KYONO(THE MAD CAPSULE MARKETS、WAGDUG FUTURISTIC UNITY、T.C.L.、!!!KYONO+DJBAKU!!!)が2ndアルバム「S.A.L」を10月21日にリリースする。
「Stem! Art! Loud!(ステムデータでやりとりし、さらに芸術性の高い音を目指し、それをでかい音で表現する)」という趣旨がタイトルに込められた本作には、Dragon AshのKjと10-FEETのTAKUMAがゲストボーカルとして参加。付属するDVDには、2人とのコラボ曲のミュージックビデオに加えて、2019年に東京・WWW Xで行われたライブからJESSE(RIZE、The BONEZ)と共演した「BREED」の映像も収録されている。音楽ナタリーでは、KYONOにソロ活動に対するスタンスを改めて聞きつつ、約2年ぶりとなるアルバムで挑戦したことを語ってもらった。
取材・文 / 石井恵梨子 撮影 / 小原啓樹
よりシンプルな状態のものを作りたいと思った
(小型レコーダーを見て)あ、これ俺も持ってましたよ。最近はスマホで録音できちゃうけど、前はこれで思いついたものすぐ録音して。
──そうなんですね。KYONOさんは、日々呼吸をするように曲のアイデアを録り溜めるタイプですか?
そうですね。パッと思いついたら、メロディとかリフとか、そのまま口で録るようにしています。WAGDUG(FUTURISTIC UNITY)の活動を始めた頃からiPhoneを持つようになって、さらに録りやすくなったんでアイデアは残すようにしてますね。「いい曲だったけど、どんなだったっけ?」って忘れちゃうことが多々あったので。
──2年前のソロ活動スタート時もさんざん聞かれたと思いますが、2006年のTHE MAD CAPSULE MARKETSの活動休止からソロ活動開始までに時間がかかったのはなぜだったんでしょう。
ソロに対しての意識があまりなかったというか。どちらかと言うとバンドでやりたい人だったので、一応ソロプロジェクトという形のWAGDUGでも誰かと関わったり、地元の仲間たちとハードコアバンドのT.C.Lをやったり。ただ、自分だけのこと、今までやったことないことをやってみたいという意識がだんだん強くなってきて。最初はホントにアコースティックのアルバムを作ろうと思ってたんですよ、実は。
──意外ですね。
その意外性が面白いかなと思ってもいて。ソロ名義でやるんだったらアコースティックのアルバムを作ろうと思ってました。それで、家でアコギを弾いて作曲してたんですけど、じゃあすぐライブでできるかっていうと、人前でアコギは弾いたことがなくて。家でしか弾かないものを、いきなりアルバムで出して人前でライブやるのかって考えると……それはそれでソロっぽすぎるなと。やっぱり自分はバンドサウンドが好きだし、ソロ名義でもバンドサウンドで歌おうと。ただ、せっかくソロなので、自分で演奏してほぼ自分だけで全体の音を一度完成させてみたいと思った。それが1stアルバム「YOAKE」(2018年10月発売)でしたね。パソコンのソフトでリズムを打ち込んで、あとはベースとギターを重ねて、シンセも弾いたりとか。その1stに比べて音数を減らして、よりシンプルな状態のものを作りたいと思ったのが今回なんです。
ソロのテーマの1つは、メロディをもっとわかりやすく伝えること
──今回もサウンドはすべてご自身で?
そうです。基本は同じなんですけど、前作は自分で打ち込んだものをT. Sakaiっていうエンジニアもやってる後輩のスタジオで生音に差し替えていったんですね。で、彼と一緒に差し替えたものを、昔からやってくれているエンジニアの小西(Koni-young)さんに渡して、ミックスしてもらったんです。でも小西さんも忙しい人だし、今回は俺と後輩の2人でミックスまで完結できたらまた面白い音ができるのかなって。
──進め方はどう変わりましたか?
