音楽ナタリー Power Push - 「黒執事 Book of the Atlantic」

主題歌アーティスト・シド インタビュー 「硝子の瞳」に刻んだ黒執事の世界

枢やなによる人気マンガ「黒執事」初の劇場版アニメ「黒執事 Book of the Atlantic」が1月21日に公開される。

ナタリーではこれを記念して、音楽、コミック、映画の各ジャンルで本作の魅力を掘り下げる特集を企画。音楽ナタリーでは主題歌「硝子の瞳」を手がけたシドへのインタビューを通して映画の世界に迫る。テレビアニメシリーズのオープニングテーマを2回担当し、「黒執事」とは3度目のタッグとなる彼ら。メンバーが感じる「黒執事 Book of the Atlantic」の魅力とは?

取材・文 / 中野明子 撮影 / 西槇太一

じっくり時間をかけて作った「硝子の瞳」

──劇場版の主題歌の話が来たときの感想は?

マオ(Vo) 「シドさんに主題歌をお願いしたいです」という形で、最初から「一緒にやりましょう」というお話だったので、とても光栄だったしうれしかったですね。

ゆうや(Dr) 実際に話をいただいたのは、去年の3月か4月かな。

マオ そうだね。けっこう前にオファーをいただいて、じっくり時間をかけて作っていきました。

──作曲はゆうやさんですが、曲作りのうえで意識したことはありますか?

ゆうや 「黒執事」の主題歌ではあるんだけど、シドらしさも入れたいということですね。作品の空気感もですが、シドとしての音楽も求められているところだと思ったんです。

──そのシドらしさ、というのは?

ゆうや これまでいろんな曲をリリースしてきたので、人によって「シドらしさ」って微妙に違うと思うんです。ただ、その“らしさ”の割合が多そうな音というか。具体的には、「シドにしては珍しい曲だね」と思われるような実験的な要素は排除して、切ないメロディラインや歌詞などでいわゆる王道のシドのサウンドを表現しました。聴いた瞬間にきっと「シドだな!」って思ってもらえる曲になってると思います。

──実際に制作が始まったのはいつ頃でしたか?

ゆうや 去年の5月くらいかな。

マオ 映画ありきでの楽曲制作だったので、まずは映画で描かれる原作の「豪華客船編」を読み込んで、それぞれアイデアを練って。持ち寄った曲の中から、今回はゆうやの曲がストーリーに合いそうだということで選びました。

か弱い者がか弱いゆえに放つ美しさ

劇場版「黒執事 Book of the Atlantic」より。

──「硝子の瞳」の歌詞はシエルとセバスチャン、シエルとエリザベスといったメインキャラクターたちの関係を想起させるような、ストーリーに寄り添った内容ですね。マオさんは作詞にあたって、どんな点を意識されましたか?

マオ 「豪華客船編」を読んでいるときに印象に残った、か弱い者がか弱いゆえの美しさを放っている部分を表現することですね。映画のストーリーを浮かべつつ、それを超えて「『黒執事』とは?」という大きなテーマも書きたいと思ってたし、シドとしてひさしぶりの新曲だったので伝えたいこともあった。そこをうまく混ぜるのに苦労しました。でも、改めて歌詞を読んでみると、ちゃんと融合していると思います。

ゆうや うんうん。「遠くから 君が壊れる音 聞こえてた」っていう1行目からグッときたね。全体を通して僕が曲で伝えたいと思ってたことが、ちゃんと言葉になっているなと思った。

明希(B) 俺も1行目からキましたね。俺らが感じる「黒執事」の世界観が、シドらしく出せている気がします。

Shinji(G) 「硝子の瞳」の歌詞はいつになくストレートで、スッと心に入ってくるので好きですね。

──歌詞によってレコーディングでの演奏やアレンジが変わった部分もありますか?

マオ(Vo)

マオ いや、シドは基本的にはトラックを作り上げたあとで歌詞を書くので、ライブで演奏していく中で変化していくことが多いんです。なので、リリース後の変化をお楽しみにという感じです。

──枢先生から何かコメントはありましたか?

マオ ありました。一発OKで、お褒めの言葉もいただいて。ときどき先生と音楽の感性が似ているのかなと思うんです。「モノクロのキス」(アニメ「黒執事」第1期オープニングテーマ)や「ENAMEL」(アニメ「黒執事 Book of Circus」第3期オープニングテーマ)のときも、俺たちが「これだ!」って作ったものを気に入ってくださったので。

──「黒執事」のテーマソングを3度担当しているのは、シドだけですから。相性のよさはお墨付きですね。

マオ そう言っていただけるとうれしいです。

やっぱり「不死鳥!」

──それぞれが感じた「黒執事 Book of the Atlantic」で描かれるストーリーの魅力や印象に残っているところを教えていただけますか?

