音楽ナタリー Power Push - 黒猫チェルシー
逃げずにまっすぐ勝負する 王道バラード制作の真意
ど真ん中だけをやりたいバンドではない
──それにしても今回の「グッバイ」には「little voiceのシングル」と言ってもいいほど、ものすごくストレートな楽曲が並んでいますよね。little voiceが幅広い層に受け入れられたから、もう1枚同じテイストの曲を出してみようという感覚なんですか? それとも今後の黒猫チェルシーはこの路線でやっていくんでしょうか?
澤 いや、これもやるし、その上でインディーズ時代の曲とかも普通にライブのセットリストに組み込んでいくし。それで成立してなかったら嘘やと思うから。
──なるほど。
澤 little voiceの「涙のふたり」っていう曲も今は黒猫のライブでやってて、ちゃんと成立させられてると思うんです。もし数年前にこういうドラマの話があってこういう曲ができたとしたら、たぶん俺らの中ではギャグみたいなもんで終わってたかもしれない。これは別ものだからライブではやらない。たぶんそういう意識だったと思うんですけど、でもそれは逃げてるだけだし悔しいやんっていう。
岡本啓佑(Dr) 確かに、ちょっと前だったらこれやってんのキツいなって思ってたかもしれないですね。でもそういう気持ちは今はまったくない。
──ストレートな曲で勝負できるようになった?
澤 そう、特にレーベル変わって1発目だし、単純にロックバンドとしてド真ん中のボールで勝負したかったんです。もちろん今後リリースする曲は全然違う毛色のものもたくさんありますよ。別にド真ん中だけをやるわけじゃないし、それだけをやりたいバンドではないし。たぶん心配されてるのは、「黒猫は丸くなったんじゃないか」とか、「どこに向かってるんだ」みたいなことだと思うんですけど。
──その通りです。
澤 そういうことだったら、その心配はないです。逆に今までは考えすぎてて、変わったとこを狙ったり、コンセプトを決めて作ってないと不安やったんです。でも今は自信があるし、「グッバイ」は自信があるからこそできた曲やと思う。今までこっ恥ずかしくて出してこなかったけど、やっぱりいいメロディが好きなんですよ。
渡辺 あとライブありきで考えたときに、こういう曲が必要だったんですよね。リフ主体でテンポの速い曲が続く中で、こういうバラードが入って、そこでグッとくる、感動できるっていうライブを目指したくて。それでこの曲を作ったってとこはありますね。
ロックで感動したいって気持ちがある
──ここまでのお話を伺っていると、今の黒猫チェルシーは、最初に澤さんが言っていた「どこに立ったら目立てるか」という姿勢からはずいぶん変わりましたね。
澤 うん、そういう意識はなくなりました。例えば俺らが90年代に聴いてた音楽、生まれてからずっと自然に聴いてた日本のロックバンドたちは、エレファントカシマシにしてもウルフルズにしてもTHE YELLOW MONKEYにしても、みんなバラードを歌ってて。そういうものを体感して生きてきたし、自分たちも大好きなのに、黒猫チェルシーとしては、そういう王道のバラードみたいなとこは避けてたというか。それよりもっと変わったことをしようって意識が強かった。でもそんなこと考えずに、自分らが今いる場所で地に足つけてやらないと何も伝わらんやろなと思ったんですよね。
──今回のシングルの歌詞も「負けないで」とか「そのままの君が好き」といった具合に、とことんストレートですよね。
澤 ははは(笑)。歌詞はホンマ変わりましたね。
渡辺 「変わったね」って言われるのはわかってるんです。でも、極論ですけどいつ死ぬかわかんないみたいなことを考えたときに、自分に近い部分で勝負したいって思うんですよね。「これは僕です」って言えるものを遺したい。自分が憧れてる世界じゃなく、苦しいぐらいに自分を出してるようなもの。ここ1、2年は特にそういう意識でやってます。
宮田岳(B) 僕も今は大学に戻って、漆工芸を学んでるんですけど、その中で自分が好きなものとか、発信すべきことみたいなのがどんどん明確になった感じはありますね。自分がやれることを突き詰めて、1人の人間としての能力を上げていかないと、いい曲も作れないと思うんで。
──皆さんの素に近い部分は、これまでもいくつかの曲で表現されていたと思うんですが、今回はもっとJ-POPの王道に近付いてる印象があります。
澤 J-POP界で勝負したいって気持ちは確実にありますよ。90年代のバンドとかのあのまっすぐさは見習わないとあかんやろって思うし。みんなそこから逃げてるんじゃないかって。俺らも含めて逃げてたんじゃないかって。
渡辺 うん、わかる人にだけわかればいいっていうのは、やっぱそれは逃げてるんです。僕は自分自身がロックで感動したいって気持ちがあるんで。そのために、僕ら4人の人間としての面白さがちゃんと出て、輝いてる状態で演奏できる曲をやりたい。そういうのがカッコいいんだって思ってます。
- 黒猫チェルシー ニューシングル「グッバイ」 / 2016年2月3日発売 / Sony Music Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1944円 / SRCL-8969~70
- 通常盤 [CD] / 1296円 / SRCL-8971
CD収録曲
- グッバイ
- Teenage Hero
- アンラッキーガール
初回限定盤DVD収録内容
- 「little voice presents 黒猫といく類まれなツアー」(9月25日@渋谷STAR LOUNGE)ダイジェスト映像
※初回限定盤には「little voice presents 黒猫といく類まれなツアー」(9月25日@渋谷STAR LOUNGE)ライブ写真を同梱
黒猫チェルシー(クロネコチェルシー)
神戸出身のロックバンド。渡辺大知(Vo)、澤竜次(G)、宮田岳(B)、岡本啓佑(Dr)の4名により、高校在学中の2007年3月に結成。2009年にインディーズより2枚のミニアルバムをリリースし、2010年5月に「猫Pack」でメジャーデビュー。2014年4月にはベストアルバム「Cans Of Freak Hits」を発表した。またボーカルの渡辺は映画やドラマ、CMなどで俳優としても活躍しており、2015年のテレビドラマ「まれ」ではバンドマン役を好演。黒猫チェルシーの4名が劇中バンド「little voice」名義でCDを発表するなど話題を集めた。2016年2月にはレーベル移籍後初となるシングル「グッバイ」をリリース。