「こういう曲を作りたい」と自分のイメージを後輩に話してから、その場でドラムの打ち込みを始めて、すぐにベース、ギターを録って、仮歌も入れて。そういうパターンでどんどんデモを録っていったんです。家で録ったギターをそのまま使ってる曲もあるし、彼のところで録った曲も混ざってる。シンセは全部自分の家で弾いたんですけど。
──思い付いたらすぐ音にしていったと。
そうです。まさに。時間短縮じゃないけど、無駄がない作り方をしたいと思ったので。1stに比べて今回のほうがライブをイメージしていましたね。曲を作る段階から、このあとこう来たらカッコいいんじゃないか、こう来るとお客さんもノるんじゃないか、自分もテンション上がるんじゃないか、とか。
──1stは、1つの作品として完結させることが目的でしたね。
そう。だから、そこまでライブを意識してなかったんですね。まず1個の作品を作ってから考えよう、みたいな感じで。そのあとライブを何本かやって生まれてきた曲も今回いくつか入ってるので、ライブをやるようになって感覚がわかってきたというか。もうライブはさんざんやってきたはずなのに、ソロの曲をまたライブでやるとちょっと違ったりするんですよね。思ったところでお客さんがノらなかったりとか、思ってもないところですごく盛り上がったりとか。そういう部分が発見できたので、次はよりライブ主体のイメージで作ろうっていうのは最初からあったんです。自分1人で完結するんじゃなくて、人が携わってくることでよりイメージが膨らんできたので。
──観客が盛り上がるポイントというのは、要するにみんながKYONOさんに何を求めているかだと思うんです。
ソロを出す前からいろんな人に「歌モノを歌ってほしい」って言われて。もちろんゴリッとした叫びもいいんだけど「やっぱ歌メロが聴きたい」っていう意見が多くて、なるほど、と。「確かにそうだな、歌メロをもっと重視した曲を作ってもいいんじゃないかな」っていうのは1stの頃からソロ活動のテーマとしてあったんです。メロディというかキャッチーさですよね。そういうのは欲しいなって。
──昔のことを蒸し返すようですけど、MAD時代のインタビューで「歌はディストーションに隠れているくらいでいい、自分はできればノイズに隠れていたい」という発言があったんですね。
ははははは(笑)。ボリューム的に、ですよね。はいはい。
──今はだいぶ感覚が変わったんだなと。
そうですね。今回、小西さんにも仮ミックスの状態を聴いてもらったんですが、「歌デカいな! お前こんな歌デカかったっけ?」って言われたくらい(笑)、声のボリュームを大きくするようになりましたね。楽曲によっては、言われたようにディストーションの中で見え隠れするくらいにして切なさを出したりするものもありますけど。ただ、メロディをもっとわかりやすく伝えなきゃっていう意識は昔より全然出てきました。こういう歌だ、こういうメロディだってことをもっとわかってほしいみたいな。
KYONOっぽさ
──振り返ってみて、自分の歌のルーツって何になると思います?
根本はThe Beatlesだったりするんです。ジョン・レノンのソロも聴いてたし。あとはやっぱり中学生くらいのときに聴いてた80'sのポップスでしょうね。ビリー・ジョエル、エルトン・ジョン、Daryl Hall & John Oatesとか。
──意外です。
意外ですよね(笑)。僕は横浜で育ったんですけど、TVKの「ミュージックトマト」っていう音楽番組を観ていて。そこでミュージックビデオと一緒にいろいろな音が入ってきた感じ。当時はジャンルにこだわって聴いてなかったんですよね。スティーヴィー・ワンダーとかはいまだに好きだし。80年代に聴いてた音楽って今聴いてもキュンと来るっていうか(笑)。あとは何聴いてただろう? もちろんYMOも好きでした。小学生のときにエレクトーンを習っていて、YMOの曲を発表会で弾いたりしましたね。「テクノポリス」だったか「ライディーン」だったか。
──ソロではそういう好みを出せるところもありますか?
そうですね。バンドだと演奏する人の個性があるからみんなの味が出てくるし、特にライブだと自分は演奏しないで歌うだけなんで、演奏する人たちの我がいい意味で出てくる。ソロに関しては、もうホントに僕の好み、自分主体で成り立たせることができるから。そういう意味では作ってて楽しいですよ。まあできあがるまではけっこう大変ですけど、できたときはうれしい。単純に自分が聴きたい曲を作ってるだけなのかもしれないですね。
──MADのKYONOさんならこれくらいやってほしい、というようなファンからの期待もあると思うんです。それはありがたいことなのか、重圧になっていくのか。どう感じています?
もちろんすごくありがたい部分もあるし……うーん、そうっすね。そこから外れたものをやらないといい意味で期待を裏切れないし、「ああ期待通りだね」って言われて終わっちゃうと、それはそれでつまらない。身を削って作っているものなのでKYONOっぽさもありつつ、どこか枠や殻から飛び出したいところはあるんですよね。それが何なのか、どこで飛び出せるのかはずっと模索してる。今回もいろんな曲を入れていて、ある意味実験でもあって。「KYONOっぽいね」っていうものもあれば「あ、こんな曲もあるんだ、意外」みたいなものも、おそらくあると思うんです。
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Kj、TAKUMAを迎えた理由
2020年10月20日更新