで、興奮が伝わってきました。
イベントもあまりなかった時期なんで、わりとみんな楽しんでくれたかなと思います。リハーサルからゲストに来てもらって、本番とまったく同じようにがっつりやったので、1日に2回ライブをやったみたいな感じでした。朝から会場に入って、夜は22時撤収だったんです。撤収時間ギリギリまで会場を使わせてもらって、けっこう長い1日でしたね。
画面の向こうにはたくさんのお客さんがいる
──目の前に観客がいない状況でのライブはいかがでした? ラウド系のライブは特にアーティストとお客さんのエネルギーのやりとりみたいなものが大事だと思うので、あるべき拍手や歓声、客席の熱気みたいなものが伝わってこないと苦労されたんじゃないでしょうか。
そうですねえ。やはり目の前にお客さんがいた方がやりやすいですけど、その場にいるスタッフがお客さんみたいな感じだったしあまり気にならなかった。エネルギーのやりとりというよりは、どこに行くかわからないボールを全力で投げる、みたいなことになりましたけど。でもめちゃくちゃ楽しかったですよ。これはこれで楽しんでできましたし、バンドメンバーやゲストのみんなも楽しんでくれたんじゃないかと思います。メイキング映像で、ライブ前にベースのHIROMITSU(AIR SWELL、OXYMORPHONN)が「お客さんいないんだよなあ」と言って、ドラムのDUTTCH(UZMK)が「いや、いるんだよ!」と返すシーンがあって。目の前にはいないけど、その向こうにはたくさんのお客さんがいる。それを意識しながらみんなやってくれたと思います。実際に音を出したらみんなそういうテンションになって、いい緊張感を持ってやれたかなと。
──お客さんに向けて、というよりも親しい仲間同士で楽しむ感覚もありました?
それを見せたかったというのもあります。「ライブって楽しい」と俺らが感じているところを。もちろんお客さんを意識してはいましたけど、それプラス、こういう形でも俺らは楽しめるよ、ということも伝えたかった。
──無観客ライブの素っ気なさというか空々しさみたいなものがない映像だったというか、演奏が終わった瞬間にシーンとして興奮も冷めちゃうみたいな場面が全然なかったです。
よかったです! 空気感が寒くなっちゃうのがイヤだなと思ってたんです。MCも1曲ごとに入れるんじゃなくメリハリをつけて、立て続けに演奏するところもあり、休憩を入れるところは入れて、緊張が途切れないようにみんなで作っていく感じでしたね。
──MCは実際のお客さんに呼びかけるような、堂々とした言葉が素敵でした。
ありがとうございます。どういうテンションでMCしたらいいかわからなかったんですけど、そこはまあ普段通りにやればいいなと思ってやりましたね。
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世代で異なる音楽の捉え方