ゆうや(Dr)

ゆうや 前半は華麗なバトルシーンがあり、後半ではバトルに加えてこれまでのセバスチャンとシエルの歴史が明かされるところですね。特に後半はそれぞれのキャラクターが抱えている悲しみや痛み、覚悟が描かれている。それをメロディに反映するようにしましたね。

明希 「黒執事 Book of the Atlantic」がベースになっている「豪華客船編」って、これまでの「黒執事」の中でも特に読み応えがあるストーリーだと思うんです。従来のコメディっぽい要素もあるし、知られざる悲しいエピソードも明かされる。あと船上でのダイナミックなアクションとか、細かな衣装や描写も読んでいて楽しいですよね。

──このストーリーを描かれるときに、枢先生は映画の演出をイメージされていたそうですよ。

明希 そうなんですね! だからマンガの段階でスケール感があるのか。

劇場版「黒執事 Book of the Atlantic」より。

マオ 僕は「黒執事」って女性のファンの方が多くて、女性の方を意識した作品だと思うんです。それはシドとも似ているなと思っていて。ただ、今回は動く死体が出てきたり、バトルシーンが派手だったり、男の子が食い付く要素も盛り込まれている。原作を読んだときに、いつもの「黒執事」より男性が楽しめるストーリーという印象を受けました。特に印象に残っているのは、やっぱり「不死鳥(フェニックス)!」かな(笑)(※「豪華客船編」で鍵を握る秘密結社・暁学会の合言葉。合言葉を唱えるときには両手を翼のように広げながら片足を上げる)。あのポーズが何かストーリーと関係があるのかな?と思ってたら実はそんなにという。でも、あれは「豪華客船編」を象徴するセリフだと思います。

──あのポーズはインパクトがありますね(笑)。劇場で観たらバトルシーンとは違う迫力がありそう。Shinjiさんはいかがですか?

Shinji ネタバレになっちゃうので詳しくは言えないんですけど、終盤でシエルがセバスチャンにかける言葉にグッと来ました。そこは大きなスクリーンでぜひ確認してもらいたいですね。

Contents Index
「黒執事」担当編集・熊剛氏 インタビュー
主題歌アーティスト・シド インタビュー
小野大輔(セバスチャン・ミカエリス役)×坂本真綾(シエル・ファントムハイヴ役)対談
劇場アニメ「黒執事 Book of the Atlantic」2017年1月21日(土)全国ロードショー
劇場アニメ「黒執事 Book of the Atlantic」
あらすじ

19世紀英国──名門貴族ファントムハイヴ家の執事セバスチャン・ミカエリスは、13歳の主人シエル・ファントムハイヴとともに、“女王の番犬”として裏社会の汚れ仕事を請け負う日々。ある日、まことしやかにささやかれる「死者蘇生」の噂を耳にしたシエルとセバスチャンは調査のため、豪華客船「カンパニア号」へと乗り込む。果たして、そこで彼らを待ち受けるものとは──。

スタッフ

原作:枢やな(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)
監督:阿部記之
脚本:吉野弘幸
キャラクターデザイン・総作画監督:芝美奈子
音楽:光田康典
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス

キャスト

セバスチャン・ミカエリス:小野大輔
シエル・ファントムハイヴ:坂本真綾
エリザベス・ミッドフォード:田村ゆかり
葬儀屋:諏訪部順一
グレル・サトクリフ:福山潤
ロナルド・ノックス:KENN
ウィリアム・T・スピアーズ:杉山紀彰
スネーク:寺島拓篤
バルドロイ:東地宏樹
フィニアン:梶裕貴
メイリン:加藤英美里
チャールズ・グレイ:木村良平
チャールズ・フィップス:前野智昭
エドワード・ミッドフォード:山下誠一郎
フランシス・ミッドフォード:田中敦子
アレクシス・ミッドフォード:中田譲治
ドルイット子爵:鈴木達央
リアン・ストーカー:石川界人
ほか

シド ニューシングル「硝子の瞳」 / 2017年1月18日発売 / Ki/oon Music
初回限定盤A [CD+DVD] / 1750円 / KSCL-2826~7
初回限定盤B [CD+写真集] / 1650円 / KSCL-2828~9
通常盤 [CD] / 1200円 / KSCL-2830
期間生産限定盤 [CD] / 1400円 / KSCL-2831~2
CD収録曲
  1. 硝子の瞳
  2. チイサナツバサ
  3. 硝子の瞳 ‐Instrumental-
初回限定盤A DVD収録内容
  • 「硝子の瞳」Photo Session / Music Videoメイキング映像

シド 日本武道館公演 2017

夜更けと雨と
2017年5月12日(金)東京都 日本武道館
夜明けと君と
2017年5月13日(土)東京都 日本武道館
シド
シド

マオ(Vo)、明希(B)、Shinji(G)、ゆうや(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に結成され、翌年1stアルバム「憐哀 -レンアイ-」をリリース。2006年には初の日本武道館ワンマンライブを敢行。2008年10月にアニメ「黒執事」第1期オープニングテーマとして採用された「モノクロのキス」でメジャーデビューする。2009年7月にはメジャー1stアルバム「hikari」をリリースした。その後も精力的なリリースとライブ活動を繰り広げ、2010年7月には埼玉・さいたまスーパーアリーナ、12月には東京・東京ドームでライブを行う。結成10周年を迎えた2013年は初のベストアルバム「SID 10th Anniversary BEST」のリリースをはじめ、アニバーサリーライブなどさまざまな企画を実施。2016年はマオと明希がそれぞれソロ活動を展開した。2017年1月に劇場版「黒執事 Book of the Atlantic」の主題歌として書き下ろした「硝子の瞳」をシングルとして発表。5月には日本武道館で2DAYSライブを開催する。


2017年1月27日更新